ビットトレント利用で逮捕―BitTorrentの法的リスク 逮捕者以外も3人送検される
2026年7月28日、京都府警は、ファイル共有技術「BitTorrent(トレント)」を利用してNHKドラマを不特定多数が閲覧できる状態にしたとして、著作権法違反の疑いで相模原市の56歳の男性を逮捕したと発表しました。
https://megalodon.jp/2026-0728-2217-26/https://news.yahoo.co.jp:443/articles/ff6f7f69ba40401a3b79170e3dc25cf209036d38
対象となったのは、NHKとWOWOWが著作権を持つドラマ「ミッドナイトタクシー」。男性は「NHKの作品を世界に広めたかった」と容疑を認めていると報じられています。
さらに府警は同日までに、同様の手口でファイルをダウンロードし、他の利用者に公開したとして、40代から60代の男性3人を同容疑で書類送検したことも明らかにしました。今回の事件は、単発の摘発ではなく、同種の行為に対する捜査・摘発が同時並行で進んでいたことを示しています。
https://news.jp/i/1454763443579814731
https://megalodon.jp/2026-0728-2216-47/https://news.jp:443/i/1454763443579814731
BitTorrent事案を数多く扱う弁護士の立場から、この事件のポイントを解説します。
何が「逮捕」につながったのか
今回の被疑事実は、作品を「不特定多数が閲覧できるようにした」こと、すなわち著作権法上の公衆送信権(送信可能化権)侵害です。
ここで重要なのは、BitTorrentの仕組みです。BitTorrentは、ファイルをダウンロードすると同時に、自分の端末から他のユーザーへデータを送信(アップロード)する構造になっています。つまり、「見るためにダウンロードしただけ」のつもりでも、技術的にはアップロード=送信可能化に加担していることになります。
今回の男性が利用したとされる「Nyaa」は、海賊版対策団体であるコンテンツ海外流通促進機構(CODA)によれば、違法利用されるトレントサイトとして世界最大級のアクセス数を誇るサイトです。こうした著名サイトは権利者側・捜査機関側の監視対象となっており、「大勢が使っているから自分は見つからない」という発想は通用しません。
「トレントでは刑事事件にならない」というネット情報を信じてはいけない
ネット上には、「トレントで捕まることはない」「BitTorrentは民事で終わるから逮捕はされない」といった情報が数多く出回っています。今回の事件は、こうした言説が誤りであることをはっきりと示しました。
BitTorrent事案で刑事事件化する割合は近年増えております。著作権侵害(公衆送信権侵害)は10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金(またはその併科)という重い法定刑が定められた犯罪であり、権利者が告訴すれば、今回のように警察が動き、逮捕・家宅捜索・実名報道に至るケースは現実に存在します。
特に、次のような事情がある場合、刑事事件化のリスクは高まります。
- 権利者の被害が大きい人気コンテンツを共有した場合
- Nyaaのような著名な違法サイトを利用し、長期間・多数の作品を共有していた場合
- 権利者側が民事にとどまらず刑事告訴の方針をとった場合
「みんなやっているから大丈夫」「逮捕された話は聞かない」という匿名掲示板やSNSの書き込みには、何の保証もありません。その書き込みをした人が、あなたの懲役刑や賠償金を肩代わりしてくれることはないのです。ネットの匿名情報ではなく、法律と実際の事件例に基づいてリスクを判断してください。
「和解しなくていい」という助言のリスクをどう考えるか
BitTorrent事案では、権利者側から損害賠償請求や和解の打診を受けた際に、「刑事事件になる可能性は低いから、強気に対応して構わない」「和解する必要はない」といった助言がされることがあります。
もちろん、請求内容や証拠関係によっては、安易に和解に応じるべきでない事案も存在します。しかし、そうした助言を受け入れる前に、もし本当に刑事事件化した場合に何が起きるのかを具体的に考えておく必要があります。
• 逮捕・勾留により、身柄拘束が数週間に及ぶ可能性がある
• 家宅捜索により、家族や職場に事実が知られる可能性がある
• 起訴されれば、前科がつき、実名報道されるリスクがある
• 有罪となれば、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金という重い刑事罰の対象となることがある
民事上の和解交渉で強気な姿勢を取ること自体は、一つの選択肢として否定されるものではありません。しかし、ビットトレントの利用による著作権侵害は純粋な民事事件ではありません。刑事事件です。
「刑事事件になる可能性は低い」という見立てが外れたときに失うものの大きさと、和解によって刑事リスクを含めて早期に終局させることの価値を、天秤にかけて判断すべきです。「刑事事件は稀だから大丈夫」という楽観的な助言だけを根拠に強硬な対応を選ぶのは、本人が負うことになるリスクの重さに見合っているのか、依頼者自身が冷静に見極める必要があります。
「一次放流」か「二次放流」かは関係ない
BitTorrent事案について、「自分が最初にアップロードした『一次放流』でなければ、罪は軽い」あるいは「他人が流したものをダウンロードして共有しただけの『二次放流』なら捕まらない」といった理解が一部に見られます。しかし、これは誤りです。
著作権法上の犯罪となるのは公衆送信権(送信可能化権)侵害であり、要件は「不特定多数が受信できる状態に置いたかどうか」の一点です(著作権法23条1項、2条1項9号の5、119条1項)。「自分が最初にアップロードした人物かどうか」は、この要件とは関係ありません。BitTorrentの構造上、ファイルをダウンロードした時点で、自分の端末からも他の利用者へ送信可能な状態になるためです。つまり、一次放流者であっても二次放流者であっても、同じ「送信可能化」という行為を行ったことになり、刑事責任が成立し得る点に変わりはありません。
なお、今回の報道では、逮捕された男性についても、書類送検された3人についても、それぞれが最初の流出元(一次放流)だったのか、他から入手したものを共有していた(二次放流)だけなのかは明らかにされていません。逮捕・書類送検という処分の違いは、公開していた件数や期間といった事案の規模、身柄拘束の必要性によるものであり、一次・二次の区別によるものではないと考えられます。
「自分は最初に流した人間ではないから大丈夫」という発想は、法律上の根拠がありません。
刑事事件は「氷山の一角」――民事責任のリスク
今回のように逮捕・報道に至るケースは、BitTorrent利用者全体から見ればごく一部です。しかし、刑事事件にならなかったからといって安心はできません。
実務上、権利者側は監視システムによってBitTorrentネットワーク上のIPアドレスを収集し、プロバイダに対する発信者情報開示請求を経て利用者を特定した上で、損害賠償請求を行うのが一般的な流れです。当事務所でも、こうした民事上の権利行使を多数取り扱っていますが、対象となる方の多くは「ダウンロードしただけのつもりだった」「違法とは知らなかった」と述べます。
しかし前述のとおり、BitTorrentの仕組み上、ダウンロード行為は同時にアップロード行為を伴います。「知らなかった」では過失責任すら免れず、令和の著作権法改正で整備された損害額推定規定(著作権法114条)のもと、想像以上に高額な賠償責任を負う可能性があります。
実務家として伝えたいこと
1. トレントファイルを開く行為自体がリスクです。閲覧目的でも送信可能化に加担します。
2. 匿名性はありません。IPアドレスは記録されており、開示請求の手続を通じて契約者が特定されます。
3. 刑事と民事は別です。逮捕されなくても、権利者から損害賠償請求を受ける可能性は残ります。逆に、民事で済むと思っていても、告訴により刑事事件に発展することもあります。
4. 「トレントは捕まらない」というネット情報を鵜呑みにしないでください。今回の逮捕事例が、その反証です。
今回の事件は、BitTorrentをめぐる法的リスクが「他人事ではない」ことを改めて示すものです。正規の配信サービスが充実した現在、違法な共有に手を出す理由はどこにもありません。


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