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中学生のひと言が地域を動かした

おはよう日本

子どもの「やりたい」を地域が本気で受け止めたとき、何が生まれるのか。

宮城県のある町で、「鉄道イベントをやりたい」と手を挙げた1人の中学生。その思いに大人たちが動き、仲間が集まり、夢は形になりました

部活動のあり方が見直され始めた今、見えてきた新しい学びの形とは。

(仙台局 佐々木和カメラマン)

「鉄道イベントをやりたい」

すべては、そのひと言から始まりました。

宮城県涌谷町に住む中学2年生の中澤伶音さんは、自他ともに認める鉄道ファン。鉄道模型で遊んだり、友人と鉄道写真を撮りに出かけたりして、鉄道を愛してきました。

そんな彼が地域を動かす主役となったのは、町が始めた地域クラブ活動の体験事業に参加したことがきっかけでした。

国は少子化や教員の負担増を背景に、学校の部活動を地域と連携しながら支える「地域展開」を進めています。

涌谷町も今年度から休日の部活動の廃止を決め、代わりとなる新たな活動として、町の公民館を拠点に独自の地域クラブ活動を立ち上げました。

砂金採りやカヌーなどさまざまな体験活動を重ねながら、引率の大人たちは「やってみたいことはある?」と子どもたちに問いかけます。既存の部活動の代わりではなく、一人ひとりの興味や関心から活動を生み出そうとしているのです。

「好きなことをやってみて」
「実現できるか一緒に考えよう」

大人が子どもたちに何度も呼びかける中で、その言葉を本気で受け取った中澤さん。

「鉄道イベントを開きたい」

思いを伝えると、大人たちは否定しませんでした。そして、どうすれば実現できるのか、一緒に考え始めたのです。

「やってみたい」から踏み出した一歩

最大の懸念は、どうやって人を集めるだけの「鉄道」メニューを用意するかです。

中澤さんたちの手元にある鉄道模型だけでは物足りません。どうしたらもっとおもしろくできるか考えていたときに、思い浮かんだのが、隣町の美里町にある中古プラレールを扱う店でした。

以前から存在は知っていましたが、店主と親しい関係があったわけではありません。それでも中澤さんは、自分から協力を求めに行くことにしたのです。

その一歩が、大きな転機になりました。店主の天野政司さんは当時を振り返ってこう話します。

天野政司さん
「最初は友達どうしで軽いノリでやるのかなと思っていました。でも話を聞いていたら結構本気で、公民館を巻き込んで大きくやっている。中学生にしてすごい行動力だなと思い、応援したくなりました」

中学生が大人を動かした

天野さんの心を動かしたのは、鉄道好きという共通点だけではありません。

「やってみたい」で終わらせず、自分で足を運び、自分で説明し協力を求める、その姿勢だったのです。

天野さんは、人が乗って楽しめるミニ列車(5インチゲージ)も貸し出すなど、全面的に協力することにしました。

1人で店の協力を取り付けたことを聞いて、町の大人たちも驚きます。中澤さんの行動によって一気に具現化したイベントを、ぜひとも成功させようと、チラシの配布や資材の運搬、会場の設営など、それぞれができる形でイベントを支えます。

こうして中学生の挑戦が少しずつ地域全体のプロジェクトになっていったのです。

中澤さん
「最初は手持ちのもので小さな規模でやって終わりかなと思っていたのですが、いろいろできて結構びっくりしました。たくさん協力してくれた人がいるので、少ない時間の中で話し合いをするのが難しかったですが、自分が思っていたものをはるかに超えるものになりました」

“好き”が仲間を集めた

イベント当日、会場を盛り上げたのは「鉄道」だけではありませんでした。

中澤さんたちが撮影した鉄道写真の展示コーナーでは、鉄道の走行音を交えたオリジナルの音楽が流れています。音楽好きの生徒が音楽制作ソフトでつくったものです。

中学3年生
「居心地のよい曲、音色をイメージして作りました。作った曲を披露できる機会はあまりないので、結構うれしいです」

さらに、会場には釣り遊びができるコーナーも用意されています。

釣り好きの生徒が、鉄道に興味が無い人でも楽しめる場にしようと提案して実現しました。

大人の用意したメニューではなく、子どもたち自身の「好き」が集まって、1つのイベントを形づくっていました。

会場の公民館には町内外から親子連れなどが次々と訪れました。

子どもたちの歓声が響き、展示や写真展を熱心に見つめる人の姿もありました。5時間にわたるイベントには231人が来場。目標としていた100人の倍以上でした。

中澤さん
「本当に大きいイベントになってよかったと思います。スタッフの皆さんや地域の皆さんには本当に感謝しています。やりたいことをかなえてくれてうれしかったです。鉄道の魅力を初めて知った子もいて、よかったと思います」

鉄道をきっかけに子どもどうしが出会い、大人も一緒に楽しむ。

単なる鉄道イベントではなく、世代を超えた地域の交流が生まれる場となりました。

学校には無かった選択肢

実は中澤さんは学校では卓球部に所属しています。

今回の鉄道イベントは卓球部の活動でも学校行事でもない、学校の外で生まれた活動でした。

全国で部活動改革が進む中、多くの自治体は「学校の部活をどう地域で支えるか」という課題に向き合っています。しかし、涌谷町は少し違った形で取り組んでいます。

野球部を野球クラブに。卓球部を卓球クラブに。

そうした置き換えを目指すのではなく、縮小する既存の部活動の代わりに、地域の資源を生かした新たな体験や挑戦の場をつくろうとしているのです。

背景には、人口1万3000余りの町ならではの事情もあります。学校で維持できなくなった活動をそのまま町が代行するには、場所も人材も確保が難しいからです。

学校に用意されている活動から選ぶのではなく、自分の「好き」から活動を生み出す。中澤さんの挑戦は、部活動の代わりではなく、学校だけでは生まれにくかった新しい学びの可能性を示していました。

このイベントの成功は、地域の大人たちにも大きな手応えを感じさせています。

涌谷町生涯学習課 福山宗志課長
「まず一番には、伶音くんの思いが大人たちを動かしたというところが頼もしいというか、ありがたいですね。アイデアを出し実現していくという成功体験を積み上げていくことが一番大切だと思います。子どもたちには、大人たちを動かし地域を巻き込んでいくような力になっていってほしいです」

町が目指すのは、子どもたちを「参加する側」ではなく「企画する側」に育てること。

子どもが声を上げ、大人が支え、地域が動く。今回の取り組みは、そんな新しい関係も示していたのです。

子どもが「企画者」になる意味

1人の中学生の「やりたい」から始まった鉄道イベント。

部活動改革や地域クラブ活動を研究する専門家は、この事例をどのように見るのか話を聞きました。

早稲田大学スポーツ科学学術院 中澤篤史教授
「やりたいことをやらせてもらうと生徒がこんなにも力を発揮するのかというのは、いい驚きでしたよね。そうした可能性を、実は今までの部活動や大人によって組織化された活動では、十分に配慮できていなかったのではないかとも思います。
危ない活動をするなら面倒を見なきゃいけないし、熱中症対策など大人のケアが必要な部分はありますが、子どもが自分たちの力で行うことを、背後から支えていく大人のあり方を反省的に投げかけてくれていると感じました」

中澤教授によると、部活動はそもそも教育課程の外にある「課外活動」であって、本来は生徒がみずから選び、仲間と協力しながら活動する自主的・自発的な学びの場として発展してきたものだといいます。

しかし長い年月の中で活動は過剰に拡大し、子どもだけでなく教師にとっても大きな負担を抱えるようになりました。いま全国で進む部活動改革の背景には、そうした「やりすぎ」の是正という側面もあるのだといいます。

学校の外の活動から生まれた今回の鉄道イベントは、部活動が本来もっていた価値を改めて見つめ直す機会にもなると指摘します。

「いい活動があれば、継続的なものに」

ただ、中澤教授は、今回の事例がそのまま部活動改革の成功モデルとして捉えられるわけではないとも話します。年間を通して子どもにさまざまな活動機会を与えてきた部活動の役割を考えると、単発のイベントがそれを代替できているとは言えないからです。

また、今回は、中澤さんのような行動力のある生徒と、それを支える地域の大人たちがいて実現した1つの事例であって、誰もが主体的に参加できる仕組みとして整備することとは大きな距離があるとしています。

その上で、このような取り組みが発展していくために、自発的な関わりの大切さを指摘します。

中澤教授
「遊ぶことを子どもの特権にしなくてもいいですよね。大人も釣り部を作っていいし、麻雀クラブを作って子どもと一緒にやってもいいし、世代を超えた交流で地域全体が盛り上がっていくようなことを、子どもから学び直して展開していいと思います。
ただ、そういう場は大事にしないとすぐ消えちゃうものなので、いい活動があるならばお隣さんに声をかけたり次の世代に声をかけたり、誰かがちょっと頑張って空間的・時間的な広がりを持たせることで、きっと続いていくものになると思います」

自分で考え、自分で動き、仲間や地域と協力して形にする。

鉄道イベントは、そんな自主的・自発的な学びの力を改めて教えてくれたのです。

「やりたい」の先にある未来

涌谷町では今、ファッション好きの女子中学生によるネイルチップ講座や、ゲーム好きの子どもたちによるイベントなど、新たな挑戦が次々と動き始めています。それらは部活動の代わりではない、子どもたちの「やりたい」から生まれた、新しい体験の場です。

子どもを参加者ではなく、企画者として見る。
そして大人は教える人ではなく、支える人になる。

部活動改革の答えはまだ誰にも分かりませんが、涌谷町の挑戦は子どもたちの可能性を信じることから始まる未来を示しているのではないでしょうか。

仙台局カメラマン
佐々木和
2017年入局
新潟局・青森局を経て現所属
中学時代は吹奏楽部で打楽器担当

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