NATROMのブログ

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大腸がん検診を受けよう…それはそれとして大腸がん検診を受けていても大腸がんで死ぬことはある

作家の東野圭吾さんが大腸がんで亡くなったと報じられた。SNSでは「大腸がん検診を受けていなかったのだろうか」といった声も見られる。実際のところはどうだったのか私は知らないが、仮に大腸がん検診を受けていたとしても、大腸がんで亡くなることはある。

大腸がん検診は、大腸がん死亡を減少させることが証明された、有効性のあるがん検診である。現在の日本では、40歳以上に対して年に1回の便潜血検査による大腸がん検診が推奨されている。該当する人たちは、ぜひ大腸がん検診を受けることをおすすめする。症状がなくても検診を受けよう。というか、症状がない人たちががん検診の対象である。便通異常や血便といった症状があれば、検診を待たず、すみやかに医療機関に受診すべし。


便潜血検査による大腸がん検診の有効性はどの程度か?

さて、「大腸がん検診を受けていても大腸がんで亡くなる人もいる」ことと「大腸がん検診は大腸がん死を減少させる」ことは両立する。大腸がん検診は有効だが一方で限界もあり、大腸がん死を完全に防ぐことはできない。「検診さえ受けていれば大腸がんで死ぬことはない」という考えは誤解である。

「そうは言っても、中には検診で防げない大腸がん死もあるものの、多くは防げるんでしょ」とお思いの方もいるだろう。しかし、臨床的証拠に基づけば、むしろ大腸がん死の多くは検診でも防げず、中には検診で防げる大腸がん死もある、という表現のほうが正確である。一般的に、がん検診の利益は過大評価されがちだ。

複数のランダム化比較試験を統合したコクラン・システマティックレビューによると、便潜血検査による大腸がん検診は、大腸がん死亡の相対リスクを16%減少させることが示されている*1。検診を行わなければ100人が大腸がんで亡くなる集団があるとする。便潜血検査による大腸がん検診を受ける機会を提供すると、16人の大腸がん死を防げるが、84人の大腸がん死を防ぐことはできない。

コクランレビューで用いられた便潜血検査は現在日本で使われているものより性能が低く、さらに受診しなかった人も解析に含まれているため、実際の死亡リスク減少は16%より大きいと考えられる。とは言え、有効性のおおよその目安はご理解していただけたであろう。


内視鏡による大腸がん検診はどうか?

「便潜血検査は精度が低い。最初からいわゆる大腸カメラ、下部消化管内視鏡を行えばよいのだ」という意見もある。しかし、がん検診の有効性は感度・特異度だけでは決まらない。現在のところ、全大腸内視鏡検査による大腸がん検診は、日本では推奨グレードC、科学的根拠が十分ではないため対策型検診としては勧められていない*2。海外では、内視鏡による大腸がん検診も推奨の対象になっているが、同時に便潜血も推奨されており、優劣はつけられていない。

内視鏡の感度は高いが、やはり大腸がん死を完全に防ぐことはできない。最近の論文を紹介しよう。2026年5月のLancet誌。

■Long-term effects of colonoscopy screening on colorectal cancer incidence and mortality: a multicountry, population-based randomised controlled trial - PubMed

ノルウェー、ポーランド、スウェーデンの55~64歳の男女8万人超を対象としたランダム化比較試験。13年の追跡後、大腸内視鏡検査によるスクリーニング群において大腸がん死は28217人中106人(0.41%)、非スクリーニング群では56366人中236人(0.47%)。相対リスクは0.88、95%信頼区間は0.68~1.08。大腸がん死を完全に防ぐことができないどころか、有意差がない。

死亡率に有意差がないからといって大腸内視鏡検査による大腸がん検診の有効性が否定されたわけではない。大腸がんの発生率はスクリーニング群1.46%対対照群1.80%で、相対リスク0.81、95%信頼区間0.71~0.90と、有意に減少している。死亡率の差が非有意となった要因としては、大腸がん死亡率が事前想定を下回り、統計学的検出力が不足したことが挙げられている。抗がん剤を中心とした治療の進歩によって、大腸がん全体の死亡率自体が低下したためと考えられる。


内視鏡と便潜血、どちらがよい?

コクランレビューは、現在よりかなり以前に実施された便潜血検査の研究をまとめたものであり、現在の内視鏡検査と比較することはできない。参考になるのは、最近行われた内視鏡対便潜血を比較したランダム化比較試験であろう。2025年4月のLancet誌。

■Effect of invitation to colonoscopy versus faecal immunochemical test screening on colorectal cancer mortality (COLONPREV): a pragmatic, randomised, controlled, non-inferiority trial - PubMed

スペインの50~69歳の男女5万人超を対象にしたランダム化非劣性比較試験。大腸がん死は内視鏡群0.22%、便潜血群0.24%で有意差なし(非劣性)*3。非劣性であれば、集団においては、内視鏡よりも費用や侵襲性の面で優れる便潜血検査を一次検査に使用するほうが合理的である。

日本でも、全大腸内視鏡検査対便潜血反応検査のランダム化比較試験が進行中である(大腸内視鏡検査の有効性評価のためのランダム化比較試験、UMIN000001980)。フォロー終了予定日が2026年3月なので、そのうち結果が発表されることを期待したい。結果次第では、日本の大腸がん検診の推奨が変更されるかもしれない。

まとめると、内視鏡と便潜血、どちらがよいかはまだわかっていない。差があるとしても小さい。とくにこだわりがなければ、市町村が推奨する検診を受けておくのが無難であろう。


*1:https://www.cochrane.org/evidence/CD001216_screening-colorectal-cancer-using-faecal-occult-blood-test-hemoccult

*2:■大腸がん | 国立がん研究センターがん対策研究所

*3:ただし、この結果は「検診を受けたかどうかにかかわらず、検診を勧められた人全員」を対象にした解析(intention-to-screen;ITS)である

  • Joe Majestic (id:joemajestic)

    東野圭吾さんの訃報には驚きました。検診を受けていても完全には防げないという冷静な指摘、とても重要ですね。統計的に有効な検診でも、個人にとっては確率の問題にすぎない。健康診断やウェアラブルデバイスでの自己管理が広がる今、数値や検査結果とどう向き合い、どんな行動につなげるべきか、改めて考えさせられる記事でした。

  • ふんわりコーン

    >「ゆっくり型」は隆起性で発見が容易です。「精度の低い内視鏡」で見つかる病変の多くは、こちらです。早期癌として手術・ESDが行われているのも、このタイプがメインです。
    一方、急速型は「平坦型(SSAP、Ⅱc型)」由来で発見が困難です。そのため内視鏡後・大腸癌(PCCRC)という形で見つかることが多いです
    「SSAP」と「Ⅱc型」を見つけて内視鏡後・大腸癌をゼロに
    これこそが大腸癌死亡を減らす「唯一」で「確実」な対策です。
    (中略)
    結局のところ「精度」に対する評価システムが無いことが大きな理由です。
    https://ameblo.jp/hongo-med-suzuki/entry-12957697616.html

    →大腸内視鏡専門?の医院のブログに上の記述がありました。単純に、この質問の投稿をさせていただくための引用です。以下を思いつきました。

    大腸内視鏡には、「腕の良い医師が十分に時間をかけて行った、いわば、真の大腸内視鏡検査」(Aとします)と、「非Aの内視鏡検査」があり、受診者には見分けがつかず、世の中全体ではごっちゃ混ぜになっている(=医療機関ごとに力量が異なる)。
    上のAに限定すれば、大腸内視鏡検査は、現状のデータよりも、もっと死亡率を下げる、ということはありそうな話ですかね?

  • 名取宏(なとろむ) (id:NATROM)

    「内視鏡後・大腸癌をゼロ」にするのはさすがに難しそうだとは思いますが、それはそれとして、内視鏡の質が、死亡率に影響するのはいかにもありそうなことです。消化管内視鏡の技術は、海外と日本で異なる可能性があります。日本の臨床試験ではどうなるかは興味深いところです。

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