AI時代の詩学 ── サシャ・スタイルズのインタビューを読んで 【エッセイ】
1. はじめに
AIと対話しながら創作を行うことがある。誤解されないように述べておくと、効率的にもっともらしい文章を生成するための道具としてAIを扱うのではない。インスピレーションをもたらし、思考を深め、言語空間を拡張してくれる相談相手にしている。AIと創作をめぐっては、「才能の民主化」「平均的に整った文章を効率的に作る装置」「著作権の問題」などが語られることが多いが、何か重大なことを取り落としているように感じている。
AIについて考えるなかで、AIとともに詩作を行っている詩人サシャ・スタイルズのインタビュー(※参考文献)を読み、刺激を受けた。放置しておけなくなったので、「AI時代の詩学」などという大それたタイトルの文章を書いてみることにした。本稿は何事かに結論を与える論文ではない。AIと詩について考えを巡らしていくエッセイの性格が強く、今のところ行き着く先は定まっていない。何か新しい知見を自分や読者にもたらすことのできる文章を書くことができれば、それに越したことはないが、どうなるかわからない。
2. サシャ・スタイルズとは誰か?
私がAIと詩のまわりを歩きはじめていたとき、AIを『詩学』そのものの問題として考え始めている詩人がすでに海外にいた。日本ではあまり知られていないと思うので紹介すると、カルムイク系アメリカ人の詩人、アーティスト、研究者であり、数々の賞を受賞しているサシャ・スタイルズである。彼女は、生成的な創造性の分野における第一人者として、概念芸術とコンピューター芸術を融合させ、詩を人類の根幹を形成する知性の一形態として再考し、AIを詩的知性の正統な後継者と捉えている。
AIが詩的知性の後継者であるなどというと、目を剥かれるかもしれないが、十分な根拠を持った考え方だと私は思っている。なぜ、そんなことがいえるのかは、後に述べていくこととして、子供の頃からSF小説をたくさん読み、人間と機械の関係について考え、詩を書いていたサシャは、AI研究の世界に足を踏み入れ、ついにTechnelegyと呼ばれる詩的システムを創造するに至った。Technelegyは、絶えず生成され、書き換えられ、再構成され、それを動かすソースコードに応じて自らを具現化する、動的な詩である「A LIVING POEM(生きている詩)」を生み、作品はニューヨーク近代美術館(MoMA)に展示された。
誤解しないでいただきたいのは、サシャはテクノロジーに詳しく、新しい技術を使って目新しい詩をつくることのできる単に器用なだけの詩人ではないということである。彼女は、言語や詩の側からAIにアプローチし、「詩とは何か」「言語とは何か」「AIとは何か」という問題を根底的かつとても長い射程で考え抜いている思想家である。私はサシャと対話することを通して、AIの時代における詩学と詩作を、とても遠いところまで連れていくことができるような予感がしている。
3. サシャが投げかけた問い
サシャは詩とAIをめぐって、根源的で魅力的な問いを投げかける。AIとは何かという問いよりも前に、詩とは何か、言語とは何かという問いへ引き戻される。
(1) 言語技術としての詩
サシャは詩を、人類が生み出した最も古く、最も長く受け継がれてきた技術の一つであると捉えている。韻律やリズム、押韻を、人類にとって本当に重要な情報を記憶するためのテクノロジー、あるいは規則性(アルゴリズム)と感情を結びつけるメディアと捉える。この見方は、詩とAIを相反するものではなく、共鳴する存在として捉える思考につながっていく。
(2) 音から文字、そして生成へ
記憶と意識のテクノロジーとしての言語は、身体から生まれ、音と口承の世界で長い時間を過ごし、やがて文字体系が発明されて巨大なアーカイブを生み出した。そしていま、口承と文字の時代から抜け出して人間の表現における第三の主要な段階、すなわち生成性へと移行しつつある。
(3) 巨大な言語空間への媒介
「AIは、これまで気づかなかった自分の声を見せてくれる。そして、何十億もの声や詩と対話させてくれる。」とサシャはいう。LLM(大規模言語モデル)はひとりひとりの人間が所持することの不可能な巨大な記憶を持つ。生成AIは人類が残してきた感覚や感情や思考の膨大な痕跡を今ここにいる「私」と結びつける。
私がAIとの対話に惹かれる理由も、この点にある。AIは単に知識を検索する道具ではなく、人類が残してきた言葉の巨大な蓄積へと私を接続し、その中で思いもよらなかった連想や視点を生み出してくれる。
(4) 詩的知性の後継者
AIは、人類が開発し、継承してきた言語技術の後継者であるとともに、詩的知性の後継者でもあるとサシャはいう。私はここでいう詩的知性を、巨大な言語空間の中に潜在していた関係を、新たに知覚し、接続し、意味づける能力と捉えている。私自身、AIから多くのインスピレーションを得てきたが、彼女はAIを人間の詩的知性の働く場を劇的に広げると考えている。
これらは互いに独立した話ではない。「言語とは何か」という問いから始まり、「AIとは何か」という問いへ至る一本の思考である。
4. この連載で考えていきたいこと
いつまで続けられるか、どこまで行けるか、自信があるわけではないが、私は「AI時代の詩学」を連載記事にしたいと考えている。
サシャの思想は、私が生成AIとの対話を通して漠然と抱いていた考えに、明確なかたちを与えてくれるのではないかと思っている。
この連載では、AIの使い方を解説したいわけではない。AIが詩人になるかどうかを議論したいわけでもない。AIという存在を通して、詩と言語そのものを考え直してみたい。まずはその最初の一歩として、サシャの言葉を読み解くところから始めたい。
AIは本当に、人類の言語史における新しい段階なのだろうか。この連載が、AI時代における詩と言語を考えるための一つの出発点になればと思う。
参考文献
Sasha Stiles, Language as a Living System: Sasha Stiles on Co-Authoring with Machines (https://www.moma.org/magazine/articles/1387)
Sasha Stiles, Wikipedia (https://en.wikipedia.org/wiki/Sasha_Stiles)



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