1――信頼される日本、影響力を持つ中国
ISEASユソフ・イシャク研究所が2026年4月に公表した調査によると、日本を「信頼する」とした回答は65.6%に上り、欧州連合(EU)の55.9%、米国の44.0%、中国の39.8%、インドの38.5%を上回り、主要国・地域のなかで最も高かった。
国別にみると、日本を信頼する割合はフィリピンが77.3%と最も高く、ラオスが76.7%、ブルネイが72.9%、カンボジアが72.0%と続いた。一方、インドネシアは47.9%と最も低く、シンガポールは51.6%、マレーシアは53.0%にとどまった(図表1)。日本はASEAN全体で高い信頼を得ているものの、その程度には国ごとの差もみられる。
日本を信頼する理由としては、「国際法を尊重し、擁護する責任あるステークホルダー」であることを挙げる回答が41.4%と最も多かった。長年にわたる開発協力やインフラ整備、企業進出などを通じて、一貫性のあるパートナーとして受け止められてきたことが、評価の背景にあるとみられる。
もっとも、信頼の高さが、そのまま地域における経済的な影響力の大きさを意味するわけではない。同じ調査で、東南アジアにおいて経済的影響力が最も大きい国・地域を尋ねたところ、中国を選んだ回答は55.9%を占め、日本の7.1%を大きく上回った。国別では、マレーシアが67.5%と最も高く、インドネシアと東ティモールが59.7%で続いた一方、フィリピンは36.5%と最も低かった。
ただし、中国の経済的影響力を大きいと認識することと、その拡大を歓迎することは同義ではない。中国を最も影響力のある経済大国とみる回答者のうち、中国の影響力拡大を懸念する割合はASEAN平均で55.4%となった(図表2)。タイでは90.6%、ベトナムでは81.9%、フィリピンでは81.8%に達した。フィリピンは中国の影響力を最大とみる割合が相対的に低い一方、その影響力拡大への警戒感は強い。タイとベトナムでは、影響力の大きさを認識すると同時に、高い警戒感も示されている。
一方、中国を最も影響力のある経済大国とみる割合が高いマレーシアとインドネシアでは、影響力拡大を懸念する割合はそれぞれ46.6%、42.6%と50%を下回った。また、ブルネイとカンボジアでは、警戒感がそれぞれ28.4%、35.1%と低い。このように、中国の経済的影響力に対する認識と、その受け止め方は国によって大きく異なっている。
これらの結果からは、ASEAN側が中国の大きな経済的影響力を認める一方、その拡大を一様に歓迎しているわけではないことが分かる。貿易や投資を通じた中国の重要性を踏まえながら、国ごとの利害や安全保障環境に応じて距離を測る現実的な姿勢といえる。日本が主に「信頼される国」として評価されるのに対し、中国は警戒を伴いながらも、経済面で最も影響力のある国と認識されている。
2――貿易・投資にみる日中の差
ASEANと中国の貿易関係の緊密化は、最終消費財の流入だけでなく、域内生産に用いられる機械、電子部品、素材などの供給拡大も伴っている。米国の対中関税引き上げを背景に、企業が中国に置いていた生産工程の一部を東南アジアへ移しても、移転先の工場が中国製の設備や中間財を調達する場合、中国との経済的な結び付きは必ずしも弱まらない。従来、チャイナ・プラスワンは中国依存を引き下げる動きと捉えられてきたが、実際には中国とASEANをまたぐ生産ネットワークの拡大につながっている可能性がある。
こうした変化は直接投資にも表れている。2025年にASEANが受け入れた直接投資の純流入額は、中国・香港が428億ドルとなり、日本の96億ドルの約4.5倍に達した。中国・香港からの純流入額は2020年以降、毎年日本を上回っており、2023年以降は大幅な差が続いている(図表4)。
製造業投資では、日本と中国の差が一段と鮮明である。2025年にASEANが受け入れた中国・香港からの製造業投資は、前年比18.9%増の165億ドルとなり、4年連続で増加した。一方、日本からは72.8%減の10億ドルと、中国・香港の約16分の1にとどまった。日本からの投資では金融・保険が全体の約4分の3を占め、製造業の低迷が目立つ。もっとも、直接投資は大型案件の有無などによって年ごとの振れが大きく、単年の数値だけで日本企業の存在感を判断することはできない。
以上を踏まえると、ASEANにおける日本と中国の立ち位置は大きく異なる。日本は長年の協力や企業活動を通じて高い信頼を得ている一方、中国は貿易、投資、供給網を通じて域内経済に深く組み込まれている。日本企業の既存の生産拠点や取引関係の蓄積はなお大きいが、近年の貿易・投資フローでは中国との差が広がっている。今後の焦点は、日本が信頼という強みを、新たな投資や産業連携にどこまで結び付けられるかにある。