最新の日本の原油事情と近未来の予測。偽りの平穏はいつまで続くか?
※前にも似たようなエントリーは何本か書いているが、今回は最新の事情を反映したアップデート版である。
ホルムズ海峡が事実上封鎖されてから、もう何ヶ月も経った。ニュースの見出しは次々に流れていくが、実際のところ日本にはどれだけの石油が入ってきているのか。危機の前を100として、今はいくつなのか。素朴な疑問から調べ始めたら、想像していたのとかなり違う風景が見えてきた。記録として残しておく。数字は2026年7月時点のもので、専門家ではない一個人の整理である。
100が、36に落ちて、86まで戻った
貿易統計で原油の輸入量を前年同月比で並べると、こうなる。
3月が84。4月が36。5月が43。6月が86。
4月の落ち込み幅は、記録の残る1979年1月以降で最大だった。前年の三分の一近くである。あの月、私たちは気づかないうちにかなり際どいところを通過していたことになる。
そして6月、数字は86まで戻った。季節調整をかけた前月比では約89%増、つまり一か月で倍近くに跳ね上がっている。7月11日の関係閣僚会議では、7月分は前年並みの約10割の調達にめどが立ったと発表された。国家備蓄の追加放出も回避できる見通しだという。ただし目処や見通しはあくまでも目処や見通しであって確定ではないことには注意するべきだろう。またこれは各業界が節約をしてでの数字であることも留意する必要がある。
ただ素直に思ったことを言えば、日本の商社と石油会社の調達力は、私が思っていたよりずっと優秀だった。そこは認めなければならない。
ただ、この「100に戻った」には、二つの但し書きがつく。中身が別物になったことと、値札が別物になったことだ。
半世紀の調達構造が、三か月で組み替わった
まず中身の話から。
日本の原油の中東依存度は、3月時点で95.9%だった。ほぼ全量が中東である。それが5月には74〜84%(統計の取り方によって幅がある)まで落ちた。何が起きたかというと、米国からの輸入が6月に前年比で約5.6倍に膨らみ、日本の原油輸入全体の3割を占めるまでになったのである。加えて、前年には輸入実績のなかったオマーン、ロシア、アゼルバイジャン、マレーシアからも入り始めた(ただ量としては日本全体としてみた場合、決して十分ではないことは付け加えておく)。
石油化学製品の原料になるナフサも同じで、米国から2.5倍、EUから約30倍、東南アジアから約10.6倍という数字が並ぶ。
半世紀かけて作られた仕入れの形が、三か月で組み替わった。これは相当なことだ。ただ、私はこれを手放しで「分散が進んだ」とは受け取れなかった。実態としては、ホルムズ海峡という一つの急所を、米国政治という別の急所に部分的に付け替えたということでもあるからだ。中東は軍事のリスクで、米国は政治のリスクである。どちらも日本には動かせない。
量は戻ったが、値札は戻っていない
もうひとつの但し書きが、こちらのほうが重い。
6月の原油の輸入金額は、前年比で59.3%増えた。米国からの原油に至っては、数量が5.6倍なのに金額は10.1倍である。油の種類が違うので全部が追加コストというわけではないが、遠回りになった航海日数、跳ね上がった海上保険料、急ぎの買い付けにつく割増価格が乗っている。
分かりやすく言えば、近所のスーパーで買っていた米を、遠方の店から速達で取り寄せているようなものだ。米そのものは同じ量だけ届く。だが送料と手数料が上乗せされ、急ぎの注文だから値引きもない。
この結果、6月の貿易収支は4,069億円の赤字になった。第一生命経済研究所の分析は、問題が「確保できない」という量の話から「高いコストで確保せざるを得ない」という値段の話へ重心を移した、と整理している。危機の第一波はとりあえず乗り切ったということである。
ただこれから樹脂や包装材や物流費を通じて、日用品の値札として家庭に降りてくる。原料が上がってから店頭の価格が変わるまでには時間差があるからだ。
引き金はもう引かれていて、着弾がこれから来る。この時間差こそが今回の危機の本質だと思う。今スーパーの棚が普通に見えることは、何の保証にもならない。また後述の通り第二波がくる可能性も高い。
迂回路のほうが、先に細っている
あまり報じられていないが重大な変化がある。ホルムズ海峡が閉じたときの「逃げ道」だったはずのルートが、いま塞がりつつあるのだ。
ホルムズを通らずにサウジの原油を運び出す方法として、東西パイプラインで紅海側のヤンブー港まで持っていく経路がある。日量500万バレル級の規模で、ホルムズ封鎖時の切り札とされてきた。ところが紅海の南口、バブ・エル・マンデブ海峡でイエメンのフーシ派が動き出した。
6月にはイスラエル関連船舶の紅海航行を全面禁止すると宣言し、7月にはサウジアラビアに対する海上封鎖を宣言した。米海軍が主導する海事情報センターは7月21日、フーシ派が海峡付近にミサイルとドローンを配備し、船舶攻撃の準備を完了したと商船に警告している。サウジの積み荷を載せたタンカーが、海峡に到達する前に何隻も引き返した。さらに報道によれば、イランはフーシ派に対し、米国がイランの電力インフラを攻撃した場合には紅海ルートを閉じられるよう準備しておくよう要請したという。
地図の上では、迂回路は今も存在している。だが実際には、そこを通る船に保険が付かなければ、その航路は存在しないのと同じである。
ここが今回の危機で私が一番驚いた点でもある。海峡を閉じているのは、機雷でも撃沈でもなく、保険会社なのだ。戦争危険を対象にした保険は7日前の通告で解除できる。3月1日には主要12のP&Iクラブのうち8つが、ペルシャ湾に入る船の戦争リスク補償を打ち切った。銀行は保険が付いていることを融資の条件にし、傭船契約も貿易の決済も保険を前提に組まれている。だから保険が取れなければ、船は物理的に走れても、法律上も金融上も出港できない。砲弾より書類のほうが確実に海を封鎖する。
保険料は危機前の0.25%から、7月時点で7.5〜10%まで上がった。1億ドルのタンカーなら一度の航海で750万〜1,000万ドルである。しかも本当の問題は値段ではなく引き受け枠のほうで、金額を積んでも受けてくれる会社がいない、という状態に近づきつつある。
コンテナ船の世界では既に、マースクなどが再びスエズ運河を避けて喜望峰回りに戻している。アフリカ大陸をぐるりと回る航路で、日数も燃料も大きく増える。「迂回路があるから大丈夫」という説明は、少なくとも今の紅海については、もう成り立たない。
底が見えつつある米国の石油備蓄
日本が「なんとかなった」のは、日本の努力だけによるものではない。以前のエントリーでもこのエントリーでもすでに書いた通り、アメリカの戦略石油備蓄が合ったればこそ成り立ったものだった。
米国の戦略石油備蓄(SPR)は、7月17日時点で3億1,145万バレルまで減った。1983年4月以来の低水準である。3月初旬には約4億1,500万バレルあったから、5か月で約1億バレル減った計算だ。3月11日に発表された1億7,200万バレルの放出——国際エネルギー機関の32か国による総計4億バレルの協調行動の、米国分——が続いている結果である。
米国が備蓄を市場に出し、その分だけ米国産の原油が輸出に回り、それを日本が買った。日本の回復は、他国の緊急在庫に相乗りした結果でもある。
法定の下限は2億5,240万バレルなので、数字の上では残り6,000万バレルほどの余裕がある。だが調べていくと、この「残り6,000万バレル」は額面通りには受け取れないことが分かってきた。
貯金箱は、底が見えるより先に蓋が開かなくなる
理由が三つある。
ひとつめ。今回の放出は売却ではなく「交換」という形をとっている。企業がSPRから原油を借りて、後日に元の量プラス割増分を返す仕組みで、割増率は18〜28%。エネルギー長官は「1バレル出せば1.2バレル以上戻ってくる」と説明していた。
在庫管理としては巧妙だが、裏を返せば、2027年に1億数千万バレル分の買い需要が市場に強制的に発生するということである。今年の緩和は、来年の需給の前借りだ。日本が助かった分の請求書は、返済期限付きで存在している。
ふたつめ。その仕組みが、もう機能を止めかけている。6月10日の入札では、4,000万バレルの募集に対して落札されたのは1社の50万バレルだけだった。応札率にすれば1%強である。残量が尽きたからではない。海峡の通航が部分的に戻り、先物の価格の並びが「借りて返す」うまみを消してしまったからだ。
つまり下限に触れる前に、道具のほうが先に効かなくなった。市場が落ち着いている間は誰も借りず、市場が荒れれば政府は温存したがる。使いたい時に使えず、使える時には要らない。よくある話ではあるが、当てにする側からすれば厄介である。
みっつめ。物理的な問題がある。7月初旬に公表された米政府監査院(GAO)の報告は、SPRの実際の引き出し能力が2025年末時点で設計能力の約61%まで落ちていると警告した。再充填する能力は56%。老朽化した井戸の変形が、補修のペースを上回っているという。14億ドル規模の延命計画は遅れと縮小を繰り返し、長期戦略は2016年から更新されていない。さらに専門家からは、残る3億バレル強のうち1億から1億5,000万バレルは、今の製油所や輸出向けには使えないのではないかという指摘も出ている。
貯金は、残高が減るより先に引き出せなくなることがある。カタログに書かれた備蓄量と、実際に一定の速さで市場に出せる原油は、もう別物になっている。
「アメリカの石油を外国に売るな」
そしてもう一つの変数が、米国の政治である。
全米平均のガソリン価格は7月に1ガロン4.09ドルまで上がり、大半の州が4ドル台に乗った。3月末に4ドルを超えた時点で2022年8月以来の高値である。トランプ大統領自身が4月に、11月の中間選挙まで価格の高止まりが続く可能性を認める発言をしている。大統領が「選挙までこれは直らない」と公に認めている状態だ。
こうなると「自国でも足りないのに外国に売るな」という声が強まるのは、政治の力学として自然である。
経済的には、輸出規制は逆効果になる公算が高い。米国の湾岸にある製油所は重い原油を処理するように造られているのに、シェールから出るのは軽い原油だ。だから軽いものを輸出して重いものを輸入する形で最適化されている。輸出を止めれば国内の原油はだぶついて米国内の指標価格は下がるが、ガソリンの小売価格を決めているのは世界市場の相場である。国際価格が上がれば、結局はポンプの値段も上がりうる。主要なシンクタンクの分析はおおむねこの点で一致している。
だが、経済的に筋が悪いことと、政治がそれを採らないことは別の話だ。2022年にも米国では輸出制限が検討された。選挙前の政治において、複雑な機会費用の説明が単純なスローガンに勝った例は、そう多くない。「合理的でないから起きない」という推論に日本の燃料を賭けるのは危うい。
現実的に警戒すべきだと思うのは、全面禁輸ではなく、もっと静かな三つの形である。
一つは輸出量の上限や許可制。日本にとっては「買えない」ではなく「取り分が減る」形で来る。
二つめは優先順位の付け替え。輸出は続けても、誰に売るかは変えられる。欧州は米国産エネルギーの政治的な最重要顧客だし、カナダとメキシコは陸続きだ。「輸出は続けるが、まず近い同盟国から」となったとき、日本は列の後ろに回る。しかもこれは公式には何も発表されず、契約更新の条件として静かに現れる。
三つめは、原油ではなくガソリンや軽油といった製品の輸出制限。有権者にとって因果関係が直感的なぶん、政治的にはずっと通りやすい。日本はナフサなどの製品も米国からの調達を急拡大させたところなので、ここが細ると石油化学が別ルートで詰まる。
要するに、今回の危機の教訓がここにも当てはまる。船も油田も無傷なのに、他人の意思決定ひとつで流れが止まる。輸出規制は、保険の引き揚げとまったく同じ種類のリスクである。
我々はいつまで平穏でいられるのか
ここまでを踏まえて、私なりの見取り図を書いておく。予測ではなく、条件付きの地図として読んでほしい。
今から10月まで。 ここは比較的落ち着くと思う。7月分の調達はめどが立ち、備蓄は7月20日時点で203日分ある。夏の電力ピークを越えれば需要は一度落ちる。この間に起きるのは、6月までに積み上がったコストが日用品の値段として降りてくることで、家計は削られるが、物が消えるわけではない。
11月。 米中間選挙。輸出規制を求める政治圧力がここで頂点に達し、その後どちらかに解消する。ガソリンが4ドル台後半のまま秋に入れば、経済合理性の議論は押し切られる可能性がある。逆に3ドル台に戻れば、この話は立ち消える。
12月から2月。 私が一番危ないと思っているのはここだ。理由が四つ重なる。北半球全体が同時に暖房用の燃料を取りに行くこと。SPRの返済が始まって米国が買い手として市場に戻ること。日本の調達が寄りかかっている米国が、自国の需要期に入ること。そして今年5月に国連食糧農業機関(FAO)のチーフエコノミストが「ホルムズ閉鎖はシステミックな農業食料ショックの始まりだ」として、対策がなければ6〜12か月で深刻な食料価格危機になると警告した、その期限がちょうど満期を迎えること。
最後の点を補足すると、経路はこうだ。エネルギーが高くなる、肥料が高くなる、農家が「高すぎるから今年は撒く量を減らす」と判断する、その結果が翌年の収穫量に出る。中東のアンモニアは前年比92%高、尿素は70%高。世界銀行は肥料価格の31%上昇を見込んでいる。オーストラリアの2026年産小麦は作付面積が7〜20%減、単位あたり収量は26%減という予想が出ており、その小麦は11月から12月に収穫される。
燃料の需要期と、食料の減収と、備蓄の買い戻しが、同じ四半期に重なりうる。まずこのカレンダー上の重なりを警戒すべきだと思っている。
2027年春以降。 ここを越えれば分岐が確定する。中東が沈静化していれば、2027年は「高いが買える」年になる。再燃していれば、追加で積み増す先が見当たらない状態で第二波を受けることになる。
203日分という数字の読み方
ただ、ここでも数え直しが必要だ。
日本の石油備蓄203日分の内訳は、国家備蓄103日、民間備蓄96日、産油国共同備蓄4日である。このうち民間備蓄には70日分の法的な保有義務があるので、義務を動かさない限り自由に使えるのは20日分ほどしかない。過去に義務日数を引き下げた例はあるが、それは「備蓄を使った」というより「ルールを緩めた」話である。
そして国家備蓄も、地下のタンクから汲み出せる速度に物理的な上限がある。米国のGAOが自国の備蓄について実効能力は設計の61%だと警告したのと同じ問題が、日本にだけ存在しないと考える理由はない。
さらに根本的なこととして、備蓄日数というのは輸入がゼロになった場合の数字である。現実には輸入が2割減った分を埋める使い方になるので、203日は数年に引き伸ばせる。だが一度使い始めたら元には戻せない。ちなみにこの203日という数字自体、2月末には243日分あったものが40日分減った後の姿である。
備蓄は在庫ではなく、減速材だ。止まるまでの距離を伸ばしてくれるが、止まらずに済むわけではない。また以前のエントリーでも何度も触れていることだが、日本の備蓄203日分というのはあくまでも流入ベースであり、実証費ベースではないということである。
それより先に尽きるもの
そして、これが今回いちばん腑に落ちた点なのだが、日本で最初に限界が来るのはおそらく原油の量ではない。石油備蓄は年単位で持つ。先に尽きるのは財政と家計のほうだ。
ガソリン補助と電気ガス補助はすでに兆円規模で走っている。2026年度予算の予備費1兆円に対し、補助金だけでその半分が視野に入るという試算もあった。補正予算で穴埋めを繰り返している状態である。これは価格が高いままなら際限なく続く支出で、続けるほど円が弱り、円が弱るほど補助が必要になる。物理的な備蓄が203日分あっても、財政の耐久力はそれより短いかもしれない。
家計はもっと早い。食費が家計に占める割合を示すエンゲル係数は、2025年に28.6%と44年ぶりの高さになった。しかもこれは円が140円台だった時期を含む数字である。1ドル163円と燃料高が定着すれば、備蓄が満タンでも暮らしは苦しくなる。
「石油がある状態」と「暮らしが平穏な状態」は、もう別の話になっている。
縮む条件と、伸びる条件
この見取り図が一気に縮むのは、ホルムズが再び数か月閉じた場合、紅海ルートが完全に止まった場合、米国が製品の輸出を制限した場合、台湾情勢が動いた場合、そして大規模な自然災害が重なった場合だ。特に最後は、備蓄基地と製油所が太平洋岸に集中していることを考えると、単なる追加の不運ではなく、備蓄そのものを無効にしかねない。
逆に伸びる条件もある。価格が高ければ需要は確実に減る。苦しいことだが、需給を均衡させる力ではある。米国の原油生産は2026年4月に日量1,393万バレルと過去最高を記録している。7月末には米国とイランが攻撃を一時停止する動きも報じられ、原油は5%下落した。中東が安定すれば、これは「高値の記憶」として終わる可能性も十分にある。
まとめ
石油の量としての平穏は、順当にいけば2027年春まで続く可能性がある。ただし最初の試練は今年から来年にかけての冬に来る。そして値段としての平穏は、今年の6月にすでに終わっている。
日本にできることは、そう多くない。長期契約を確保すること。対米交渉で何を差し出すかを決めること。そして需要そのものを減らすこと。最後の一つだけが、他人の政治に左右されない唯一の手段である。
私が見ている指標を挙げるなら、米国の週次のガソリン価格、議会に出てくる輸出制限の法案の動き、そしてもう一つ、この冬の灯油価格だ。日本の家庭が最初に体感する形で燃料危機が現れるとしたら、それは自動車ではなく暖房だと思う。北海道や東北の灯油が、補助を入れてなお高いまま冬を越すようなら、それが「平穏の終わり」の最初の実感になるだろう。
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