日はあっという間に過ぎ、
気付くとイベント当日の朝。
何度鏡を見ても落ち着かなかった。
「……大丈夫。」
誰に言い聞かせるでもなく、小さく呟く。
お気に入りの服に、控えめなアクセサリー。
バッグの中には本人確認書類とお気に入りの舜太くんのトレカを挟んだスマートフォン。
(最近はグループの人気も前より出て、当たりにくくなったから……どっちか当たればいいって気持ちで、ツーショットとグルショに応募したんだよね。)
結果は、ツーショット落選。
ツーショットより人数少なかったグルショのみ当選。
(当たるなら人数の多いツーショットだと思ってたのに…。)
嬉しいはずなのに、胸の奥はずっとそわそわしていた。
(吉田さんに会う。)
隣人として毎日のように顔を合わせている人が、今日は“アイドル・吉田仁人”として目の前に立つ。
それだけでも緊張するのに、
(バレたら嫌われちゃうのかな)
その不安がずっと頭から離れなかった。
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会場へ着くと、すでにたくさんのファンが列を作っていた。
「緊張する……。」
一人で小さく息を吐く。
周りから聞こえてくるのは、
「勇斗くん覚えててくれるかな」
「太智くんめっちゃ可愛い!」
「仁人くんビジュ良すぎ!」
そんな楽しそうな声ばかり。
(私も、同じなんだよね)
今日は隣人ではなく、一人のファン。
そう思うと少しだけ気持ちが軽くなる。
受付を済ませ、スタッフに案内されて待機列へ並ぶ。
少しずつ順番が近づいていく。
「列移動お願いします!」
指示通りに移動したとき、ブースの中が見えた。
そこには笑顔でファンを迎えるM!LKの五人。
ライブとは違う久しぶりの近距離。
思わず息を呑む。
(近い……。)
舜太くんもいる。
佐野くんも。
柔太朗くんも。
太智くんも。
そして、
吉田さんも。
自然と視線が合った。
一瞬。
本当に一瞬だった。
でも。
吉田さんの表情が、ほんの少しだけ固まる。
(あ。)
(終わった。)
目を逸らそうとした時にはもう遅かった。
吉田さんはじっとこちらを見ている。
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「仁人?」
隣にいた勇斗に呼ばれる
「どうした?」
「……いや。」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!