相模原市の知的障害者施設で19人が殺害された事件から、10年となった26日、現場に再建された施設には多くの人が訪れ、花を手向けて犠牲になった人たちを追悼しました。
2016年7月26日、相模原市にある県立の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で、入所者19人が殺害され、職員を含む26人が重軽傷を負いました。
現場となった施設は5年前に再建され、神奈川県の黒岩知事や施設の関係者、それに犠牲になった人の知人など多くの人が献花に訪れました。
事件のあと敷地内に設けられた「鎮魂のモニュメント」の献花台には、遺族の意向を受けて今月、新たに1人の名前が加わり19人のうち11人の名前が刻まれています。
訪れた人たちは献花台に花を手向け、静かに手を合わせて犠牲になった人たちを悼んでいました。
「デジタル献花」の受け付けも
事件から10年にあわせて神奈川県は、事件の風化を防ごうとことし初めて追悼のメッセージをインターネットの専用サイトで募る「デジタル献花」の受け付けも行っています。
専用サイトにアクセスして花のイラストを選んでメッセージを記入する形で追悼の気持ちを送ることができます。
県によりますと、今月17日から受け付けを始め、これまでに1000件を超えるメッセージが寄せられていて、その内容を見ることもできます。
「ともに生きる。決して忘れません」とか「このようなことが繰り返されないよう、社会をもっといいものにします」、「誰もが幸せに生きることができる世の中になりますように」などとつづられています。
デジタル献花は来月末まで受け付けています。
再建された施設には多くの人が献花に訪れる
毎月26日に献花を続けてきた元職員の太田顕さん(83)
「10年前の事件は私にとって痛恨の極みで、毎月の月命日には、なぜ守れなかったのか、なぜ防げなかったのか、いつもお詫びをしてる。今もって十分できたとは思っていない。あれから10年がたって、地域の共生社会については緒に就いたばかりだと考えている。この10年間を評価するのはまだまだ早く、そのような考えでこれからも歩んでいきたい」
30代の娘が自閉症でグループホームで生活している66歳の男性
「事件からもう10年がたったのかなと感じます。娘に障害があり月命日の26日には、よくここに献花をしに訪れています。事件はひとごとではなく、うちの子がここに入っていたらどうしようと考えます。植松死刑囚のことは決して許せません。19人の方々はさぞかし痛かっただろうと思います。安らかに眠ってほしいです」
黒岩知事「思いを新たに」
献花したあと神奈川県の黒岩知事は報道陣の取材に応じ「19人のみなさんの無念の思いをしっかり受け止めて二度とあのような事件を起こさず、世の中を変えていくという思いを新たにした。劇的に変わることは難しいかもしれないが、次の世代につなげていきたい」と述べました。
また、相模原市の本村市長は「二度とあってはいけないし、風化させてはいけない事件だ。差別や偏見がない社会をつくっていくと献花で誓った。障害のある人もない人もみなさんが自分らしく生きられるよう、真の共生社会の実現を全国、世界に発信しないといけない」と述べました。
事件は2016年7月26日の未明に起きました。
「津久井やまゆり園」で入所していた人たちが次々と刃物で刺されて19人が殺害され、職員を含む26人が重軽傷を負いました。
事件の直後、施設の元職員の植松聖死刑囚(36)が近くの警察署に出頭して逮捕され、その後、起訴されました。
植松死刑囚は逮捕直後から「障害者は不幸しか作らない」とか「意思疎通できない障害者は殺そうと思った」などと差別的な主張を繰り返しました。
2020年3月の判決で、横浜地方裁判所は「施設での勤務経験から重度障害者は不幸であり、その家族や周囲も不幸にする不要な存在であると考えるようになった」と指摘しました。
その上で「19人もの命を奪った結果はほかの事例と比較できないほどはなはだしく重大だ」として死刑を言い渡しました。
弁護士が控訴しましたが本人が取り下げ、死刑が確定しましたが、2022年、本人が横浜地方裁判所に再審=裁判のやり直しを請求しました。
横浜地方裁判所は、独自の主張によるもので再審を請求する理由に当たらないとして認めず、東京高裁に続いて最高裁判所も2025年、特別抗告を退ける決定をし、再審を認めませんでした。
その後、死刑囚は2度目となる再審請求を行い、2026年2月、横浜地方裁判所が再び退ける決定を出して、即時抗告を申し立てています。
差別的な考え「変わっていない」という声も
「津久井やまゆり園」の入所者の家族と後見人に、NHKがアンケートした結果、社会の中の差別的な考えはこの10年で「変わっていない」という声などが寄せられました。
NHKは事件が起きた施設の入所者の家族や後見人の58人を対象に、先月までにアンケートを行い、13人から回答を得ました。
このうち、事件を起こした元職員が「障害者は不幸しか作らない」などと差別的な主張を繰り返したことに関連して、社会の中の差別的な思想が10年でどう変化したと思うかを尋ねたところ「変わっていない」が7人となりました。
次いで「差別思想は弱まり改善した」が4人、「差別思想は強まり悪化した」がゼロでした。
「変わっていない」と答えた人に理由を尋ねたところ「残念ながら周りの見る目は変わらない。障害者の家族がいるという負い目は変わらない」といった回答のほか「差別とまではいかないが、理解しようとする姿勢はうかがえない」、「人の命は平等といいつつも、人間の気持ちにはやはり身勝手な思いや優生思想が存在している」と指摘する意見もみられました。
一方「改善した」と答えた人は「大多数の人は、ひと事だと思うが、事件の影響で障害者を排他的に見る思想は減っていると思う」などと回答しています。
また事件から10年がたった今、伝えたいことについて、後見人の50代の女性は自由記述のなかで「こうした事件を防ぐためには、遠回りのように感じたとしても効率が強く求められ、能力の高い人や収入・財産の多い人が強く賞賛されるといったいまの社会の価値観を多様化することが、実はとても大切だと思います。弱者といわれる人たちが、自己肯定感を損なわれることが少なく、多様な価値観の中で自己の存在意義を日常的に感じられる社会を目指すということでもあります」などとつづっています。
利用者の30代の娘を持つ60代の父親は「見守る家族がいなくなったとしても、障害者が存在を否定されず、社会の一員として認められ、穏やかにマイペースで生活できる環境が育っていくことを望んでいます」と回答しています。
死刑囚は10年前と同様の主張を繰り返す
死刑が確定した元職員の植松聖死刑囚が今月、弁護士に宛てた手紙では障害者について「『生きている自覚が全くない存在』」などと10年前と同様の差別的な主張を続けています。
施設の家族会の代表は「人は生きているだけで価値がある。事件を二度と起こさないため障害者やその家族に対する理解をどう進めていくべきか、社会で考えていかないといけない」と話しています。
10年前の2016年、相模原市の知的障害者施設、「津久井やまゆり園」で入所者19人を殺害した罪などで死刑が確定した植松聖死刑囚(36)は2度目となる再審=裁判のやり直しの請求を行い、ことし2月、横浜地方裁判所が再び退ける決定を出し、即時抗告しています。
死刑囚は今月、報道機関などに向けたものとして弁護士に手紙を送りました。
手紙はあいさつの文章を含め便せん4枚にわたり、事件を起こしたことに対する後悔や遺族への謝罪のことばはありません。
この中で、障害者について「『生きている自覚が全くない存在』です。その家族の正常な生活の邪魔をしている」などと10年前と同様の差別的な主張を続けています。
死刑囚は逮捕直後からこうした主張を繰り返していました。
また、再審を請求した理由について「相模原事件は殺人事件になるのかという諮問になると考えています」などと書かれています。
家族会会長「人は生きているだけで価値がある」
死刑囚が10年前と同様の主張を繰り返していることについて「津久井やまゆり園」に重い知的障害がある長男が入所し、入所者の家族でつくる家族会の会長を務めてきた大月和真さん(76)は「彼に必要なのは自分が起こしたことを間違っていると自覚して深く反省をすることだと思っているが、みじんもそういうものがない。よくこんな誤った考えを10年間も持っているなと感じる」と受け止めています。
その上で「わたし自身、息子を育てる中で喜びも悲しみもあるが、すべてを犠牲にしたと言い切るのは間違っているし、1つもそんなことはない。負担ではなくそれは私の人生だ。人はそう簡単なものではなく、生きているだけで価値がある。事件を二度と起こさないため障害者やその家族に対する理解をどう進めていくべきか、社会で考えていかないといけない」と話しています。
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