抗がん剤が効かない患者に新たな希望 福岡の病院で進む免疫療法の最前線
日々進歩するがん治療。新たな技術は医療に何をもたらし、患者をどう支えているのか。現状を追った。(斉藤幸奈) ■CAR-T療法を受けた男性。手帳を手に治療当時を振り返った【写真】 髪が抜け落ち、全身を倦怠(けんたい)感が覆う。抗がん剤治療は強い副作用を伴うのに、効果が長続きしなかった。
「自分の命はどうなるんだろう」 血液のがんである悪性リンパ腫を患った男性(58)=福岡県大野城市=は2年ほど前、命が尽きる不安に駆られていた。
その後、主治医である九州大病院(福岡市)血液・腫瘍・心血管内科准教授の加藤光次さん(57)が、新しい治療法を提案した。「CAR-T(カーティー)療法」だ。 患者の血液からT細胞と呼ばれる免疫細胞を採取し、遺伝子を改変すると、がんを見つけ出して攻撃する力が強まる。こうして生み出した「CAR-T細胞」を体内に戻し、がんを狙い撃ちにする仕組みとされる。
「自分の細胞が、自分を助けてくれるはず」。男性は望みを託し、細胞を体に投与してもらった。副作用の高熱は2週間程度で落ち着き、回復に向かった。 「人生観が大きく変わった。お金が欲しいとか、あれが買いたいとか、そんな欲はなくなった」。以前のように働き、ゴルフを楽しめる幸せをかみしめる。 ◆ ◆ CAR-T療法は2019年、公的医療保険が適用されるようになった。ともに血液のがんである悪性リンパ腫や多発性骨髄腫で、抗がん剤の効果が十分でなかったり、再発したりしたケースを対象とする。
加藤さんは「患者さんに新しいチャンスを与える画期的な手法」と意義を語る。70代でも受けられるのが特徴。治療が難しい悪性リンパ腫では、治癒の割合が半数程度に高まったという。
治療費は3千万円を超えるものの、高額療養費制度で自己負担は一定程度抑えられる。大学病院などが中心になって取り入れており、患者支援団体は地域によって受けやすさに差が生じない体制整備を国に求めている。それだけ期待は大きい。 ◆ ◆ 患者の免疫を利用する方法は、九州がんセンター(同市)も研究を続ける。やはり血液のがんである成人T細胞白血病(ATL)を対象にしている。