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この作品「8years」は「いのつか師弟」「結束姉妹」等のタグがつけられた作品です。
8years/鳴海の小説

8years

5,981文字11分

前作のキャプションでネタ出ししていた、結束姉妹にモテる司先生が書きたかった話です。いつもよりいのつかっぽいですが恋愛より師弟愛のつもりです。独占欲で司先生をお婿に貰おうとしているいのりさんです。
珍しくよだつか要素はありませんが、生産元が腐っているので念のため腐向けタグ入れておきます。

実叶お姉ちゃんは家族第一の人なので、司先生のことはもちろん好意的に思っていますが、いのりさんが司先生を家族にしたいならアピールしてみようかな~という意識が強いです。いのりさんありきです。
いのりさんにとって司先生は誰もが見惚れるスケートが出来て世界一のコーチになる人なので、オリンピックの金メダルを獲るくらいでないと相手に不足だと思っています。その価値観でいうと作中にライバルが最低二人もいる(男女問わず)。しかし何より障害になるのは司先生自身っていうね…(令和コンプラ)

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【8years】

いのりの自宅から大須リンクは徒歩十五分ほどの距離にある。夕方だったら歩いて帰るが、クラブの貸切レッスンがある日は夜遅くなるので家族の誰かが迎えに来てくれる。
小学生の頃は父母の迎えが主だったが、中学に上がってからは大学生の姉の出番が増えた。短期留学や単位取得なるものが一段落したとのことで自由時間が増えたらしい。同時期に運転免許を取得したので、こまめに走った方が練習になるからとアルバイトのシフトを調整してまで積極的にお迎えに来てくれる。
いのりが物心ついた頃から、八歳年上の実叶は自慢の姉だ。明るくて優しくて家族思いで、妹のいのりをこれでもかと可愛がってくれた。小学生の実叶がフィギュアスケートを習っていて、きらきらと輝いている姉に憧れたのがいのりのスケートの始まりだった。
「内定もらえましたー!」
「すごい! えらい! 実叶さんおめでとう!」
「えっへん。ありがとうございます!」
そんな姉が、いのりの大好きなコーチと歓談している。なぜかいのりの心はもやっとした。
ルクス東山の貸切レッスンが終わり、生徒たちは迎えに来た保護者に引き渡される。今日のいのりのお迎えには実叶が来てくれて、生徒のお見送りに出ていた司と雑談していた。それだけの出来事だ。
しかしいのりは、仲良く話している二人の姿に引っ掛かりを覚えた。実叶も司も、いつも朗らかに笑っているような人だ。でもその笑顔が普段より楽しそうに見えるのは気のせいだろうか。
「っ、お待たせ! お姉ちゃん!」
いのりは小走りで二人の元へと寄って行って、横から姉に抱きついた。実叶と司の意識がお互いからいのりに集中する。割り込めたことにホッとした。
「のんちゃんおかえり。もう忘れ物ないかな?」
鞄よし、着替えよし、お弁当箱よし、と慣れた様子で実叶はいのりの持ち物をチェックしていく。先ほど練習着の前に着ていた制服入りのトートバッグを忘れて更衣室まで取りに戻ったところだった。いのりが預けた学校鞄のポケットにスマホが入っていることまで確認して、実叶は「忘れ物なーし!」と笑った。昔から実叶はしっかりしていて、何かと抜けているいのりをフォローしてくれる。
「……早く帰ろ」
「ん、今日も練習頑張って疲れたね。早く帰ろうね」
抱きついた腕を軽く引いてせがむと、実叶は優しく頷いた。司からも温かくねぎらわれる。
「いのりさんお疲れ様。お家でしっかりストレッチして、ゆっくり休んでね。また明日よろしくね」
「はい、また明日。おやすみなさい司先生」
「おやすみなさい」
明日は個人レッスンがある。明日も司と大好きなスケートの練習が出来る。そう思えば気分が上向いた。
「それでは失礼しますね。レッスンありがとうございました。またよろしくお願いします」
「こちらこそ。気を付けて帰ってください」
「はーい。おやすみなさい司先生」
「実叶さんもおやすみなさい」
それなのに実叶と司が優しい声で挨拶を交わしているとやはりもやっとした。この気持ちはなんだろう。

貸切練習があった日はお弁当で夕飯を済ませている。帰宅したらすぐに入浴とストレッチをしてから、なるべく早めに就寝するのがいのりの習慣だ。
「のんちゃんお風呂先にどうぞ~」
「うん……」
帰宅してからも心のもやが晴れず、お風呂の支度をしてくれた実叶に声をかけられてもいのりは生返事だった。そんな様子を見て、実叶はいのりの束ねた前髪をほどきながら頭を撫でた。
「一緒にお風呂入る? 髪洗ったげるよ」
「……うん」
いのりと実叶は八歳違いの仲の良い姉妹だ。実叶の面倒見の良さもあって、いのりが小さい頃はよく食事や入浴のお世話をされた。
いのりが成長してからも、時間が合えば一緒に入浴する習慣は完全にはなくなっていない。実叶が大学生になり、いのりがスケートを始めてからは少なくなったが、それでもこうしてたまに『髪洗ってあげる』『背中流してあげる』と構われた。
先に湯船に浸かった実叶の優しい手が伸ばされて、いのりの髪と背中が洗われる。全身を先に洗ってしまってから、いのりもぬるめのお湯に浸かった。
実叶とのお風呂は二人だけであれこれとお喋りできるのも良い。いのりは心のもやもやを素直に姉に打ち明けることにした。
「ねぇお姉ちゃん」
「んー?」
「お姉ちゃんは司先生のこと、どう思う?」
「良い先生だよねぇ。のんちゃんの先生が司先生で良かったよ」
全て同意するけれど、いのりが聞きたいこととは微妙にズレている。
「そうなんだけど、そうじゃなくて! 格好いい?」
「えー? それはまあ、格好いいと思うよ」
司が格好良いことなんて、いのりにとっては当たり前のことだ。しかし実叶に肯定されるとやはり複雑だった。
「……特別に好きだったりする? 彼氏にしたいとか思う?」
「カレシぃ?!」
言葉にしたことで、自分は何が気に入らなかったのかはっきりした。笑い合う実叶と司がお似合いに見えて嫌だったのだ。
実叶は身内ながら美人でスタイルも良い。未だ成長途中のいのりと違ってすっかり大人の女性になりつつある。性格も良くて頼りになって、今まで恋人を自宅に連れてきたことなど一度もないけれど、モテるかモテないかで考えれば当然モテると思う。
一方の司も格好いい。背が高くてムキムキのホカホカだ。男性の美醜はよく分からないいのりだが、顔立ちも整っている方だと思う。少なくともいのりは好きだ。なによりスケートが上手ですごく優しい。
声が大きいとか、リアクションが大きいとか、暑苦しいとかたまにクラブで貶されているけれど、いのりはそれら全てが司の魅力だと思っている。司にも恋人がいるような様子はないけれど、モテないのが不思議だった。
そんな二人が談笑していると、まるでカップルのようだった。大好きな二人の仲が良いことは嬉しいことのはずなのに『やだな』と思ってしまった。いのりのいないところで、二人だけで楽しそうにしないでほしい。
「彼氏になんて全然考えたことないよーっ」
「そっかぁ」
いのりがほっとしたのもつかの間、実叶はなにやら想像するかのように視線を宙に向けた。
「でも、司先生ならオッケーかも」
「!」
「絶対のんちゃんのこと大切にしてくれるし、お母さんも気に入ってくれるでしょ。お父さんはちょっと拗ねるだろうけど人柄の良さは分かってるんだし、そう反対しないでしょ」
腕を組みながらひとつずつ確認するように並べられる実叶の言葉にいのりの頭は真っ白になった。
「のんちゃんは司先生がお姉ちゃんの恋人になって、いつか家族になったら嬉しい?」
お婿さんに来てもらったらお義兄ちゃんになるよ、と実叶が言う。
いのりのお義兄ちゃん。お姉ちゃんのお婿さん。司先生が。
真っ白な頭の中にそのキーワードだけが浮かぶ。ぐるぐる混乱しながらもいのりの口は勝手に動いていた。
「や、ヤダ……」
「お」
「ヤダーー!」
嫌だ。司はいのりの先生だ。実叶はいのりのお姉ちゃんで、二人とも二人とも。
「お姉ちゃんも司先生も私のだもん! 二人とも大好きだけど結婚したらやだあ!」
「かっ、カワイイーー!」
ヤキモチを爆発させて大騒ぎする妹を、実叶は笑いながら抱き寄せた。ちょうど帰宅した母ののぞみが、浴室ではしゃぐ姉妹の声を聞きつけて注意した。
「なに騒いでるの。早く上がって寝支度しなさい」
「あははっ、はーい」
「むー!」
実叶は「冗談冗談」と笑っていのりを宥めたが、いのりはまだ安心できなかった。

翌日、いのりはレッスンの合間の休憩時間に司に聞いてみた。製氷中、リンクサイドのベンチに座ったところで早速切り出す。
「司先生にスケート以外でお話があります!」
「珍しいね。何かあった?」
「恋愛のことなんですけど!」
「れっ」
あのとき実叶は冗談だと笑っていたが、わりと乗り気だったように見えた。ドライヤーの時間に追及してみたところ、対象としてはアリらしい。
『しいて言えばちょっと歳の差はあるけど、二十代と三十代のカップルは別に珍しくないからねぇ』
『……本当は司先生のこと、好きだったりする?」
『うふふ。のんちゃんの方がずっと好きだよ。のんちゃんが嫌がるのに司先生をそういう相手にしないよ』
好感はあっても特別な好意は抱いていないと断言されて、実叶の気持ちは確認できた。次は司だ。
いのりに恋愛の話題を持ち掛けられて、司はショックを受けているようだった。「いのりさんが恋愛……いつの間にそんなに大きく……」とどこか黄昏ている。
「えっと、俺でいいのかな? ろくなアドバイスができる気がしないけど」
「いえ、アドバイスとかはいらないので!」
「じゃあなんの相談?」
「相談というより、司先生の恋愛観を聞きたいです。恋とかよく分からないので参考にしたいです!」
「ああ……」
ちょうどいのりの来季のプログラムは、少女の淡い恋の要素が入った曲を使う。司は納得したような顔になって、いのりをしっかりした眼差しで見返した。
「そういうことなら。参考になるか分からないけど、どうぞ」
「歳の差についてどう思いますか」
「へ?」
司の同意を得て、いのりがはりきって質問すると司はこてんと首を傾げた。
「何歳差までオーケーですか」
「うん? この質問役に立つ?」
「はい!」
司は実叶に特別な好意を感じているのか。恋愛対象として意識しているのか。まずは遠回しに探りを入れる。司と実叶は八歳差で、いのりと実叶の歳の差とちょうど同じだ。
「歳の差か……お互い好きになったら関係ないんじゃないかな」
「じゃあ十六歳差もアリですか」
八、はち、と考えていたら、なぜか足し算してしまった。司は「十六?!」と驚いている。
「うーん、俺から見て加護さんの歳くらいか……まあ、相手によってはあり得るんじゃないかな……」
司は自分より年上の場合で考えていたが、十六歳差を否定しなかった。すかさずいのりは「年下は!」と追及する。
「下はない」
しかし今度の司は悩むそぶりもなく一刀両断した。『ガン!』といのりはショックを受けた。
「年上は良いのに年下はダメなんですか?」
「駄目だね。無理だよ」
「何が違うんですか!」
「年下になる方の年齢だね。俺みたいな三十路ならともかく十代は犯罪だから。最低でも成人、いや二十歳は超えてないと厳しいよ。そもそも十六歳差もかなり大きいし」
「……じゃあお互い二十歳以上で、八歳差なら?」
「……八歳くらいなら、うん、アリだと思う」
司は少し考えてから、真面目な様子で頷いた。ちゃんと考えてその答えなのだ。十六歳差はだいぶナシだけど、八歳差はアリなのだ。いのりは不貞腐れた。
「……司先生は私よりお姉ちゃんの方が好きですか? お姉ちゃんなら恋愛対象になりますか?」
「あ、あー!?」
いのりの質問の意図に気付いた司が声を上げた。なぜかいのりは、司が実叶に懸想しているのでは、と気にしているらしい。
「ないよ! いのりさんの大事なお姉さんで十代の頃から知ってる女の子をそんな目で見ないよ!」
「だって昨日お姉ちゃんと仲良く話してたし、お姉ちゃんは美人だし、私と違ってしっかりしてて、なんでも出来て」
ちょっと泣きそうになりながらいのりがそう訴えると、司は少し背を丸めていのりの顔をまっすぐに見つめてきた。
「いのりさんにも素敵なところはいっぱいあるよ。恋愛とか関係なく、先生は結束いのりさんという人が好きだよ」
「……お姉ちゃんは」
「実叶さんとはいのりさんのことが大好き同士で気が合うだけだよ。心配しなくてもいのりさんのお姉さんを取ったりしないし、俺も実叶さんもいのりさんが一番大事だよ」
「……はい」
いのりが一番大事だと、司がはっきり言ってくれたことでいのりの気持ちは宥められた。
一番がいい。わがままだと解っているけれど、大好きな二人にとって一番の存在でいたいのだ。
「それにこんなおじさん相手にされないよ。実叶さんに失礼だよ」
司がそんなふうに自分を卑下するので、いのりはムッとして反論した。
「そんなことないです! 司先生はすごく優しくて、あったかくて、スケートが上手で、とっても格好いいんです!」
「ははっ、ありがとう」
いのりの本心からの言葉を、司は軽く笑って流した。お世辞だと思っていそうだ。
「本当です! お婿さんに欲しいくらい!」
そう言った瞬間、かちりといのりの中でズレていたピースが嵌まるような感覚があった。
(そっか、お姉ちゃんじゃなくて……)
しかしその感覚をはっきりと掴む前に、司が聞き逃せない発言をした。
「最近の女の子は立派だなぁ。お嫁さんに行くよりお婿さんを貰うのが流行ってるの?」
「え?」
「羊さんも言ってくれるんだよね。俺が売れ残ったらお婿に貰ってあげるって」
「な!」
俺ってそんなに頼りないのかな、と司が肩を落としている。だがいのりは司を慰めるどころではなかった。
(ライバル……!)
羊の存在は知っている。以前に会ったこともある。司の恩人家族でずっと一緒に暮らしていて、司といのりの夢を応援してくれている。今ではフィギュアスケート観戦が趣味で、いのりのファンになってくれたというふわふわした髪の可愛い女の子。あの子も司をお婿さんにしたいなんて。
この勝負は現状だと羊が有利だ。だってもう家族のような存在なのだ。この不利を逆転させるには、いのりがもっと魅力的な女性にならなくてはいけない。
司に相応しい相手になるためにはーー
「……わかりました」
「え?」
「待っていてくださいね」
「なになに」
司をお婿に欲しいなら、まずメダリストにならなければ。オリンピックの金メダルを獲って司を世界一幸せなコーチにしてからでないと話にならない。いのりは師匠に似て理想が高い少女だった。
そのときいのりは二十歳になる。先ほど司は、十六歳差は厳しいけれど年下が二十歳を超えていれば可能性はあると言っていた。相手によってはあり得ると。
いのりが二十歳なら司は三十六歳。はてなを飛ばしている司の顔を見返して、三十六歳の彼を想像した。今とほとんど変わらない大好きなひとの姿が目に浮かんだ。
「アリだ……!」
「何が?!」
いのりが勢いよく立ち上がったとき、ちょうど製氷作業が終わってリンクサイドから少年少女たちが飛び出していく。未来のメダリストを目指して練習に励んでいるライバルたちだ。いのりも負けていられない。
「さあ司先生、練習しましょう!」
「う、うん……」
意気込むいのりに戸惑いながら司が後をついてくる。その日の練習は非常に気合の入ったものになった。


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コメント

  • rururi
    7月6日
  • ちゃん

    うわあああ大好きです!!お姉ちゃんとの仲を気にしちゃういのりさん、嫉妬するいのりさん、想像してアリと思ういのりさん、ぜんぶかわいい😭司先生からも大好きないのりさん、という言葉が聞けてうれしい!ありがとうございます😭

    7月4日
  • ととた
    7月3日
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