第17話 酒キャン!


「広くて綺麗なところだな。人も少ないし」

「平日だからね。それに山の奥深くにあるし、意外と穴場なのかも」

「見てー! 大きな川あるよー!」

「山地が多く水源豊富な日本らしい、いい所であるな」


 俺たちは冬休みを利用して、神奈川県某所のキャンプ場に遊びに来ていた。


 山中の奥深く、川辺沿いの平らで長い平地。対岸沿いに鬱蒼と茂った木々をみているとマイナスイオンのおかげか妙に心が安らぐ。キャンプ場のHPで見たが、春には桜が咲くらしい。


 景色はすごく綺麗だ…………が、それにつけても


「あ゛ぁ゛ー、ビールが飲みてぇ」

「この景色を眺めて出てくるのが、それでござるか……」

「うーわ、ちゃんとアル中だねー」


 ここに来るための運転は全て俺がやった。

 山道を運転する事が想定されていたため、この中で一番馴れている俺が担当になったのだ。普段、俺の家に車が置いてあるせいか全員で成約したはずの車の使用頻度は俺がぶっちぎりで多い。


「お前らは既に飲んでるから平気なだけだろ」


 当然、彼女らが車内で2時間近くも酒を我慢できるはずもない。車の床シートには空き瓶が5本は転がっている。


「悪いね。僕達だけ、すでにほろ酔いで」

「いや本当にな。お前らが隣で飲むせいで飲酒欲求が天元突破しそうだ」


 本来は一人ぐらい、緊急時のため飲酒を控えるべきだ。まぁ、酒飲みモンスターズにはそのような配慮を求めても無駄だろうが。俺も一杯やりたいところだ。しかし、目的地にはついてなお、俺はまだお酒を飲むことができない。


「まだ飲酒は許さんでありんす」

「暗くなる前にー、温泉に行かなきゃねー」


 当然、キャンプ場に風呂場などはない。その為、また俺が運転して公衆浴場まで全員を運ぶ必要がある。男の俺としては、1日くらい風呂に入らなくても死にはしない。


 だが、女はそういうわけにはいかないだろう。


「酒飲みてぇ…………」


 改めて欲望をそのまま口に出す。


「はいはい、悪いけど煙草で我慢してね」

「その代わり、テント設営は拙者たちで頑張るぜよ!」

「いや、力仕事だしそれは手伝う。お前らは俺の前で酒を飲むのを我慢してくれればいい」

「「「無理」」」


 俺のお願いは一考の時間もなく破棄された。


 というか、"いや"でも、"したくない"でもなく"無理"ときたか。

彼女たちは、決して人の事をアル中と馬鹿にできない。


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 俺たちの初めてのテント設営は難航したが1時間程度で何とか終わった。

8万円ほどする、大きな高級テント。4人が寝ころぶことができる程のサイズだ。

天井には薪ストーブ用の換気孔まである。


 安瀬と猫屋はそのテント内でコットと寝袋を用意している。コットとは寝具台の事だ。俺と西代は外で寛ぐくつろ準備。


「ふぅ、結構疲れたな」


 日除け用の広いタープに、人数分の座り心地がよいローチェア。テーブルと焚火台もすでにセットした。準備としてはほぼ終わっただろう。


「僕はペグを打ち込みすぎて、腕が筋肉痛だよ」


 テント設置の為にハンマーで杭を打ち込んでいた西代は腕を痛そうに摩っている。


「タープも張ったし、その下で煙草でも吸って休んでろよ」

「そうさせてもらうよ。……陣内君は?」

「俺はこれだ」


 そう言って、俺は受付でレンタルした釣り竿を見せる。


「川釣りか、元気だね。ここでは何が釣れるんだい?」

「ニジマスとかヤマメ」

「おぉ、それは食欲をそそるね」


 包丁は当然持ってきている。内臓を処理して塩をふって焼けば、とれたての川魚が楽しめる算段だ。ビールにも日本酒にも恐ろしく合う事だろう。


「でも、あんまり期待するなよ。釣りなんてほぼド素人なんだ。ヤマメなんぞとても釣れない」


 釣りの経験など父親に数回連れて行って貰った事しかない。


「ふふふ、僕はちゃんと期待してて待っててあげるよ」


 意地が悪そうに西代は笑う。その捨てセリフだけ残して、彼女はタープ下に向かって行った。なんか変にプレッシャーをかけられたような気がする……


 俺は川沿いを荷物を持ってのそのそと歩き出した。

釣りポイントは上流の方にある。


 ……10分くらいは歩いただろうか。


 釣り可能、と書かれた看板が設置された場所まで辿り着いた。

周りには人はいなかったので、自分の好きな所に座り込む。


 灰皿置いて煙草を吸いながら、黙々と餌を釣り竿につける。

そして、特に考えもなしにそれを水面に放り投げる。

ぽちゃんと音がして沈み込んだ。


「……………………」


 そして、無の到来。


 季節故に少し肌寒いが、風はないので震えることはない。

対岸の森には様々な生物がいるのだろう。彼らの声が環境音として聞こえてくる

ゆっくりと雲を眺めるような時間の使い方。そこで美味い煙草を吸いながらひたすらに鎮座する。落ち着いて悪くない。


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 30分は過ぎただろうか。獲物は全くかかっていない。

うーむ、まぁ、ダメで元々だ。もうちょっと粘ろう。


 そこに、じゃりじゃりっといった軽石を踏む足音が聞こえてくる。


 猫屋だった。

西代から俺が釣りをしているのを聞いて、見に来たのだろう。


「やっほー、釣れてるー?」

「いや、まったく」

「アハハハー、だよねー」


 横に座り込もうとする猫屋。


「あ、待てよ」


 俺はそれにストップを掛ける。


 比較的に綺麗な岩砂利が敷き詰められているが、野ざらしの地面だ。俺は持ってた大きめのハンカチを地面に敷いてやる。


「え、いいのー……?」

「いいよ別に、今日はたまたま持ってただけで普段は使わん」

「そういうことなら、おかまいなーく。ありがとねー」


 お礼を言い、俺の横に座る猫屋。彼女の手には酒が入っているであろうタンブラー。


「何飲んでるんだ?」

「"池"っていうー、静岡の日本酒」

「また美味そうなのを、人の隣で……」


 彼女から甘い日本酒の香りが漂う。


「ねぇ、釣りってたのしー?」


 ただ何もせずに竿を握り座っている俺の顔を、猫屋は不思議そうにのぞき込んでくる。


「うーん、そうだな……」


 彼女は釣りの経験がないのだろう。

俺は身近なところで分かりやすい例えを出してやる。


「パチンコと一緒だ」

「…………それ怒られるよー、マジで」


 俺の例えに、微妙な声音で返事をされる。

彼女の同意が得られるように、一応補足を入れてみる。


「まぁ俺は素人だから、釣りなんて運ゲーに等しい。大当たりがでるまで待つだけだ」

「そう言われればー……まぁ、たしかにー?」


 どうやら納得して頂けたようだ。魚がヒットすればアドレナリンが噴き出すが、それ以外は虚無。それが俺の釣りだった。


「……? なんか竿が震えてなーい?」

「…………手の震えだ」

「うっわー! まじかー……」


 猫屋が俺を心底可哀そうな目で見てくる。


「お酒、少しは控えたらー?」

「違うぞ猫屋。これは寒いから震えているだけなんだ。まじでそれだけだ」


 思わず早口で弁明する。これはアル中特有の症状ではなく、手が寒くてシバリングを起こしているだけだと。


「アハハっ、絶対うそー」


 彼女は俺を馬鹿にして楽しそうに笑う。そして懐から煙草を取り出して1本咥えた。


「あ、ジッポ、テントに忘れたー……」

「ほい、ライター」


 うっかり屋さんに火を恵んでやろう。自分のライターを片手に持って、ジジッとライターの火花を散らして火をつける。それを彼女が咥えた煙草にゆっくりと近づけてやる。


「せんきゅー」


 煙草の先に優しい赤い燃焼が起きる。


「ふぅーーー、うまーー……」

「酒に煙草、いい御身分だな」

「まーねー」


 特に悪びれた様子はない。隣の男は酒を我慢するという大業をなしているというのにだ。


 そこで何故か猫屋がクツクツと突然笑い出した。

急にどうしたのだろうか。


「あ、いやー、なんか前の事思い出してー……」

「前?」

「ほらー、陣内の家の前で鍵が無くてボーっと座ってたやつー」

「あぁ、あの時か」


 確かに状況は少し似ていた。猫屋に火種がなく、二人で隣通し地べたに座り込んでいる。あの時は変なマッチを使って火を起こしたな。

たった2月前のことだがどこか懐かしかった。


「なんか私達、結構長い付き合いになりそうだよねー」


 猫屋の言いたいことは何となく俺に伝わった。

これからの4年間、俺たちはどこかに旅行に行ったりして楽しく過ごすのだろう。


「……そうだな」


 その後二人に会話はなかった。もう1時間ほど粘って、テントに帰ることにした。魚はもちろん釣れなかったが、不思議と悔しくはない。二人分の時間を無駄に使ったおかげか、どこか穏やかな気分だった。


 なお、西代は本当に魚を楽しみにしていたようでがっかりしていた。


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 パチパチと音を立てて、勢いよく燃える木々。俺たちは薪を囲んで椅子に座っている。もう周りは既に暗い。お風呂はすでに行って済ませていた。


「アヒージョとバケットの組み合わせが絶妙でござるな」

「あぁ、オリーブオイルとニンニクのおかげで酒が進む」


 焚火台の上に網を引いて鉄鍋を置き、それで作った特製アヒージョを摘まむように食す。あとは買ってきたバケットを主菜にゆっくりと酒と煙草を楽しむ。シメとしてパスタを入れるのも美味しそうだ。


 自然を感じる外での飲み会。これぞキャンプの醍醐味というものだろう。


「うーん、こんなもんでいいかなー?」


 そんな優雅な中で、猫屋が組み立て式のテーブル前で何かしていた。うろちょろしていて嫌にも目に付く。西代も俺と同じように気にしている様子だ。


「なにしてるんだい?」

「生け花ー、みたいなー?」


 彼女がそう言って見せてきたのはバケツだった。

その中に市販の氷を山ほど入れて土台をつくり、さまざまな種類のビールを突き刺している。


「コロナバケツでビールの生け花でござるか」

「どーう? 写真でとったら映えそうでしょー?」

「そうか?」


 夏にやるなら確かに氷とビールで清涼感がでるが、冬のキャンプ場でやるとアル中の証明にしかならなそうだ。


「何でもいいが、満足したならビールをくれ。サッポロのブラックラベルな」

「拙者にはエビスをよろしくであろう」


 俺と安瀬が仲良くビールを催促する。発泡酒ではなく、今日はお高いビールを買っている。早速飲みたい気分だ。


「僕はハイネケンで……。よく考えたら、僕らってビールの趣味バラバラだよね」

「たしかにー、私はコロナビール大好きだしー」


 言われてみてばたしかに西代のいう通りだ。俺たちの好きなビールには一つも被りはない。


「瓶ビールは、美味しいだけではないかえ?」

「あぁ、それはあるかもな」


 瓶のコーラが一番美味いという論文があると聞いたことがある。

飲み口の感触が満足感に影響を与えているとかなんとか。詳しく知らないが。


「それは聞き捨てならないね」

「たしかにー」


 それに不満を持ったのは瓶ビール派の二人だ。同時に彼女らは外国産ビール派閥でもある。


「こうねー、コロナはそぅ、えっと……うん」

「ハハ、食レポが下手だね猫屋。ハイネケンはその……あれだ。一番うまいよ」

「どっちもド下手でござるよ」

「何も伝わらなかったな」

 

 だが、彼女たちが言い淀んだのも分かる気がする。

ビールのうまさとは案外表現しづらい物なのかもしれない。


「いやー、本当に一番美味しんだけどねー」

「スーパードライくらい特徴がはっきりしてればいいんだけどね」

「あれはただ炭酸がキツイだけで候」

「その通りだが、言い方が遠慮ないな。夏に飲めば最高に美味いだろ?」


 俺も一番好きなサッポロビールを頭に浮かべて、食レポをしてみる。


 麦の原始的な味、炭酸の爽快感、濃厚な泡、奥深い味わい。

……普通のビールの説明になってしまった。なんで、あんなに美味いのに説明できないんだろうか?


「………効きビール大会、やるでござるか?」


 安瀬が少し面白そうな提案をしてくる。


「いいな、俺達が何をもって各種銘柄を好きだと言ってるか分かるかも」

「さんせー」

「同時にビールの味も分からない、も暴かれることになると……」

「西代よ、良く気付いたと褒めて進ぜよう」


 その言葉で俺たちのプライドに一瞬で火がついた。それはもう轟轟と。

目の前の焚火をはるかに凌駕する熱量だ。


「なぁに、今回は楽しいキャンプじゃ。罰ゲームなどと無粋な真似は止めておこう」


 安瀬は足を組んで顎をだし、俺達を見下ろしていた。

彼女は言外にこういっているのだ。


『最下位にビールを飲む権利はない。安物の発泡酒かノンアルで我慢しておけ』と。


「おもしれぇ……」

「これは逆に負けられなーい……!」

「無謀な挑戦だと鼻で笑ってあげるよ」


 これは、いつものように恥や酒を賭けたゲームではない。

いわば、己がブライドを賭けた真剣勝負。


「うむ、では早速準備にとりかかるがよい!」

「「「ははっ!」」」


 どこにいようと、ノリだけは良い俺達であった。


************************************************************


「今更だが、わざわざキャンプ来てやる事か、コレ?」

「どうしたのさ、突然?」


 目の前に用意される、複数のプラコップと目隠し。

それを見て俺はこんな所まで来て何をしているんだ、という気持ちになる。


「キャンプなんぞ自然を感じながら、飲み食いするだけであろう? 我らの場合はそれが酒を飲む方向に強いだけでありんすよ」

「……たしかに」


 景色を楽しんだ後は、飯食べて寝るだけだ。友達がいれば雑談したり、ゲームしたりするだろう。だが、それは家にいても同じだ。キャンプとは非日常感を味わいながら普段通りに過ごすという矛盾を秘めたものなのかも。


「なんでもいいからー、はやくやろー」

「そうだね。じゃあ、言いだしっぺから始めようか」

「望むところでござるよ」


 西代が安瀬に目隠しを取り付ける。この目隠しは先ほどのハンカチだ。

もちろん洗ってある。焚火で干したのですでに乾いていた。


「見えてないよな?」

「うむ。視界不良である」


 よく分からないが見えていないなら、それでいい。

 俺はコポコポとコップにビールを注ぐ。どれに注いだか忘れないようにしなければ。銘柄は全部で5種類。先ほど言っていた各々が好きなものにバドワイザーを追加した。


「できたぞ。あ、でも動くなよ安瀬。火があって危ないから」


 目の見えない状態で動いて、火に突っ込んだら大事故になってしまう。


「俺がコップ持たせるから」

「頼んだでありんす」


 そう言って、コップを安瀬の目の前に持っていき手を取って握らせてやる。


「ん」


 彼女は少し驚いたようにピクッと反応した。目の見ない状態で急に触られたので驚いたのだろう。だが、動揺を見せたのは一瞬ですぐに酒を煽り始めた。


「……ふぅ、次じゃな」

「口直しに、水も用意したよー」

「不要である」

「随分と強気だね」

「まぁの」


 俺は彼女の催促に従って、次々にビールを持っていく。

そして5杯全てを飲みを終わったところで、安瀬はニヤリと笑って自信満々に答えた。


「順番に言うぜよ、ハイネケン、エビス、コロナ、ブラックラベル、バドワイザーじゃな」

「お、おぉ、凄いなお前」

「全問正解だよ」

「やるねー、安瀬ちゃん……!」


 まさか全て完璧に言い当てるとは……。

不正の余地も今回はないし、大した味覚だ。


「我の素晴らしき感性が露見してしまったの! 自信を無くすな、凡庸な諸君よ!!」

「安瀬ちゃんてー、性格以外は割と完璧人間だよねー」

「これは負けていられないな。次は僕がやろう」


 そうして俺たちは安瀬に負けじとゲームを進める。

酒飲みの誇りを賭けてはいるが、その絵面は何とも地味だ。


西代の結果は。


「3つ正解か。まぁ、惜しかったね」


俺の結果。


「2つか。やっぱり、このゲーム普通に難しいぞ」


そして、猫屋は……


「ぜ、ぜんぜん分かんなかったー……」


 まさかの全問不正解。

頭を抱えて地面に跪く彼女。どうやら酒飲みのプライドがそうとう傷ついているようだ。だが彼女の辛党ぶりから惟みるに、この結果は正直予想できていた。


「やっぱり味覚音痴はお前か」

「納得の結果であるな」

「当然の帰結だね」


 味の分からない彼女はこれからビールを飲む必要はない。

発泡酒で十分であろう。


「お、おビール様に合わせる顔がないーー!!」


 猫屋の悲痛の叫びをゲラゲラと笑って、楽しく夜を過ごしたのだった。


************************************************************


 時間は深夜。場所はテント内。

明るい焚火は消え失せ、俺たちはとっくに就寝していた。


 俺は地面から浮いた就寝台の上で目を覚ます。むろん、寝袋の中でだ。


(…………なんだ?)


 何か軽い衝撃があった。体をゆすられるような感覚。

ぼんやりとした意識でその正体を探る。


「すぅ……」


 西

俺の意識は驚きのあまり一気に覚醒する。


「っ! ばっ……!?」


 思わず大声を挙げそうになった。今この状態で叫んで他二人を起こして、この場面を見られるのは非常にまずい気がした。いつかの野球拳の再来を感じる。


「…………なんだい? うるさいね」


 俺の漏れでた声を聞いて西代が目を覚ます。うるさい、ではない。

寝ている二名を起こさない様に、静かな声で理由を問いただそうとする。


「お前、なんで俺の寝袋にいるんだよ……!?」

「あぁそんな事か、冷え性でどうにも寒くてね。ビールを飲みすぎてしまったようだ」


 そういう彼女の体は確かに冷たいような気がする。

密着しているせいか、体温と肌の感触がじかに伝わってくる。


「そこは普通、同性のところに行くだろうが……!」

「彼女らのコットはせまいだろう? 陣内君のは大きくて耐久性が高いからさ」


 確かにキャンプギア購入の際、俺のだけは大き目で耐久性があるものを購入しておいた。寝袋も女性陣と比べて広く厚い。


「い、いやそれでもな……」

「別に陣内君ならいいだろう? とにかく寒いんだ……」


 そう言うと、彼女はさらに体を押し寄せる。胸や太腿の感触がダイレクトに伝わってくる。ドクンっと心臓がはねた。……酒が足りていない。

俺の事を安心な湯たんぽとでも思っているのであろうか。彼女の髪から香る、蜂蜜のように甘い匂いに理性が刺激される。


「あったかいね……」


 俺の気持ちなどは知らず、西代は気持ちよさそうに再び眠り始めた。

今すぐにでも、酒を摂取したいがこうなってしまうと抜け出すのは困難だ。


「…………」


 仕方がないので、このまま眠る事にする。幸いにも酒は抜けきっていないようで興奮はそこまで強くはない。俺の事よりも寒がっている彼女を優先すべきだ。

冷え性というのは大変の様だし。


 スッと西代の背に手を回し、軽く抱きしめる。こうした方が暖かいはずだ。

小さい彼女がすっぽり体に収まる。何故か俺も少し安心した。


 明日は早く起きて、朝から火を焚いてやるか。

他二人に見つかるのも揶揄われそうで嫌だし。


 そんな事を考えながら、俺は西代と仲良く一緒に就寝した。

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