「改正皇室典範」成立を「時代錯誤」と猛抗議する朝日新聞社説。それでいて、男系継承主義の意味を考えない。「天皇制の存続を」とは呼びかけない。男系継承のために知恵を絞ろうとしない(令和8年7月21日)
(画像は朝日新聞社)
17日に国会で成立した「改正皇室典範」について、朝日新聞が激しく反発している。翌18日の社説は「時代錯誤の『物語』」と一刀両断である。まことに穏やかではない。
〈https://digital.asahi.com/articles/DA3S16506579.html?iref=pc_rensai_long_16_article〉
◇1 本音は女系継承容認か
社説が批判するポイントは以下の6点である。(AIクンの要約による)
1、今回の改正は、①女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持できる、②旧宮家の男系男子を養子に迎えられるようにする、の2つが柱だが、本来の「皇族数確保」を超えて、今後の「皇位継承」を規定する内容が法案化の段階で埋め込まれたのは、問題である。
2、事前の立法府のとりまとめで、正面から議題になっていなかった内容が含まれたため、野党から「だまし討ち」との不信感を招き、国会の総意が崩れた強引な手法での成立となった。
3、女性皇族の配偶者や子の身分が不透明なままであること、15歳以上の男系男子の養子について意思による離脱を認めない点など、個人を制度の手段とみなす色彩が濃く、生身の人間としての意思や人権への配慮を欠いている。
4、学術的に実在が確認されていない神武天皇を起点とする「2600年の歴史」や、明治期に確立された男尊女卑的な「男系男子の伝統」という2つの物語に固執している。養子対象の旧宮家と天皇陛下が36〜38親等も離れている点も含め、男女平等を求める国際社会(国連の勧告など)や国民の総意からも乖離している。
5、今回の改正内容は、女性・女系天皇に反対し、男系男子の養子案を推進してきた右派色・神道系の団体(神道政治連盟や日本会議関連団体)の意向と一致しており、高市早苗首相をはじめとする政治家がこれらに左右され、世論の「声なき多数」の意思がくみ取られていない構図がある。
6、したがって、結論として、本改正は国民の総意と乖離し、象徴天皇制の信頼関係を損ないかねないため、あらためて反対する。今後は時代錯誤の物語を克服し、女性・女系天皇への道も含めた開かれた議論を始めるべきである、と社説は主張している。
「時代錯誤」と断罪する批判の中心は、①神武天皇を初代とする歴史観に基づいている、②女子差別撤廃の世界的な流れに逆行している、③養子対象の旧宮家は遠く離れている、の3点かと思われる。結局のところ、朝日新聞としては「女性・女系天皇」容認を訴えたいということであろうか?
◇2 「天皇制の存続」を訴えてない
朝日新聞は、17日の改正皇室典範の成立後、何本もの記事やコラムを、これでもか、これでもかとしつこく載せている。世論調査まで実施している。
1、改正皇室典範、成立 男系養子の子に継承資格 女性皇族、結婚後も身分保持(7月18日)
2、皇室典範、初の本格改正 減少続く皇室 94年26人、いま16人(7月18日)
3、女性・女系天皇の検討は――野党、議論継続求める 改正皇室典範成立(7月18日)
4、(「総意」なき皇室典範改正:上)皇位継承、皇室に重圧(7月18日)
5、(天声人語)男性でも、女性でも(7月18日)
6、深掘り 皇室典範の「男系男子」に息苦しさ 「生むも継ぐも、本来は自分で」 比嘉太一 永野真奈(7月18日)
7、(「総意」なき皇室典範改正:中)養子案、安倍氏源流に急浮上 「女系」高まる世論に危機感(7月19日)
8、深掘り 「私にとっては敗北」野田元首相、2度目 開けなかった女性天皇の道 大久保貴裕 横山輝(7月19日)
9、天皇制「なぜ」続けるのか 皇位継承で不足する議論 連載コラム「日曜に想う」 記者・有田哲文(7月19日)
10、改正皇室典範「国民の理解得られぬ」60% 内閣支持率53%に下落 君島浩(7月19日)
11、(「総意」なき皇室典範改正:下)女性天皇論、2度敗れた元首相 「空気違う」永田町、残った種火(7月20日)
朝日新聞が何を問題にしているのか、といえば、国会運営の強引さのほかに、既述した、①いわゆる皇国史観、②男女平等論、③旧宮家問題のなかでも、たとえば、18日の「天声人語」の場合は、「男系男子に固執した養子制度を導入するだけではない。将来にわたり女性・女系天皇の誕生を遠ざける内容も盛り込まれた」と、男系継承主義に対する批判、男女平等論なのである。ほかにも、天皇制それ自体への疑問さえ投げかけられている。
朝日新聞は一般記事だけではない、社説で、以下のように、この6月以降、何度も繰り返し、典範改正論議について取り上げ、政府を執拗に批判している。
1、皇族数の確保 養子案には疑問が残る(6月9日)
2、皇室典範改正 「総意」の名に値するか(6月12日)
3、皇室典範改正 国民の総意かなうよう(6月23日)
4、皇室典範改正 男系男子への歪な傾斜(6月27日)
5、皇室典範改正 強行すれば禍根を残す(7月2日)
6、皇室典範改正の暴走 このままの成立は許されない(7月10日)
7、皇室典範改正 無体な可決 中道の不実(7月11日)
これらから浮かび上がってくるのは、国民の圧倒的多数が支持しているとされる、男女平等論に基づくところの女性天皇・女系継承容認なのである。
そこで思い起こされるのは、中野正志・朝日新聞記者が書いた『女性天皇論──象徴天皇制とニッポンの未来』(朝日選書。2004年)である。
その冒頭には、「天皇制を廃止したければ、ただ待っていればよい。天皇制が消滅する日もそう遠くないからだ」と明記されていた。女帝論の背後には天皇制批判というよりも廃止論が見え隠れしている。共和政への絶対的信仰であろうか?
朝日新聞の主張は、皇統の存続なのか、それとも廃絶なのか? 18日の社説は、「議論の存続を」とは呼びかけているが、「天皇制の存続を」とは主張していない。
◇3 「時代錯誤」と批判する資格はあるのか
あらためて、18日の社説を検証してみる。
1、まず国会運営について簡単に触れると、社説は、衆参正副議長による「立法府の総意」のとりまとめでは、正面から議題になっていなかったことが法案化の段階で明示された。そのため野党側には、「だまし討ち」との不信感が強いと指摘する。
つまり、当初は、養子の子の皇位継承資格などの詳細な取り扱いまでは、結論として明記されていなかった。ところが、実際に国会へ提出された法案や政府の答弁の段階で、これらが明かされた。それで、野党・立憲民主党などが不信感を募らせたというわけである。
しかしこれはおかしい。
以前、書いたように、平成24年、民主党政権下で、いわゆる「女性宮家」創設が模索され、有識者ヒアリングなどが実施された。その最大の目的は、「高齢になられた天皇皇后両陛下の御公務の負担軽減」および「皇室活動の安定的維持」という緊急性の高い課題に対処することとされていた。
ところが、同年秋に公表された「論点整理」では、「将来、悠仁親王殿下が即位される頃に皇族が減少し、支える人物がいなくなること」へと、目的がすり替わり、元々の緊急課題という前提から乖離していた。支離滅裂だった。
とすれば、立憲民主党の「だまし討ち」批判は当たらない。当時の野田政権の本音が皇位継承問題だったのだとすれば、今回の事態は大歓迎すべきである。朝日の社説は、そう批判すべきではないのか?
2、社説は、国会審議で「男系継承は2600年以上にわたる伝統」といった発言が相次いだことを問題視し、「2600年の歴史」と「男系男子の伝統」のふたつの「物語」を「時代錯誤」と切り捨てている。2600年前の初代神武天皇の実在は学術的に確認されていない。建国神話を歴史的事実として教え、神国思想のもとで、国民を軍国主義に動員した戦前の過ちが繰り返されないか、と懸念している。
しかし、記紀神話に記される年数に科学性があると考えるところに、そもそもの無理がある。神話と歴史学は別である。いっしょに議論するところに、ほかならぬ非科学性がある。
かつてカトリック教会は、天地創造を、旧約聖書の記述をもとに、約6000〜7500年前と計算していたようだが、いまどき誰も信じてはいまい。他方、神社界の専門紙「神社新報」の主筆を務めた、戦後唯一の神道思想家とされる葦津珍彦は、皇紀の使用を避けていたし、新聞にはいまも皇紀の記載はない。
とはいえ、葦津はむろん神武天皇の実在を否定することはなかった。126代の天皇が存在する以上、初代が実在することは理の当然だからである。そして、歴史上、皇統が男系主義で貫かれてきたことは紛れもない事実なのである。
しかし、朝日新聞は126代にわたって皇位が男系継承で貫かれていることにいかなる意味があるのか、そこにいかなる現代的意義あるのか、ないのか、深く考察しようとはせず、逆に思考停止している。そこに問題がある。
しかもである。やれ「神国思想」「軍国主義」「戦前の過ち」と並べ立てているのには、正直、失笑を禁じ得ない。昭和14年に「大戦車展」を靖国神社外苑で開催し、戦車150台を連ねて、銀座通りをパレードさせたのは、ほかならぬ朝日新聞だったはずである。天下の朝日新聞こそ「軍国主義」の宣揚者だったのである。ところが戦後は、その事実を『社史』に載せずに、口をつぐんでいる。そんな新聞社に批判の資格があるのか?
3、社説は、「男系男子」は明治期、旧皇室典範を定める際に確立された考え方で、「男性尊重の国民感情・慣習」が有力な論拠だった。当時の男尊女卑的価値観を反映したと言えると断定しているが、誤りであろう。
何度も書いてきたように、明治以前は「男系」主義だったが、明治維新後、ヨーロッパに学び、一世一元、終身在位制が採用され、譲位が否認された結果、女子の継承が否定され、「男系男子」に限定されたのである。女子が継承し、しかも譲位が否認され、その子孫に皇位が継承されるなら、万世一系を侵すことになる。
それならなぜ、男系主義なのか、だが、それは天皇が公正かつ無私なる祭り主であるからであろう。天皇が祭り主であることと男系主義とはどう結びつくのか、その点こそ、朝日新聞はジャーナリズムとして、追究すべきである。そこに現代的価値が見出せるのかどうか、ジェンダー論だけで批判して済むのかどうかである。
「時代錯誤」と断定するのは、それからでも遅くはない。
同時に、女性差別かどうかの見極めも、である。明治以来の制度では、皇后は、民間からの入内であっても、摂政になることができるが、男子にはその権利はない。これは女子差別というべきなのか、どうか。夫があり、妊娠中、子育て中の女性天皇が歴史に存在しないのは、女性の価値を認め、尊重するからではなかろうか?
◇4 なぜ男系継承の存続を模索しないのか
4、社説は、養子の対象となる旧11宮家について、天皇陛下とは「36~38親等の隔たりがある」という答弁に驚いた人も多いだろうと指摘しているが、少なくとも千数百年以上にわたって、126代続く皇位の男系継承こそ、素直に驚くべきことではないのだろうか?
皇位は歴史上、男系継承主義で貫かれてきた。これが疑いのない事実であるなら、この世界にまれなる文化的、歴史的価値を、なぜ未来につなげるために知恵を絞ろうとはしないのだろうか?
5、今回の改正は、皇族数の確保がメインテーマになっている。つまり、主眼は御公務の確保にある。しかし、御公務の中身については、ほとんど検証されていない。朝日新聞はなぜ、そこを追及しないのか?
平成20年前後に、宮内庁は陛下の御公務御負担軽減に取り組んだが、ものの見事に失敗した。文字どおり激減したのは、歴代天皇が第一のお務めと信じ、取り組んだ宮中祭祀のお出ましであり、他方、いわゆる御公務は増え続けた。とくに増えたのは、離任・着任大使のお茶、宮内庁職員の人事異動の拝謁だった。
御負担軽減の最大のネックは官僚社会なのである。ところがその検証も反省もなく、御公務を分担する皇族数を確保するためと称して、始まったのが今回の改正ではなかったのか? 朝日新聞が批判すべきなのは、むしろそこであろう。
6、政府が皇室制度の見直しに取り組むことになったのは、平成7年ごろかららしい。小泉純一郎内閣時代には、女性天皇・女系継承容認に舵を切る皇室典範有識者会議の報告書も出された。
今回の法改正はこの流れとは明らかに異なる。いつ、どのように、なぜ変わったのか? 朝日新聞が政府を批判したいなら、豹変の経緯と理由をただすべきである。
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