【閲注CoC】鰯と柊

  • 1二次元好きの匿名さん26/07/20(月) 22:03:51

    あなた達は東京近郊に拠点を構える宗教団体「拝掌教(ハイタキョウ)」の教祖と信​者だ。
    ある日教団内部にて殺人事件が起きた。
    悲鳴を聞きつけ駆けつけたあなた達が目撃したのは、自らの血だまりに沈む幸福な信​者の姿だった。
    「ああ、私は、幸せでした」

    HO鰯:虎杖悠仁
    HO柊:脹相

    ※NPC総入れ替えのため原作に無い設定の付与有り
    ※一部シナリオ改変あり
    ※ハウスルール適用
    ※シナリオのネタバレに注意してください
    ※シナリオを知っている人はネタバレをしないでください
    ※シナリオの都合上残酷な描写有【!あなたの推しが確定ロストする可能性があります】
    ※PCロストの可能性あり

  • 2二次元好きの匿名さん26/07/20(月) 22:07:13
  • 3二次元好きの匿名さん26/07/20(月) 22:10:30

    楽しみだ、そして絵が綺麗だ

  • 4二次元好きの匿名さん26/07/20(月) 22:22:46

    6版のシナリオか
    楽しみ

  • 5二次元好きの匿名さん26/07/20(月) 22:26:48

    絵うま!

  • 6二次元好きの匿名さん26/07/20(月) 22:26:57

    めちゃくちゃ気合い入ってる!!
    楽しみ

  • 7二次元好きの匿名さん26/07/20(月) 22:49:05

    冷たく、澄み切った空気が、肺の腑まで染み渡る。

    どこまでも高く、深く、星さえ拒むような夜空。山頂を支配する静寂は、まるで世界そのものが呼吸を止めているかのようだった。

    これは夢だ。虎杖は、そう自覚している。

    静寂の中を、一人。

    その時、山の静寂を切り裂き、大聖堂の方角から声が聞こえた。

    どこかで聞いたことがあるような、あるいは一度も聞いたことがないような、男の声。

    抗えぬ引力に惹かれるように、虎杖の身体は声の主を求め、大聖堂へと歩みを進める。

    荘厳な両開きの扉。その冷たい感触を掌に感じながら、虎杖は扉を押し開けた。

    ――そこは、地獄だった。

    無数の信​者が、床を埋め尽くしている。彼らの表情は、一様に歓喜に満ちた笑顔だ。

    だが、その首からは、ドクドクと赤い命が溢れ出し、冷たい床を血の海へと変えていた。

    ただ一人。祭壇の前で、立ち尽くす者がいる。

    それは、虎杖を見つめる、もう一人の虎杖だった。

    血だまりを踏みしめる音が、やけに大きく響く。

    もう一人の虎杖は、呆然と立ちすくむ虎杖へと、ゆっくりと歩み寄る。

    その背後で、血の海に沈んでいた死体が、意志を持たぬゴム人形のように、不自然な動きで起き上がり始めた。


    「この地に、楽園を齎しましょう」


    虎杖は、大聖堂の天井を震わせるような、深く、響く声でそう歌った。

    それは祈りではなく、宣言だ。

    虎杖の体をすり抜け、もう一人の虎杖は死体の群れを引き連れて、外の闇へと歩み出す。

    骨の軋む音。ぐんにゃりと柔んだ肉が、奇妙なリズムで揺れる。

    裂けた喉笛から零れるのは、この世のものとは思えぬ、下卑た笑い声。

    虎杖を筆頭に、死者たちの奇妙なパレードが、今、行進を始めた。

    虎杖は、ただそれを、見送ることしかできない。


    SANc<1/1d3>

    dice1d100=40 (40)

  • 8二次元好きの匿名さん26/07/20(月) 22:51:35

    虎杖は、去りゆくその背中を追いかけようと足を踏み出す。
    ――だが、踏み出した足は、まるでぬかるみに飲み込まれるように柔んだ床へずぶずぶと沈み込んでいく。
    身体の自由が利かない。視界が急速に黒く染まり、一寸先も見えぬ暗闇の中へと、虎杖は真っ逆さまに落ちていった。
    ――ゴン。
    鈍い音と共に、後頭部を襲う激しい痛み。

    「……ッあ」

    重い瞼を開けば、目に入ってきたのは見慣れた自室の天井だった。
    虎杖はベッドから盛大に滑り落ち、床に転がっていたのだ。
    あたたかな部屋の空気と、後頭部に残るじんじんとした痛み。
    全身にねっとりとへばりつく嫌な汗だけが、いま見た悪夢の恐怖を物語っていた。

    HP-1減少

    虎杖の現SAN:69
    虎杖の現HP:14

    虎杖の立ち絵公開

  • 9二次元好きの匿名さん26/07/20(月) 22:52:39

    「人間の最高の幸福とはなにか?」
    「それは、幸せに死ぬことだ」

    頽れてゆく男の最期は、笑顔だった。

    「私は幸せです。幸せ、でした」


    ▾  クトゥルフ神話TRPG「鰯と柊」  ▾

  • 10二次元好きの匿名さん26/07/20(月) 22:57:24

    「あいてて……」


    後頭部をさすりながら、虎杖はよっこらせと床から起き上がる。

    寝ぼけた頭を軽く振ると、カレンダーの文字が目に飛び込んできた。


    (そういえば……あと2日で「大拝祭」か)


    半年に一度の大きな祭り。普段は山の下で暮らしている大勢の信​者たちが、この教団本部に集まってくる日だ。

    早朝から外の廊下や境内のあたりが何やらバタバタと騒がしいのも、その準備に追われているからだろう。


    (まあ、俺たちはいつも通りのスケジュールでいいはずだしな。まずは顔洗って――)


    そんなことを考えながら立ち上がろうとした、その瞬間。

    バァァン!!

    静寂を盛大にぶち破る音と共に、自室のドアが勢いよく跳ね上がった。


    「悠仁~~~っ!!!大丈夫か、悠仁!!?」


    飛び込んできたのは、息を荒らげた血のつながっていない兄、脹相だった。

    普段の落ち着いた顔はどこへやら、前髪を乱し、目を見開いて虎杖へ一直線に駆け寄ってくる。


    「すごい音がしたぞ!?刺客か!?それともどこか痛むのか!?どこだ、頭か!? お兄ちゃんに見せてみなさい!!」

    「ちょ、ちょっと待って脹相!ただベッドから落ちただけだから!本当に大丈夫だって!」


    脹相の応急手当(50)

    dice1d100=55 (55)

  • 11二次元好きの匿名さん26/07/20(月) 22:58:45

    忘れてました
    脹相の立ち絵も公開

  • 12二次元好きの匿名さん26/07/20(月) 23:00:58

    慌てる虎杖を無視して、脹相は「いや、頭部の打撲は後から症状が出ることもある……」と眉間にシワを寄せ、真剣な顔つきで手近にあった絆創膏や包帯を取り出した。
    手際よく手当しようとする脹相だったが、焦りからか手元がおぼつかない。絆創膏のテープ同士がくっついて丸まってしまったり、包帯の巻き方を盛大に間違えて虎杖の頭を妙な形に包もうとしたりと、まるでうまくいっていない。

    (……あれ?)

    差し出された脹相の顔を近くで見て、虎杖はふと違和感を覚えた。
    普段から落ち着いた印象の兄だが、その目の下には驚くほど濃い隈が落ちている。

    「脹相、もしかして全然寝てねぇんじゃ――」

    虎杖が心配そうに声をかけようとした、その時だった。
    トントン、トン!
    部屋の外から、遠慮のない乱暴なノック音が数回響く。

    「おい愚兄、生きてるか」

    返事も待たずに、ガチャリと扉が開いた。入ってきたのは、教団の幹部であり、虎杖の腹違いの弟――宿儺だった。

  • 13二次元好きの匿名さん26/07/20(月) 23:02:25

    ベッドの脇で床に座り込む虎杖と、その頭上で包帯と格闘している脹相。
    その間抜けな光景を目にした宿儺は、一瞬だけ呆れたように目を細めたが、すぐに鼻で笑ってみせた。

    「……何をしている、朝っぱらから床と喧嘩か?」
    「宿儺、オマエ……!悠仁は頭を打ったかもしれないんだぞ!」

    憤慨する脹相を意にも介さず、宿儺は腕を組んで二人の滑稽なやり取りを見下ろす。

    「ふん、相変わらず弟離れできないな、お兄ちゃんは。手当すらまともにできんのか」
    「なんだと……!?」

    呆れる脹相を一蹴すると、宿儺は爪をいじりながら冷ややかな、けれどどこか慣れ親しんだトーンで告げた。

    「くだらんごっこ遊びはそこらにしておけ。支度が済んだらさっさと大聖堂へ来い」

    踵を返し、部屋を出ていこうとする宿儺。
    そして扉を閉める間際、チラリと視線だけを虎杖へと向け、ニヤリと口角を上げた。

    「遅刻するなよ、教祖様」

    パタン、と扉が閉まる。口は悪くとも、朝一番でわざわざ顔を出しに来た弟の背中に、虎杖は苦笑いを漏らすしかなかった。

  • 14二次元好きの匿名さん26/07/20(月) 23:05:15

    今日はここまで

    虎杖と宿儺→生き別れの双子
    虎杖と脹相→孤児院で宿儺より先に出会い脹相が弟認定
    宿儺と脹相→「悠仁の弟ならオマエも弟」「は?」

    一日のスケジュール

    ▼一日のスケジュール(相談会がある場合)
    ・6:00 脹相起床
    ・7:00 虎杖起床
    ・8:00 大聖堂でお祈り
    ・8:30 会議室で朝食と報告等
    ・10:00 教団内の見回り(自由行動)
    ・12:00 昼食兼相談会について
    ・13:00 相談会
    ・17:00 教団内見回り(自由行動)
    ・19:00 夕食
    ・20:00 入浴等就寝準備
    ・21:00 消灯

    ※補足
    自由時間が多いのは虎杖、脹相の役目が「神の加護をうけた者として信​者たちと交流を深める為」であるからだ。

  • 15二次元好きの匿名さん26/07/21(火) 04:35:44

    ほし

  • 16二次元好きの匿名さん26/07/21(火) 06:06:18

    スレ画のカットイン感めっちゃ好き
    楽しみ!

  • 17二次元好きの匿名さん26/07/21(火) 09:41:13

    >>14

    すみません腹違いの弟が正しいです

  • 18二次元好きの匿名さん26/07/21(火) 16:19:10

    シナリオ名はよく聞くけど実際どういう話か知らないので楽しみ
    配役も面白そうで期待

  • 19二次元好きの匿名さん26/07/21(火) 17:56:37

    うおー!!いわひら楽しみです😭ありがとう😭

  • 20二次元好きの匿名さん26/07/21(火) 22:05:39

    「まったく、あいつは相変わらず一言多いな……」

    呆れたように溜息をつく脹相に「まあまあ」と笑いかけながら、虎杖は差し出された絆創膏を自分で受け取り、おでこにペタリと貼った。
    そして、目の下の隈が痛々しい兄の肩をぽんと叩く。

    「脹相もありがとな。でもあんま無理すんなよ? 大拝祭の前だってのに、お兄ちゃんが倒れたら元も子もないんだからさ」
    「……あぁ、分かっている。悠仁に心配はかけられんな」

    虎杖の言葉に少しだけ表情を緩めた脹相と共に、二人は手早く身支度を整え、自室を後にした。
    朝の清々しい風が吹き抜ける廊下を抜け、大聖堂へと足を進める。
    ――扉を開けると、そこには既に多くの信​者たちが集まっていた。
    毎朝八時。大聖堂に鎮座する大時計が重厚な音で鐘を鳴らすと同時に、信​者たちは神へ祈りを捧げることになっている。
    教壇へと登った虎杖の姿を認めると、信​者たちは一斉に右腕を胸の前で掲げ、静かに目を閉じた。
    その場を取り仕切る幹部の夜蛾正道が、一歩前へ出る。

    「皆、おはよう。二日後には大拝祭を迎える。忙しい日々が続くが、だからこそ心を見失うな。今日も誰かを救うため、自分にできることを忘れずに」

    厳かな、しかし温かみのある声でそう告げると、夜蛾は静かに目を閉じた。

    「善き者に安らぎを。苦しむ者に救いを。迷える者に導きを。我らが教祖、虎杖悠仁へ宿る奇跡に感謝し、その歩みに倣わん。どうか今日も、この世界に一人でも多くの笑顔が生まれますように」

    大聖堂が一瞬にして深い静寂に包まれる。
    さっきまで見ていた悪夢の凄惨な光景とは対照的な、温かく穏やかな祈りの時間。
    信​者たちの真摯な眼差しを受け止めながら、虎杖もまた、胸の前で静かに手を合わせた。
    一分ほどの静かな祈りののち、夜蛾はゆっくりと口を開く。

    「……それでは皆、それぞれの務めを果たそう。神に仕える前に、人として恥じぬ一日を」

    その言葉を合図に、信​者たちは静かに頭を下げ、それぞれの仕事や朝食へと向かって散っていった。

  • 21二次元好きの匿名さん26/07/21(火) 22:09:01

    NPC呪術キャラに総置き換えのいわひら!?
    立ち絵きれいですごい 配役も俺得で嬉しすぎる
    長丁場になりそうですが応援してます

  • 22二次元好きの匿名さん26/07/21(火) 22:22:06

    >>14の人物相関だけで既に若干面白いな

  • 23二次元好きの匿名さん26/07/21(火) 22:27:56

    ありがとうございます!!配役はガチ悩みの末こうなりました
    シナリオ既知の方は呻いてください
    未知の方も後で呻かせたいです

    夜蛾の立ち絵を公開し忘れたのでここで公開します

  • 24二次元好きの匿名さん26/07/21(火) 22:54:41

    立ち絵があると場面をイメージしやすくて助かる
    夜蛾センかっこいい

  • 25二次元好きの匿名さん26/07/21(火) 23:51:11

    祈りを終えた人々がそれぞれ散っていくのを見送り、虎杖と脹相も朝食をとるために会議室へと足を向ける。
    拝掌教の幹部たちは毎朝、会議室に集まって一緒に食事を共にするのが決まりとなっていた。近況報告や日課の確認といった名目はあるものの、実態は「みんなで顔を合わせて朝ごはんを食べよう」という、どこか家庭的な時間だ。
    会議室の扉を開けると、既に宿儺や夜蛾、真希の姿があった。だが――信​者たちの管理や相談者の選定を一手に引き受けている人事担当、日車寛見の姿だけが見当たらない。
    疑問に思いながら席に着くと、自然部を仕切る真希がサッとスケッチブックを掲げて見せた。そこには、相変わらず達筆な文字で今日のメニューが書かれている。

    『今日の朝食は、焼きたてトースト、ベーコンエッグ、畑のサラダ、しぼりたてオレンジジュースだ』

    香ばしいパンの匂いと、新鮮な野菜の色彩が食欲をそそる。真希たちが丹精込めて育てた作物はどれも出来立てで、味も申し分ない。

    「美味そう!いただきまーす」

    虎杖が早速トーストに手を伸ばしながら「そういえば、日車は?」と尋ねると、向かいで豪快にパンをかじっていた宿儺が面倒そうに口を開いた。

    「仕事が終わらないらしい。相談者の書類を抱えて部屋で食べると言い張っていた。まあ、時間があるならあとで様子を見てやるといい」

    拝掌教の知名度が上がるにつれ、救いを求めて訪れる相談者の数は膨大になっている。その経歴や相談内容をたった一人で精査している日車の苦労は、察するに余りあった。

    「日車、相変わらず根詰めすぎだな……後で差し入れでも持って行ってみるか」

    虎杖が苦笑いしていると、宿儺がオレンジジュースを飲み干し、思い出したように言った。

    「そういえば報告だ。二日後に向けて、近所の養蜂場で作られた蜂蜜酒が今日運び込まれるらしい。いったん保管庫に置いておくが、運搬中ぶつかって割ったりしないよう気をつけろよ」
    「へぇ、蜂蜜酒か!大拝祭の準備もいよいよって感じだな」

    宿儺の言葉に頷いていると、今度は隣に座っていた夜蛾が、穏やかな視線を虎杖へと向けた。

    「教祖様。孤児院の子どもたちが、お話ししたいことがあるそうだ。時間がある時で構わない。ぜひ顔を見せてやってくれ」

  • 26二次元好きの匿名さん26/07/21(火) 23:53:13

    真希の立ち絵も公開します
    毎回忘れる

  • 27二次元好きの匿名さん26/07/22(水) 00:03:30

    「おう、わかった!朝飯食い終わったら、すぐ子どもたちのとこ行ってみるよ」

    夜蛾に元気よく返事をした虎杖は、ふと思い出したように眉をひそめた。

    「そういえば日車、大丈夫かな……幹部になってまだそんなに経ってねぇのに、あんな根詰め込んで倒れなきゃいいけど」
    「……あいつは真面目すぎるからな」

    脹相もコーヒーカップを置き、痛々しそうに頷く。

    「法律の知識がある分、書類の不備や嘘を見抜こうと一人で抱え込みがちだ。後で俺からも、少し休むよう伝えておこう」
    「頼むわ、脹相。……あ、そうだ宿儺、蜂蜜酒って今年が初めてだよな?去年は大拝祭のお酒、ワインじゃなかったっけ?」

    虎杖の素朴な疑問に、宿儺はクッと鼻で笑い、顎で真希を示した。

    「オマエがコイツの喉を気にしてただろうが。蜂蜜酒としてだけでなく、生の蜂蜜のままでも買い取っている。気休めだが喉の痛みが少しでも和らげばと思ってな、秋口から近所の養蜂場と掛け合っていた」

    その言葉に、真希はどこか照れくさそうにスケッチブックで顔を隠し、プイッと横を向いた。

    (……真希さんの、喉……)

    宿儺の言葉に、虎杖の脳裏にあの日の光景が鮮明に蘇る。

  • 28二次元好きの匿名さん26/07/22(水) 00:04:55

    全身に重い火傷を負い、冷たくなった妹・真依の遺体を強く抱きしめていた真希。

    焼けた喉を潰しながら、血を吐くような叫びで虎杖にすがったあの夜。


    『……アイツらを……禪院家の奴らを……皆、消して……っ!』


    涙と煤で汚れた顔で、絶望に歪む瞳で、真希は虎杖に祈ってほしいと願った。虎杖は、すぐに調べてくれた日車により、禪院家での冷遇が明らかになるのを待って、祈りをささげた。

    その翌日、彼女を虐げ、絶望へ追いやった禪院家の人々は、跡形もなく姿を消した。

    一瞬、胸の奥がひやりと冷たくなるような感覚。

    だが、虎杖はすぐに頭を振り、目の前で気恥ずかしそうにしている真希へと温かい視線を向けた。

    声は失われてしまったけれど、今の真希はこうして自分たちのために美味しい野菜を作り、仲間と共に生きている。


    「……宿儺……ありがとな。蜂蜜、みんなで大切に使わせてもらうから!」


    虎杖が笑いかけると、真希はスケッチブックの陰から、少しだけ嬉しそうに目を細めてみせた。


    虎杖目星(70)

    dice1d100=58 (58)

    脹相も目星(80)

    dice1d100=82 (82)

  • 29二次元好きの匿名さん26/07/22(水) 00:07:03

    そんな穏やかな空間の中、虎杖は視界の端で違和感を捉える。

    机の下から、すっと小さな手が忍び寄るように伸ばされた。

    その手は迷いなく宿儺のサラダボウルへ向かうと、一番大きくて赤く熟したプチトマトをひょいっと摘まみ上げ、そのまま素早く引っ込んでいった。


    (……?今の……)


    隣の脹相はまだ温かいスープに夢中で気づいていない。

    虎杖がそっとテーブルの下を覗き込むと、そこには孤児院の少年――伏黒恵がしゃがみ込んでいた。

    両手で口元を押さえながら、盗んだプチトマトを口いっぱいにモグモグと頬張っている。

    虎杖と目が合うと、伏黒はごっくんとそれを飲み込み、小さな人差し指を口元に立てて、小さく「……シー」と合図を送ってきた。


    「……おい」


    卓上から、地獄の底から響くような低い声が漏れる。


    「……俺のサラダだけ、プチトマトがない」


    半分本気でキレかけた顔の宿儺が、額に青筋を浮かべてキョロキョロと周囲を見回し始めた。


    (このままだと、宿儺にバレて一雷落とされるな……)


    伏黒は逃げる様子もなく、期待と緊張が入り混じったような目で虎杖を見上げている。


    >>30

    1.ごまかす

    2.ごまかさない

  • 30二次元好きの匿名さん26/07/22(水) 00:34:04

    ごまかす

  • 31二次元好きの匿名さん26/07/22(水) 07:31:13

    はやめほしゅ

  • 32二次元好きの匿名さん26/07/22(水) 09:48:17

    プチトマトで半ギレしてる宿儺、おもしろかわいいな

  • 33二次元好きの匿名さん26/07/22(水) 13:51:18

    真希さん喋れないのか…何かただならぬ事が起きてそうだけど祈りを捧げたら一族丸ごと消えたの怖すぎるな
    蜂蜜酒美味しそう飲んでみたい
    お酒なのに喉に良さそう

  • 34二次元好きの匿名さん26/07/22(水) 15:31:46

    つまり確定直哉確定ロスト?

  • 35二次元好きの匿名さん26/07/22(水) 18:27:29

    空気読めない発言ですまんけど絵が上手えええ

  • 36二次元好きの匿名さん26/07/22(水) 21:45:20

    「あー……!それ、俺が食っちゃった!ごめん宿儺!」

    虎杖は咄嗟にそう言いながら、自分の皿に残っていたプチトマトを宿儺の皿へとポンと投げ入れた。

    「……は?愚兄、人のサラダから勝手に掠め取ったのか?」

    宿儺は疑わしそうに眉をひそめたものの、投げ込まれたトマトを一口で噛み潰し、それ以上は追及してこなかった。
    その隙に、机の下からするりと抜け出した伏黒が、虎杖に向かって小さく「……サンキュ」と囁く。そして宿儺の背中に向けて小さくペロッと舌を出すと、足音を殺してそのまま部屋を飛び出していった。

    (ふぅ……危ねぇ危ねぇ)

    虎杖が胸を撫で下ろしていると、隣から「悠仁」と声がかかる。

    「人のを奪うくらいなら、お兄ちゃんのをもらいなさい。悠仁はもっと食べて大きくなるんだ」

    そう言って、脹相は自分の皿から丸々としたプチトマトを虎杖の皿へ優しく移した。

    「えっ、いいって脹相!俺はもうお腹いっぱい……」
    「遠慮はいらん。体調管理も兄の務めだ」

    思わぬプチトマトリレーに虎杖が苦笑いを浮かべつつも、和気藹々とした朝食の時間は賑やかに過ぎていった。
    ごちそうさま、と食器を片付け終えたところで、脹相が虎杖に振り返る。

    「さて、悠仁。朝飯も食い終わったことだし、これからどこへ行くんだ?日車のところへ差し入れか、それとも孤児院の子どもたちの顔を見に行くか?」

  • 37二次元好きの匿名さん26/07/22(水) 21:46:46

    探索箇所一覧を出します!

    ▽自由時間で行ける場所

    ・大聖堂および大回廊(水槽)

    ・孤児院/夜蛾の部屋

    ・大食堂

    ・庭

    ・医務室

    ・会議室

    ・宿儺の部屋

    ・日車の部屋

    ・真希の部屋

    ・男性寮/女性寮

    ・保管庫[鍵]

    ・相談室

    ・展望デッキ

    ・墓地

    ※補足

    1:相談室(相談会に使う部屋)および会議室(朝食を取った場所)は、現時点で探索しても特に情報はない。

    2:保管庫には、預かった喜捨を一時的に収める金庫や、信​者たちのプロフィールが記載された名簿などが保管されている。

    そのためセキュリティとして、宿儺と日車が鍵を一本ずつ所持しており、二本揃わなければ開かない仕組みになっている。現時点では中に入れないため、得られる情報は特にない。


    どこに行きますか?

    >>38

  • 38二次元好きの匿名さん26/07/22(水) 21:55:10

    子供の顔を見に孤児院に行く

  • 39二次元好きの匿名さん26/07/22(水) 22:01:05

    プチトマトリレーで和んだ

  • 40二次元好きの匿名さん26/07/22(水) 22:03:06

    「ん~……日車のことも気になるけど、まずは孤児院に行ってみようかな!夜蛾先生も子どもたちが話したいことあるって言ってたし」

    「そうか。なら一緒に行こう」

    「脹相も子供とよく遊んでるよなあ、宿儺はなんか、怖がられてっけど。伏黒以外に」

    「だから伏黒も構うんじゃないか?」


    などと話しつつ、脹相と連れだって、虎杖は孤児院へと向かった。

    ここは、身寄りのない子どもや、かつて親から虐げられていた子どもたちが暮らしている施設だ。

    敷地内は授業や勉強に使用される学舎と、子どもたちが寝泊まりする宿舎に分かれており、建物の外には子どもたちが思い切り走り回るには十分な庭も備わっている。

    普段ならば、庭を元気に駆け回る子どもたちの歓声と足音で、いつでも賑やかな場所だ。

    ……だが、今日は違っていた。

    庭を見渡しても、学舎の窓を覗いても、子どもたちの姿が見当たらない。

    静まり返った空気と、やけに遠く感じる風の音。

    普段の活気が嘘のように消え失せ、孤児院全体がしん……と不自然な静寂に包み込まれていた。


    虎杖聞き耳(70)

    dice1d100=83 (83)

    脹相聞き耳(70)

    dice1d100=10 (10)

  • 41二次元好きの匿名さん26/07/22(水) 22:05:22

    「……あれ?誰もいねぇな」


    首をかしげる虎杖の横で、ふと脹相が足を止め、耳を澄ませる。


    「……悠仁、静かに。あっちだ」


    脹相が指さしたのは、庭の端に建つ小さな作業用倉庫だった。

    虎杖には何も聞こえなかったが、耳の聡い脹相には、そこから漏れ出る小さなヒソヒソ声が聞き取れたらしい。

    忍び足で扉へと近づき、隙間からそっと中を覗き込む。

    そこには、姿を消していた子どもたちが車座になって集まり、何やら真剣な顔で相談し合っていた。


    「何段にする?」

    「でっかい方がいい。三段にしようぜ」

    「教祖様、果物は何が好きかな」

    「ここに刺身乗せよう」

    「ケーキに刺身は変だろ」

    「俺、マグロがいい」

    「この赤いクリーム、どうやって作る?」

    「絵の具ならあるぞ」

    「それ食えないだろ」


    広げられた大きな模造紙には、クレヨンで派手に描かれた巨大なケーキのイラスト。

    どうやら子どもたちは、大拝祭に向けて虎杖へ贈るサプライズケーキの計画を立てているらしい。

    ……果物や菓子の絵に混ざり、なぜかリアルなマグロの刺身や絵の具の赤クリームなど、色々とツッコミどころ満載な特大ケーキだ。


    1.突然中に入る

    2.声を掛けてから入る


    >>42

  • 42二次元好きの匿名さん26/07/22(水) 22:28:22

    虎杖ならきっと子どもにも気を使えるだろう
    声をかけてから入る

  • 43二次元好きの匿名さん26/07/22(水) 23:06:01

    「おーい、入るぞー!」

    虎杖が扉越しに声をかけると、倉庫の中から一転して焦りきった悲鳴が上がった。

    「ちょっと待って!」
    「早く畳め!」
    「そっち持てって!」

    バサバサと紙を勢いよく畳む音や、ガサゴソと何かを奥へ押し込む大慌ての音が続く。
    やがてバタバタとした物音がピタリと止まり、少し間を置いてから、引きつった声で「……もういいぞ!」と返信があった。
    虎杖と脹相が苦笑いしながら扉を開けると、そこには「何もしていません」と言いたげな、露骨にすました顔の子どもたちが立っていた。

    「……教祖様、いいところに来た!質問があるんだけど」
    「教祖様、好きな果物は!?」
    「好きな料理は!?」
    「何色が好き!?」
    「甘いもの、どれくらい食える!?」
    「三段全部でも食べられる!?」

    隠す気があるのかないのか、矢継ぎ早に飛んでくる質問の嵐。

    「えっ、えぇ!?好きな果物?なんでも好きかも。料理、ラーメン……?色は赤!甘いものは無限にいけるけど……三段全部!?」

    虎杖が目を丸くしてひとつひとつ答えていると、子どもたちの一人が脹相の裾を引っ張った。

  • 44二次元好きの匿名さん26/07/22(水) 23:08:13

    「ねぇ脹相、教祖様ってさ、本当は刺身とケーキどっちが好きなの?」
    「悠仁は基本何でも美味しく食べるが……ケーキに刺身を乗せるのはやめておけ。お腹を壊す」
    「ちぇー、やっぱダメかー」

    一通り聞き終えると、満足そうに大きく頷いた子どもたちは、今度は手のひらを返したように二人を押し返し始めた。

    「よし、分かった!ありがとな、教祖様!」
    「脹相も、もう帰っていいぞ!」
    「ほら、早く出てって出てって!」

    本当は隠した模造紙も丸見えで、ケーキの絵を描いていたのもバレバレだ。
    けれど、虎杖はあえて何もツッコまず、子どもたちの作戦に乗っかるようにニカッと笑って両手を挙げた。

    「お、おう!分かった分かった、押し出すなって!じゃあ俺たちもう行くから、あんま怪我すんなよー?」

    子どもたちは「け、怪我とかしないし!」などと露骨に目を泳がせながら、必死にはぐらかして二人を外へ送り出す。
    パタンと閉まった扉の向こうから、すぐに楽しげなヒソヒソ声が漏れ聞こえてきた。

    「教祖様の好きな果物、いっぱい乗せようぜ」
    「驚くかなぁ、絶対喜ぶよな!」
    「脹相にも少しくらい分けてやろう」
    「宿儺の分は?」
    「いらないだろ」
    「アイツ怒るぞー!」
    「ハハっ、宿儺の扱いひでぇな……」

    扉の向こうの会話に、虎杖は思わず吹き出してしまう。
    自分のために一生懸命サプライズを隠そうとしてくれている子どもたちの愛おしさに、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。

  • 45二次元好きの匿名さん26/07/22(水) 23:09:43

    「……愛されているな、悠仁」

    隣で脹相が、どこか誇らしげに、優しく目を細めてそう呟いた、その時だった。

    「……見たのか」

    ふいに頭上から低く重い声が降りかかり、振り返ると、いつの間にか腕を組んだ夜蛾が立っていた。
    サングラス越しに険しい顔で二人を見下ろしているが、その目元にはどこか柔らかな笑みが浮かんでいる。本気で怒っているわけではなさそうだ。

    「あ、いや……バッチリ見ちゃったというか、バレバレだったというか……」

    虎杖が苦笑いしながら答えると、夜蛾は小さくため息をついた。

    「そうか。なら、これを持っておけ」

    夜蛾は虎杖の手を取り、その掌へ小さな包みをぎゅっと握らせた。
    不思議に思って中を確認すると――そこに入っていたのは、市販の胃薬だった。

    「子どもたちは、大拝祭の日にオマエへケーキを作るつもりらしい。食堂や畑の仕事を手伝って、少しずつ材料を分けてもらっていたようだ。……もっとも、何を入れるつもりなのかまでは俺も把握していないがな」

    夜蛾が倉庫の方へ視線を向ける。閉まった扉の奥からは、相変わらず「刺身は最後に乗せればいいだろ」「いや、マヨネーズもかけようぜ」などと聞き捨てならない相談が漏れ聞こえていた。

  • 46二次元好きの匿名さん26/07/22(水) 23:11:38

    「味の保証はできん。……だが、アイツらなりに懸命に考えて作るものだ」


    夜蛾は再び虎杖へ視線を戻すと、真顔で告げた。


    「覚悟を決めて、残さず食え」

    「えぇっ……!?刺身とマヨネーズ乗ったケーキを残さず食うの!?」


    あまりの酷道に虎杖が「助けてくれ」と言わんばかりの視線を脹相へ送ると、夜蛾はすささっと懐からもう一つ包みを取り出し、脹相へも胃薬を差し出した。


    「オマエもだ。兄なのだろう。弟と苦しみを分かち合え」

    「……うむ。悠仁の毒味なら喜んで引き受けよう」

    「毒味って言っちゃってんじゃん!」


    一通り会話を終えると、夜蛾は孤児院の校舎の方へと向き直る。


    「俺は院へ戻る。子どもたちの邪魔をしてやるなよ」


    虎杖目星(70)

    dice1d100=29 (29)

    脹相目星(80)

    dice1d100=31 (31)

  • 47二次元好きの匿名さん26/07/22(水) 23:15:52

    そう言い残して背を向け、歩き出した夜蛾の足取りが、ふとわずかにふらついた。

    彼は片手でそっと腹部を押さえ、苦しみを堪えるように一瞬だけ足を止める。その額には、薄らと冷や汗が滲んでいた。


    「……夜蛾先生?」


    異変に気づいた虎杖が思わず駆け寄り、顔を覗き込んだ。


    「大丈夫か……?お腹、痛いんじゃねぇの?額、すげぇ汗かいてるぞ」


    虎杖に声をかけられた夜蛾は、ハッとしたように慌てて腹部から手を離すと、何事もなかったかのようにすっと姿勢を正した。


    「……少し胃の調子が悪いだけだ。大したことはない」

    「ホントか?もしかしてケーキの試作食ってる?無理すんなよ……顔色も全然よくねぇし」

    「大拝祭の準備で、少し疲れが溜まっているんだろう。祭りが終われば、じきに治る」


    虎杖がなおも案じる視線を向けるが、夜蛾はそう淡々と答えるばかりだ。

    だが、サングラスの奥に見える彼の顔色は、どう見てもただの疲れで片付けられるほど良くてはいなかった。


    「……悠仁、本人がそう言うのだから」

    「うーん……じゃあ、治んなかったら言ってな。脹相現役じゃないけど元医者だしさ」

    「気持ちだけ受け取っておこう」


    去って言った夜蛾の背中を見守りながら、虎杖は自分の腹を抑えた。


    「……俺、腹は丈夫だけど」

    「悠仁、心配するな。いざとなったら俺が食う」

    「根本的解決にならねえよ」


    次はどこ行く?

    >>48

  • 48二次元好きの匿名さん26/07/22(水) 23:39:44

    日車の部屋!

  • 49二次元好きの匿名さん26/07/23(木) 07:30:06

    会話がいい感じにキャラらしいアレンジで楽しみ!

  • 50二次元好きの匿名さん26/07/23(木) 14:41:17

    「さて……次どこいこっかな。日車の様子気になるし、日車の部屋に行ってみるか。アイツ、朝飯ちゃんと食ったかな?」
    「そうだな。少し様子を見てくるとしよう」

    孤児院を後にした二人は、日車の部屋へと向かった。
    虎杖が扉を軽めにノックしてみるが、室内から返事はない。脹相と二人で顔を見合わせてからドアノブをそっと捻ると、鍵はかかっておらず、そのまま静かに扉を開けることができた。
    室内には、執務机にそのまま突っ伏して眠っている日車の姿があった。
    机の上には山のように書類が積み上げられ、その傍らにはほとんど手のつけられていない、すっかり冷え切った朝食が置かれている。乾燥したトーストと表面の固まったベーコンエッグ。運ばれてからかなりの時間が経っているようだ。

    「日車、大丈夫か……?」
    「……ッ今、何時だ」

    虎杖が声をかけると、日車は肩を跳ねさせて勢いよく顔を上げた。
    しばらく焦点の合わない目でぼんやりと二人を見つめていたが、やがて目の前にいるのが虎杖だと気づくと、ハッとして乱れた髪を手で整え、照れくさそうに片手で顔を覆った。

    「……教祖様、脹相。おはよう。すまない、少し眠っていたらしい」
    「おはよう、日車。……すげぇ書類の量だな。朝飯も食べてねぇだろ?」
    「あ……」

    日車は傍らに置かれた冷えた朝食へ目を向け、今初めてその存在に気づいたような顔をした。
    乾燥したトーストを手にとり、どこか申し訳なさそうに視線を落とす。

    「……食べるつもりだったんだ。まだ食べられる」
    「そのまま食べる気かよ!?今温め直して……って、おい日車、端っこにあるそれ全部栄養剤の瓶じゃねぇか!」

    虎杖が指さした机の端には、空になった栄養剤の瓶が何本も転がっていた。
    苦笑いを浮かべた日車は、困ったように眉を下げ、自嘲気味に息を吐く。

    「……少し仕事が重なっただけだ。心配はいらない。相談を希望する人々の経歴と、申告された被害について確認していたら、気がついたら朝になっていた」

    日車は積み上がった書類から一枚を抜き取り、虎杖に見せるように置いた。

  • 51二次元好きの匿名さん26/07/23(木) 14:43:05

    「最近は教団の知名度が上がったこともあり、相談件数が急激に増えている。……救いを求めてここへ辿り着く人が増えたこと自体は、喜ばしいことなのだろう。だが、すべての相談をそのまま通せば、教祖様と脹相へ過度な負担がかかる」

    日車の指先が、書類の文字を優しくなぞる。

    「……俺は、君にこれ以上理不尽なものを背負わせたくないんだ」

    ぽつりと漏れたその言葉と、虎杖を見つめる日車の瞳には、どこか静かで深い熱が籠もっていた。
    湿度が高いな、と、虎杖は思う。日車が夜蛾より年下とはいえ、虎杖よりは年上なのもあるだろう。保護者側の立ち位置でものを言うことが多いし、普段は「教祖様」と呼ぶが、大事な時は「虎杖」と呼ぶ男なのだ。

    「気持ちは嬉しいけど……でも、日車が倒れちゃったら、俺も脹相も困るよ」
    「だが、中には、随分と理不尽な相談もある。『最近引っ越してきた隣人が自分より幸せそうに暮らしている。それを見ると腹が立つため、天罰を与えてほしい』……これを、救いを求める者からの相談として通すわけにはいかないだろう?人は、自分の怒りや憎しみを正義だと思い込むことがある。だからこそ、俺が確認しなければならないんだ」
    「まあ、確かにそんな相談を通されても俺や悠仁にはどうすることもできないな。しかし、今は大拝祭も控えている。休める時に休んでくれ。他ならぬ、我らが心優しき教祖のためにも」
    「日車……気持ちはすげぇ嬉しいけど、手伝えることあったら言ってくれよ。俺たちだって役に立ちたいし」

    虎杖がまっすぐな目で申し出ると、日車は眩しいものを見るように目を細め、どこか愛おしそうに微笑んだ。

    「お気持ちだけで十分だ、教祖様。君達には相談者と直接向き合う役目がある。どうしてもと言うなら、既に確認を終えた書類の整理を頼みたい」

    一通り書類の話を終えると、日車は何かを思い出したように顔を上げた。

    「そうだ。仕事の件とは別に、二人の耳へ入れておかなければならないことがある」

    日車は書類の山から一枚の写真を探し出し、机の上に差し出した。

    「寮で暮らしている信​者が、今朝から行方不明になっている。……灰月朔也という男だ。比較的最近、入信した者なんだが」

    写真に写っているのは、二十代ほどの若い男だ。

  • 52二次元好きの匿名さん26/07/23(木) 14:44:19

    「教団は去る者を拒まない。出ていきたいなら夜逃げのように消える必要はないはずなんだ。何より、財布やスマホを含め本人の荷物がすべて部屋に残されている。自分の意思で遠くへ行ったとは考えにくい」
    「事件か……事故か?」

    脹相の問いに、日車は険しい表情で頷いた。

    「山で野犬の目撃情報もある。もし今日中に戻らなければ捜索隊を組むつもりだ。二人ももし見かけたら伝えてほしい。……ただし、捜しに行くなら絶対に一人では行かないでくれ」

    そう告げる日車の視線が、僅かに脹相の上で止まる。

    「……危険なのは、野犬だけとは限らないからな」
    「……野犬が出ているという報告も初耳だな。誰か被害にあったのか?」
    「ああ、最近上がって来たばかりだ。野菜が食われている、とか。詳しいことは直接聞かなければ、と思っていたところだ」
    「なら俺聞いて来ちゃうよ!まだ相談会まで時間あるしさ。灰月さんの部屋にも、行き先が分かるようなものが残ってないか聞いてみたいし」
    「悠仁。一人で動くな。俺も同行する」
    「分かってるって。野犬がいるなら、なおさら一人じゃ行かねぇよ」

    二人の返答を聞いた日車は、僅かに緊張を解くように息を吐いた。

    「それなら構わない。ただし、無理に山へ入るな。灰月の部屋を確認する場合も、必ず同室の信​者へ話を通してくれ」
    「ああ。何か分かったら相談会の前に報告する」

    脹相がそう答えたところで、虎杖は日車の部屋に掛けられた時計へ目を向ける。
    時刻は、午前十時半を少し回ったところだった。正午から始まる相談会までは、まだ幾らか時間がある。

    「あと一か所くらいなら回れそうだな。……でも、その前に日車の朝飯!」

    虎杖は机の上へ放置された、すっかり冷え切った朝食を指さす。

  • 53二次元好きの匿名さん26/07/23(木) 14:45:27

    「このまま仕事へ戻るのは禁止。今から食堂に行って温め直してもらうぞ」

    「いや、そこまでしなくても――」


    日車が断ろうとするより早く、脹相が流れるような動作で皿を取り上げる。


    「駄目だ。栄養剤は食事ではない」

    「脹相まで……」

    「オマエは他人の事情を精査する前に、自分の体調を確認しろ。倒れられれば、悠仁が心配する」


    二人から真剣な眼差しを向けられ、日車は暫く言葉を失う。

    やがて観念したように肩から力を抜き、小さく頷いた。


    「……分かった。食堂へ行こう」

    「よし!」


    日車は相談者の資料を机の上で揃えると、その中から今日使用する分だけを抜き出した。


    「俺は食事を済ませた後、相談会の準備をして会議室へ向かう。二人も正午までには戻ってきてくれ」

    「了解。じゃあ飯を温めてもらったら、俺たちはもう一か所見てくるよ」


    三人は日車の部屋を出ると、一度食堂へ向かった。

    日車が温め直された朝食へ手をつけたことを確認してから、虎杖と脹相は次の目的地について相談する。

    相談会が始まるまで、あと一か所程度なら見て回ることができそうだ。



    どこに向かう?

    >>54

  • 54二次元好きの匿名さん26/07/23(木) 18:36:02

    失踪者の部屋を見てみたい

  • 55二次元好きの匿名さん26/07/23(木) 18:53:37

    おお少し目を離してる間にすごい量の更新が

    >>46

    子供達のわんぱくケーキに対し完全に毒味って言ってるの笑う

    漏れ聞こえる材料が材料なだけに仕方ないね…

  • 56二次元好きの匿名さん26/07/23(木) 19:19:34

    教会と信.者って時点で胡散臭い感じ凄かったけど運営側?取りまとめてる幹部の人達が体調不良気味なのが気になる…幹部の数に比べて信.者が多そう(知名度が上がって急に増えた?)なのと大拝祭が近いから忙しいだけかな
    あと虎杖だけでなく脹相も神の加護とやらを受けた者なのか
    子供達が無邪気でかわいいね

  • 57二次元好きの匿名さん26/07/23(木) 22:10:22

    「じゃあ次は、行方不明になった灰月さんの部屋に行ってみよう!同室の人にも話聞いてみたいしな」

    食堂で無事に日車へ温かい飯を食べさせた後、虎杖と脹相は男子寮へと足を運んだ。
    男子寮の信​​者に教えてもらった灰月の部屋の前に立ち、ノックをすると、中から慌ただしい足音が近づき、扉が開く。

    「あ、教祖様!それに脹相様まで……!どうされたんですか?」

    出迎えた同室の信​​者は、ちょうど仕事に向かうところだったらしく、身支度を整えながら驚いたように二人を見つめた。

    「日車から灰月さんがいなくなったって聞いてさ。ちょっと部屋を見せてもらってもいい?最後に見た時のこととか、教えてほしいんだ」
    「ええ、もちろんです!俺も心配で……」

    信​者は胸元で手を組み、不安そうに部屋の奥――灰月のベッドへと視線を投げた。

    「俺が最後に灰月を見たのは昨日の夜です。俺が寝る時には、まだベッドにいました。ずっとスマートフォンを見ていたみたいで……時々、誰かと話しているような独り言も聞こえていましたけど。最近はよく一人で祈っていたので、特に気にしてなかったんです」
    「祈り……?スマホ見ながら誰かと話してたのか?」

    虎杖が首をかしげると、信​​者は深々と頷いた。

    「はい。でも今朝起きたら、もういなかったんです。先に大聖堂へ祈りに行ったのかと思ったんですが、そこにもいなくて。他の人に聞いても誰も見ていなくて……」

    信​​者は机の上を指さした。そこには、ポツンと財布とスマートフォンが取り残されている。

  • 58二次元好きの匿名さん26/07/23(木) 22:11:58

    「しかも、荷物が全部残っているんですよ。財布もスマホも、服もそのままです。だから、自分から教団を出て行ったというのも変な話で……」
    「……身一つでいなくなった、ということか。だが、失踪して数時間だろう?ふらっと散歩にいった可能性も考えられるのでは、と思ったんだが」

    脹相の言葉に、信​者も困ったように眉を下げる。

    「俺も、最初はそう思ったんです。朝の祈りにいなくても、少し外の空気を吸いに行ったのかなって。だから、すぐには騒がなかったんですけど……」

    信​者は壁に掛けられた時計へ目を向ける。

    「灰月、今日は朝から大拝祭の準備を手伝う予定だったんです。でも、集合時間を過ぎても来なかったみたいで。アイツ、仕事を無断で休むような奴じゃないんですよ」
    「なるほどな。散歩へ出ただけなら、少なくとも仕事が始まる前には戻るはずだった、ということか」
    「はい。それに、外へ着ていく厚手のコートも部屋に残っています。ちょっとそこまで出ただけなのかもしれませんけど、この寒さですから……」

    信​者は、不安げに灰月のベッドを見つめる。

    「最近、少し様子が変だったのも気になっていて。祈っている時間が妙に長くなったというか。時々……『神様が呼んでる』とか、『もっとお役に立たないと』とか言っていたんです」
    「神様が、呼んでいる……?」

    虎杖が小さく繰り返す。

  • 59二次元好きの匿名さん26/07/23(木) 22:13:19

    「俺も、信仰に熱心になっただけだと思っていました。灰月も前より穏やかになっていたし、悪い変化には見えなかったから。でも、昨夜もスマホを見ながら、何度か『もうすぐ行きます』って呟いていたような気がして……」


    脹相は暫く考え込んでから、静かに口を開く。


    「現時点で失踪や事件だと決めつけるのは早い。だが、本人が何か目的を持って部屋を出た可能性はありそうだな」

    「ああ。何事もなく戻ってくるなら、それが一番なんだけど」


    虎杖は机の上に残されたスマートフォンへ視線を向ける。


    「灰月さんが最近誰かと話してたなら、スマホに何か残ってるかもしれない。悪いけど、手掛かりになりそうなものがないか、少しだけ部屋を確認させてもらってもいい?」

    「もちろんです。俺はもう仕事へ行かなければならないので……灰月が戻ってくるまで、自由に見てください。何か分かったら教えていただけると助かります!」

    「おう、サンキュ! 仕事行ってらっしゃい!」


    信​者が慌ただしく部屋を去っていくのを見送り、二人だけが室内に残された。

    ガチャリとドアが閉まり、静まり返る部屋。

    改めて室内を見渡せば、灰月の使用していた側には、綺麗に畳まれた衣類がそのまま残されている。

    ベッドの掛け布団は半ば捲れ、シーツにも僅かな皺が寄っていた。昨夜、一度はそこへ横になったものの、途中で起き出したように見える。

    しかし、遠出をするために荷物をまとめた形跡は一切ない。


    「とりあえず、このスマホと財布、あと部屋の中に何か手がかりがないか探してみようぜ」


    虎杖目星(70)

    dice1d100=1 (1)

    脹相目星(80)

    dice1d100=78 (78)

  • 60二次元好きの匿名さん26/07/23(木) 22:17:27

    ここでクリティカル?!

  • 61二次元好きの匿名さん26/07/23(木) 22:28:07

    ※虎杖クリティカルによりスマホへの図書館免除

    虎杖と脹相は二手に分かれて部屋の探索を始めた。
    虎杖が灰月のベッドの周りや収納を確かめていると、綺麗に畳まれた衣類の奥、布の隙間に隠されるように挟まれていた一冊の通帳を見つける。

    「ん……?脹相、なんか隠してあったぞ」

    ページを開いて内容を確認すると、入信した当初の残高はほぼゼロに近かった。だが、教団で暮らし始めた頃から、少しずつ不自然な入金が繰り返されている。
    一度の額はさほど大きくないものの、合計すればおよそ五十万円にのぼる金額だ。灰月が外で働いていた形跡はなく、この金の出所には強い不審感が残る。

    「……不自然な金だな。教団の金を着服していたのか?」
    「いや、でも保管庫の金庫は宿儺と日車の鍵が二つ要るって言ってたし……喜捨の申請とかを誤魔化してたのかな」

    首をかしげながら、虎杖は次に机の上に置かれたスマートフォンへと手を伸ばした。
    充電器に繋がれた画面は点灯したままで、幸いにもロックはかかっていなかった。

    「画面、開きっぱなしだ……トークアプリかな?」
    「悠仁、見せてみろ」

    二人で画面を覗き込むと、そこには、外部の友人らしき相手との会話の履歴が残されていた。

  • 62二次元好きの匿名さん26/07/23(木) 22:29:17

    ←マジでお人好しばっかの宗教。チョロすぎ

    →マジかよ笑

    →どんくらい儲かった?

    ←まあ、ちょいちょい申請誤魔化して今五十くらい?

    →しょぼくない?

    ←最初は金庫から直接盗もうと思ったけど、案外ガード固くてさ

    ←でもここ、思ったより住み心地いいんだよな

    ←ぶっちゃけ、このままずっと住んでもいいかも

    →マジかよ笑

    ←いや、マジで

    →泥棒がよく言うわ笑

    <日を跨ぐ>

    →そろそろ戻ってこないの?

    →生きてる?

    ←ああ、うん

    →え、マジでそこに住むつもり?

    ←いや……

    ←うん、まあ

    →嘘だろ笑

    →いやいや

    →盗みまで働いておいて、それは無理じゃね?

    ←正直に謝れば許してくれると思う

    →正気か?

    ←うん

    ←いや、マジで

  • 63二次元好きの匿名さん26/07/23(木) 22:30:25

    ←最近、俺にも神様の声?っていうのが聞こえるようになってきてさ

    →は?

    ←俺みたいな奴にも、語りかけてくれるんだって

    →いやいや、ちょっと待て

    →それ洗脳じゃないの?

    ←そういうんじゃない

    ←だから俺、もっと修行して

    ←教祖様の役に立ちたい

    →おい

    →待て

    →一回戻ってこい

    →おい

    →【着信】

    →【着信】

    →【着信】

    <昨日>

    ←かみさまがよんでる

  • 64二次元好きの匿名さん26/07/23(木) 22:31:49

    最後まで読み終えた虎杖の顔から、すっと表情が消える。
    最初は金目的で潜り込んだ男が、いつしかここへ居着くことを望み、最後には「神の声」に導かれるように姿を消した。――あまりにも不気味で、常軌を逸したログだった。

    「……神様の声、か。脹相には、何か聞こえたりしてねぇよな?」
    「俺には何も聞こえん。だが……不吉な胸騒ぎがする」

    脹相が険しい表情でスマホの画面を見つめる。

    「金の横領といい、この怪しいログといい……どうする、悠仁。セキュリティや規律を仕切っている宿儺に報告するか? それとも、まず事務方の日車に伝えておくか?」
    「うーん……宿儺に『金盗まれてました』なんて言ったら、見つかった時アイツ灰月さんのこと殺しかねねぇし……それに、もうすぐ正午だろ?」

    虎杖は時計を振り返る。針は間もなく十二時を指そうとしていた。

    「とりあえず、これから向かう相談会前の会議で日車にこのスマホと通帳を見せて、相談してみよう。アイツなら冷静に対処してくれるはずだし」
    「そうだな。日車なら灰月の扱いも適切に判断してくれるだろう。……急ごう、悠仁」

    二人は画面を閉じ、手がかりとなった通帳とスマートフォンをポケットに収めると、正午からの相談会に向けて会議室へと足早に向かった。

  • 65二次元好きの匿名さん26/07/24(金) 01:10:48

    わくわくしながら読んでます
    虎杖が教祖という立場なのが気になるところ

  • 66二次元好きの匿名さん26/07/24(金) 07:50:33

    保守

  • 67二次元好きの匿名さん26/07/24(金) 14:42:30

    虎杖と脹相のコンビ、意外とこういう調査?的な行動もそつなくこなしそう

  • 68二次元好きの匿名さん26/07/24(金) 21:47:52

    トークアプリこれ友達視点だと怖すぎるな

  • 69二次元好きの匿名さん26/07/24(金) 23:03:07

    会議室へ到着すると、程なくして日車が相談者の資料を抱えてやってきた。

    「待たせたな。……ん?どうした、そんな険しい顔をして」

    毎回、相談会の前になると、信​者が三人分の昼食を載せたワゴンを会議室まで運んでくる。
    虎杖と脹相は届いた昼食を机へ広げながら顔を見合わせ、さっそく寮で得た手掛かりを日車へ提示した。

    「日車、実はさっき灰月さんの部屋に行ってきたんだ。……で、これを見つけて」

    虎杖が机へ置いたのは、灰月のベッドの奥に隠されていた通帳と、本人のスマートフォン。そして、トーク履歴を撮影した虎杖自身のスマートフォンだった。

    「灰月さんのスマホ、今はもうロックかかっちゃってるんだけど……開いてた時に、やり取りの画面だけ俺のスマホで撮っておいた」
    「賢明だな、悠仁。端末そのものも、日車へ預けておいた方がいいだろう」
    「……お手柄だな、教祖様。どちらもこちらで預からせてもらう。端末にはこれ以上触れず、まず撮影した記録を見せてくれ」

    日車は灰月のスマートフォンと通帳を傍らへ置くと、虎杖のスマートフォンに映し出されたトーク履歴の画像と、通帳の記載内容を交互に検分し始めた。
    最初は教団の金を掠め取るつもりだったこと。
    徐々に教団の居心地の良さに毒気を抜かれ、改心しようとしていたこと。
    そして――「神様の声」が聞こえると言い残し、この真冬にコートも持たずに消えたこと。
    一通り目を通した日車の表情が、いつになく深く沈み込む。

    「……なるほど。不正な申請によって教団の金を得ていたことは、本人の発言からほぼ間違いない。だが、詐取したのか、預かった金を着服したのかまでは、この記録だけでは判断できないな」
    「でもちょろまかしてるのは事実っぽいからさ……」
    「まあ、そう見えるが、調べるのは必要だ。それから、『神様の声』を訴えた直後の失踪……頭が痛いな。通帳の入金履歴についても、申請書類と照合する必要がある」

    日車は眉間を押さえ、小さく息を吐いた。

  • 70二次元好きの匿名さん26/07/24(金) 23:07:28

    「金の件については、本来ならセキュリティを統括している宿儺君へ即座に報告すべき案件だが……今の段階で彼に知らせれば、灰月が無事に見つかったとしてもタダでは済まないだろうな」
    「だろ!?俺もそれ心配してさ……」
    「ああ。この件は俺が預かる。灰月の捜索と併せて、横領の事実関係も俺の方で極秘裏に裏付けを取っておこう。二人とも、他言は無用で頼む」

    日車の冷静かつ配慮の行き届いた対応に、虎杖と脹相はほっと胸を撫で下ろした。重い話題を一度区切り、三人は昼食を口に運びながら、本日の相談会についての打ち合わせへと移る。日車は持ってきた資料を二つに分け、それぞれ虎杖と脹相へ差し出した。

    「さて、今日の件だ。教祖様には三名、脹相には二名の相談を担当してもらう」
    「三名か、了解!」
    「相談者の証言と、俺が事前に確認できた範囲の情報は、すべて資料にまとめてある。……だが、申告された内容が事実のすべてだとは限らない。実際に本人と話し、少しでも不自然な点があれば確認してほしい」

    日車は二人の顔をまっすぐに見つめる。

    「相談者が嘘をついているとは限らないが、追い詰められた人間が、見聞きしたものを正確に説明できるとも限らないからな」
    「分かった。相手の言葉に耳を傾けつつ、違和感がないか探ってみるよ」
    「……任せろ。悠仁の負担を減らすためにも、しっかりと精査しよう」

    昼食を終えると、日車は資料をまとめて立ち上がった。

    「それでは、二人を相談室まで案内する」

    日車は虎杖と脹相を、隣り合ったそれぞれ別の個室へ案内した。個室――相談室の前へ到着すると、二人へ向き直る。

    「二人とも、よろしく頼む。……相談者の案内は、ほかの者へ任せてある。俺は自室へ戻り、灰月の件を調べながら待機する。相談内容に不審な点があった場合や、追加の調査が必要になった場合は連絡してくれ」

    そう告げると、日車は資料を抱え直し、その場を離れていった。

    「じゃ、また後でな」
    「ああ、また後で」

    短く言葉を交わし、虎杖と脹相はそれぞれの相談室へ入る。

  • 71二次元好きの匿名さん26/07/24(金) 23:18:22

    虎杖の元を訪れる相談者は、全部で三名、日車の言っていた通りだ。
    少なくとも現時点で確認できた範囲では、私怨や逆恨みによる申し立てではなく、深刻な被害を受け、他に頼る場所を失った者たちだ。
    虎杖は普段と同じように、一人ひとりの話へ真摯に耳を傾けた。
    辛い境遇に頷き、傷ついた心に寄り添い、そして最後にはその額へそっと掌を向ける。

    (神様……どうか、この人を助けてやってくれ)

    静かに祈りを捧げる。相談者を虐げ、苦しめていた人間たちが、相談者に害をなすことがなくなりますように、と。
    祈りを捧げるたび、虎杖の内側から何かが削り取られていくような、不快な感覚が全身を駆け抜けた。頭が重くなり、視界の端がわずかに明滅する。
    ――何かを祈るたび、虎杖はいつもあの頃の記憶を思い出していた。
    最初は、祖父の真似だった。
    幼い頃、虐待に耐えかねて「助けて」と必死に祈った。その翌日、自分を縛りつけていた養父母は、通り魔に刺されて死んだ。
    幼い虎杖には、それが偶然なのか、祈りが届いた結果なのかを判断することなどできなかった。
    ただ、自分を苦しめていた人間が死に、代わりに自分は救われた。それだけが事実として残った。
    次に保護された孤児院で出会ったのが、脹相だった。
    理不尽な痛みに耐えていた脹相をどうにかして助けたくて、虎杖は再び同じように祈った。
    すると今度は、脹相を苦しめていた両親が、跡形もなく姿を消した。
    一度目は、偶然だったのかもしれない。だが、二度目まで同じことが起きた。
    それ以来、虎杖は自分の祈りには、本当に誰かを救う力があるのかもしれないと思うようになった。

  • 72二次元好きの匿名さん26/07/24(金) 23:19:38

    そして、その日を境に、脹相は虎杖のことを「弟」と呼ぶようになった。

    あまりのショックと異常な状況に、きっと心が壊れてしまったんだと虎杖は思った。自分を本当の「兄」だと思い込むことで、歪んだ現実を受け入れようとしたのだと。

    その後、同じように祈りによって救った宿儺が加わり、いつの間にか三人は兄弟のような奇妙な絆で結ばれていった。

    だが、虎杖の「祈り」を求める人間の数は、やがて個人の手に負えないほど膨れ上がっていく。

    増え続ける救済の希望者と、それに伴う混乱。増大するリスクを見かねた宿儺が、交通整理をし、組織として整えるために立ち上げたのが――この教団だった。


    (みんな、俺の『祈り』で救われたって喜んでくれる。……けど)


    相談者が安堵と感謝の表情を浮かべ、何度も頭を下げながら部屋を出ていく。

    その背中を見送りながら、虎杖は重い疲労感とともに、机に肘をついて顔を覆った。

    祈れば祈るほど、誰かが消える。誰かの絶望が消える代わりに、自分の中の確かな何かが、じわじわと磨り減っていく。

    体にまとわりつくような重い倦怠感と、胸の奥を刺すような寒気に耐えながら、虎杖は不快な感覚が抜けるまで、少し休もうとして椅子に深く座り直した。


    虎杖SAN減少

    dice3d3=2 2 2 (6)

  • 73二次元好きの匿名さん26/07/24(金) 23:25:41

    ※このSAN減少で発狂はしません

    虎杖がようやく深く息を吐き出した、その時だった。
    突如、相談室の外が俄かに騒がしくなる。廊下を激しく駆ける慌ただしい足音と、それを必死に追いかける信​者たちの叫び声が近づいてきた。

    「待ちなさい!」
    「勝手に入ってはいけません!」
    「本日の相談受付は、もう終了しています!」
    「頼む……頼むから、会わせてくれ……!」

    制止する声を振り切るように、バンッ!と勢いよく相談室の扉が開け放たれる。
    転がり込むように部屋へ飛び込んできたのは、まだ幼さの残る一人の青年だった。
    着古したパーカーに細身のズボン。肩にかけた鞄は口が開きっぱなしで、急いでここまで走り込んできたのか、乱れた髪の額にはびっとりと汗が滲んでいる。
    そして何より、その目元には濃い隈が落ちており、ここ数日まともに眠れていないことが一目で窺えた。
    青年は机の向こうに座る虎杖の姿を捉えると、今にも崩れ落ちそうな足取りのまま、それでも縋るように駆け寄ってきた。

    「アナタが……拝掌教の、教祖様……ですか……?」

  • 74二次元好きの匿名さん26/07/24(金) 23:27:02

    切れた息を整える間すら惜しむように、青年は膝を折りそうな足取りで、震える声を絞り出す。


    「お願いします……!母さんを助けてください……!母さんを連れていった奴がいるなら……そいつに、天罰を下してください……!!」

    「え……おかあさん……?」


    突然のことに虎杖が驚き、言葉を返しかけた瞬間、青年を追ってきた信​者たちが雪崩込むように相談室へ入ってきた。


    「教祖様、大変申し訳ございません!」

    「この方が受付を通さず、突然こちらへ……!すぐに外へお連れしますので!」

    「離せ!頼む、話を聞いてくれよ!!」


    信​者たちは焦った様子で青年の両腕を掴み、強引に部屋の外へ連れ出そうと引っ張る。

    必死に抵抗し、虎杖へと視線を伸ばし続ける青年の瞳には、虎杖の姿だけが大きく映り込んでいた。


    1.話を聞く

    2.話を聞かない

    >>75

  • 75二次元好きの匿名さん26/07/25(土) 00:05:08

    >>74

    1かな虎杖なら

  • 76二次元好きの匿名さん26/07/25(土) 04:28:47

    順平の立ち絵もあるのか

  • 77二次元好きの匿名さん26/07/25(土) 09:46:00

    祈った時普通に心配になる症状出てるな…
    これで人が消える可能性もあるんなら確かに虎杖にはしんどそうだ

  • 78二次元好きの匿名さん26/07/25(土) 09:57:57

    順平は救ってあげて欲しいけど虎杖がヤバそうだ…

  • 79二次元好きの匿名さん26/07/25(土) 17:14:24

    さすが日車頼りになるね
    虎杖の祈りの力が誰かを消す方向に働いてるのやばい
    SAN値も地味に結構削れていってる…

  • 80二次元好きの匿名さん26/07/25(土) 21:58:00

    「待て!その手を放してやってくれ」

    虎杖の声に、信​者たちはハッとして足を止めた。

    「ですが教祖様、既に三名の相談を終えたばかりです。顔色もよくありませんし、本当に大丈夫ですか?」
    「大丈夫だ。……俺が話を聞く。だから、頼む」

    虎杖が改めてまっすぐに視線を返すと、信​者たちは不安そうにしながらも、渋々順平の手を放した。

    「……承知いたしました。君、教祖様のご厚意に感謝するんだぞ。俺たちは扉の外で待機している。教祖様、何かあればすぐに呼んでください」

    信​者たちが部屋を出て扉が閉まると、途端に室内は静まり返った。
    信​者たちが去ったことでようやく自分が強引に押し入ったことを自覚したのか、青年は見るからに小さく体を縮こまらせ、肩を揺らして深く頭を下げる。

    「……急に押しかけて、すみませんでした。相談するには手続きが必要だって言われたんですけど、待っていられなくて……本当に、ごめんなさい」
    「いいって。そんな頭下げんなよ。ほら、とりあえず座って落ち着こうぜ。ここ、あったかいからさ」

    虎杖が目の前の椅子を指すと、青年は恐縮したように正面の椅子へ浅く腰を下ろした。

    「俺は虎杖悠仁。ここの教祖ってことになってる。えーと……名前、聞いていいか?」
    「……吉野、順平です」
    「順平な。よろしく!……で、何があったんだ?落ち着いて話してくれ」

    虎杖が促すと、順平は膝の上で両手を痛いほど強く握り締め、途切れ途切れに言葉を紡ぎ始めた。

  • 81二次元好きの匿名さん26/07/25(土) 21:59:07

    「いなくなったのは、母さんです。吉野凪っていいます。うちはずっと母さんと二人暮らしで……四日くらい前から、急に帰ってこなくなったんです。連絡もなしに家を空けるような人じゃないのに……職場にも行ってなくて、スマホも繋がらない」
    「四日も……警察には行ったのか?」
    「捜索願は出しました。でも……成人の失踪だし事件の証拠がないからって、本気で捜してくれてるようには見えなくて」

    順平の指先が小刻みに震える。

    「最初は、町内会のことで忙しくしてるのかと思ったんです。母さん、近所で困ってる人を放っておけない人だったから……でも、こんなに帰らないなんて今まで一度もなかった。きっと何かに巻き込まれたんです。……ここなら、人を苦しめた奴に天罰を下してくれるって聞きました。もし母さんを連れて行った奴がいるなら……そいつを消してもらえば、母さんは帰ってくるかもしれないって」

    言葉が進むにつれ、順平の声は掠れ、小さくなっていく。
    自分でも確証のない突飛な願いを口にしている自覚があるのだろう。それでもほかに縋るあてがないからこそ、あれほど強引に押し入ってまで、虎杖へ会おうとしたのだと痛いほど伝わってきた。
    虎杖だって、もし宿儺や脹相が突然いなくなれば、同じように神へ縋るかもしれない。

    「順平……『町内会のこと』って、何があったんだ?」
    「……近所に引っ越してきた女性が、町内会で村八分に遭っていたんです」

    順平は不快そうに眉を寄せ、ポツリポツリと語り出した。
    回覧板を回さない、ゴミを家に投げ込む、嫌がらせの口裏を合わせる――そんな陰湿な集団イジメに対し、母親の凪だけは一人で立ち向かい、その女性を助けようとしていたのだという。

    「でも……その人、自宅で自殺しちゃったんです。母さん、間に合わなかったって、ずっと自分を責めていて。そしたら町内会の人たち、今度は『余計なことをした母さんのせいだ』って責任をなすりつけてきて……母さんは逃げずに調査するって言っていて、その直後に……いなくなったんです」

    順平の表情が、怒りと悲しみに激しく歪む。

  • 82二次元好きの匿名さん26/07/25(土) 22:02:32

    「……おかしいですよね。追い詰めたのは自分たちなのに、死んだ途端に全部母さんのせいにするなんて。町内会の誰かが母さんを嫌っていたのは間違いない。でも……誰が何をしたのか分からないのに、全員に天罰を下してくれとは言えません。だから……母さんを本当に傷つけた奴だけを、見つけてほしいんです」

    胸の内をすべて絞り出した順平は、不安げに虎杖を見上げた。

    「……十九歳にもなって、こんな妄想みたいなこと言って……バカみたいですよね。進学もやめて、何もできてない僕が、母さん一人守れなくて……」

    自嘲気味に俯く順平に、虎杖は首を振った。

    「バカなもんかよ。一人でずっと不安で、怖かったろ」
    「……ありがとう、ございます。教祖様……」
    「順平。俺のこと『教祖様』って呼ぶの、やめてくれねぇ?普通に『虎杖』とかでいいよ」
    「え……?でも、皆そう呼んでいるし……」

    順平は戸惑ったように目をパチクリとさせた。

    「俺はただの虎杖悠仁だ。教祖なんて柄じゃねぇし、年も近いしさ、ここでは友達みたいなモン!友達だから、相談も聞いたってことで。な?」

    虎杖が笑ってみせると、順平は少し考えてから、恐る恐るその名を口にした。

    「……じゃあ、虎杖君。これで、いいのかな」
    「おう!それがいい」

    ほんの少しだけ緊張が解けた順平だったが、すぐに表情を曇らせ、縋るような目でもう一度虎杖を見つめ直した。

    「……虎杖君。僕の話だけじゃ、誰が母さんを連れて行ったのか分からないと思う。それでも……お祈りをしてもらうことは、できませんか」

    膝の上の拳を強く握りしめ、順平は切実に訴える。

    「もし母さんを傷つけた奴がいるなら……そいつに、天罰を下してほしいんです」

  • 83二次元好きの匿名さん26/07/25(土) 22:03:51

    虎杖悠仁のキャラシを公開します

    iachara.com

    順平から祈って欲しいと言われましたが

    1.祈る

    2.祈らない

    どちらを選びますか?


    >>84

  • 84二次元好きの匿名さん26/07/25(土) 22:43:35

    >>83

    誰か具体的な相手が分からないうちは祈らない方が良さそうなので2

  • 85二次元好きの匿名さん26/07/26(日) 05:22:58

    ハラハラする展開だ

  • 86二次元好きの匿名さん26/07/26(日) 12:00:14

    確かに今のままだと当たり判定デカ過ぎて注射した医者とかも傷つけた判定で消えそう

  • 87二次元好きの匿名さん26/07/26(日) 15:28:02

    いわひら好きで何度か回したこともあるけど、スレ主の描写や改変普通にめっちゃ感心してみてる
    次に回す時の参考になりそう

  • 88二次元好きの匿名さん26/07/26(日) 17:58:06

    町内会の誰かが母さんを嫌っていたのは間違いないっていうのも順平の推測だし誰に天罰が行くか分からない状態で祈るのはまずいよな
    他の方法で母親探してあげられたらいいんだけども

  • 89二次元好きの匿名さん26/07/26(日) 22:41:13

    スレ主はいわひら10回以上は回してます
    その中で出た疑問とかも包括してカバーできるよう書いてるので参考になったら嬉しいです
    明日更新します!

  • 90二次元好きの匿名さん26/07/27(月) 05:12:23

    ほしゆ

  • 91二次元好きの匿名さん26/07/27(月) 10:25:30

    めちゃくちゃいわひら熟練者で助かる

  • 92二次元好きの匿名さん26/07/27(月) 19:08:11

    楽しみ

スレッドは7/28 05:08頃に落ちます

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