第8話

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2026/07/06 21:09 更新






列が一人、また一人と進む。





(お願いだから何も言わないで。)


そう願うしかなかった。




でも、そんな緊張は——

舜太くんの顔を見た瞬間、ふっと吹き飛んだ。






「……っ。」

思わず息が漏れる。





久しぶりの、近い距離の舜太くんの笑顔。



(やばい、嬉しい……。)



胸の奥がじんわり熱くなる。






________



「次の方どうぞ。」




ついに自分の番が来る。

足が震える。




「お願いします。」


スタッフに促され、立ち位置へ。





「こんにちは!」

メンバーが一斉に挨拶してくれる。



「こんにちは……!」




舜太くんの笑顔に胸がいっぱいになる。




そのとき、舜太くんがぱっと目を見開いた。



「あなたちゃん!!」

「めっちゃ久しぶりちゃう?!ツーショットはおらんかったよな?」



驚いたように、それでも嬉しそうに笑う。




「舜太くん〜!久しぶりかも。ツーショットは当たらなかったんだ〜」


「そっか、最近ほんま当たりにくいもんな。ごめんな?」


「全然!どっちか当たればいいって気持ちで応募したら、グルショだけ来れた感じ!」



「でも来てくれて嬉しい!」


「私も舜太くんに会えて嬉しい!」



舜太くんはいつもの調子で、気楽に笑ってくれる。



その声があまりにも自然で、緊張していたはずなのに、気づけばこちらまで笑っていた。




「グルショとか特に久しぶりやろ? 緊張してる?」


「めちゃくちゃ……。」




正直に答えると、舜太くんはくしゃっと笑った。



「大丈夫やで。俺だけ見とったらええよ」


「うん……!」




その一言だけで、少しだけ肩の力が抜ける。





(舜太くん、やっぱり優しい)

(吉田さんの方は怖くて見れない…。)










撮影の合図がかかり、5人が自然に並び直す。



「はい、いきます!」




カメラの前で、ぎゅっと笑顔を作る。






その瞬間も、舜太くんは変わらず明るくて、撮影前の短いやり取りが本当に楽しかった。




(ああ、来てよかった……。)





シャッター音が鳴る。










「ありがとうございました!」

スタッフに促され、ブースを出る準備をする。






(終わった……。)






安心したのも束の間。





「ありがとうございました!」

最後にそう言って振り返った、その時だった。






また、吉田さんと目が合った。


さっきからずっと気づいていたみたいな、静かな視線。








(え、待って。)

(なんで今……。)





おろおろしているうちに、仁人はほんの少しだけ目を細めた。



何か言いたそうなのに、何も言わない。



そのまま足が止まりそうになるのを必死でこらえて、頭を下げる。




「あなたちゃんまた来てな〜!」


そう言って手を振る舜太くんに




「うん…!」

と、応えながら手を振り逃げるようにブースを出た。













________



ブースを出て少し歩いたところで、ようやく息を吐く。




「はぁ……。」



心臓がうるさい。




嬉しさと緊張で、まだ手のひらが熱い。











その少し後ろ、ブースの中では——



「さっきの子、舜太と楽しそうに話してたな。」

仁人がぽつりと口を開いた。


「うん、あなたちゃん。」

舜太は何でもないように答える。


「よく来てくれる子?」


「そうそう。最近は当たりにくくなったから、ツーショットとグルショ両方応募してくれてたみたいで。」


「へえ。」


仁人はそれだけ言って、静かに頷く。


「ツーショットは外れたけど、グルショ来てくれて。久しぶりやったから、めっちゃ嬉しかったわ!」


「そっか。」


「うん。緊張してたけど、ちゃんと楽しんでくれてたっぽい。」


「……よかったな。」




仁人はそれ以上は踏み込まず、ただ聞いている。

舜太もそれ以上は深く触れず、いつもの調子で笑った。



「せやろ。ほんま、来てくれてよかったわ。」










その会話の少し先で、あなたはまだ胸を押さえたまま、さっきの視線を思い返していた。



(吉田さんのさっきの表情、何だったんだろう)




けれど、その答えを知るのは、まだ少し先のことだった。




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