Yahoo!ニュース

ストーカー加害者へのGPS装着は、本当に効果があるのか

筑波大学教授
写真:イメージマート

ストーカー対策としてのGPS装着

 政府は2026年7月28日の犯罪対策閣僚会議で、「詐欺及びストーカー被害拡大防止のための緊急対策」を決定した。ストーカー対策には、一部のストーカー加害者へのGPS機器の装着の検討に加え、加害者への治療・カウンセリングの受診義務化の検討が盛り込まれている。
 想定されているのは、接近禁止命令を受けた加害者のうち、悪質性や危険性の高い者にGPS機器を装着し、被害者への接近を把握・通知する仕組みである。

 あわせて、加害者に対する治療・カウンセリングの受診を義務付ける仕組みの導入も検討課題として盛り込まれた。政府はストーカー規制法の改正を検討し、2027年の通常国会への法案提出を目指すと報じられている。
 ストーカー事件が殺人や重大な暴力へ発展することを考えれば、被害者の安全確保を最優先する方向性自体は妥当である。しかし、GPSを装着すれば再犯が防げると単純に考えるべきではない。そこでは、その効果のエビデンスを科学的に検討する必要がある。海外の研究を精査すると、GPSなどの電子監視には、直観的に期待されているほどの効果がない一方、その効果は対象者、運用方法、併用される処遇によって大きく異なることがわかっている。

電子監視全体の効果にはほぼエビデンスがない

 電子監視の効果について、最も厳格な方法論的基準を課したメタアナリシスが、RenzemaとMayo-Wilson(2005)が実施したものである。メタアナリシスとは、過去に行われた複数の研究の知見を統合するもので、現時点で最もエビデンスとしての質や価値が高いとされている研究手法のことである。

 彼らは実験・準実験デザインの研究に限定して中〜高リスクの犯罪者へのGPSなどによる電子監視の効果を検討したが、電子監視が再犯抑止において他のプログラムに優るという説得力ある証拠は見いだせず、その効果は「実証されておらず、有望とも言えない」と結論づけた

 それを知見を拡大し、Belurら(2020)は、犯罪者に対するGPSなどによる電子監視の効果を検討したメタアナリシスを実施した。34研究を包摂し、うち18研究を分析した大規模なものである。
「再犯までの時間」(生存時間データ)を扱う分析では、電子監視群に有利な有意な効果が認められた。データ追跡期間中の各時点における再犯の瞬間的な生起リスク(ハザード)が、電子監視されない群では監視群の約1.4倍であることがわかった。すなわち、電子監視下では再犯の生起が遅延する傾向が示された
 一方、「再犯率」(追跡期間中に再犯した者の累積的な割合)を扱う別の分析では、電子監視の効果は有意ではなかった。つまり、電子監視の有無によって、最終的に再犯に至った者の割合には統計的な差が認められなかった。このように、電子監視は再犯の生起をいくらか遅らせるものの、再犯そのものを抑止する効果は明確でない
 ここで注意すべきは、これらがストーカーを対象とした知見ではないという点である。ハザード比を報告した5研究の対象母集団は、性犯罪者・暴力事犯・一般犯罪者であり、ストーカーは含まれていない。ストーカーに対するGPSの直接的な効果を検証したエビデンスは、そもそもきわめて乏しいのが現状である
 さらに重要なのは、監視技術の方式別に分けた分析である。GPS方式だけを抽出すると、効果はもはや有意ではなくなった。むしろ有意だったのは、より旧式のRFID方式(在宅確認型)であった。すなわち、GPSで位置情報を連続的に把握すること自体が再犯を減少させるというエビデンスは、現時点では確認されていない
 加えて、見落とせない知見がある。Erezら(2012)がDV事案を対象に判決前のGPS監視を評価した研究では、監視群のほうが対照群より再犯が増加する「逆効果(バックファイア)」が観察された。ストーカーはDV事案と連続的な現象であり、対象者の選定や運用を誤れば、監視がかえって事態を悪化させうることを示唆している

韓国の結果をそのまま日本に導入できるか

 韓国では2008年から性犯罪者を対象とする電子監視制度が導入され、その後、対象犯罪が拡大されてきた。韓国の制度は、位置追跡だけではなく、保護観察、外出・接近制限、治療プログラムなどを組み合わせた包括的なものである。したがって、韓国の犯罪統計で再犯率が低下したとしても、それをGPS単独の効果と解釈することはできない。
 韓国刑事政策研究院(現・韓国刑事法務政策研究院)が2013年に公刊した評価研究(Kimら, 2013)では、電子監視対象者と通常の保護観察対象者への調査、職員への調査・面接、および公的再犯統計が量的・質的に分析された。

 その結果、職員・対象者の双方が「電子監視は望ましくない行動を抑止し、治療プログラムへの参加を促しうる」と認識している。つまり、これは主観的印象にすぎない。一方で、2008年以降の再犯率については、電子監視と集中的監督(保護観察)との間に統計的有意差がほとんど認められなかったと報告されている

 また、衛星信号の欠落による誤警報が職員の制度への信頼を損なうこと、人員不足による職員の過重負担、長期間の装着が対象者の社会適応に及ぼす悪影響も指摘された。しかも、この研究は介入の効果を厳密に評価するための研究デザインであるランダム化比較試験(RCT)を用いていない。
 韓国では、制度導入後に性犯罪再犯が大幅に減少したという数値が政策的に紹介されることがある。しかし、制度導入の前後では、法制度、通報行動、取締り、対象者の選定基準が変化している。このため、単純な導入前後比較や群間比較では、GPS固有の効果を分離できない。

 全国統計の減少率だけを用いて因果効果を主張することは、さまざまなバイアスを排除できず、科学的には不十分である。韓国国内でも電子監視の再犯抑止効果には議論が続いており、バイアスを統制した実証研究の不足が指摘されている。

GPSは「本人の所在」は示すが「行動の原因」は変えない

 GPSの主な機能は、加害者の位置を把握し、禁止区域への侵入を検知することである。これは被害者保護という観点では大きな意味を持つ。接近の兆候を早期に把握できれば、被害者への警告、警察官の派遣、避難支援などにつなげられる。
 しかし、GPSは加害者の執着、所有意識、拒絶への過敏性、怒り、認知のゆがみ、衝動性など、ストーキング行動の根本にある問題を変化させない。機器を切断する、別人の端末を利用して電話やメールをする、第三者を介して接触する、オンラインで監視・脅迫するなど、位置追跡だけでは捉えられないストーキング行動も多い。
 また、加害者が被害者の近くにいるというアラームが出ても、警察が即時に介入できなければ安全は保証されない。被害者も、仕事で多忙なときなどアラームに気づかないことがある。さらに、誤警報が頻発すれば、かえって被害者の不安増大につながる可能性もある。

ストーカー治療の効果

 ストーカー加害者への治療については、Travainiら(2024)のメタアナリシスがある。3,141件の文献から10研究(対象661名)を精選したもので、総じて心理療法後にストーカー再犯率の低下が示されている。ただし、研究デザインや治療内容の異質性が大きく、どの治療法が最も有効かを確定するには依然として証拠が不十分であった。
 性犯罪者治療に関するHansonら(2009)のメタアナリシスでは、一定の方法論的基準を満たした23研究が分析された。加害者治療の中核原則である「RNR原則(リスク・ニーズ・応答性)」に沿った治療を行った場合に、再犯率がより大きく低下することが示されている。実際、治療群の性的再犯率は10.9%(対照群19.2%)、一般再犯率は31.8%(対照群48.3%)であり、RNRへの適合度が高いプログラムほど効果が大きかった。
 RNR原則とは、高リスク者に集中的介入を行い(リスク原則)、犯罪と直接関連するリスク要因を標的とし(ニーズ原則)、認知行動療法を主軸として相手の認知能力・動機づけ・文化的背景に応じて介入を調整する(反応性原則)ことである。単に「カウンセリングを受けさせる」だけでは十分ではない。
 この点は、今回の緊急対策が掲げる「治療義務化」の制度設計に直接かかわる。治療(あるいは「再犯防止プログラム」)の義務付けは、加害者を治療の場に着かせるための入口として意味を持つ。

 しかし、エビデンスが示すのは、効果を左右するのが「治療を受けた否か」ではなく「どのような治療を、誰に、どのように提供したか」だという事実である。義務化された治療がRNR原則を満たさなければ、あるいは低リスク者にまで一律に課されれば、再犯抑止効果は期待できず、むしろ資源の浪費や効果の低下を招きうる。

 なお、Belurら(2020)のレビューが、GPSによる電子監視において性犯罪者に対して有意な効果を報告している点も、この文脈で解釈すべきである。著者ら自身が慎重に論じているように、性犯罪者に対する電子監視はしばしば心理治療・保護観察・行動制限と一体で実施されており、効果を電子監視単独に帰属することはできない。

 むしろ、電子監視が義務的な治療参加を促した結果として再犯が減った可能性が高い。すなわち「GPSが効いた」のではなく、集中的な監督と治療を組み合わせた包括的処遇が機能したと考えるのが妥当である

必要なのはリスク評価と治療の統合

 制度化に際しては、GPS装着を一律に命じるのではなく、構造化されたリスク評価に基づいて対象者を選定する必要がある。ストーカーでは、過去の暴力、脅迫、接近禁止命令違反、被害者への執着、自殺・他害念慮、物質使用、精神症状、関係破綻後のエスカレーションなどを総合的に評価しなければならない。
 GPSが有用な可能性があるのは、接近禁止命令を繰り返し破る者、重大な暴力歴がある者、具体的な殺害予告がある者など、切迫した危険性が高い事例であろう。一方、低リスク者に長期間装着すれば、過剰な監視による人権上の問題、就労や社会復帰の阻害、対象者の増加による監視資源の希薄化を招く。

 先に述べたように、対象や運用を誤れば逆効果すら生じうる。さらに、GPS監視は通常の保護観察等の処遇より高額で(能動監視では約3倍のコストとされる)、24時間対応の人員や訓練を必要とすると指摘されている。
 このように、GPSはストーカー対策としての万能薬ではない。その効果に期待しすぎることは禁物であり、むしろ劇薬として多大な副作用も招きうるものである。したがって、その価値は単に「装着した人数」ではなく、現実の再犯抑止、被害者の安全感、コスト、人権問題への懸念など、複数の視点や指標で慎重に検討されるべきである。
 今回の提言が、GPS監視と合わせて「治療の義務化」にまで踏み込んだ意義は大きい。科学的スクリーニングによって高リスク者を適切に同定し、RNR原則に基づく認知行動療法などの実施を制度として統合する必要がある。さらに、専門家の訓練は喫緊の課題である。現時点で、認知行動療法によるストーカーや性犯罪者の治療、処遇ができる専門家は非常に限られている。

 ストーカー対策において、GPSは万能薬にはほど遠いものである。したがって、むしろ、高リスクストーカーを同定するための科学的アセスメント、再犯を抑制するための治療や再犯防止プログラムの義務化を重点とした対策を重点に置き、制度導入後も対照群を設定した効果検証を継続することが、科学的なストーカー対策には不可欠である。

参考文献

Belur J et al. (2020). A systematic review of the effectiveness of the electronic monitoring of offenders. Journal of Criminal Justice, 68, 101686.

Hanson RK et al. (2009). A meta-analysis of the effectiveness of treatment for sexual offenders: Risk, need, and responsivity. Public Safety Canada.

Kim J et al. (2013). Community based management of sex offenders in Korea II: An evaluation study on the electronic monitoring. Korean Institute of Criminology.

Renzema M & Mayo-Wilson E (2005). Can electronic monitoring reduce crime for moderate to high risk offenders? Journal of Experimental Criminology, 1(2), 215–237.

Travaini G et al. (2024). Efficacy of treatment approaches for stalking offenders: A systematic review. International Review of Psychiatry.

  • 3
  • 1
  • 1
ありがとうございます。
筑波大学教授

筑波大学教授。博士(保健学)。専門は, 臨床心理学,犯罪心理学,精神保健学。法務省,国連薬物・犯罪事務所(UNODC)勤務を経て,現職。エビデンスに基づく依存症の臨床と理解,犯罪や社会問題の分析と治療がテーマです。疑似科学や根拠のない言説を排して,犯罪,依存症,社会問題などさまざまな社会的「事件」に対する科学的な理解を目指します。主な著書に「あなたもきっと依存症」(文春新書)「子どもを虐待から守る科学」(金剛出版)「痴漢外来:性犯罪と闘う科学」「サイコパスの真実」「入門 犯罪心理学」(いずれもちくま新書),「心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス入門」(金剛出版)。

原田隆之の最近の記事

あわせて読みたい記事