たがために
【追記】
続きました→novel/28634002
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61話を読んだ!!!
一気に書いたのでいろいろおかしいと思いますがどうかご容赦ください。全部捏造です。ふわっとした話です。
本当はカプ無しのつもりで書いていたのですが、最後の一文をどうしても入れたくてよだつかになりました。でもほぼよだつか要素はないです。本当にないです。よだつか詐欺ですみません。
司先生とアイスショーがメインのお話。明浦路家もいます。若干いのつかっぽいです。
表紙は同人誌表紙メーカー様より。いつもお世話になっています。
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この家に入るときになんと言うべきか、司は未だに納得のいく答えを持っていなかった。
ぼんやりとドアを見つめていると、ドアの向こうからガタガタと音がする。ハッとしてわたわたと鍵を取り出そうとするが、その前にドアが開いた。
中から顔を出したのは、今でも時折連絡を取り合う兄だった。あらかじめ今日来ることを伝えていたので、司がドアを開けることを躊躇うと予測してスタンバイしてくれていたのだろう。肇は司をじっと見つめてからフッと笑みを浮かべた。
「よっ。久しぶり」
「うん……久しぶり、肇くん」
少年時代に違和感を抱きながらも口にしていた「ただいま」でもなく、他人行儀すぎるかと不安になる「お邪魔します」でもなく、ただ事実としての「久しぶり」。その挨拶をさせてくれた兄は子供の頃から変わらず優しくて、司は自然に笑顔を浮かべられた。
中学から高校時代に過ごした叔母の家は、少し家具や家電が買い替えられてはいたが、さほど大きな違いはなかった。真っ先に「懐かしいな」という感想が出てきたことに自分で驚き、次いで笑いそうになる。思ったよりも冷静にこの家を観察できることは、過去のしがらみから抜け出せた証明のようだ。
奥から出てきた叔母に「お久しぶりです」と挨拶すると、叔母は目を丸くして「大きくなったわねぇ」と感嘆の声を上げた。身長は最後に会ったときから変わっていないので体格のことだろう。確かに当時とは筋肉の量が全く違うので、司は笑いながら「趣味で鍛えてて」と説明した。
そして、もう一人。奥から現れた背の高いその人は、記憶にあるよりも老いていたが、変わらぬ穏やかな笑みを浮かべていた。
「おかえり、司」
「……ただいま、父さん」
違和感だらけだったはずの言葉がするりと口から出てきて、すとんと胸に落ちる。じんわりと体の内側から温かくなるような不思議な感覚に司は少し戸惑った。
叔母の家であり、父や兄と共に暮らしていた住まいでもあるこの家を訪ねてきたのは、ただの帰省のためではない。
しばらく近況報告をし合ってから、話が落ち着いたタイミングで司は今日の用件を伝えた。
「もし都合が良ければなんだけど……」
そう言って差し出したチケットに三人の視線が集まる。なんとなく恥ずかしいような気まずいような気持ちがして、司は少し顔を赤くしながら早口に説明した。
「えっと、アイスショーっていうスケートのショーがあるんだけど、そのオーディションに運良く受かって。前はずっと落ちてたのに今さら受かるなんて、いのりさんのコーチとしての実績のおかげかな。あはは。あの、それで、みんな興味ないかもしれないけど、関係者チケットを用意してくれるって言うから念のため取っておいたんだ。もちろん興味なければ来なくていいし、本当に気が向いたらでいいんだけど、」
「司」
なにやらごちゃごちゃと言い立てる弟を遮って肇が声をかける。司はぴたりと喋るのを止め、もごもごと口を動かしながらそっと兄を見つめた。肇はそんな司を真面目な顔で見つめてから、ほぅ、と嘆息する。
「おまえ、凄いな。アイスショーってどういうものか知らないけど、演者として選ばれたってことだろ? コーチとしての実績とかじゃなくて、おまえ自身の力が認められたんじゃないか」
「そうよ! 絶対に観に行くからね! 甥っ子がショーに出るって自慢しちゃお」
「いやいやいや、主演とかじゃないし、そんな自慢なんてしなくていいって!」
慌てて言うが、叔母は司の意見などまるで気にしない。きっと明日には知人の多くが司のアイスショー出演を知ることになるだろう。
頭を抱える司に叔母と兄が笑うなか。父だけは、戸惑った顔をしてチケットを見ていた。その事実に心臓がきしりと嫌な音を立てるが、気付かないふりをして父に笑顔を向ける。
「父さんは、あんまり興味なかったかな」
「……興味がないわけじゃないんだ。ただ、ろくに知らないのに行っていいんだろうか」
「なによ、私だってろくに知らないわよ」
「俺も、競技ならまだちょっとわかるけど、ショーは全然わからないな」
叔母と兄が続け様に言う。自分を気遣ってくれる二人の優しさがくすぐったく、同時に少しの勇気をもらえた。
司は膝の上でぎゅっと拳を握り、父の目を真っ直ぐに見つめて告げた。
「……なにもわからなくてもいいんだ。ただ、もし少しでも興味があるなら、父さんに見てほしい」
司の言葉に父は驚いたようだった。もしかしたらそれは父にとって覚悟のいる決断だったのかもしれない。それでも彼は、僅かに逡巡してから小さく笑って頷く。
「わかった。せっかくだから、司の勇姿を観に行くよ」
「ゆ、勇姿かぁ……失敗しないように頑張らないと……!」
ドギマギしながら言えば、彼らは楽しそうに笑って「頑張ってね」「期待してるからな」と口々に告げた。それからは、司が帰るまでアイスショーについて説明したり、司が出るアイスショーの他の出演者について説明したりして時間が過ぎた。
ただ、アイスショーを見に来てもらうだけ。それだけのことだが、間違いなくこの時間は司にとって大きな一歩となっていた。