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IMY/田花の小説

IMY

20,230文字40分

聞き分けのいい恋人でいたい司が後ろ向きすぎてちょっとずつすれ違うよだつか。
夜鷹がめちゃくちゃにしゃべります。切なさ2:甘さ8くらいです。

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 これはただ、不運が重なっただけのこと。
 けれど、悪いことというものは、突然雪崩のように襲ってくることがある。


 司が休日を楽しみに夜鷹のマンションを訪れると、喪服姿の家主が慌ただしく準備をしていた。それだけで全てを察して、何か手伝えることがないかと声をかける。といっても、できることなどないとわかっていた。
「連絡しなくてごめん」
「気にしないでください。急なことですし」
「日付が変わる前には戻れると思う」
 それだけを言い残した純を見送り、司は広い部屋に残された。今日は一緒に映画を見に行く予定だった。楽しみにしていたのは確かだが、映画よりも恋人と出かけることに期待していたのだと気付く。だから、ひとりで見に行く気にはなれなかった。
 結局その日は夜鷹が帰ることもなく、司は置き手紙を残して加護の家に帰宅した。折り返しの電話はなかったけれど、期待はしていないので何とも思わなかった。
 それがたしか、一ヶ月半くらい前のことだった。
 お互いにスケートを最優先として生きているので、予定を合わせるのは難しい。一ヶ月半のあいだに顔を見られたのは一度だけ。ラブホで休憩するような逢瀬だった。場所は夜鷹さんの部屋だったけれど。愛を語り合う間もなく欲だけ吐き出して、そのまま解散になった。俺の方が朝から予定があったので夜鷹さんのせいではない。
 もう少し恋人らしいことをしたいと思うのは、欲をかきすぎだろうか。声が聞きたくなったときに電話をするのはウザいだろうか。
 メッセージアプリに既読はつけども、予定の摺り合わせ以外では使われることがない。多分、親しくなったときにくだらないことでも気にせず送っていれば、こんなに気後れすることはなかっただろう。邪険にされるのが怖いなと感じた瞬間、用もないのに話しかけられなくなってしまった。
 一度後ろを向いてしまうと、前を向くのが怖い。なんとなく、冷たいものが心に降り積もっていく自覚がありながら、俺は見ない振りをしていた。
 そういう時は悪いものを引き寄せてしまうのか、少しだけ古傷を抉られるようなことがあった。
 もうとっくに昇華しているつもりなのに、ひっかき傷みたいな疼きが消えずに残っている。外を走っても一晩眠ってもモヤモヤしたものは晴れなくて、隠していたつもりなのにいのりさんに大丈夫か聞かれた時は泣きたくなった。
 可愛い生徒に心配されるなんて一番してはいけないことだ。ここで適当に誤魔化せばいのりさんに禍根を残すことになるので、先生にもしょんぼりする時があるんだよ、と正直に伝えた。ただ、いのりさんのスケートとはまったく関係がないから、そこだけは気にしないこと、と念を押す。
「先生にハグ、しちゃだめですか? よくお姉ちゃんがしてくれるんですけど、すごくほっとするんです」
「ありがとう、いのりさん。気持ちは嬉しいけど、先生のコンプライアンス違反になるから駄目かな! ただ、そうやって気にかけてもらえただけで、俺はいまとても元気になりました」
 胸を叩いていつも以上の笑顔で返せば、いのりさんも笑ってくれた。異性であることの線引きを意識しはじめたので、ちゃんと納得してくれている。これはお互いにとって大切な線引きだった。
 もっとも、俺は羊さんという小さな女性が近くにいたので、子供を尊重することを肌身でもって叩き込んでいた。四兄弟の中だけで、女性との接点もなく育っていたら、こういう感覚は養われなかったかもしれない。
 ああでも、あのひとも、その辺の感性はしっかりしてるんだよな。スケート以外に無関心みたいな態度で生きているくせに、子供をちゃんと尊重する。
 黒一色で煙草を咥えた恋人の姿を脳裏に浮かべて、司はそっと溜め息をついた。
 ひどく人肌が恋しい。
 走って発散できないのだから、セックスをしても駄目だろう。それこそ本当に、ハグがしたい気分だった。誰でもいいわけじゃない。恋人に抱きしめられたい。
 自分の中にこんなに甘ったれた部分があるなんて、恋人ができるまで知らなかった。抱きつく先が夜鷹純なので脳がバグりそうにはなるけれど、あの腕で抱きしめてくれるなら、きっと悩みも傷も全部溶けてきえるのに、なんて夢想する。
 そんなときに、夜鷹さんから連絡があった。急遽名古屋に戻るから会えないかと問われ、二つ返事でうなずいた。今日は夜のレッスンがない日で夕方で仕事が終わるから、ツイてると言っていい。さすが夜鷹さん。幸運の持ち主だ。
 会えるのはなんだか久しぶりな気がして、顔を見られるだけで嬉しかった。ハグをさせてもらえたらいいなと、俺は期待に胸を弾ませていた。
 待ち合わせにホテルの住所が送られてきて、ちょっとドキドキしながら職場からそこへ向かうと、夜鷹さんはロビーで俺を待っていた。少しだけよそ行きの格好で、見惚れてしまう。
 こんなことならスーツでくればよかった。一分一秒でも惜しくて、着替えることすら思いつかなかったのだ。会いたいのはわかるが、どれだけ浮かれているのだろう。恥ずかしいな。
 ホテルにパーカーでは場違いじゃないかと挙動不審でいたけれど、ポロシャツとジーンズで来るセレブだっているんだから気にするなと慰められる。そのセレブのポロシャツ、俺の着てるシャツとゼロの数が二つとか三つくらい違うやつですよね。
 だがまあ、夜鷹さんがいいというのだから、気にするのは止めよう。俺が騒げば騒ぐほど、夜鷹さんに迷惑がかかる。
 連れてこられたのは最上階の中華料理店で、俺が以前食べたことがないと言っていたことを覚えていた夜鷹さんが、北京ダックをごちそうしてくれるそうだ。俺はいつ話したのかなんて忘れていたのに、覚えていてくれたのが嬉しい。
 けれど俺は薄情にも、料理より夜鷹さんに会えることのほうに喜んでいた。
 お互いの本業については話し出すと喧嘩というか色々とかみ合わなくて雰囲気が悪くなるので、デートのときくらい和やかでいたい。それでもスケートの話題には避けられない。ただ、コーチングや方針ではなくて、遠征先の国の話だったり、会場についてを教えてくれるので、楽しい時間を過ごすことができた。
 このまま夜がふけても一緒にいられるのだろうか。具体的な話はしなかった。ただ、夜鷹が明日の夜には東京へ戻るらしいから、食事の後で解散も考えられる。がっついていると思われたくなくて、この後の予定を聞けずにいた。
 コースも終盤になった頃、少しだけ食事に参加して、あとはほとんど俺が食べるのを見ていた夜鷹さんの視線がそれた。ぴく、と瞼が震えて眉間に皺が寄る。
「……司くん、ごめん。先に帰ってて」
「え……?」
 あまりにも唐突だった。何事かと視線の先を追うと、明らかに上流階級とわかる身なりの男女に辿り着く。恰幅の良い男性と、着物の女性。年齢からみて夫婦だろうか。それと綺麗な若い女性がふたり。
 首を傾げているうちに夜鷹さんが立ち上がって、着物の女性に近付いていった。慇懃にならない程度に腰を折って礼をして、遠くから見ていた俺は所作の美しさに見惚れていた。
 なんだか会話が盛り上がっているのか、着物の女性が夜鷹さんの腕に触れた。俺は少し驚いた。そういう接触を、相手が誰であれ拒否すると思っていた。俺は夜鷹さんのことを何も知らない。
 それから男女の視線が夜鷹さんを通り過ぎて一瞬だけこちらに流れたけれど、すぐに黒い背中に遮られる。なんとなく、俺と会わせたくはないんだろうなと感じた。
 もう遅いかもしれないが、俺は他人を装ってそっぽを向くことにする。夜鷹さんは一度も振り返らず、彼らに付き従って店の奥へとついて行ってしまった。
「どうしようかな」
 残り少なくなった料理を眺め、俺は間抜けな声をあげた。
 夜鷹さんは戻ってくるのだろうか。でも、先に帰れと言ったのだから、きっと戻りはしないのだろう。じゃあ、今日の予定はこれでお開きだ。
 さっきまで地上の星空だなあ、なんて思っていた夜景もすっかり霞んでみえる。小さく溜め息をついた司は、店員を呼んだ。連れが戻らないのでこのまま帰ることを告げると、少し待ってもらえたら提供するはずだった料理を包むと返される。急いではいないのでお願いした。
 ちなみに、会計はすでに夜鷹さんが終えていたので、緊急事態になったとしてもスマートな人だなと感心してしまった。
 そう。緊急事態なのだろう。
 群れることをしない夜鷹が、自分から席を立って頭を下げにいくなんて、司は初めて見た。一番最初に思いついたのが、パトロンかスポンサーだ。当たらずも遠からず、といったところだろう。
 仕方がないのだ。わかっている。紹介できるわけがないし、優先されるはずもない。当然だ。
 だって、俺はただの――なんだろう。友達、ではない気がする。恋人だと思っていたけれど、さっきの言葉でわからなくなっていた。いやでも、恋人だから雑に扱っても許されるとか、そういうやつかな。
 セフレだと思われてたなら、映画とか食事とかおうちデートとかしないだろうし、多分、恋人枠でいいんだよな。自信なくなってきたけど。
 お付き合いのようなものが始まったのは、半年以上前のことだ。だからといってべったりと蜜月を過ごせるはずもなく、かろうじて合わせられた休みでなんとか距離を縮める。そもそも夜鷹さんの拠点が東京に移っているので、頻繁に会えないことは理解している。
 多分、たまたま、運が悪いだけだ。何を期待しているんだ。もともと運には見放されてるじゃないか。
 俺の運は芽衣子さんに出会ったことと、二十歳で匠先生に拾ってもらえたときと、いのりさんに導かれたことで使い果たしている。そう思えば、別に悲しくはない。
 悲しくない。大丈夫。悲しいはずがない。言い聞かせるように何度も感情を否定して、それでようやく気がついた。
「あ、そっか」
 俺、悲しかったのか。
 否定しなきゃいけないほど、心は悲しんでいた。ぷつりと、張り詰めていた糸が切れる音が聞こえた。
 包んでもらった料理を受け取って、司はぼんやりしたまま退店した。エレベーターに乗って、ひとりでホテルを後にする。
『先に帰ってて』
 夜鷹は何を思ってそう告げたのだろう。
 地下鉄はまだ走っているけれど、帰る気にはなれなかった。そもそも、どこへ帰ろうか迷ってしまう。
 司の帰る場所は今のところ、居候させてもらっている加護の家だ。まさか夜鷹さんの家ではないだろう。だって、行ったところで入れない。どちらも、お邪魔させてもらっている場所で、自分の巣ではないという感覚の方が強い。
 思えば俺は、人生の半分以上を帰る場所がないまま生きている。居場所が定まらない不安定さを突きつけられているような気がした。
 どこに帰ったらいいのか、わからなかった。せめて待っていてと言われたなら、何時間だって待った。帰れと言われると、もう用済みなのだと感じてしまう。誤解だ。落ち込んでいるからそんなネガティブになるのだ。慌てて打ち消そうとしても、一度沸いてきてしまった感情を、なかったことにするのは難しい。
「よくないよなぁ」
 負の感情に足を取られていた。ずぶずぶと沈んでいくような気がして、必死に地上に踏ん張っている。
 誰かの負担になるのが怖い。あからさまな悪意だとか反感を向けられるなら、対処はできる。けれど、優しいひとから与えられた傷は、寝ても走っても受け流せない。
 俺は勝手に傷ついてるだけ。欲をかいてしまっただけだ。浮かれて期待して、思い通りにならないからって勝手に傷ついている。被害妄想も甚だしい。
 夜鷹さんと知り合えただけで奇跡みたいなものなのに、好意をもってもらえて、距離が近付いて、こうやって一緒に時間を過ごそうと思ってもらえるだけで、充分じゃないか。
 俺、我が儘とか言ってないよな。困らせることとか、無意識にしてたらどうしよう。あんまり迷惑はかけたくない。
 ただでさえ俺は年下で、頼りないし、夜鷹さんを満足させることなんてできないんだから、せめて負担にだけはなりたくない。一緒に居たいなんて我が儘は封印して、甘えるなんてもってのほかだ。
 己に染みこませるように呟きながら、どこへ続くかもわからない夜の街を歩く。このままどこにも着かなければいいのにと、月もないのに晴れた夜空を見上げた。
「せめて、説明とか、してくれたら」
 そう思うのは甘えだろうか。『見た? やって』という行動派の夜鷹に説明を求めるのはナンセンスだと思う。
 そもそも何を説明してもらえばいいのだろう。夜鷹さんは俺に会いたくないわけではない。ただ、ことごとくタイミングが合わないだけだ。そこに不満は、きっと、感じないのだろう。俺は不安に思ってしまったけれど、物わかりが悪いだけだ。
 少しはフォローがあればいいと思っても、だいたいの事情を察することができているんだから、それでいいのだ。一緒にいられなくて寂しいだとか悲しいだとか不安だなんて、俺の独り善がりの感情にすぎない。
 それよりも、図々しいと思われて別れを切り出されるほうが怖かった。夜鷹さんに関心を持ってもらえなくなるなんて、考えるだけで絶望する。だったら、全部飲み込んでしまえばいい。
「……っふ、……う」
 瞬きをした途端に涙が伝い落ちていった。すぐに鼻が詰まって、音を立ててすすり上げる。通り過ぎた誰かが驚いていたけれど、きっと二度と会わないだろうから見なかったことにしてほしい。
 たまたま、悪いタイミングが重なってしまっただけ。この数日落ち込んでいたから、そのせいだ。
 膿んだ感情は涙と一緒に排出してしまえ。今だけ悲劇のヒロインみたいに落ち込んで、泣くだけ泣いて、そうしたらきっと、朝までには元気になっているだろう。
 自分の涙腺の緩さはもう諦めている。本当に泣きたいときには涙が出ないことは知っている。だから、泣けるなら、まだ、大丈夫。吐き出してしまえば、あとは感じないふりができる。全部出し切ってしまえばいい。
 本当は、もっとたくさん会いたい。声が聞きたい。触れたい。ハグもしたいし、キスだってしたい。どろっどろなセックスもしたい。
 寂しくてたまらなかった。甘えたい。甘やかしてほしい。必要とされたい。俺が大事だって言われたい。愛されてるんだって、思いたい。俺の方からも愛していいんだって、許されたい。
 最大級のわがままを心の中で叫び続けていると、洟がたれてきた。ボックスティッシュはスケーターの必需品だ。トートバックの中に突っ込んであるそれを引き抜いて、そこで初めてスマホが震えていることに気付いた。
 まずは洟をかんで、慌ててスマホを引っ張り出す。着信が二件。どちらも夜鷹さんからだった。
「うわ……」
 店を出てから一時間半近くたっている。着信があったのは五分前からだ。よかった。そこまで待たせてない。折り返しかけたほうがいいだろうか。
 ああ、俺、電話に出たくないのか。普通だったら、かけ直すか考える前にかけている。そこで迷うのだから、そういうことだ。落涙の名残が心を澱ませていた。
 この時間なら、帰宅してすぐ眠ってしまったのだと誤魔化せる。けれど、これまで予定が反故になったところでメッセージの返事すらなかった相手からの着信だから、何か緊急事態なのかもしれない。
 どうしようかと一分も悩まないうちに、夜鷹さんから三度目の着信があった。驚きすぎてスマホを取り落とすところだった。
 大丈夫。少しスッキリしたから冷静になっている。それでも深呼吸をして、俺は通話ボタンに触れた。
『司くん? よかった。いまどこ』
 夜鷹さんだ。当然だけれど。怒っているのか声が硬い。
「ごめんなさい。マナーモードにしてたので気付かなくて」
『出たからいい。どこにいるの』
「えっと……」
 尋ねられて、司ははたと足を止めた。周りを見渡す。住宅街と言えなくもないが、まだいくつも店がある。コンビニがすぐそこにあったので、足を向けた。
「どこ、ですかね?」
『……怒ってる?』
「え⁉ 怒ってませんよ! 本当にどこかわからないんですって」
『なんで』
「なんでですかね? どこに帰ればいいかわからなくて、ただ歩いてただけなんで。あ、ほら、ウォーキングの延長線上、みたいな?」
『どこにって、……ああ、そうか』
 余計なことを言ってしまった気がするが、夜鷹さんはそれ以上突っ込んではこなかった。よかった。
「大丈夫ですよ! 地図みて帰りますから。まだ終電の時間でもないですし」
 これだけ長く歩くならいっそ加護さんの家の方角に向かっておけばよかった。正気に戻ると馬鹿なことをしたものだと恥ずかしさが増す。
『地図アプリ開いて場所送って。迎えにいくから』
「そんな、いいですって! ほんと、ただ気分転換してるだけなんで。気にしないでください。北京ダック、美味しかったです。ごちそうさまでした」
 このままだと実行されそうだ。夜鷹さんがいまどこにいて、どこから迎えにくるのかはわからないけれど、そんな手間になることはさせられない。
 そもそも先に帰れといったのだって、今日はこれで解散するという宣言も同じだろう。それでいい。このまま、おやすみを言って電話を切りたい。
『司』
 ずいぶんと硬い声だった。初めて呼び捨てにされた。嬉しいのかどうかさえ、わからない。嫌だ。続きを聞きたくない。だが、俺の無言の願いは聞き入れられることはなかった。
『話したいことがある。会いたい』
 あ、これ、別れ話だな。
 止まっていたはずの涙が、またぽろりとこぼれ落ちた。ず、と鼻を啜る。音が拾われていなければいいけれど。ああ、会いたくない。あんなに会いたくて恋い焦がれていたのに、今は失いたくなくて会いたくない。
 けれど、やっぱり俺は、誰かの負担になるのが嫌だった。引き際はわきまえて、迷惑をかけないように。
「コンビニがすぐそこなんで、場所、送りますね」
『うん。そこにいて』
「……はい」
 涙のせいでくぐもってしまったけれど、ちゃんと返事はできた。通話を終えて、地図アプリの現在地をコピーしてメッセージで送る。すぐに既読がついた。
 もう一度洟をかんで、司はコンビニに寄った。長く歩いたし泣いてしまったので、体が干からびそうだ。
 スポーツドリンクを買って店を出る。半分くらい飲み干して、残りを保冷剤にして目を冷やした。夜鷹さんに涙の跡を指摘されても、どう嘘をつけばいいかわからないから、少しでも誤魔化せる状態にしておきたい。
 それからだいたい十五分、車通りのほとんどなくなっているコンビニ前の道に、黒塗りのハイヤーが停車した。ドアがひらく。後部座席に座っているのも、黒ずくめの男だ。
 夜鷹さん。表情は暗くてわからなかった。違うな。顔が見られなかった。
「乗って」
 短い命令だ。足は動かないと思ったのに、案外簡単に一歩を踏み出せてしまった。
 この十五分、何も考えていなかった。瞑想にでもなっていたのかもしれない。心はずいぶんと凪いでいた。

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コメント

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