なぜ日本で「賃上げ闘争」が続くのか
労働市場の流動性がない国が抱える構造問題
日本では毎年のように「賃上げ」が話題になります。春闘、ベア、物価上昇、政府の要請。企業も労働組合も賃金改善を求めますが、世界的に見ると日本の賃金構造には特有の事情があります。
先に結論です。
日本で賃上げ闘争が続く理由は、労働市場の流動性が低く、賃金が市場で決まらない構造が残っているからです。
以下で、その背景と問題点を整理します。
1. 賃金が「市場価格」ではなく、組織内部の論理で決まってきた
欧米では、労働者が高い給与を求めて転職し、企業側が優秀な人材を確保するために市場価格が形成されます。
一方、日本は長く以下の仕組みで賃金が決まってきました。
• 年功序列
• 企業内での人事ローテーション
• 組合と企業の交渉(春闘)で全体を底上げ
• 転職するより会社に残る方が得という仕組み
このため、賃金は市場競争によって上がるのではなく、内部の合意形成と制度によってゆっくり動くという特徴が続きました。
2. 労働市場の流動性が低い
日本の労働者は、他国に比べて「転職しにくい」状況があります。
主な要因:
•終身雇用が文化として強い
•中途採用に対する企業側の抵抗
•ジョブ型雇用が進まず、専門性より社内適応が重視
•年功序列のため、一定の年齢以降の転職が不利
•解雇規制が強く、企業も採用に慎重
OECD比較では、日本の労働者の年間離職率は 8〜9% 程度。
アメリカは 約40%、イギリスは 約25%。
流動性の低さは明確です。
市場で価格が動かないため、賃金も上がりにくくなります。
3. 「ベースアップ」依存の給与文化
本来、賃金は職務価値や成果で動きます。
しかし日本の構造では、賃金上昇の多くを「ベア(定期昇給)」で補ってきました。
つまり、
•良い成果 → 上がる
•市場価値の上昇 → 上がる
ではなく、制度として全員が一定額上がることで年収を形成しています。
この方法は低成長時代との相性が悪く、企業が賃上げに消極的になり、結果として労働者が毎年「賃上げ闘争」をしないと給与が伸びない構造が残ります。
4. 企業側の事情:利益は出ているのに賃金が上がらない理由
近年、日本企業は以下の状態が目立ちます。
•内部留保は過去最大
•物価は上昇
•しかし賃金上昇は限定的
理由として多いのが以下です。
1. 人件費を固定費と考え、増やしたくない
2. 終身雇用と年功型給与で、若手の給与を上げるほど中高年の人件費が膨らむ
3. 解雇規制のため、給与を上げても生産性の低い人を減らせない
4. 将来の不確実性への警戒感が強く、内部留保が溜まり続ける
結果として、給与は上がりにくく、組合側の交渉(闘争)が存在し続ける仕組みが温存されています。
5. 世界との比較で見える、日本の構造的な問題
日本の平均賃金は1990年代後半からほぼ横ばい。
OECD平均は 約1.5倍に上昇。
さらに、平均年収の国際比較(OECD 2023)では、
•アメリカ:約9.5万ドル
•イギリス:約5.6万ドル
•日本:約3.8万ドル(約570万円)
特に20〜40代の賃金は他国に比べて低く、生活コストが上がる中で負担が重くなっています。
6. では、賃上げ闘争はいつまで続くのか?
前提として、市場メカニズムが働かない限り、賃上げは永遠に「交渉」に頼る構造になります。
必要なのは以下の動きです。
1. ジョブ型・専門性の可視化
2. 年功序列の縮小
3. 中途採用と社外人材の受け入れ拡大
4. 企業の評価制度改革(成果基準へ)
5. 労働者のキャリア自律とスキル再開発
6. 組織を横断した流動化(転職・副業・業務委託)
これが進むほど、賃金は市場で動き、毎年の賃上げ闘争が不要な仕組みになります。
日本に賃上げ闘争が存在し続ける理由は、単なる企業の問題ではありません。
労働市場構造そのものが「賃金が市場で決まりにくい仕組み」になっているためです。
• 労働の流動性が低い
• 年功と内部昇給に依存
• 企業が固定費を増やしにくい
• 市場価値より社内論理で給与が決まる
これらが重なり、賃上げは毎年「戦わないと得られないもの」になっています。
賃上げが自然に起こる社会にするには、流動性のある市場を作ることが重要です。


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