休日。
近所のスーパーで買い物を済ませ、両手いっぱいの袋を抱えて歩いていると、
「重そう。」
聞き慣れた声がした。
「あ。」
吉田さんだった。
私服姿の仁人はテレビで見るよりずっとラフで、どこにでもいる青年のようだった。
「持つよ。」
「大丈夫です!」
「いや、大丈夫じゃないでしょ。」
笑いながら自然に袋を一つ持ってくれる。
「ありがとうございます……。」
「仕事帰り?」
「今日は休みです。」
「俺も。」
並んで歩きながら、他愛もない話をする。
スーパーの特売。
近くに新しくできたカフェ。
駅前のパン屋。
アイドルと話しているなんて思えないくらい、普通の会話。
それが逆に不思議だった。
「ここ、住みやすいよね。」
「そうですね。」
「俺、引っ越してきて正解だった。」
その言葉に少しだけ胸が温かくなる。
「私も、このマンション好きなんです」
「へえ。」
「静かだし、駅も近いし。」
「分かる。」
目が合って、二人とも笑う。
こんな何気ない時間が、少しずつ増えていった。
それからというもの。
朝会えば、
「行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
夜なら、
「今日も遅かった?」
「ちょっと残業でした。」
休日なら、
「これ、おすすめのお菓子。」
「ありがとうございます。」
気付けば、お土産を渡し合うような関係になっていた。
もちろん、お互いの部屋へ入ることはない。
連絡先も交換していない。
あくまで”仲のいい隣人”
その距離感が心地よかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!