AIと詩の関係 ― 海外では何が起きているのか 【レポート】
AIと創作、特に文芸創作をめぐる日本語圏での議論は、「AIは道具か脅威か」「使ったか使っていないか」という問いに集中することが多いように思われる。だが、どのような議論が行われようと、AI技術の進化は急速であり、文芸創作をめぐる環境は変化していかざるをえない。AI礼賛でもAI否定でもなく、「実際に世界ではどのような議論や実践が行われているのか」を知ることには大きな意味があると考える。
筆者は海外での状況を、AIと詩作をめぐる事例に絞って調べてみた。そして、日本での関心が「AIが詩を書く」という一点に集中しがちであるのに対して、海外では「AIと詩の関係」をめぐる多様な運動が起きていることを知り、とても驚いた。そこで、あくまでも筆者が知り得た範囲内ではあるが、海外における「AIと詩」に関わる状況を紹介するとともに、若干の考察を加えてみたい。
1. 終わらない詩 ― 詩人サシャ・スタイルズ
現在のAI詩を語るうえでの最重要人物の一人に、アーティストであり詩人でもあるサシャ・スタイルズ(Sasha Stiles)がいる。彼女は自身の分身であるテクネレジとのコラボレーションを通じて、人工知能と人間の問題を探求しているという。テクネレジとは、彼女の文章や声を模倣し、拡張するように訓練された進化し続けるAIシステムであり、急速に変化する世界における新たな表現形態を探求している。
現在進行中のプロジェクトは、人間の想像力とコンピューターアルゴリズムによって駆動される無限のテキストである「A LIVING POEM」である。ニューヨークの Museum of Modern Art に展示中の生成詩であり、AIと人間の共創による詩が、音声や視覚などの感覚要素を伴いながらリアルタイムで変化し、進化し続け、決して完成することのない詩を生成するという。人類とテクノロジーの進化する関係を詩的に表現するものであり、作者はこれを「poem in residence(滞在する詩)」と呼んだ。
なお、この詩は、オンラインでも体験することができる。
2. AI詩専門誌 "AI Literary Review"
"AI Literary Review"は、AIと人間の協働による詩だけを掲載するオンライン詩誌であり、2024年に創刊されている。2025年12月4日に活動終了しているようだが、むしろ、このような媒体が、18か月という期間であるものの、成立していたことに注目すべきであろう。AIと詩の実験が、少なくとも専門誌が成立する程度には広がっていたことを示している。
なお、"AI Literary Review "のWebサイトは現在も残されており、詩誌に発表されたAI詩を読むことができる。
3. Verse by Verse ― AIによる詩作支援システム
これは、Google ResearchのAI研究の一環として行われた研究プロジェクトであるが、実作者から見ても興味深い。
Verse by VerseはAIを用いた詩作支援システムであり、AIが詩そのものを書くのではなく、リアルタイムで次の一行の候補を提示し、ユーザーはそこから選んだり捨てたりするようになっている。自動的な詩の生成ではなく、ユーザーの創造性を引き出し、詩作の学習や楽しさを高めることを重視している。このシステムは、ホイットマンやディキンソンなど、22人のアメリカ古典詩人のスタイル(韻や構造)を学習しており、ユーザーは「ミューズ(詩的な助言者)」を選択できるようになっているという。
詩人がこのシステムを使うことには賛否があると思うが、言語表現や創造性を育成するための教育ツールとしては有効なのではないだろうか。
4. 詩人向けワークショップ
ヨーロッパにはVersopolisという巨大な詩人ネットワークがあり、その中では「AIと詩」もすでに一つのテーマとして扱われている。例えば、次のページには、Versopolisが開催した「Writing with the Machine」というワークショップの情報が掲載されている。
Writing with the Machine: AI and Poetic Creation
このワークショップは、著名なデジタル詩人、アーティスト、研究者であり、計算創造性、マルチメディアアート、詩理論など幅広い分野で活躍しているデイヴィッド・ジャベ・ジョンストン氏が主導している。彼は後述するAI詩プロジェクト『ReRites』の実践者としても知られている。
参加者は、大規模言語モデルから生成テキストプラットフォームまで、AIツールの使い方を学ぶだけでなく、それらが作者性、意図、そして進化し続ける創造性の定義に与える影響について、批判的に考察する方法も学ぶという。
AIを利用した詩作が、すでに実践的な教育プログラムの対象になっていることに驚かされる。
5. Poetry Camera ― 詩を書くカメラ
写真を撮る代わりに、レンズが見た風景をもとにAIが詩を書くカメラがあるという。風景を記録するのではなく、風景を詩に変換する装置である。当初はアートプロジェクトとして始まったが、次第にその枠を超え、実際の製品としてカメラを製造するようになったという。
生成される詩の出来に関しては預かり知らないが、「世界を詩として知覚するためのメディア」として捉えると、非常に興味深い。
6. ReRites ― 編集されるAI詩
4節で紹介したデイヴィッド・ジャベ・ジョンストンは、AIが生成した大量のテキストを毎朝編集し続けるプロジェクト『ReRites』を行っている。2017年から2018年にかけて1年間続けられたこの試みでは、ニューラルネットワークが生成したテキストを素材として、12冊の詩集が制作されている。
ここではAIは詩作者というより素材供給者に近い。興味深いのは、創作の中心が「生成」ではなく、「選択と編集」に置かれていることである。
なお、以下に詳細な情報があるので、参照されたい。
・公式プロジェクトページ「RERITES : machine learning poetry edited by a human」
・Wikipedia「ReRites」
『ReRites』の実践者であるジョンストンが、現在ではAIと詩をめぐるワークショップの講師として活動していることは興味深い。
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以上は、海外における「AIと詩」をめぐる動向の一部に過ぎないが、少し調べただけでも、海外のAI詩の中心は必ずしも文芸誌ではないことがわかる。むしろ、個人や団体によるプロジェクト、デジタルアートやパフォーマンス、システム開発に重心が移ってきているようである。例えば前に挙げたサシャ・スタイルズは、文芸誌の世界というより、現代アートやデジタルアートの文脈で評価されているようだ。また、デイヴィッド・ジャベ・ジョンストンの活動に見られるように、AI詩は創作実践だけでなく、教育や共同制作の領域にも広がりつつある。ここは日本との大きな違いかも知れない。
考察
筆者は、生成AIが騒がれるようになる以前からAI技術に関心を持っており、その延長上で、AIと文芸創作をめぐる動向を追うとともに、多少の実験を試みたりもしている。
今回、海外の事例を調べる中で、改めて考えさせられたことは、AIという外部との対話が、過去の作品や編集者・読者との対話と同じように、単独では到達できなかった場所へ書き手を連れていくということである。問うべきは「AIとの共創は創造性を損なうか」ではなく、「どのような共創が、どのような種類の強化をもたらすか」だろう。
AIは芸術の環境を大きく変える技術であり、その変化の中から新しい詩の形式や新しい作者像が生まれる可能性があるのではないか。AIが詩人になるのかどうかはわからないが、詩人がAIと出会ったことで何が起きるのかについては、すでに世界各地で様々な実験が始まっている。
(2026.6.24 修正)
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いまここで「いいね」が欲しければAIを使えばいいと思います。 でも、それは言葉を活かしているだけ。 言葉をいったん殺害しないと、現代詩にならない。 死んだ詩を蘇らせる読者がいないと、沈黙が意味にならない。
堀川様のコメントの真意を理解できているようには思えないので、応答になっていないと思いますが、意図も意思もないと考えられるAIの言葉に対して人間が意味を生成しているということはいえると思います。
初めまして。 次のご意見に、完全に賛同いたします。 AIという外部との対話が、過去の作品や編集者・読者との対話と同じように、単独では到達できなかった場所へ書き手を連れていくということである。問うべきは「AIとの共創は創造性を損なうか」ではなく、「どのような共創が、どのような種類の強…
K_Kamenoさん、コメントありがとうございます。ふだん、AIとの共創を実践されているK_Kamenoさんだからこそ、この意見に共鳴いただけたのかと思います。AIは仕事上の部下や委託先ではなく、互いの強みを生かしながら、刺激し合える相棒ではないかと感じている今日この頃です。