「党高政低」、森山裕幹事長の強みは【解説委員室から】
2024年10月04日15時30分
1日に就任した石破茂首相(67)は、自民党総裁選での発言を翻し、野党と本格論戦をせずに9日に衆院を解散(15日公示、27日投開票)する方針だ。説き伏せたのは森山裕幹事長(79)。新政権が発足するや、官邸よりも党の影響力が強い「党高政低」が鮮明となった。党を牛耳る森山氏の強みは?(時事通信解説委員長 高橋正光)
トップ狙わぬ大番頭
森山氏は1945年4月、鹿児島県鹿屋市生まれ。働きながら高校の夜間部に通った苦労人。中古車販売会社を設立し、事業が軌道に乗ると、鹿児島市議選に出馬。市議を23年間務め、98年の参院選で初当選(鹿児島選挙区)した。そして、党税調のドンと言われた山中貞則氏の死去に伴う2004年4月の衆院補選(旧鹿児島5区)で衆院にくら替えし、当選7回を数える。
この間、第2次安倍晋三政権で農水相として初入閣。その後、国対委員長に就き、歴代最長の1534日間務めた。さらに、選対委員長、総務会長を経て、石破政権発足に伴い幹事長に就任した。
自民党の歴史を振り返っても、地方議員や首長を20年以上務めてから国政に転じ、ナンバー2の幹事長に上り詰めたのは、森喜朗政権の野中広務氏くらい。経歴からも稀有(けう)な政治家だ。
森山氏が安倍、菅義偉、岸田文雄の三つの政権で、絶えず要職を任された理由の第一は、年齢的にトップを狙う野心がなく、首相に忠誠を尽くし、職務に励んだことだ。任命権者の首相にとっては、要職を任せて力をつけても、寝首をかかれる心配がない。安心して仕事を任せられ、抜群の調整力を発揮して必ず結果を出す。貴重な存在と言える。
岸田政権の末期、岸田前首相と「ポスト岸田」への意欲を隠さない茂木敏充前幹事長との関係が、ぎくしゃくしたことと対照的だ。
「犬猿」の二人と良好
二つ目の強みは、豊富な政界人脈だ。石破首相が総裁選の決選投票で、高市早苗前経済安保相を逆転したのは、菅元首相が後見役を務める小泉進次郎選対委員長の陣営、岸田前首相が率いた旧岸田派それぞれの大半が、支持に回ったから。この結果、菅、岸田両氏がキングメーカーとして、政権に君臨することになった。
一方、3年前の総裁選で菅氏を不出馬に追い込んだのは岸田氏。そして今回、岸田氏の追い落としに動いたのは菅氏。まさに「犬猿の仲」だが、石破首相が安定して政権を運営するには、両氏への配慮が欠かせない。さまざまな課題で両氏の間に立ち、調整できるのは、それぞれと良好な関係にある森山氏以外、見当たらない。
また、石破首相が衆院選を乗り切れば、次の「政治決戦」は来年夏の参院選。その前に、来年1月召集の通常国会が控え、野党と全面対決となるのは必至だ。
歴代最長の国対委員長の在職期間が示すように、立憲民主党などの野党に太いパイプがあるのは明らか。国会を乗り切る上でも、森山氏の豊富な野党人脈は貴重だ。長く「党内野党」的な存在で党内外に足場がない石破首相が、森山氏に幹事長を依頼したのは、政権維持という点では妥当な判断だろう。
公明・学会と太いパイプ
三つ目の強みは、公明党や同党の支持母体である創価学会とのパイプだ。第2次安倍政権で連立を組む公明党とのパイプ役を務めたのは、官房長官だった菅氏。菅氏はしばしば懇意の学会幹部と直接連絡を取り合い、安倍氏の了解を得て、政策として実現させた。この構図は、菅政権になっても変わらなかった。
しかし、岸田政権が発足し、「公明嫌い」とされる麻生太郎前副総裁と茂木前幹事長が党の実権を握ると、公明党とのパイプが一気に細くなった。象徴的な例が、衆院小選挙区の「10増10減」に伴う、自民、公明両党の候補者調整を巡る対立だ。反発した公明党は東京での選挙協力の打ち切りを一方的に通告。当時幹事長の石井啓一代表は「東京における自公の信頼関係は地に落ちた」と自民党を激しく非難した。
こうした岸田政権にあって、公明党との関係修復に務めた1人が森山氏。旧安倍派などの裏金事件を受けた政治資金規正法の改正が焦点となった先の通常国会の最終盤。パーティー券購入者の公開基準について、公明党が押し切られる形で両党幹事長は「10万円超」とすることで大筋合意した。
ところが、これが報じられるや、野党各党は「自民党と同じ穴のむじな」と公明党を揶揄(やゆ)。学会内から激しい不満が噴出し、あわてた山口那津男代表(当時)は、総務会長の森山氏に事情を説明し、さらなる譲歩を求めた。
森山氏は首相の岸田氏と「譲歩やむなし」を確認すると、菅元首相に協力を要請。菅氏の了解を取り付けると、岸田氏は、麻生、茂木両氏の反対を押し切り、公開基準を「5万円超」とすることを決めた。
この結果、党や学会幹部の森山氏に対する信頼が一気に高まった。石破政権では、森山氏が公明・学会との最大のパイプ役であるのは間違いない。
森山氏が公明党との関係を重視するのは、鹿児島市議時代に薫陶を得た地元の二階堂進元幹事長の影響もある。二階堂氏は、公明党の仲介を得て、日中国交回復を実現した田中角栄元首相の側近。二階堂氏から、交渉の一端を聞かされている。
衆院選勝利なら「石山茂裕」政権
衆院選で自民党が単独過半数を維持できれば、石破政権は国民から信任されたことになり、石破首相の求心力は高まるだろう。同時に、選挙を指揮、勝利に導いた森山幹事長の影響力もさらに強まるのは確実。「党高政低」の実態が変わることはないだろう。
石破政権は事実上、石破首相と森山幹事長の2人の政権。政界で、それぞれの性と名から一文字ずつ取り「石山茂裕政権」と呼ぶ声が聞かれるかもしれない。
もっとも、野党各党は発言のブレが目立つ石破首相を「変節した」などと厳しく批判しており、国民がすんなりと信任するかは分からない。審判は27日に下る。