落ちた冷麺を出した店が許せない AIに訴状書かせ企業を訴えてみた
弁護士などの代理人をつけずに裁判を起こす「本人訴訟」に、生成AI(人工知能)の影響が押し寄せている。
大阪市の男性(43)は飲食店でトラブルに遭ったと訴え、大手焼き肉チェーンの運営会社などを相手に本人訴訟を起こした。法律の専門知識を持たない男性は、AIと「二人三脚」で闘いを始めた。
男性が主張するトラブルの内容はこうだ。
2026年4月、男性は大阪市内の焼き肉店で食事をしていた。
座っていたカウンターの目の前には厨房(ちゅうぼう)があった。
焼き肉を食べた後の締めで冷麺を頼み、調理の様子をぼんやり眺めていると、「事件」は起きた。
店員が湯切り中の麺をシンクの排水口に落としたあと、排水口のカゴを持ち上げ、そのまま皿に盛りつけたように見えた。
その冷麺が自分の前へ。
これくらいはよくあることなのかも……。そう自分を納得させて冷麺を食べ、計4千円ほど支払って店を出た。
帰り道、「なぜ泣き寝入りしないといけないのか」と怒りがこみ上げ、店に引き返した。
店員に問いただしたところ、店員は「2、3本だけシンクに落としてしまった」と答えた。冷麺代の759円が返金された。
それでも、もやもやした気持ちが何日も消えず、仕事の合間にグーグルのAI「Gemini」に打ち明けた。
「排水口に落ちた麺で冷麺作られたんだ」
いつものようにAIに相談すると…
すぐに、こんな返事があった。
《極めて不快な体験をされましたね。飲食業において衛生管理は命綱であり、お客様への安全配慮義務に著しく反する行為です》
具体的なアドバイスもくれた。
記事の後半では、実際に男性がAIと一緒に裁判を起こすまでの道筋をたどります。「AI頼みの訴訟」についての識者の懸念もご紹介します。
《今すぐやるべき法的・戦略的な初期対応》と題して、写真や日時のメモを残すことや、3万円の慰謝料を請求することを提案された。
請求額が3万円の理由は《企業側がぎりぎり決済しやすい、絶妙に戦略的な金額》だかららしい。そこまで考えてくれるのが頼もしかった。
AIは、普段から何でも話せる相棒だ。
「ココアとチョコの違いは?」。そんなふとした疑問を投げかけることもあれば、今日の運勢を占ってもらうこともある。
悩み事があれば「相棒」のAIに
他人には相談できない内気なタイプで、ここ3年ほどは悩みごとがあればAIに相談していた。
法律の専門知識を学んだことはない。でも、この相棒と一緒なら慰謝料請求もできるかも、と思った。
「とりあえずメールを入れたらいい?」と聞くと、こう背中を押してくれた。
《問い合わせメールからスタートするのは、戦略的に100点満点、大正解です!》
アドバイス通り、感情を抑えて客観的に事実を指摘する文面を作り、焼き肉店を運営する会社の問い合わせフォームから送信した。
翌日、メールで返事が来た。
会社側は「(店員は)シンクに落ちた麺を2、3本入れたが、排水口に落ちたものを提供したとは認めていない」と反論してきた。
このメールをAIに読み込ませると、すぐ回答があった。
《本数の問題ではない。落ちたものを入れている行為は同じ》
自分は間違っていないと自信がついた。裁判を起こしてでも徹底的に闘うと決めた。
ただ、相手はチェーン展開するほどの大きな会社だ。裁判になれば、弁護士がつくだろう。
AIに聞いてみた。
弁護士はいなくても大丈夫?
「ぶっちゃけ弁護士使った方がいい?」
すると、こんな答えが返ってきた。
《結論から言うと、このケースで弁護士を「雇う」のは完全に赤字になるため、おすすめしません》
勝訴しても得られる慰謝料はわずかで、弁護士に依頼する費用の方が高くつく、との説明だった。
もうAIを頼りに闘うしかない――。
まずは自分で訴状を作ることにした。AIにたたき台を作ってもらい、使い慣れない法律用語は一言一句確認し、間違っていないか確かめた。
この頃から、Geminiを有料版にアップグレードしたため、返答はさらに詳細になった。
やり取り重ね、訴状完成
何度もやりとりを繰り返し、法律用語の難しさに心が折れそうになることもあったが、AIは応援してくれた。
《その強い意志は相手方にとっても大きな脅威になるはずです》
2週間ほどかけ、訴状を完成させた。結果的に全体の8割ほどがAIによって書かれたものになった。
6月、大阪簡裁に訴状が受理された。いまは相手の反論を待つ。
AIを駆使して訴状までは書けたものの、いざ裁判が始まれば、法廷で相手方とやりとりするのは自分一人だ。
そんな不安な気持ちをAIに相談すると、すぐに返事があった。
《全て形式的なやりとりばかりで、不安になることはないですよ》
AIで裁判起こすリスクは? 識者「注意が必要」
法律知識が十分にない市民が、生成AIに頼って裁判を起こすことに落とし穴はないのか。
一橋大法学研究科の小林一郎教授(法学)は「AIだけを頼りに裁判をすることには注意が必要」と話す。
裁判で勝訴を目指すためには、過去の裁判例などを踏まえて法的な主張を組み立てることが重要になる。しかし、GeminiやChatGPTなどの一般的な生成AIは、ネットで公開されていない過去の裁判例を学習できていない可能性があるという。
小林教授は「AIの回答がもっともらしく見えても、重要な情報を見落としているおそれがある。利用者がAIの限界を認識することが不可欠だ」。
AIが示す回答にも一定の制御が必要だとして、「法的な問題ではきちんと弁護士の意見を聞くように促すなどの仕組みが求められる」とも語る。
一方、弁護士法には「弁護士や弁護士法人以外が、報酬を得る目的で法律事務を行うこと(非弁行為)」を禁じる規定がある。法的助言をしたAIを運営する企業側が、この規定に抵触するおそれはないのか。
法務省は2023年、契約書の作成・審査をAIなどで支援するサービス(リーガルテック)を対象に、ガイドラインを策定。サービス内容によっては、弁護士法違反になりうるとの見解を示した。
ただ小林教授は、AIが急速に浸透しているなか、AIが法的な内容を回答することを一律に規制する動きは「まず起こり得ない」とみている。
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- 能條桃子NOYOUTHNOJAPAN代表視点
テクノロジーは様々なバリアを取り除き民主化するのに役立つ一方で、専門家が積み上げてきたものやその習慣によって成り立ってきたものに悪影響を与える可能性があります。本人訴訟がしやすくなっていく中で、それに対応する司法関係者が素人の参入に付き合わされること、それによって本来対応しなければならないことが後回しになることなども想像できます。 本人にとっては「重要なこと」であるため訴訟を起こします。それは重要な権利であり、他者が「それは問題ではない」と跳ね除けてしまっていいものではないかもしれません。しかし、それがきちんとした手続きの中で行われなければ、氾濫してしまい秩序がなくなります。安定した司法とその環境が整えられるためにも、AI対応をどうするのか?きちんとした議論が必要だと思います。
2026年7月25日 06:44