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第1話

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2026/07/06 13:03 更新



「……疲れた。」



仕事終わり。

エレベーターを降りたあなたは、小さく息をついた。

今日も残業。

明日も朝から仕事。







早くお風呂に入って寝よう——そう思いながら部屋へ向かうと、隣の部屋の前に見慣れない段ボールがいくつも積まれているのが目に入った。






(引っ越し……?)






この部屋には長く住んでいた人がいたはずだが、いつの間にか退去していたらしい。




少し気になりながらも、自分の部屋の鍵を開けようとした、その時。




「すみません。」




後ろから声を掛けられた。








振り返ると、キャップを深く被り、マスクをつけた男性が立っていた。




「隣に引っ越してきました。吉田です。」




そう言って差し出された小さな紙袋。




「あ、ありがとうございます。」




反射的に受け取りながら顔を見る。





帽子で半分隠れていても、その優しい目元だけで分かった。







(……え。)

(え、うそ。)

(吉田仁人……?)






頭の中で何度もライブ映像を再生する。

間違いない。

M!LKのリーダー。

吉田仁人本人だった。






心臓が一気に速くなる。

でも。



「こちらこそ、よろしくお願いします。」



笑顔だけは崩さなかった。







ライブにも何度も行っている。

グッズも持っている。

もちろん顔なんて見間違えるはずがない。





だけど。



(プライベートなんだから。)

(知らないふりをしよう。)




それが一番自然だと思った。

アイドルにも、普通の時間は必要だから。











「生活音とか気になることがあったら遠慮なく言ってください。」


「ありがとうございます。」


「じゃあ、これからよろしくお願いします。」


「はい。」





吉田さんは軽く会釈すると、自分の部屋へ入っていった。



ドアが閉まる音を聞いた瞬間、あなたはその場にしゃがみ込む。






「……うそでしょ。」






推しのいるグループのリーダーが。

まさか隣に住むなんて。

こんなの、漫画でもなかなかない。






________






それから数日。




生活はいつも通り……とはいかなかった。







朝、玄関を開けるタイミングが重なる。




「おはようございます。」


「おはよう。」







夜、仕事から帰る時間が近い日もある。




「おかえり。」


「ただいまです。」





その一言だけなのに、心臓が忙しい。





(落ち着け、私。)

(相手は隣人。)

(ただの隣人。)





そう言い聞かせても、相手は何度もライブで見てきた人だ。





緊張しないわけがない。


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