ヤジは嫌いな方ではない。
むしろ若いころは飛ばす方だった。野球見物に行っては、相手チームのエラーを褒めたたえ、競馬場では、あからさまに無気力な乗り方をした騎手を叱咤(しった)激励したものだ。
それでも容姿の美醜や差別的な表現は控え、観衆が固唾をのんで状況を見守っている場面では、口にチャックをしたつもりだ(ウソつけ、という声が聞こえてきそうだが)。
聞くに堪えぬ追悼式のヤジ
そんなヤジ容認派の私でさえ、「沖縄全戦没者追悼式」で、首相があいさつしている最中に、会場から飛んだ「高市早苗は沖縄差別をやめろ」「戦争を起こすな」といったヤジは聞くに堪えなかった。
左巻きな人々が、日本の防衛力を整備し、憲法9条改正に前向きな彼女を大嫌いなのはよくわかる。高市自民党に対峙(たいじ)してきた立憲民主党は、つい最近まで与党だった公明党と手を組んで臨んだ衆院選で大敗してしまい、共産党も退潮した。そのやるせなさも理解できる。
だからといって戦没者を追悼する場で罵声を飛ばしたのは、いただけない。亡くなった方々を冒瀆(ぼうとく)しただけでなく、結果として首相への同情が集まっただけだった。
どうしても抗議の意思を示したいなら首相のあいさつ中、くるりと背を向けるだけでよかった。地元の新聞社やテレビ局がちゃんとフォローしてくれたはずである。
地元紙が暴いた船長の「罪」
どうやら彼ら彼女らが苛立(いらだ)っているのは、ほかにも理由がありそうだ。今年3月、辺野古沖で船2隻が転覆し、女子高生と船長が亡くなった事故で、基地反対派にとって「不都合な真実」が次々と明らかになってきているからだ。
中でも6月17日付琉球新報の記事は、見出しだけでも衝撃的だった。
「船長が性暴力 『運動離れて』求めに応じず 被害女性証言」
同紙は、亡くなった抗議船「不屈」の船長が、十数年前に性暴力事件を起こしていたという被害女性の証言を信憑(しんぴょう)性が高いと判断し、掲載したようである。
船長は、ヘリ基地反対協議会のメンバーであり、日本最大のプロテスタント教派である「日本基督教団」に所属する牧師でもあった。
「沖縄・辺野古の抗議船『不屈』からの便り」を上梓(じょうし)するなど、反対派の仲間内では有名で「海のガンジー」と呼ばれていたんだとか。
「海のガンジー」が、「性暴力」に及んでいたとすれば、神も仏もない。船長の反論をぜひ聞きたいところだが、死人に口なし、である。
反対派にとってもっと衝撃的だったのは、女性のこの証言である。
「当時の海上行動チームのメンバーは仲間だからという理由で彼を擁護しました」(「琉球新報」から)
つまり、基地建設反対を唱え、人権を大事にしているはずの団体が、「性被害」の訴えを黙殺していたのである。あぁ、やんぬるかな。
「日本政府の大きな力にさらされ、圧迫され人々の声もかき消されてしまっているこの所にこそイエスは生きていると思うのです」
船長は著書でこう記したが、ニーチェ風に書けば、「神は辺野古で死んだ」のかもしれぬ。=敬称略(コラムニスト)