分身ロボット「オリヒメ」で孤独を解消する オリィ研究所代表の吉藤オリィさん(38)

TOKYOまち・ひと物語

「役割があることで対話も、出会いも生まれてくる」と話す吉藤オリィさん=東京都中央区の分身ロボットカフェ DAWN ver.β(鈴木美帆撮影)

「移動と対話と役割を克服することで孤独は解消される」。分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」を開発したオリィ研究所(東京都中央区)代表の吉藤オリィさん(38)はこう強調する。オリヒメは移動が困難な人の「分身」としてさまざまな場所に赴き、仕事やコミュニケーションを行う。不登校だった自身の経験や人と人との出会いの大切さから生まれた「孤独の解消」というテーマに、オリヒメとともに取り組んでいる。

操作者の表情感じる

同区日本橋本町にあるカフェ「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」。席に着くと、オリヒメの目が光る。「こんにちは!」と機械音声ではなく人間の女性の声が届き、オーダーや会話ができる。オーダーしたものは自走するタイプのオリヒメ・Dがテーブルへ持ってくる。それぞれのオリヒメは「パイロット」が福岡県などから遠隔操作している。時折顔や手を動かす姿からは、「そこにいる気がする」と吉藤さんは話す。

カフェで飲み物を運ぶ分身ロボット「オリヒメ・D」=東京都中央区の分身ロボットカフェ DAWN ver.β(鈴木美帆撮影)

オリヒメは、外出が困難な人などが遠隔操作し、その場にいるようなコミュニケーションを実現する分身ロボ。操作者の声、首や手の動きをオリヒメが伝え、操作者はカメラを通してその場の状況を把握できる。シンプルな能面のようなデザインで操作者の表情は見えないが、不思議とその人が「いる」ように感じる。

カフェで注文を取る分身ロボット「オリヒメ」=東京都中央区の分身ロボットカフェ DAWN ver.β(鈴木美帆撮影)

「心運ぶ車いすを」

「人が怖いと思っていた」。幼少期に3年半、不登校となった吉藤さん。行きたいのに行けない、できることや居場所がないという孤独を感じていた。「できる限り今楽しいこと探そう」とイベントや習い事に参加する中、中学1年で出場したロボット大会で優勝。翌年の関西大会で準優勝し、達成感と悔しさを感じたことで好転した。ロボットをきっかけに巡り合った師匠を追いかけ、ものづくりの道へ進んだ。

前を向けるようになった吉藤さんが「孤独の解消」を課題として定めたのは17歳の時。「生きるのがつらく、死なないための理由を探していた。だが、このテーマのために生きていこうと決めることで楽になった」と振り返る。

ただ、「価値観の違う人たちと出会って自分との違いを発見する。移動が困難ではその出会いがなく発見もない」。そこで体が動かせなくても「心を運ぶ車いすを作ろう」と大学で開発を進めた。平成22年にオリヒメ初号機が誕生した。

移動と対話、そして役割が、孤独の解消の要素だという。「役割があることで対話も、出会いも生まれてくる」。障害者だけではなく、離島在住、育児や介護など広く移動が困難な人でも、オリヒメが「心を運ぶ」ことで人との出会いを生み出し、役割の創出や孤独の解消につなげる。

将来は自分自身を介護

学校に行けなかったときは、部屋の天井を見続ける日々もあった。「老後、病院で天井を眺め続けることもありえると思う。3年半そういう状態だったので、あの時の孤独な状態を二度と経験したくない」。高齢化社会では多くの人が同じような境遇になるかもしれない。

それを回避するためにもオリヒメを「日常的に使ってもらいたい」という。東京・江東区役所の福祉売店でオリヒメが接客するなど企業や自治体、学校などさまざまな場所で導入が進む。

将来的には、オリヒメで「自分を介護できるようにしたい」ということも思い描く。一方で、「自分でなんでもできる時代は理想的でありつつ、それは誰からも必要とされない世の中を作っている」という。頭脳労働も肉体労働も人工知能(AI)がカバーする時代が想定される中で、「私たちは誰かに必要とされるのか。必要とされなくても、孤独にならずに生きていく術を手に入れることができるのだろうか。より人間としての価値が問われる」と考える。

「人は近しい悩みを抱えている人たちと出会い、相談を聞いてもらったり、一緒に喜んだりしたい生き物」と感じる吉藤さん。それには同じ人である必要性がある。オリヒメはロボットの姿をしているがAIではなく、その向こうには人がいる。「会話をしてその人に出会えたことが価値につながる」。心を運ぶオリヒメを通じて人との出会いを広げ、孤独の解消を追い続ける。(鈴木美帆)

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