ある日の夜。
仕事帰り、マンションへ向かって歩いていると突然雨が降り始めた。
「最悪……。」
朝は晴れていたから傘なんて持っていない。
コンビニの軒先で立ち止まる。
「あなたさん?」
聞き慣れた声に振り返る。
「吉田さん。」
吉田さんが傘を差して立っていた。
「帰るところ?」
「はい。でも傘が忘れちゃって……。」
「じゃあ、一緒に帰ろ。」
「え?」
「家、隣なんだから。」
あまりにも自然に言うものだから、断る理由が見つからなかった。
「……お願いします。」
一つの傘に二人。
肩が触れそうで触れない距離。
雨音だけが静かに響く。
「仕事、大変?」
「最近ちょっと忙しくて。」
「無理しないでね。」
「ありがとうございます。」
本当に優しい人だ。
テレビで見ていた印象と変わらない。
いや、それ以上かもしれない。
(……ダメダメ。)
(普通に接するって決めたでしょ。)
そう思いながらも、隣を歩く横顔を見てしまう。
「どうかした?」
「……いえ。」
「顔見られてた。」
「すみません!」
慌てる私を見て、吉田さんは声を上げて笑った。
「そんな焦らなくても。」
「……癖です。」
「ふふ。」
その笑い声が心地よくて。
気付けば、雨の日が少し好きになっていた。
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部屋へ戻り、ドアを閉める。
ドアに背中を預けて、大きく息を吐いた。
「危なかった……。」
今日もバレなかった。
M!LKのファンだということも
ライブへ行っていることも
最推しが舜太くんだということも。
この関係が壊れるのが怖くて、全部胸の奥へしまっている。
けれど、その秘密は思いもよらない場所で明かされることになる。
まだ、その時の私は知る由もなかった_____
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。