【短編小説】ぼんやりとした肯定

【短編小説】ぼんやりとした肯定
──────これは実話です。

【小説】ぼんやりとした肯定

12月19日。
──仄かに、しかし取り消せない
嫌な予感があった。

財布の中には一万円札が一枚だけ入っていた。
口座の残高は千円。
これを使えば、今月はもう、
まともな飯は食えない。
そう考えながら、
私は何度も財布を開いては閉じた。

そのときだった。
ネットで知り合い、
しばらくやり取りを続けていた
十六歳の少女から電話が鳴った。
Kと呼ぶことにする。

十三時過ぎ。
スマホの向こうで、Kは静かに言った。

「ごめんね」
「沢山助けられました」
「ありがとうございました」

その声は、軽すぎるほど軽く、
だからこそ、異様な重さを帯びていた。

以前から、Kの口からは
死にたいという言葉が何度もこぼれていた。
だが今回は違う。
理屈ではなく、直感がそう告げていた。

本当に、死ぬつもりなのだ。
しかも、友達と一緒に。

私のこれまでの言葉は、
もうKの中に届いていないのだろうか。
無力さだけが、胃の奥に沈殿していった。

「ごめんね」
「幸せになってね」

その言葉を聞いた瞬間、
胸の中で何かが強く反発した。

Kが死んで、
私が幸せでいられるはずがあるか。
否。そんな理屈はどこにもなかった。

生きていてほしい、と願った。
理由を問われても、答えはなかった。
ただ、生きていてほしかった。

「生きないよ。疲れた」

疲れた。
その一言が、
正しさも、希望も、説得も、
すべてがねじ曲がるのを、
私は見たくなかった。

「笑ってるのも、生きてるのも、
息するのも、全部全部疲れた」

私は黙った。
沈黙こそが、最後に残された
唯一の正解のように思えた。

しばらくして、
Kの彼氏からLINEが届いた。
一文だけのスクリーンショット。

「〇〇さんが迎えに来れば生きとくよ?」

その下に、
「どうすればいいか分からんよ」と添えられていた。

その瞬間、
腹の底で何かが切れた。

今月、飯が食えなくなろうが構わない。
Kが生きてくれるなら、行くしかない。
死んでも、終わりではないのだから。

気づけば、もう十八時を回っていた。
私は一万円札を握りしめ、
反射的に電車へ飛び乗った。

岡山から徳島まで、三時間ほど。
夜はすっかり深まり、
待ち合わせ場所の東光寺に着いた頃には、
時計は二十三時を指していた。

徳島駅で降り、
セブンイレブンに寄った。
モバイルバッテリーと、揚げ鶏を一つ。

「食欲がない」
「もう食べた」

そう言われて、
揚げ鶏は私の中に落ちた。
乾いていて、冷たかった。

Kが受け取ったのは、
揚げ鶏よりもさらに冷たい、
モバイルバッテリーだけだった。

三島神社まで歩き、
今日はゆっくり寝よう、と言った。

冬の風はそっけなく、
神社の石段は、
夜の体温をすべて奪っていくようだった。

ほんの短い時間だったが、
Kと心中すると言って同行していた
もう一人の十六歳の子と、
付き合うことになった。
理由は、そう言うしかなかった。

「絶対、見捨てんけぇ」

それしか言えなかった。

野宿で眠れるはずがなかった。
それでも、
寒くないようにと、
私は自分のコートを彼女(Kの友達)に被せた。

翌朝、
私はカラオケに行こうと提案した。
私も、Kも、そして彼女も歌が好きだった。

KはMrs. GREEN APPLEが好きだった。
「ダーリン」
「Soranji」
「天国」

狭い部屋の中で、
私たちは全力で歌った。
その姿が、
ひどく生きているように見えた。

時間だった。
もう行かなければならない。
だが、どこへ行くのかは分からなかった。

カラオケボックスを出て、
私たちは歩いた。
ただ、歩いた。

十キロほど歩き、
橋を渡り、
少し休もうと立ち止まったとき、
警察官二人に声をかけられた。

Kと私の彼女は施設を飛び出しており、
捜索願いが出されていた。

パトカーを見た瞬間、
Kの彼氏の言葉が胸を抉った。

「感情を抑え込んで、
また苦しくなるなら無限ループじゃん」

理由もなく、生きていてほしいと願った。
だが、警察署に同行し、
児相の職員と話し、
結局、Kも彼女も施設に戻ることになった。

私は、何も出来なかった。

岡山へ帰る金もなかった。
────助けがあって、
どうにか帰ることはできたのだが。

それから、
Kからも、彼女からも、
LINEは来ていない。

クリスマスも、
正月も、送ったメッセージは
既読にならなかった。

今日も、
いつものように
YouTube Musicで音楽を流していた。

「Soranji」が流れた瞬間、
体の置き場が、
突然なくなった。

理由は分からない。
ただ、意に反して、
私は死にたくなっていた。

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コメント

11
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しろみ.ささま

こんばんは! 青山様…貴方様は一体どういう御活動をなさっておられる御方なのですか? 実話、実話…青山様御自身も、お若いですよね? ここまで若い子達に寄り添えるなんて、強いなぁと尊敬します…。 私も、若いときにこのような先生?がいてくれたらな…なんて思いました😊✨応援しております。…

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詩人 青山杜甫

活動というほどのものではないですが 頻繁に友達の相談受けるんです 見捨てられないんですよ それでツイッターですね 不当な理由で凍結されちゃいまして いま全く趣旨変えたアカウントで活動してます(そっちは詩とは関係ないエンタメだけど)DMにリンク送っときますね

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優悠

小説として面白かった。けど、読後感が暗い。どんな大変な展開があったとしても、実話はそうであったとしても、結末は、生きる希望、光を想像して書く。それが小説の力、存在意義だと思います。 もっとふくらませて、ラストを光、希望の読後感にすれば、『本屋大賞』とれるかも😍

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詩人 青山杜甫
@優悠 さん

実体験として「ぼんやりとした肯定」しか出来なかった。それをウソで脚色したくないんです。

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つむぎ🌷

杜甫くん 読んでいて、胸が締めつけられました。 あなたの中の痛みも優しさも、ちゃんと伝わってきました。 書いてくれて、ありがとう。 現実をここまで正直に書けるの、強さだと思います。 作品としても、心に残りました。 どうか、自分のことも大切にしてね。 母つむぎ🌷

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詩人 青山杜甫
@つむぎ🌷 さん

もちろん私もフリー素材みたいなものなので笑 楽しみにしてます( *´꒳`* )

青山杜甫(あおやま・とほ) 2005年10月31日生まれ。 岡山県岡山市出身。 「ミリャーロモンド」という 独自の宇宙観を軸にした創作に勤しむ。 すでに1000作を超える。 「現代詩壇は死んだ。 私は未来詩壇の源流である」と宣言した。
【短編小説】ぼんやりとした肯定|詩人 青山杜甫
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