詩・短歌│金色の灰
いくつかの夜、
結論と結果だけで育てられた歓楽街にいる。
まだ朝の体温を知らないカプセルルーム、排気音を招き入れる窓から往くあてのない雑踏を眺める。終電を逃した供物が歩幅を狭めている。ショーケースに幽閉された序章のなかで、無敵の値札だったころの少女たちが、アスファルトに染みる吐瀉物を避けて歩いている。目的を捨て、理由をつくりつづけたなれの果て、月収で研いだ胃液、朝までに蒸発したぶんだけ、シャンデリアが垂れる空に慣れていく。
勇ましいビルの谷間で瓶の屑
孤島が穿つ電子の星座
「そんなきれいなもんじゃないよ」
出口を間違えた豚骨ラーメンを啄んでいるカラスにネオンが言う。溜息の配合量が多い街路樹、食道をふたたび昇る棘、ハンバーガーで蓋をする、自動販売機の下に金塊を探して、落書きされたガードレールに尻の熱を捧げる。香水の匂いが混ざると、秒針はすこし進む。麻酔だと思い込むために塞がれる唇、赤いルージュを歯茎に感染させて、欲しいものを探すところからはじめる。だれかのために裂かれた舌の左右で、流される前の恥垢、あたらしい天候を産もうとしている。納得と諦めで錬金した外郭に重ねられた除光液、既読の朝まで伸縮する暇つぶし。適切な裂傷、未了の止血、時計だけが歌っているカラオケルームに、酔い覚ましのロングカクテル。なによりも雰囲気が大切な会議、効率よく得て効率よく失うために、妥結された翌朝。だれかに自分は含みますか(含めていいですか(含められませんように
「わからないところは空欄でいいよ」
「わかるところを空欄にしたいんだけど」
羽を売った天使、神社でビールの空き缶を蹴る、賽銭で適当な夜を咎めて、時計台が連れ去った領収書をポケットで温める、すべて指になる瞬間、間違えられたアラームが腿を伝ってきらきらの爪に届く。わずかな真実を含んだニップルピアスがもたらす昨晩の続き、電気ケトルに水道水を溜める、粉を溶かして黒、皆伝された裸の背中、屈むと浮く背骨でバスタオルに手を伸ばす、針に植えられた墨のマリアだけが独立して立っている。予定された驟雨で濡れる。入口が出口になって、腰だけが情熱、安い音楽と酔いのなかで進軍する。盾を刺す。敵がわからないまま特攻。鈍る痛覚。自傷が尿道に戻ろうとしている。いまならわかる、すべてが防戦のための塗装であること、日照に塗ろうとしている朱色、影に塗ろうとしている透明、恋人たちの浅い足跡には白が似合うこと。
「夜明けを待つために造られた
たったひとつの椅子がほしい」
惰性で開かれた扉の奥に、空席が並んで、誤解を待ちわびている。グラスが割れないように微笑みを挟んで乾杯をする。まだ聞いたことのない音頭を待っている。
永遠を騙る五色の裏路地で
傷の深さに名付ける朝陽
未明の枕をさるぐつわにする
流行りの摩擦で
山折りされたダブルベッドから
落ちた灰皿
床になじみはじめる冷めた下着に
いつかの淡い金色が降る



ステキです。たくさん感動したときは言葉を失いますが、 才能に感動しております。 散文詩と短歌のマリアージュ、心が動きました。 少し、才能分けてほしいなぁ~~(なんちって) 失礼いたしました。 作品、楽しみにしております。
わ!とても嬉しいです! 才能ないので試行錯誤してます。分けたいのですが……笑 楽しみにしてくださっている方のおかげさまで、書きつづけられます。
ストーリーの中で短歌が引き立てていて、またその逆でもあり、私にとっては新しい読書体験でした。かっこいい・・・!
僕も初の試みだったんですけど、なかなかいいじゃん!と思った次第です🙂↕️ 新しい読書体験のおことば、ありがとう!