ラスティ・〝フェルケール〟・ザ・ワイルド

三河筆刀齋(三河蕾花)

芽吹きの夜

   ✕


 銃声、銃声、銃声。差し込まれるのは砲弾の炸裂音。市街地が戦火に焼かれている。

 相手は、にはなんの脅威でもなかった魔物たち。

 魔物の多くは脅威ではなかった。彼らはすでに人類に飼いならされ、生態素材の回収のため、研究資材のため繁殖・飼育されていた。

 それらが、なにかに触発されたように突然暴走した。

 理由は自分にはわからなかったが、まわりは「種子に当てられたんだ」とか「あの野郎、強行したのか!」などと喚いている。

 夜天が赤い。燃え盛る業火が空を紅蓮に染めていた。


 ラムジェットエンジンのキンキンうるさい音が迫った。救援用のカナード翼のヘリが接近してくる。

「こっちだ! 子どもがいる!」

 しかし、ヘリは次の瞬間魔物に飛びつかれた。陸を八足で走る巨大なタコだ。


「旋回しろ!」「振り落とせ!」と無線音声が響くが、その声も激しいノイズにかき消された。


「どういうことだ、通信が……」

「まさか、磁場花粉チャフポレン?」

「それはあくまで最悪のシミュレーションだろう! ありえない! なぜすでにそれが――」


 白衣の男女が激しい口論をする傍らで、ヘリはそのまま制御を失ってビルに突っ込んだ。

 爆炎を上げて、最新鋭の高速ヘリが無惨な屑鉄に変わる。

 少年は世界の終わりを、この夜実感した。


 そのときである。

「見ろ!」

 彼方から、ごりごりと地面を突き破るものがあった。

 頑健なアスファルトを粉砕して伸び上がるのは「木の根」であり、それはビルをいくつもなぎ倒しながら、文字通りに根を張っていく。

「よく聞きなさい、これから要人用シェルターに急ぐ」

 男性研究員の一人が、少年に言った。

「次の時代を生き延びるんだ。なにがあろうとも。いいね」


 少年はうなずいた。

 そこに、使命とか、意志とかはなかった。

 ただ死にたくない。それだけが、少年の胸の内側で燃えていた。


 死にたくない。

 生き延びてやる――。

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