弓引く司先生はさぞ美しかろ【師弟が某MVに出演する話】
Xで連載していました【未来メダリストになったいのりがMVに参加したら棚ぼたで司先生が滑ってくれる話】のまとめです。
一期OPを司(本来はいのり)が滑る・n年後だけど明確にしてない・作詞作曲したアーティストが出ますが実在の人物とは全く関係ありません・知識初心者、調べただけなので間違っていたらすみません。長くなったけど結局は世界に司先生が見つかる話!!の、世界公開される前までの話。
※作者は腐っていますがこちらはその要素はありません。ただ美しい綺麗とか男性に向かって使ってはいます※
文字数と戦いつつ結局仮タイトルであった弓引く司がほぼタイトルになってます。センス…
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大会で活躍した選手は、スポンサーが付くだけではなく、CMに出たり雑誌に出たりテレビに出たり、メディア露出が多岐に渡る。
どんなものに出てどんな姿を見せるかというのも大切な見極めであり、新たなスポンサーやファン獲得のための大切なしごとである。
ありがたいことにスポンサーがつくようになったいのりの目の前には、いろんな企画書があった。
ぜひこんなCMに、こんな番組に出てくれ、なんて打診の企画書をめくっていたいのりの目を特段に引いたのは、MV参加の企画書だった。
(これ、この人!名前聞いたことある!)
知識がスケートに偏ってるいのりでさえ知ってる、有名人だ。アニメやドラマなどにたくさん曲を提供していて、幅広い年代に人気で学校でも聞いたことがあるような人!
そんな人から、『ぜひともこの新曲のMVを結束選手に滑って欲しい!』と熱望されている、と書いてあるようだった。
読んでみれば、振り付けは振付師が作るがいのりとコーチの意見も聞きたい、曲を共に作っていきたい、という、なんともいのりたちを評価してくれているものだった。
(この人……私と司先生の絆のことも知ってくれている!)
担当の振付師は、いのりたちも知っている最近台頭してきた人の名前だ。あのレオニードに大層憧れているという真面目な人という噂の日本人。
いのりたちは直接会ったことはないが、同期の子で振り付けしてもらっている子がいて、可愛い曲もかっこいい曲もやっていたはず。
あれ?これを受けたら、司先生と一緒に作り上げた有名アーティストの作品を、世間に残せる?
いやずっと残してきたけど!でも、一般人にも人気な人の曲に参加したってのは、オリンピックでメダルを取るのとまた方向性が違って話題性があるのでは?
いのりの目が輝き、自然と腹から声が出る。
「これ!これをやりたいです!やります!!」
悪い内容でもないし、本人のやる気があることもあって話はとんとん拍子に進んで行った。
詳しく話を聞く中で、そのアーティストがスケートが好きで、これはたまたま見た大会でのいのりを見て……さらに言うならいのりと司の関係を見てそれをイメージして作った曲だと知りぶったまげた。
いのりが金メダルを獲ったあの大会での様子を見てパッション溢れて作られた、ならばそれを滑るのはいのり選手しかいないしいのり選手にこそ滑って欲しい!だそうで。そんな調子のいいことってある?と流石にちょっと疑ったけど、オファーは本物だった。
送られてきた曲はすごく良くて、耳から離れない素敵な曲だ。歌詞も共感できる。自分と司先生のことだ!と分かるような気がしてすぐ大大大好きになった。
しかしオフシーズンで振りを覚えて収録して、そこまで大変じゃないはずの案件は、想像していたよりもずっと大変だった。
これまでにない速いテンポにスケートを合わせるのが、めちゃくちゃ、本当にめちゃくちゃ大変だったのだ!
いのりたちの意見も取り入れるために半分くらいの完成度で送られてきたデモ映像は、それだけでとっても素敵でハードな振り付けだった。
レオニードに通じるものがあるってニコニコだった司先生と、その振り付け師との話し合いで少し、ちょっとだけ調子に乗った。
「でもいのりさんならここにこのステップを入れられるんじゃない?」
「確かに!いのり選手の速さなら可能かと」
「じゃあ私スピン入れたいです!あとステップシークエンスはこれとこれと……」
「じゃあこのステップはこっちに……」
「なら流れ的にこっちはこんな感じで……」
「ジャンプはここでこれ!」
「コンビネーションどうします?」
「後半に入れましょう!高得点狙っていきましょう!」
「じゃあ……!」
と、話し合ううちに三人に火がついて、ここをこうして、実演!ここでこれをいれて、実演!やっぱりここはこうしてさぁ!実演!話し合って組み合わせて、ようやく完成したものは。
「す、素晴らしい……!!これを踊り切ったらいのり選手の評判は一般人にも浸透しますよ!!スケート関係者は度肝を抜くと思います!絶対に!」
熱弁して感涙する振付師。その様子を見て司先生といのりは顔を見合わせた。
(つ、つかさ、先生……?)
(いのりさん……)
(やりすぎた、絶対やりすぎです!これ私が滑るのぉ!?)
(とりあえず陸トレ、やろうか……?)
(ひえええ!!!)
いのりが顔面蒼白になるのも無理はない。
だって、これ、オリンピックに出てるメダリストくらいしか滑れない構成だ!!いやいのりは滑れる、いけるから作られた。でもさ!?でもさぁ!?
やりすぎたと思っても、でももう振付師は興奮したままだし決定考で通った。いまさら疲れるから踊れません無理ですなんてプライドが言えなかったのだ。
スケートで使われる曲はクラシックが圧倒的に多い。やっぱりテンポと雰囲気と知名度とかそういう問題で選ばれるのはクラシック音楽だ。
J-popを使う人もいるけど、エキシビジョンだったりして本戦で使う人は少ない。
なぜって?J-popは大抵テンポが速い!!
完成されたそれをフルで踊ると、金メダルも取れるようになったはずのいのりでさえ足が震えて倒れ込みそうになるほど体力が削られる。
体力がある司でさえこれきついなと漏らすくらいには大変だったけど、やると決めたし振りを決めたのは司といのりだ。
振り付けを歌詞や雰囲気に合わせて作り上げた振りは確かに最高の出来栄えだ、と胸を張っていえよう。
……ただこれを自分がオリンピックに引っ提げていけるかというといやいや無理無理しんどい!!という出来栄え。MVだからこそ無茶振り、鬼詰め込みしました。
そんな出来栄えの振りを引っ提げて、あっという間にMVを撮る日は近づいて、今日はMV撮影本番の一週間前、リハーサルの日だった。
『ごべんなざい〜!!』
最近は見ることが少なくなった教え子の大号泣が、スマホの向こう側から聴こえる。
いのりが張り切っていた仕事のリハの早朝、司が早めに家を出る準備をしていた時にその知らせは来た。
『なんで ごん なび に かぎっ でぇ』
「大丈夫……じゃないね。でも体調不良は誰にでもあるし、いのりさんのせいじゃないよ」
発熱、鼻詰まり、諸症状。立派な風邪症状である。
スケートは氷の上で滑って踊るスポーツなので、もちろん身体はとても冷える。そんな中対策をしながら練習して競技をするが、どんなに気をつけていても風邪を引くことは、ある。なってしまったものは仕方ない。
「話すと悪化しそうだね、寝て!いのりさんは絶対安静!!」
今日は欠席ということで決定だ。先方にこれらを伝えないといけない。仕事の流れを変更してもらうことになるし、明日以降の予定もあるから調整をして、と、いのりを元気づけながら脳内でやるべきことを積み上げる。
(昨日は変わった様子もなく元気だったのに……いやそれよりも。今日は本撮り一週間前だからリンクを貸し切ってもらっている。カメラも本番と同じく用意されている予定だからスタッフ数も多い)
しかも、昨日来た打ち合わせメールで、作詞作曲したアーティスト本人が見に来ることになっていた。
いのりには本番で会うはずのアーティストがいるという驚き、その初対面の様子を撮りたいという希望だった。
しかし今回いのりが欠席だとしたら、多忙ないのりと多忙な有名アーティストが次に時間を空けられるのは、もう一週間後の本番しか無い。
(やることが多いぞ……)
今日の予定は全てキャンセルだ。
ひとまずいのりとの電話を切ってメールを送って、来週やることを変更して、と、手と頭を動かしていたら、いのりから連絡が届く。
寝てくれ頼むから、と思ったが、いのりが罪悪感と更に楽しみにしていた分落ち込んでいるのは分かるのですぐに返事をする。今の体調のいのりをリンクに上げることは許可出来ないので、どうしても行く、と言われても断らなくてはいけない。
【あちらにも納得してもらうから安心して休んでいて!】
頑張って考えた振り付けの初披露の場が流れてしまう気持ちに寄り添いつつ返信をしようとしていたら、その前にすぽんと通知音が。
【司先生、お願いがあります】
【どうしたの?】
【司先生が滑ってきてください】
「……うん?」
思わず返信を止めて画面を見ると、スポポポと追加で返信が届く。
【司先生なら私と同じことできますよね】
【りんくの感じとかかめらの感じとか】
【今日しか分からないし】
【司先生が滑ってきてわたしに教えてください……!】
【(お願い!の可愛いスタンプ)】
「…えっ…いや、えっ!?」
返信が止まった、司が断ろうとしている、と思ったいのりからすぐ着信が入った。
司が色々手を回しているうちにちょっと対策をしたのかいのりの声の調子もほんの少しだけ良くなっていたが、濁音の混じる声で捲し立てられた。これ絶対高熱ゆえのハイテンションだ……。
「本番までには絶対治すので司先生が滑ってくれたら全部分かります!二人で作った振り付けですし!ね!!」
「えっアッ…そうだけど……」
『お願いお願い今日は滑れないけど司先生がやってくれたら分かります瞳先生もそう言ってくれるはずだから滑ってきてほしい!!』という内容でゴリ押しされて、悩みに悩んで。
せっかくリンクを取ってくれているのだ、いのりさんがイメージを掴めるのなら司が滑って距離感や雰囲気やカメラ位置やなど調整してくれば良いだろう。
それに対して、分かったよ、と司が返事をした瞬間、運命は決まった。
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スマホで中継繋いでもらってリアルタイムで司の滑りを見て司がどう感じたかすぐに教えて貰えればいのりが滑れなくてもイメージが掴みやすい。うん。
「けいかくどおり……ンゴホッ!」
正直そんなことしなくても本番ぶっつけでも自分の滑りを魅せることが出来るだろう、といのりは思っていた。自分の実力は分かっている。
だってもう自分は、司先生たち自慢のメダリストなので!
だけど司先生と二人で作り上げた振り付けをいのりが滑るだけでなく、司が他人の前で、リンクで滑ってくれる可能性があるのは今しかないと気づいてしまったのだ。
ていうかリハだからカメラあるし!リハ映像もあとで貰えるって書いてたから!司先生が滑る様子をプロカメラマンが撮影してその映像を貰える可能性に気づいて……しまったのだ……天才じゃない?!
「棚からおもち…降ってわい…?えーと、そう、思わぬ収穫!」
風邪気味でへろへろの教え子のために!と懇願したら、時間はかかったが司自身はOKしてくれたので、電話を切って雄叫びを上げた。悪化するでしょ!と母に怒られたけど、怪我の功名ってやつだ。多分!
万が一アーティスト側が難色を示したら、コーチが滑るのを見て私はイメージが掴めるんです!とごり押ししよう。本当のことだし!とニヨニヨしていたら、母に氷枕を当てられて悲鳴を上げてるいのりだった。