第9話

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2026/07/06 22:00 更新


イベントを終えて、軽くご飯を食べてから帰ろうと適当なお店に入って食事をしたが
気が付くと吉田さんのことばかり考えていた。


気付くとイベント終了時刻からだいぶ時間が経っていて家に帰る頃には、外はすっかり夜になっていた。







玄関の鍵を開けながら、今日一日の出来事を思い返す。



(舜太くんと話せた……。)

(グルショも撮れた。)


それだけでも夢みたいだったのに。






最後に目が合った吉田さんの表情だけが、頭から離れない。


あの静かな視線。


何か言いたそうだったのに、結局何も言わなかった。






「……考えすぎかな。」

そう自分に言い聞かせ、部屋へ入ろうとした、その時。




ガチャ。



隣のドアが開いた。







「あ。」


「……。」



お互いに動きが止まる。





私服に着替えた吉田さんが、小さく笑った。



「おかえり。」


いつもと同じ挨拶。




なのに今日は、それだけで心臓が跳ねる。



「た、ただいまです。」


「イベント、お疲れさま。」


「……え?」



思わず固まる。



吉田さんは少しだけ困ったように笑った。


「やっぱり知ってたんだ。」


その一言で、もう誤魔化せないことを悟った。





少しの沈黙。


私はゆっくり頭を下げる。




「……すみません。」


「なんで謝るの?」


「隠してたから。」


「隠してた?」


「最初に引っ越しの挨拶に来てくれた時から、吉田さんだって分かってました。」



正直に話す。

もう嘘をつく理由はない。



「でも、プライベートだったから。」

「ファンですって言われたら、気を遣わせちゃうかなって思って……。」



吉田さんは何も言わずに聞いていた。



そして、小さく息を吐く。


「そっか。」


その表情は怒っているようには見えなかった。

むしろ、どこか安心したような顔。



「正直さ。」


「はい。」


「俺、本当に気付かれてないと思ってた。」


「え?」


「だから、普通に話せるのが嬉しかった。」



少し照れくさそうに笑う。



「芸能人って知らないから、あんなに自然なんだって。」


「違います。」



思わず首を横に振る。



「知ってても、吉田さんは吉田さんだったから。」



その言葉に、吉田さんは一瞬目を丸くした。



「……そういうこと、さらっと言うんだ。」


「え?」


「いや。」



照れ隠しなのか、視線を逸らして笑う。



「嬉しい。」



その一言だけで、胸が温かくなった。



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