第2話 星は跨ぐ
星街すいせいの中に生まれた、
たくさんの「星街すいせい」
知らない私。観測の狐。
不安の星空を跨ぎ、真相へ。
※楽曲イメージの人格が登場します
※非公式解釈・解釈違いの可能性あり
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「はぁ………」
スマホを眺めて、何度目とも分からないため息が漏れる。
画面には例のコラボ配信が流れてる。
「本当に…なんなの…?」
コラボ配信から1週間。
あれからも時々、同じ事が起きていた。急に抗えない睡魔に襲われ、目を覚ますと”私じゃない私”が仕事を終えている。
仕事が終わっているのは助かる。
でも、何をやったのか自分が知らないのは、正直それ以上に困った。その度にスタッフさんに確認を取ったりして、怪訝な顔をされていた。
「30分前に決めたことを本人が教えてくれって言うんだから、そりゃあそんな顔になるよね…」
休憩中にスマホでこの現象について検索してみたら、似たような病気があることを知った。けど、違う。理由は分からないけど、これは病気の類ではない。その答えだけが胸の中で浮かんでいた───
次の日。
今日は夕方からフブさんとコラボ配信だ。
例の現象が起こらないと良いけど…
不安を感じながらも簡単に配信の準備をしておく。
今日は私の家で配信だけど、お姉ちゃんは出かけてる。配信後に食べられるように晩ご飯も作っておこうかな。
しばらくして、フブさんが到着した。
「おじゃましまーす。すいちゃん、今日は姉街いないんですか?」
「うん、帰るの遅くなるって」
「ちょっと姉街のご飯期待してましたけど、当てが外れちゃいました」
「私が作ったご飯ならあるけど、食べてく?」
「じゃあ、お言葉に甘えちゃいましょうかね」
「おっけー。とりあえず配信の準備しよっか」
「はいはーい」
準備をしながら雑談していく。
「すいちゃん、今週も忙しかったですか?」
「うん。まぁ先週よりはマシだったけどね」
例の現象のおかげでね…
「それなら良かったです。スタッフさんが心配してたので気になってたんですよ」
「…スタッフさんなんて?」
「仕事はバッチリなのに最近、物忘れが多いって言ってましたね。事務所に忘れ物はたまにあるけど、仕事熱心なすいちゃんが仕事関係の物忘れなんて珍しいなと思いまして」
「……ちょっと疲れてるみたいでね。でも大丈夫だよ。今日なんか、仕事がないから昼過ぎまでぐっすり寝てたからね」
「…」
「フブさん?」
「なんでもないですよ。ほら、準備を進めましょう」
30分後、配信がスタートした。
「始まりましたー!」
「いえーい!」
「早速、自己紹介からしていきましょうかね?はい、すいちゃんでーす」
「白上でーす」
「さてフブさん、今日は何するんだっけ?」
「今日はすいちゃんといろんなゲームでバトルです!」
〔いえーい!〕
〔すいフブ珍しいね〕
〔頑張ってー〕
「『すいフブ珍しい』?確かにねー」
「1回すいちゃんとタイマンしてみたかったんですよね」
「負けないよー」
「早速ゲーム始めていこうと思うんだけど、すいちゃんどれからやります?」
「ぷよテト、マリカー、遊び大全…どうしよっかなー」
「遊び大全でゆるくリバーシとかから始めますか」
「いいねー」
「さあ、いきますよー!」
「おっしゃー、こい!」
フブさんが黒の石を置いて、リバーシが始まった。
雑談を交えながらゲーム板は埋まっていく。
「すいちゃん、あれからみこさんと会いました?」
「あれからって?」
「先週のコラボからですよ。あのお祭り騒ぎは凄かったですからねー」
「…みこちとは昨日、会食行ったけど?」
「コラボのあの事についてなにか話しました?」
「ううん。特にこれといって話してない」
「あの日のてぇてぇは凄かったですねー」
ニヤニヤして小突いてくるフブさん。
フブさんの黒石が私の白石をひっくり返していく。
「てぇてぇやめなー?」
「だって髪を結び直してあげてたんですよー?」
〔あれはヤバかった〕
〔🦊やっぱみこめっとなんすよ〕
〔やはりビジネスよりてぇてぇか〕
やばい。フブさんのテンポに乗せられてる。
このままみこめっとてぇてぇの話題に飲み込まれちゃう。
「えっと…フ、フブさん!フブさんの方は最近ホロメンとご飯行ったりした?」
黒石が一列、ひっくり返っていくのを眺めながら話題を変える。
「ミオとご飯行きましたけど、話題を逸らさないでくださいよすいちゃん。で、どうなんですか?」
「…みこさんとはビジネスですから!ビジネスパートナーの身だしなみを気にするのは普通でしょ??」
また一列、盤面が白くなっていく。
「なるほどぉー」
「な、なに?」
「結び直してあげたのはいいとして、あの青い髪留めはどうなんですか?星形の飾りまでついてるなんて、そういうこと、ですよねー?」
「ちがっ!そんなんじゃないし!」
フブさんの一手によって盤面が黒石で埋め尽くされていく。
「どうせもう、お祭り騒ぎなんですからいっその事、認めちゃいませんか?」
私のターン、置き場所が無くなり『パス』という文字が表示された。
「えっと…」
どうにかてぇてぇを回避できる方法を探してみるが、見つからない。さらに例の睡魔まで襲ってきた。
「すいちゃん?」
まずい…コラボ中なの…に……
目を覚ますとそこは淡い光を放つライトがポツンと置かれた薄暗い部屋だった。私はイスに座っていて、向かい側のイスにも誰かが座っていた。
「ここ…どこ…?」
「ここは君の意識下の世界。意識下と言っても、想像や夢の中じゃないからね」
「あなたは、誰?」
「君と同じ。星街すいせいだよ。みこちに言わせれば、『凄い優しいすいちゃん』かな」
訳が分からない。意識下?優しいすいちゃん?
「え…?私と同じ?どういうこと?最近の現象はあなたのせいなの?」
「私のせいだとも言えるし、違うとも言えるね」
「?」
「詳しい説明は後にしよう。まずはフブさんをどうにかしてくるから」
向かいの気配が立ち去ろうとする。
「待って!もうやめてよ。これのせいで困ってるんだから」
「大丈夫。後で全部教えてあげるから。また後でね」
「ちょっと!」
ライトが消えて、部屋は闇に覆われる。
また睡魔が来て私はなすすべなく目を閉じた。
次に目を開けると私の配信部屋だった。
パソコンの表示を見るに、配信終了直後らしい。
「それでですねー………」
「ふわぁ…」
「すいちゃん眠い?」
「ちょっとね…ええと、何の話だっけ?」
「…すいちゃん最近なんかありました?」
「え?」
「配信中、いつものすいちゃんじゃないように思いましたけど」
「いやいや、いつもと一緒だよ。大丈夫!」
「それなら良かったですけど…」
例の現象は私もよく分からないんだから、フブさんには何も言えない。
どうやってこの雰囲気を元に戻すか考えていると、フブさんがじっと私を見ていることに気づいた。
「な、なに?」
「今はいつも通りですね」
フブさんって観察力いいから、バレてないか不安になる。
「何言ってんの。ずっといつも通りだけどー?…そうそう、晩ご飯食べるんでしょ?お皿並べるの手伝ってよ」
「……」
「フブさーん?」
「…いやぁー、すいちゃんが作ったご飯を食べるのは久しぶりですねー!今日は何を作ったんですか?」
「カレーだよ」
「出ました!野菜抜きカレー!」
「ちゃんと、殺した玉ねぎとか入れてるもん!」
2人で晩ご飯を食べて、しばらく雑談した後フブさんは帰っていった。
寝る支度を済ませた私はベッドに潜る。
目を覚ますとさっきと似たような薄暗い部屋。
違うのは部屋が大きくて、映画館のシアターみたいな大きなスクリーンと座席が並んでいたことだ。
後ろを見ると座席に何人か座っているのが見える。視線を戻すとスクリーンの影にも人がいた。どちらも暗くて顔までは見えない。
「どう?どうにかなったでしょ?」
スクリーンの影はさっきの「星街すいせい」を語る人らしい。
「まあね。あの話題から逃れたのは助かった。でもその間の事が分からないのは、やっぱり困るよ。」
「それで、結局なんなの?この現象はなに?というか、あなたは何者なの?」
「そうだね。順に説明しよう」
「まず、私たちは『星街すいせい』。君と同じ」
「同じってなんなの?星街すいせいは私だよ?」
「私たちは君の中から生まれた存在。まあ、同じすいちゃんだと呼ぶとき分かりにくいから…」
その人が影からこちらに歩いてくる。
その顔が見えて、私は固まった。
「私のことは『天球』って呼んでよ」
私と同じ顔が笑っていた。