第303話 永遠の見つけ方
「少しでも気分を出したくて。父の使っているグラスですが」
愛さんは恥ずかしそうに言いながらも、戸棚からシャンパングラスを持ってきてくれた。そこにジンジャーエールを注ぐ。淡い色の炭酸が美しく、彼女の微笑を映し出す。
「センパイ知っていますか。ジンジャーエールは、もともと生姜のエール……つまりビールの仲間のような存在として誕生して、アルコール飲料だったのですが、炭酸技術の発展で発酵に頼らずに泡を作り出せるようになったので、今のノンアルコール飲料になったそうですよ」
さすが、才女の呼び名が高いなと素直に思う。こういう知識もあるんだな。
「知らなかったよ。だから、禁酒法時代のアメリカでもアルコールの代わりに飲まれていたんだな」
「そうですね。まあ、アメリカ映画の受け売りですが」
ちょっとだけ早口になりながらも、彼女は嬉しそうに笑う。たぶん、緊張しているのだろう。俺だってそうだ。
「じゃあ、乾杯」
「はい、乾杯。美しい流星群に」
チンと小さく乾杯しながら、俺たちは少しだけ大人になったような気分でジュースを飲む。雰囲気に酔ってしまいそうになりながらも、俺たちは二人だけの夕食を始めた。
「クリスマスディナーの時もステキでしたが、私の家でこんなに楽しいパーティーをしているのもなんだか不思議です」
「たしかに。飲み物のグラスを変えるだけで雰囲気が違うよな」
「センパイは、二十歳になったらまずは何を飲みますか?」
「ああ、ウィスキーがいいかな。亡くなった父さんがウィスキー好きだったからさ」
できたら愛さんと一緒に飲みたいなと思ったけれど、同級生でないのが残念だ。
お互いに緊張しているのか、どこか口数が少ないけれど、それが不快ではない。俺たちにとっては無言でも安心できるというか、一緒にいさえすれば幸せというか。
楽しく食事が進んでいく。
「センパイには、あまり心配をかけたくないので言っておきますね。他の人には言えないのに、あなたには嫌じゃないから……母が亡くなる前に同じように流星群があって、家族みんなで見たんですよ。その時、ニュースでお母さんが次の流星群を知って……次もみんなで一緒に見ようねって」
ゆっくりと家族の大事な話を語ってくれる。ぽつりと言葉を漏らすように……続けてくれた。
「だから、その約束がはたせなくなって、ずっと見ることが怖かったんです。星を見るのが大好きだったはずなのに、それが呪いのようになって。でも、センパイと一緒なら、それも越えられる。たぶん、あの日のことが呪いではなく、大切な思い出に戻すことができると思うから。いつもわがままばかりでごめんなさい。甘えてばかりで……」
何度も自分を否定しようとしてしまう。でも、俺にとってはそうじゃない。だって、好きな人にそう言ってもらえたということは、俺たちが進んでいる方向が間違いではないという証明だから。
俺は自己否定の沼に陥りそうになっている彼女を引き上げる。強くキスすることによって。一瞬、驚いたように目を見開いた彼女は、すぐに目を閉じて受け入れてくれた。
「違うよ。あの日、俺に希望をくれたのは愛さんじゃないか。甘えているとかそうじゃない。頼りにしてくれ。俺があの日、そうだったように」
うまく言葉にできないけど、それでも気持ちは伝わったと思う。愛さんは、キスを返してくれた。長い間、俺たちの唇は、繋がっていた。
あるはずがない永遠を俺は見つけることができたように思った。
ふっと、キスを終えた後でお互いの息が重なる。
先に口を開いたの愛さんだった。
「まだ、流星群までは時間がありますね」
時計を確認すると、あと二時間くらい余裕がある。
「うん」
「一緒にお風呂にでも入りますか?」
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