Answer
マスクと熱中症については,二者択一ではなく,リスクと利益を天秤にかけながらバランスをとって行動しましょう!
流行期の屋内: 基本的にマスク装着(通常は空調も入っていて暑くないですよね)
屋外 : 基本的にマスクなし(感染リスクは低く,マスクで熱中症リスクは上がると思います)
暑い日のマスク,「熱中症になりやすいのでは?」「感染対策のためには着けたほうがいい?」と迷う人は少なくありません。ガイドラインや科学的エビデンスをもとに,暑い日のマスク着用についてどのように判断すればよいのかを解説します。
究極の臨床判断
マスク×熱中症というのは究極の臨床判断です。マスクをすることで感染症のリスクを下げることができますが,熱中症のリスクは上がります*1。この際に大切な考え方は,臨床判断ですので,二者択一(つまり「マスク良いかダメか」の2択)ではなく,より連続的なバランスを保った判断が必要です(図1)。
*1 下記,『熱中症診療ガイドライン2024』1)では「マスクの着用が熱中症の危険因子となる根拠はない」とはなっています。
ガイドラインでは?
まず,『熱中症診療ガイドライン2024』1)には,マスクに関するclinical questionは存在しません。その他のガイドラインとして,『新型コロナウイルス感染症流行下における熱中症対応の手引き(第2版)』2)によると,マスクに関連して2つのclinical questionが取り上げられています。
Q-1 マスクを着用すると体温が上がるか?
A-1 暑熱環境における1時間程度の軽度の運動,あるいは20分のランニング程度の運動強度では,マスクの着用が体温に及ぼす影響はない。
Q-2 マスクを着用すると熱中症の発症が多くなるか?
A-2 健常成人においてマスクの着用が熱中症の危険因子となる根拠はない。
つまり,このガイドライン2)上では,「軽度の運動ではマスクの着用は体温に及ぼす影響もないし,マスクが熱中症の危険因子になるという根拠はない」とのことです。
科学的エビデンスは?
では,上記のclinical questionについて深掘りしていきます。
ここで一番知りたいのは,「Q-1 マスクを着用すると体温が上がるか?」に関しては,若年者ではなく中高年齢層(特に高齢者)を対象に,一般的な不織布マスクをつけて,気温35℃,湿度70%の設定で,時速4~6kmで30分~1時間程度の歩行(トレッドミル)の負荷をかけた場合に体温がマスクあり・なしでどう変わるか,という点ですね。まさにこれが我々医療従事者の夏の日常ですよね。この想定の研究は…残念ながらありません。実際の研究では,12名の被験者を対象に,室温35℃・湿度65%の環境下で,時速6kmの歩行速度で30分間トレッドミルによる歩行を行い,サージカルマスク非着用時と着用時で深部体温を比較した研究3)が負荷の強度としては一番近いですが,この研究の被験者は平均年齢23±3歳であり,若年者です。またマスクの種類も異なります。被験者の安全性があり,なかなかリアルワールドに近い高齢者を被験者とした実験は難しそうです(図2)。
続いて,「Q-2 マスクを着用すると熱中症の発症が多くなるか?」についてです。これも少し禅問答みたいになりますが,ガイドライン委員会が言っているのは「マスクの着用が熱中症の危険因子となる根拠はない」であって,決して「マスクの着用が熱中症の危険因子とならない」とは言っていないことです(図3)。読者の皆様はここを勘違いしないことが何よりも重要ですね。今後,疫学研究などが出てきた場合には記載が変更になると思われます。
どうすれば良い?(筆者の考え)
ズバリ,私の意見としては,「二者択一ではなく,リスクと利益を天秤にかけながらバランスをとって行動しましょう!」となります。もっと具体的に考えてみましょう。たとえば新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,現在,全例把握はしていませんが臨床現場にいると肌感覚で感染爆発している時期があります。そのような時期にはテレビなどメディアでも小さく取り上げられたりしています。そのため,いわゆる流行期には,マスクをして感染を防ぐことのメリットが大きいです。またCOVID-19ウイルスは飛沫とエアロゾル(空気)感染がメインですので,流行期に屋内での狭い空間にいる際にはマスクをしておいたほうが安全ですね。一方,屋外で歩くようなときはマスクを外したほうが良いです。圧倒的に熱中症のリスクのほうが高いですよね。このように,状況に応じてマスクをつけたり外したりと変えていくことが必要になるのでしょう。
文 献
1)日本救急医学会:熱中症診療ガイドライン2024.
[https://www.jaam.jp/info/2024/files/20240725_2024.pdf](2025年4月18日閲覧)
2)日本救急医学会, 他:新型コロナウイルス感染症流行下における熱中症対応の手引き(第2版). 2022.
[https://www.jaam.jp/info/2022/files/20220715.pdf](2025年4月18日閲覧)
3)Kato I, Masuda Y, Nagashima K, et al:Surgical masks do not increase the risk of heat stroke during mild exercise in hot and humid environment. Ind Health. 2021;59(5):325-33. PMID: 34421100
(本稿は,熱中症診療の最前線で活躍する著者が,熱中症の予防から治療までを科学的根拠に基づいて解説した『熱中症の謎となぜ』(一二三 亨著)の一部を抜粋・編集したものです。)
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