休日の昼。
スーパーで買い物を終え、マンションへ戻ると、エントランスで大きな段ボールを抱えた吉田さんと鉢合わせた。
「あ。」
「こんにちは。」
「すごい荷物ですね」
「うん。思ったより大きくて。」
苦笑いする吉田さんに思わず笑ってしまう。
「持ちます。」
「いや、大丈夫。」
「でも一人じゃ大変そうですよ?」
「……じゃあ、お言葉に甘えようかな。」
二人で段ボールを抱えながらエレベーターへ乗る。
「重っ。」
「何買ったんですか?」
「加湿器。」
「ああ、だから。」
「乾燥すると喉やられるから。」
何気ない一言だった。
けれど、その瞬間だけは”アイドル”という仕事を思い出す。
喉を大切にするのも、きっと仕事の一部。
(ライブも、レコーディングもあるもんね。)
そう思ったけれど、口にはしない。
知らないふりをすると決めたのだから。
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「そういえば。」
荷物を部屋の前まで運び終えると、吉田さんが振り返った。
「この前おすすめしてくれたパン屋。」
「あ、行ってくれたんですか?」
「行った。」
「どうでした?」
「クロワッサン、本当に美味しかった。」
「ですよね!」
思わず声が弾む。
「あと、プリンも食べた。」
「プリンも美味しいんですよ!」
「じゃあ今度はシュークリーム。」
「売り切れるの早いので午前中がおすすめです。」
そんな他愛ない話だけで、気付けば十分近く立ち話をしていた。
「……なんか。」
吉田さんが少し笑う。
「あなたさんって、一緒に話してると落ち着く。」
突然の一言に心臓が跳ねる。
「え?」
「いや、変な意味じゃなくて。」
少し照れくさそうに頭をかく姿に、こちらまで照れてしまう。
「ありがとうございます。」
「こちらこそ。」
その笑顔を見ていると、ふと考える。
もし最初に『ファンです』なんて言っていたら。
きっと今みたいな関係にはなれなかった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。