趣味の師は、使う金額ではなく、ハマる深さで決まる

時計愛に堕ちる人間の、ハタから見れば愚かにすら見える姿を、最大限の愛をもって描く、山田五郎。そう、趣味とは、そういうものなのである、それこそが愉悦なんだ、と畳みかけるように文章は続く。

「時計に限らずおよそ趣味というものは、分別盛りの大人が平気でバカになれるところが素晴らしいのではないでしょうか。

お金を無駄遣いするからバカなのではありません。骨董市で数千円で掘り出した普通のカレンダー時計を意気揚々と分解してその日のうちに壊してしまい3日ほど落ち込んだりしている筆者もまた、お金がないなりにバカ丸出し。

趣味におけるバカさ加減は、使う金額ではなくハマる深さで決まります。だから『釣りバカ日誌』のように、経済力も社会的地位も関係なく、自分よりバカな先達を師と仰ぐのです。その意味で、趣味ほど平等な世界はありません。」<同書 p.149>

なんと夢のある世界ではないか。自分よりバカな先達を師と仰ぐ、この人間関係こそ、今の殺伐とした時代に必要なのではないだろうか。

在りし日の山田五郎さん
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山田五郎 サイン
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無駄にしか見えないことこそ、人を夢中にさせる

「わざわざ面倒くさいことをする意味がわからないという疑問も、それ自体に意味がないでしょう。近頃は恋愛すら面倒くさがる若者が増えているそうですが、筆者には彼らが熱中するSNSの方がはるかに面倒くさそうに思えます。

つまり、興味のない人には単なる無駄や面倒やバカ丸出しとしか思えないことこそが人を夢中にさせるのです。そして何かに夢中になることで、人は幸せを感じて心が豊かになります。

機械式は無駄に面倒くさいからこそ楽しいのです。高価な腕時計を使いもせずウォッチワインダーで回して喜ぶことができるバカは、実は懐も心も豊かな幸せ者にほかなりません。」<同書p.150>

いったい頭の中にはどれほどの知識がつまっていたのだろうか。

多趣味で教養人で、難しいことをわかりやすく、そして面白く教えてくれる稀有な評論家が、この世を去ってしまった。
彼が残した貴重な知が消えることのないよう残していきたいと、いま、切に願う。

そして彼が教えてくれたことはもう1つ。趣味を通して豊かな人生を送ることの楽しさだ。

無駄や面倒やバカ丸出しの人生、最高だろ?

山田五郎さんが天国でそう笑っているに違いない。

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