未熟なヒーローには夢がある
遅れてしまいましたがもりちあ誕生日おめでとう!
もりちあが級友に、流星隊にひたすら愛されていてほしいと言う想いの元書きました。
少し未来のお話です。
回収していないストーリーがあるので、ゲームとの内容に違いが生じているかもしれませんがご容赦下さい。
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「どうだい千秋。楽しんでくれているかい?」
天祥院、と守沢は微かに呟いた。
ワイングラスを片手に守沢の傍に行き、ちらと彼の顔を覗き見る。
守沢は、眼前に広がる光景に思わず目を細めて微笑んだ。
「あぁ、最高に楽しいし嬉しいぞ。こうやってみんな集まってくれているのだからな」
学院を卒業しそれぞれ忙しい日々を送る中で、彼らにとっては取り留めもないない「守沢千秋の誕生日」の為に時間を割いて集まって、祝ってくれているのが嬉しいのだと、守沢は顔を綻ばせた。
「いつも人の目を気にして行動しなければならないから、「誕生日パーティー」と言う大義名分で「多少羽目を外しても咎められない」状況をみんな楽しんでいる。みんなが笑顔だと、俺も嬉しいな☆」
守沢の誕生日を祝うにあたり、天祥院は普段贔屓にしているレストランを貸し切って、この場を用意した。
声をかけた旧友達も殆どの者が快諾してくれ、満を持して開催された守沢の誕生会は、未だに活気が衰えていない。
守沢の言う通り、芸能人として他人の目を多少なりとも気にして過ごしている面々にとって、天祥院が用意した会場で、見知った者しかいない空間であるが故に安心して盛り上がれるという事が一つの要因であるのは確かだろう。
けれど、きっとそれだけが全てではない。
「今日は君が主役なんだからさ。余計な事は考えずに、千秋はただただみんなからの気持ちを受け取ってほしいな」
卒業してこれだけ年月が過ぎていても、千秋を祝う為にみんな集まったんだから。
天祥院は、守沢のかけている「本日の主役」と書かれたたすきをトンっと指で叩いた。
「本当はみんなの誕生日も毎年祝いたいくらいなんだけど…流石に僕もみんなも仕事している中でその都度集まるのは難しいからね」
「みんな学生ではなくなったんだ、仕方ない事だろう。…だが、どうして今頃俺の誕生会をしてくれる気になったんだ?」
学院を卒業してもうすぐ十年が経とうとしている。
みんな良い大人になった。
天祥院がこの場を設けてくれ、可能な限りかつての仲間が集まってくれている事は純粋に嬉しいが、何故今年に限り突然この様な機会を作ってくれたのか、守沢には些か疑問だった。
「それこそ深く考えなくて良いんだよ」
強いて言えば、最近多忙気味な千秋に、少し休憩の場を設けてあげたかったからかな、と涼しい顔で言われてしまえば、守沢はその答えに納得するしか出来ない。
天祥院に何かしら思惑があってもなくても、こうやって楽しい場を提供してくれている事が嬉しいのは事実だ。
振舞われている料理に守沢の好きなフライドポテトや真っ赤な苺のケーキが用意されている事、苦手な茄子料理が用意されていない配慮も守沢の胸を暖かくさせた。
―この賑やかで優しい空間を、流星隊のみんなと共有したかったと思う程には。
「流星隊のみんなにも声をかけたのだけど。みんな今日は都合がつかないと言われてしまってね」
天祥院の言葉に守沢は苦笑して頷いた。
「あぁ、…分かってる。流星隊のみんなには、今日来られないと謝罪があったからな。だが、改めてみんなで集まって祝ってくれるそうだ」
この場を共有出来ないのは残念だが、みんなが開いてくれる誕生会も今から楽しみだ、と守沢は告げる。
その言葉に、天祥院はいつものように柔らかく微笑んだ。
彼の瞳の奥に微かに不穏な色を感じた気がしたが、あまりに一瞬であった為、自身の気のせいだと、生まれた違和感をすぐさま彼方へ追いやる。
「もりっち~!どう?楽しんでる?」
天祥院と話していた守沢に、羽風から声がかかる。
隣には瀬名もおり、二人は守沢の傍に寄って来た。
凄く楽しいぞ、と感想を述べれば、二人は満足そうに胸を張った。
「当たり前でしょお。俺らも段取り考えたり準備手伝ったりしたんだから」
「この後ももりっちが驚くような事を準備してるから、楽しみにしててね」
曰く、クラスの中で守沢と行動する事が多く、且つ卒業後もそれなりに交流がある二人なら、より守沢が喜ぶものが提供出来る筈だと天祥院が声をかけていたらしい。
天祥院の気遣いと、忙しい中協力してくれた二人の優しさが嬉しくて、いつも通り感謝の気持ちを表そうと三人まとめて抱きしめた。
うわ、と小さな悲鳴が上がるが、逃げたり剥がしたりしない所を見ると、誕生日だからかいつもより大目に見てくれているのだろう。
暫くして満足した守沢から解放された後、瀬名は軽くため息を吐きながら守沢に問うた。
「そう言えば、三毛縞からはメッセージか電話かあったの?」
自他共に認めるお祭り男は現在海外におり、物理的にここに来るのは難しいらしく渋々不参加を申し出ていた。
一度は同じユニットだった間柄だ、学院時代から三毛縞が殊更守沢の事を気にかけていた事を、瀬名は知っていた。
「ん?朝一直接祝ってもらえたぞ」
流石にこの年になってだっこされるのは恥ずかしかったがなぁ、と苦笑する守沢に、瀬名だけでなく羽風や天祥院も目を見開く。
詳細を問えば、守沢はキョトンとした顔を見せながらも応じた。
「俺の誕生日を祝う為にわざわざ帰ってきてくれたらしくてなぁ。それでも朝の少ししか時間が取れなかったらしくて、その後すぐ飛行機に乗って戻ると言っていたぞ」
天祥院から声がかかった時に三毛縞が断った理由は間違いなく本当なのだろう。
だが、そんな中でどうにか時間を見つけて、守沢を祝う為だけに帰国していたらしい。
「何て言うか…あの人らしいね」
「俺も久々に会ったが、三毛縞さんがあまりにも変わらなすぎて高校生の頃に戻ったみたいだったぞ。…本当に、今でも太陽みたいな人だ」
「太陽?台風じゃなくってぇ?」
瀬名が怪訝そうに眉を顰める。
守沢は、当時を思い出しているのか遠くを見つめながら言葉を紡いだ。
「感じ方は人それぞれだ。俺にとっては三毛縞さんは、今でも太陽で、ヒーローで、憧れだ。…俺なんかよりずっと、流星レッドに相応しい人だったのに」
無意識のうちに拳に力が込められた。
羽風と瀬名が顔を見合わせる中、天祥院だけは守沢から視線を外さずに真っすぐに見据えている。
「君たちの返礼祭、未だに僕も覚えているくらいだから、千秋はもっと鮮明に覚えている筈だよ。あれだけの事をしてくれた後輩を見てもまだ、自分がレッドじゃない方が良かったの?」
天祥院の言葉を聞き、守沢の脳裏にあの日の出来事が、返礼祭の事が蘇る。
自分が、深海が一年間やってきた事は無駄ではなく、自分の意志は今後も受け継がれていくのだと、思い出すだけで胸が熱くなる。
彼らの想いは十分に伝わっているし、その気持ちを疑う事はない。―けれど。
「未だに思うんだ。あの時俺がすべきだったのは、流星レッドの名を代わりに享受する事ではなく…三毛縞さんをレッドにする事だったのではと」
泣いて縋れば三毛縞は最後まで流星隊として傍にいてくれたかもしれない。
眩しい程の輝きを持つヒーローになってくれたかもしれない。
混沌の時代と化していたあの時、自分に手を伸ばす勇気があれば。
三毛縞の手を掴んで、行かないでと告げられていたら。
深海に、こども達に要らぬ苦労をさせずに済んだのだろうか。
「流星隊のみんなは優しいからな。こんな俺でも未だに隊長、と慕ってくれている。三毛縞さんが隊長だったら、しなくても良い苦労だってあった筈なのに…」
自分が隊長を務めてしまったせいで、一体どれだけの苦労を仲間にかけてしまったのだろう。
流星隊に入った事をみんなに後悔させないように努力はしたが、きっと至らない点の方が多かった筈だ。
みんなに対する罪悪感は、学院を卒業した今でも、まるで重い鎖のように守沢の身体に纏わりついている。
「おかしいだろう、あの子達は流星隊を、俺の意志を立派に継いでくれたのに。感動的な返礼祭までしてくれたのに。今でも俺がレッドじゃなかったらと、罪悪感が拭えない。身体中に絡まって、時々息苦しくなる」
特撮の主演だってやった事あるのに、これじゃあいつまで経っても未熟なヒーローのままだな。
そう言って守沢は痛々しく笑う。
いつかこの罪悪感をも昇華させられる程に強くなれば、本当のヒーローになれるだろうか。
未熟なヒーローの姿に、見てらんない、と瀬名が顔を背けた。
「千秋は、自信がないんだね。千秋にとっての三毛縞くんのように、君も誰かのヒーローなのに」
天祥院の言葉に守沢は困惑する。
いつだってテレビの中のヒーローや、三毛縞の真似事をしてきた、未熟な自分が、誰かのヒーローである筈がない。
そう口にしようとした瞬間、守沢の後頭部に衝撃が走る。
ぐわん、と視界が揺らぎ、思わずよろめいてしまう。
ひぇ、と微かな悲鳴が羽風の口から漏れた。
敵襲か、と鈍痛を訴える後頭部を抑えながら後ろを振り向けば、そこには―。
「ちあきが、つまらないことでなやんでいるきがしたので~」
「ちょっと深海先輩、急に飛び出しちゃ駄目っスよ~!」
「せっかく先輩方が段取りを考えてくれていたのに、台無しにしちゃったでござるな」
「、…」
「奏汰!南雲、仙石、高峯も…!それに、その恰好…!」
不参加だと言っていた流星隊の面々が、あの頃の衣装を身に纏って勢揃いしており、守沢は目を見開いた。
四人の手には武器になりそうなものが握られていない事から、先程の衝撃は恐らく深海の手刀によるものだと判断する。
彼に本気の手刀をされれば相手は痛みに蹲るか、最悪意識を飛ばすかなので、深海なりに手加減はしていたようだ。
後頭部を抑える守沢の手を外し、深海は彼の頭を労わるように撫でる。
「ごめんなさいね~。てかげんはしたんですけど」
あっちにすわりましょう、と深海は立っていた守沢を空いている席へ案内し、そっと座らせた。
椅子に座り、改めて皆を見上げる。
守沢達に着いてきたのだろう、天祥院達の姿も確認できた。
羽風は苦笑しながら、深海に話しかけた。
「予定じゃ、君達の登場はもう少し後だった筈だよね?」
「本当に!何の為に計画立てたと思ってんの?」
羽風に続いて、瀬名が憤慨しながら詰め寄ってくる。
緻密に組んでいた計画が狂わされて不機嫌なのだろう。
年上に睨まれ詰め寄られるのは未だに怖いのか、深海以外の面々はびくりと身体を強張らせた。
天祥院は瀬名の肩を叩き、一度深呼吸するよう促す。
深呼吸後、ふん、とそっぽを向く瀬名に臆する事なく、深海はごめんなさいね、と再度謝罪した。
「え、と…つまり、流星隊のみんなが来られないと言っていたのは嘘で、この誕生会のサプライズとして登場する予定だったんだな?」
守沢が混乱する自身の思考を整理するように問いかければ、正解だよ、と羽風は頷いた。
「むしろこの会を開きたいと言ったのは俺らっス!ここ数年、隊長忙しくて碌にちゃんと祝えてなかったから…深海先輩に羽風先輩経由で会長に連絡取ってもらって、誕生会を開いてもらったんスよ。最後に俺らがサプライズで登場して、って流れだったんス」
びっくりしたっスか?と南雲と仙石の、悪戯が成功した子供のような無邪気な笑みに、守沢は二人を抱きしめながら肯定した。
「実際は計画に参加した俺らまで驚かされた訳だけどぉ」
「飛び出してきた奏汰くんの気持ちも、分からない訳じゃないけどね」
仕掛け人である羽風達が場を整えるまで、流星隊の面々はインカを通じて会場の様子を覗い知る事が出来た。―勿論、先程の守沢の言葉も聞こえていたのだろう。
聞こえたから、段取りを無視して出てきてしまったのだろう。
羽風がちら、と深海へ視線を向ける。
その視線に促されるかのように、深海は守沢の前に立ち、手に持っていた上着を守沢に羽織らせた。
「これは…」
「ぼくたちがきてて、ちあきがきていないのは『ありえない』ですからね」
懐かしい着心地と深海の言葉に、今自分が羽織っているものは流星レッドの衣装なのだと気付く。
自分には有り余る色だと悩み、迷いながらも身に着け続けたものだ。
「今となっては俺の色でもあるっスけど、やっぱり隊長達と並ぶ時は、こっちの方が落ち着くっスから」
だから今日は隊長が赤で、俺は黒っス!と深海の後ろから南雲が元気に説明する。
嬉しいなぁ、と守沢の口から零れた。
「本当は、俺には相応しくない筈の色なのに。いつまで経っても、お前達はこれを俺の色だと言ってくれるのか」
「…ちあき。ぼくたちにとって、『れっど』はちあきいがいにありえないんですよ。あのごろつきが『れっど』だったら、なんて、そんなことかんがえても『いみ』なんてないんです。だってぼくらの『れっど』は、『たいちょう』は、ちあきだけなんです。ちあきいがい『かんがえられない』んです」
深海の言葉に、守沢は言葉を詰まらせて俯いた。
何と答えて良いのか考えあぐねているようだった。
どうにかして言葉を紡ごうと口を開いてはみるが、喉に膜が貼っているかのように言葉が詰まって出てこない。
深海は、守沢の行動を急かす事はせず、ただじっと、優しい緑色の瞳で見つめている。
漸く守沢の口から零れた言葉は、普段の彼からは考えられない程弱々しいものだった。
「でも…俺は三毛縞さんのようにはなれなかった。俺が不甲斐ないばかりに、沢山苦労をかけて」
「それいじょうは『だめ』ですよ~」
「んぐ」
深海は守沢の口に人差し指を押し当て口を閉じさせた。
目をぱちくりとさせる守沢に、今度は深海が言葉を紡いだ。
「ちあきのそのけんそんは『びとく』ですが、すぎた『それ』はちあきじしんにも、ぼくたちにとってもしつれいです」
みんなにとって失礼、深海のその言葉に守沢の身体がびくりと震える。
緊張しているのだろうか、無意識のうちに膝の上に握っている拳に力が込められた。
「ねぇちあき。ぼくはいまでも、ちあきの『いちばんのふぁん』なんです。だいすきなちあきのことをわるくいうのは、たとえちあきじしんであっても、あまりいいきはしないんですよ」
深海はもう一度「ちあき」と守沢の名を呼ぶ。
穏やかな声色は、まるで羊水の中を漂っているかのように心を穏やかにさせた。
「あのときぼくを『りゅうせいたい』にさそってくれて、ありがとう。こどもたちにあわせてくれて、ありがとう。…だいすきですよ、ぼくの『ひーろー』」
深海はその慈愛に満ちた色の瞳を細めて言葉を続ける。
「『さんきじん』だからとみんなから『へんなめ』でみられるなか、ちあきはぼくのこと『ひてい』せず、なんどもこえをかけてくれた。やりすぎるとおこられるけど、ぼくの『すき』にさせてくれた」
彼は守沢の背後にまわり、大好きな隊長を後ろからぎゅっと抱きしめる。
「『ちじょう』はとてもいきぐるしいです。けれどぼくはにんげんなので、『いきつぎ』しないとしんでしまいます。…みずのなかでしんでしまうなら、それもひとつの『しあわせ』かもとおもっていたじきもありました。けれどいまは、『ちじょう』でいきるのもたのしいなっておもえるんです。そしてできるなら、『いきつぎ』するときにはちあきがそばにいてほしいっておもいます。うふふ、ぼくも『どんよく』になっちゃいましたね~」
深海が背後にまわった事により口元の静止が外れ自由に喋れるようになった守沢は、後ろを振り返ろうとするが、頬に押し付けられた柔らかい感触に身動きが取れなかった。
少し冷たいそれが、深海の頬だと理解するのに時間はかからなかった。
守沢の頬に自身の頬をすり寄らせた深海はご機嫌なのか、楽し気な鼻歌が聞こえてくる。
「か、奏汰…」
「ぼく、あついのは『にがて』ですが、それでもそばにいたいとおもうほどには、ちあきのこと『だいすき』なんですよ。ぼくの『ひーろー』、どうか『れっど』だったことをこうかいしないで」
深海の言葉に、思わず胸が熱くなるのを感じた。
胸の奥からじんわりと、身体中に暖かさが広がる。
もしかしたら、体温も上がっているのかもしれない。
熱いのが苦手な深海の為に、自分から離れさせるか自身の高揚を落ち着かせるかしなければ、とどこかふわふわした思考でぼんやりと考える。
「隊長殿!」
深海にばかり気を取られていたが、その声に引き寄せられたかのように、眼前の子供達に視線を向ける。
黄色の衣装に身を包んだ彼は守沢の赤い瞳に見つめられると、緊張してしまったのか多少おどおどした後、意を決したかのように守沢にぎゅっと抱き着いた。
「うぉ!…仙石?」
「あの日…藤祭で言った事を覚えているでござるか?『流星隊にちっとも不満なんかない、後悔なんかするわけないって、今から確信している』って拙者の言葉を。隊長殿が拙者達に隠れて色々な事に悩んで、苦労してくれたから、拙者達を守ってくれていたから。後悔なんて言葉が頭を掠めもしないくらい、ずっとずっと楽しかったでござる!」
身体にまわされた仙石の腕に力が籠る。
自分の気持ちを形容するのが得意な方ではない仙石が、必死に言葉を紡ごうとしている姿を邪魔してはいけないと、守沢は仙石の肩に軽く手を置くに留めた。
「隊長殿は、拙者の好きなものを否定しなかった。むしろ好きなだけやれば良いと、背中を押してくれたでござる。この年になって、と虐げられるだけだと思っていた拙者の夢を、諦めなくて良いんだと言ってくれた…その言葉に、どんなに救われたか。拙者、流星隊で良かったと心から思えるのは、隊長殿が隊長だったからだと思うんでござるよ」
仙石は、蜂蜜色の瞳を蕩けさせ、ふにゃりと優しい笑みを守沢に向けた。
「隊長殿はあの頃からずっと拙者のヒーローでござるよ。これからは拙者が、何度だって伝えるでござる!」
仙石の言葉が嬉しくて、守沢は、肩に置いていた手を仙石の頭に移動させ、ポンポンと優しく頭を撫でる。
まるで猫のように目を細めて心地良さそうな仙石の表情に、心が穏やかさに満ちる感じがした。
「…次は俺が行くっスね!」
守沢に後ろから抱き着く深海と、前から抱き着く仙石を見ながら、南雲はよし、と一息ついて一歩踏み出す。
ちらりと一瞬、彼の視線が高峯を絡めるが、再び視線を守沢に戻した。
「隊長!」
仙石の頭を撫でていた守沢は、南雲の呼びかけに応じ視線を上げる。
腕を組んで男らしく仁王立ちする姿は、彼が尊敬している鬼龍を彷彿とさせた。
意識してそうなったのか、無意識化でも似た仕草をするようになったのか。
ブラックからレッドへの変身を見事にやり遂げた南雲の姿は、小さな鬼龍と称しても遜色ないと思う程に、彼は大きく、強く成長しているようだ。
「…俺は忍くんと違って、最初は後悔ばかりしてたっス。本当は紅月に入りたかったのに落ちてしまって、そんな時に誘われたから仕方なく流星隊に入って…入ってみれば隊長は子供みたいな夢をいつまでも追いかけてるし、深海先輩は訳分かんないし、忍くんも翠くんもちょと変わった子だし、俺このユニットに入って大丈夫なのかなって」
「…南雲」
守沢が眉を下げてすまなそうな顔を見せる。
今にも「すまない」と謝ってきそうだ。
だから、南雲は守沢にこれ以上口を開く隙を与えなかった。
「でも!いつの間にか、そんな不安どっかに飛んで行っちゃったっス。いつからか、紅月に落ちたショックよりも、流星隊のみんなと一緒にいる楽しさの方が勝っていて。何より、流星隊にかける隊長の想いを、俺達に苦労をさせまいと尽力する優しさを知ったから…だから俺は、あんたの想いを、流星隊を、その色を継ごうと思ったんスよ」
一人で全部抱え込んでしまうのは、褒められた事じゃないっスけどね、と付け加えられた小言に、守沢は苦笑する。
「隊長になって思ったっス。隊長がいつも当たり前のようにやってくれていた事が当たり前じゃなくって、みんなに苦労をかけないように行動するのがどんなに大変な事なのか。結局俺は忍くんと翠くんに支えてもらいながら、何とか隊長をやり遂げる事が出来たっス」
隊長って難しくて、大変なんスね、とため息をつきながら、しかしスッキリとした表情で守沢に向けて拳を突き出してくる。
「だからこんな大変な事をやり遂げた隊長を、実は部長と同じくらい尊敬してるんスよ。リーダーは、俺の自慢の立派な隊長で、ヒーローっス!今までも、そしてこれからも」
だから自信を持って欲しいっス、と力強く語る南雲の拳に応えるように、守沢も自身の拳を上げた。
コツン、と拳のぶつかる音がする。
微かな痛みを伴う衝撃でさえ幸せに感じる。
ぶつけた拳の向こうで、南雲が満足そうに微笑んでいた。
やがて拳を下ろした南雲が守沢の横に控え、ポツリと仙石の名を呼ぶ。
呼ばれた仙石は南雲の意志を汲み取ったのか、名残惜しそうに守沢の懐から離れ、南雲と同じように守沢の横に控えた。
「…隊長」
「高峯」
高峯は他の面々のように思いを行動で表現するのが苦手だから、いっそ自分からいつものように抱きしめようか。
守沢がそんな事を考えている間に、先に行動を起こしたのは高峯の方だった。
「ねぇ隊長。みんなにヒーローだって言われて、それでもまだ、自分はヒーローじゃないって思うんスか…?」
高峯の問いに守沢は微かに唸り声を上げる。
「だがしかし、俺はあの人のような太陽では…」
「っ、あんた以上に眩しい人がいてたまるか!」
高峯の声に、思わず身体が強張る。
会場中に響いたその声に、部屋がシン、と静寂に包まれる。
「目を閉じても瞼の裏に焼き付いて離れないような光を放っといて、自分が太陽じゃないなんて、あんたは自分の存在を、価値を分かってなさすぎる!」
高峯の蒼がかった瞳は、守沢を見据えて離さない。
「あんたがどれだけあの人に憧れているのか、自分に自信がないのか知らねぇっスけど。…あんたは十分すぎる程、眩しいくらいの光になってる。俺はそれを、誰よりもよく知ってます」
高峯は一呼吸置き、再び言葉を紡ぐ。
「いい加減自覚して下さい。先輩はもうとっくに、色んな人にとっての太陽になってるんスよ」
未熟なヒーローなんかじゃない。
だって俺は、あんた以上にヒーローらしい人を知らないんスから。
高峯の言葉が、守沢の頭を揺さぶる。
自分の見ている都合の良い夢なのだろうかと、すぐに信じられないくらいには。
そんな守沢に向けて、高峯は言葉を続ける。
「俺、ちゃんと変身出来るようになるまでに、あんたの一年を使わせちまったけど」
高峯は目を閉じて一拍置き、懐かしくも見慣れたポーズを取った。
「緑の炎は、慈愛の証。無限に育つ、大自然!流星グリーン、高峯翠…!」
「たか、みね…」
「…ふふ、久々にやると少し恥ずかしいですね。でも、今は恥ずかしがってるだけじゃいけないんで。ねぇ守沢先輩。見ていてくださいね?…俺の変身」
高峯は守沢の前までやって来ると、スッと流れるような動きで椅子に座る彼の前に跪いた。
高峯、と慌てる守沢の声を無視して、高峯はそっと手を差し伸べた。
「隊長が卒業してから、俺、隊長の目指すヒーローになる為に頑張ろうって決めました。先輩に比べたら今でもまだまだ未熟な、駆け出しのヒーローだけど。叶えたい、たった一つの夢があるから」
ゆめ、と守沢の口が彼の言葉を反復するかのように動いた。
「夢を叶える為の大きな一歩を、今日踏み出したいんです。…だから、何も言わずにこの手を取ってくれませんか」
守沢は高峯の手をじっと見る。
蒼い瞳は守沢から少しも揺らぐ事はない。
高峯の意図は読めないが、愛する仲間の「叶えたい夢」の為になるのであれば、行動に移さない理由はなかった。
高峯が何を考えているのか分からない事が一つ懸念要素ではあるけれど、守沢は迷う事なくその手を取った。
途端、ぎゅう、と強い力で握りしめられ目を白黒させる。
「俺はきっとどれだけ頑張っても先輩みたいにはなれないし、太陽にもなれない。だけど、だからこそ。太陽を支えられる存在でいたいんです」
「そんな事ないぞ高峯!きっとお前なら、いつか誰かの太陽に…!」
「あぁもう、そんな事言って欲しいんじゃなくて…。返礼祭のあの時から、俺はずっと、あんただけのヒーローになる事が夢だって言ってる!」
見当違いな方向に励まされようとしたのを察知し、守沢の言葉に畳みかけるかのように高峯は言葉を紡ぐ。
高峯の想いに、守沢は思わず言葉を詰まらせた。
「分かってますよ、あんたが誰かに救われたいと思うような人じゃない事も、今の俺じゃ力不足だって事も。だけどいつか、絶対叶えてみせます」
かつて抱いた夢を諦めない事を誰よりも熱く語ってくれたのは、誰でもない、隊長だったでしょ?
そう告げれば、思い当たる節はあったのか守沢は言葉を失い口を閉口させる。
流石に、いつもみたいにお前なら出来るって言ってくれないんスね、と悲し気な声色で呟かれると、守沢は更に狼狽えるしか出来ない。
「あの頃あんたが何度も手を差し伸べてくれたように。俺も手を差し伸べるのをやめないっス。先輩が、何度拒んでも」
あぁでも、ずっと手を振り払われると流石に傷ついちゃうんで、いつか握り返してくれると嬉しいですね、と微笑む。
高峯のめったにない笑みに胸が締め付けられるかのような感覚に陥る。
かろうじて出した声が少し裏返っていたのはご了承いただきたい。
「お…お前、言ってる事とやってる事が違うぞ!振り払われるつもりなんて、一切ないじゃないか!」
高峯の行動に何度も手を離そうとしたのだが、その度に高峯がまるで逃さんとばかりに力強く握りしめてきて、守沢は高峯から逃れる事が出来ない。
「うふふ、だめですよ~みどりのおもいを『むげ』にしちゃ」
「奏汰、それとこれとは話が…」
「面倒くさがって名乗りすら適当だった翠くんが、隊長の前でここまでやったんスから、すぐには受け入れられなくてもせめて受け止めてほしいっス!」
「南雲、でもな…」
「隊長殿。隊長殿は立派なヒーローでござる!…でも、四六時中ヒーローでいたら、いつか疲れ切ってしまうでございるよ。少しだけ。少しだけ息抜きをしてほしいんでござる」
「仙石…」
仲間の援助に背中を押され、高峯が再び口を開く。
「良いですよ、足掻いてもらっても。でも俺は絶対諦めないんで…いつかあんたがこの手を本当の意味で受け入れてくれるまで」
あぁでも、と高峯は付け加える。
「そうなったら嬉しすぎて、二度と放したくなくなるかもしれませんね。…ふふ、楽しみだなぁ。覚悟してくださいね、『俺のヒーロー』…♪」
掌から伝わる熱に、高峯の言葉に、火傷してしまいそうだ。
何故だか流星隊のみんなは高峯を応援しているようだし、と助けを求める視線をかつての級友達へ向ければ、楽しそうに手を振る天祥院達の姿が見えた。
「言ったろう?君も誰かのヒーローなんだと」
「偶に出る守沢の見当違いなネガティブにはうんざりしてたんだよねぇ。ここでそいつらに、嫌って程教えてもらったらぁ?守沢、あんたは存外、みんなに愛されてるんだから」
「ヒーローが救われてはいけないなんてセオリーはないしね。もりっち、仲間達の成長を受け止めてあげなよ」
傍観を決め込む三人を薄情者と罵っていると、ぼくらからめをそらしちゃ『や』です~と深海が守沢の首に回している腕に力を込める。
流石に苦しいぞ、と守沢が悲鳴を上げるのを皮切りに、両隣の仙石と南雲も守沢に抱きしめ始め、ついには高峯までもが守沢を抱きしめる。
正面から高峯に抱きしめられ、鼓動が一段と大きくなってしまった理由を、その時の守沢は知る由もなかった。
皆にもみくちゃにされながらも幸福に満ち溢れている守沢の、ポケットに入れられていた携帯が微かに震える。
誰かからの、メッセージを受け取った振動のようだ。
携帯の通知画面には、受けとったばかりのメッセージが表示されている。
『いつまでも君らしく在れ、千秋さん!そんな魅力的な君は、誰よりも立派なヒーローだ!』
仲間からの熱い想いと、憧れの人からの言葉に、守沢が堪えきれなくなって思わず涙を零すまで―後、少し。
コメント
- にゃーみぽん2018年9月21日