心なしか学校構内がいつもよりにぎやかで、浮足立っているようだ。
俺、火村英生は平常運転だ。
ただ、公開講義がある。
俺には大学時代から十数年来の付き合いの親友兼悪友兼助手兼あとは…ゲフンゲフン…諸君のご想像にお任せする。
そういう存在がいる。
ソイツは推理作家という因果な商売で生計を立てている男で、コイツは時々、俺の講義に現れて、ニコニコしながら講義を聞いていることがある。
悪趣味なヤツだ。
その悪趣味なヤツの名前は有栖川有栖(ありすがわありす)。
どう見てもペンネームとしか思えないが正真正銘本名だ。
が、今日はコイツに講義を聞かれる心配はない。
なぜなら、今日は学校構内でコイツのサイン会があるからだ。
何だかんだで俺の講義に来るヒマなどないはずだ。
俺はコイツを『アリス』と呼んでいる。
初めて会ったときに、アリスガワという苗字だと長ったらしいのでアリスと略したのだと言うと納得したようだった。
チョロすぎるぞ…作家先生。
アリスの書く推理小説はいわゆる正統派と呼ばれる緻密な程、論理的で美しいトリックだ。
派手さはないが、着実に実績を積み上げてきて、コアなファンもついている。
今では新作が出る度に書店で平積みされ、『浪速のエラリー・クイーン』という称号も賜っている。
が、コイツは昔から自己評価が低く、サイン会ももう何回もやっているのに未だに
『誰もきいへんかったらシャレにならん』と心配する有り様だ。
その度にアリスのデビュー以来の盟友の編集者である片桐氏と俺は呆れかえっている。
『オイオイ…だったらおまえはどうやってメシを食って、国民保険料を払い、納税の義務を果たしているんだ?』
もっともその心配はいつも杞憂に終わるのだが…
ビジュアルはドラマ版に準拠しているつもりです。
「火村英生の推理」のドラマ
「青の時代」の二人の出会いって、どこからどう見ても火村先生がアリスをナンパしたようにしか見えなかった…