星たちは銀河の重力で惹かれ合う
世界観分からね~~~~
はい、初の曲人格&同一CPです。
お品書きは「Andromeda」×「Stellar Stellar」×「???」の三曲の組み合わせです。
最後の一曲はお楽しみということで。
「惹かれ合う」って言い回しだけでジョジョっぽさ出るのどうにかなりませんかね
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物心がつく前からこの狭苦しい空間にいたから、特に疑問を抱くことは無かった。
自分が閉じ込められているということを知ったのも、今日の朝のことだ。
その時間帯は何やら城下が騒がしかった。何が起こっているのか気になって、鉄格子が誂えられた窓から見下ろしてみると、成人したかしないかくらいの女の子が近衛数名に取り押さえられていた。薄汚れた髪でボロボロの服に身を纏っているその子は、発狂したように泣き叫んで、必死に拘束を解こうとしている。
お洒落とかそういうのには少しも縁の無いような、独りぼっちの子。
その光景を見て、理由も無く泣きたくなった。あの子とは何の関係も無い筈なのに、どうにも心が痛んでしょうがなかったんだ。
ふと地上の彼女と、遥か上にいた私の視線がぶつかった。
反射的に、届く筈も無い手を伸ばしてしまう。
片手を振り解いた彼女がその手を掴むことは無かった。代わりに私がいる場所を指差して、その場に響き渡るような大声でこう叫ぶ。
あんなところに閉じ込められたくない、と。
直ぐにまた取り押さえられた彼女がとうとう城内に連れられて行くのを見たくなくて、静かに窓から身体を遠ざける。
ふと窓を振り返って、そこに嵌められた鉄格子を見た時、ようやく気付いた。
私は、閉じ込められていたのか。
思えば、私には両親に関する記憶が無い。部屋の中にある本を読んでいると、主人公には必ずお母さんとお父さんがいる。
一日のご飯を持ってきてくれるメイドさんに本を見せながら親のことを聞いても、その度にはぐらかされて部屋を出ていかれてしまった。
本の最後には、決まって両親が主人公を抱き締めながら、『愛してるよ』と呟く。それに『私もだよ』なんて返す主人公の気持ちを考える度、心が暖まって泣きそうになったことも一度や二度ではない。
考えてみればおかしな話だ。私自身がお母さんやお父さんに愛されている訳でもないのに、それに感情移入して泣いてしまうなんて。
この部屋だって、正直良い環境だとは言えなかった。七日に一回メイドさんが掃除してくれるとはいえ、床の石畳にこびり付いた苔やたまに出没するネズミは、私の日常を無彩色に変えてしまうのに充分だった。
それでも一日に三回美味しいご飯は食べられるし、トイレやベッドだってちゃんとある。
だけどそれは私が閉じ込められているという自覚が無かったからで、実際はそんなの大前提だってことらしい。
しかもそんな狭い一室から出た記憶が一度も無いのだから、私は本当に閉じ込められていたのだろう。
せっかく持ってきてくれた昼ご飯にも、その日は一口も手を付けることができなかった。
夜になって、再びあの子のことを思い出した。ベッドに座り込んで、深くため息を吐く。どうにも眠れる気がしなかった。
───あの子と私の目が合った時、彼女の顔に浮かんでいた感情は何だったのだろうか。
少なくとも、本で見た優しい顔とは丸っきり違って見えた。血走った目で私を睨み付けていたのは、私のことをどう思っていたからなのだろうか。
あの子は、この環境をどう思うだろうか。元はどんな家で暮らしていたか分からないが、少なくともこの場所より劣悪だったということは無いだろう。
───あの子は、親に愛されていたのだろうか。
未だ、私やあの子が閉じ込められた理由を知ることは出来ないでいた。寧ろ『閉じ込められていた』という事実だけが、砂のように私の胸に溜まって重みを増していく。こんな想いが胸にある内は、きっと何処にも行けやしないのだろう。
鉄格子を通して見える夜空には星が瞬いていて、何故か今日は夜が終わらないのではないかと思ってしまう。
だって、今まで見てきた夜空はいつも雲が覆い隠していたから。気味の悪いくらいに晴れ渡った夜空が、私のことを照らすように幾千の星を瞬かせている。
「誰か…いないの」
初めて、助けを乞う。まさか答えが返ってくる訳も無いから、自分を諦めさせるために呟いたつもりだった。
…或いは、心の中でずっと期待していたのかもしれない。本の中の王子様が、私のことを連れ出してくれるかもしれないって。
「ここに、いるよ」
誰かの声が、部屋の入口の方から聞こえてきた。それはともすれば聞き逃してしまいそうなくらいに小さくて、だけど絶対に気付いて欲しそうな、確かな力強さに溢れていた。
反射的にその方向を振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。
今までに見たことが無いくらい綺麗な服に身を包んでいて、それに見劣りしないくらい整った顔立ちをしている。
その女性は私に近付くと、優しい眼差しで私の頭を撫でてくれる。私はと言えば、このありえない状況で何か行動を起こすことができなくて、いつの間にか座り込んでしまっていた。
「だ…誰?」
私のそんな情けない問いに、彼女は不思議がる様子もなく答えてくれる。
「んーとね…貴女を迎えに来た、って感じかな」
ああ、なるほど。この人は、私が閉じ込められていることを知っていたんだ。そんな私を、ここから連れ出してくれるんだ。
今日だけで非現実的なことが何度も起こり続けたせいか、私の感覚は狂ってしまっていたのかもしれない。もはや正解とか間違いとか、そういう普遍的なことは今は何も解らなかった。
けど一つだけ確かなことは、今この空間には、私ともう一人───この王子様がいる。
王冠も無ければ、華やかなマントを靡かせている訳でもない。けれどこの人は、名前も何も知らない筈の私を連れ出そうとしてくれている。そんな絶好のチャンスを逃す理由なんてなかった。
王子様が差し伸べてくれた手をそっと取って、離れないように握り締める。それを確認した彼女は満足そうに頷いて、空いているもう片方の手を私の両目に被せてきた。
「わっ…ちょ、ちょっと」
隠されてしまった視線を開こうとするが、彼女に阻まれてしまう。
「あー、だめだめ。すぐに終わるから、ちょっとだけこのまま目は閉じててね。ほら、深呼吸」
仕方なく、言われるままに深呼吸をする。息を吸って吐くだけの単純な動作なのに、早鐘を打っていた心臓の鼓動が落ち着いていくのを感じた。
「よーし、いい子いい子。じゃ、ちょっとごめんね…よいしょ、っと」
王子様にそう言われた次の瞬間、私の身体が宙に浮かぶのを感じた。どうやら彼女に抱っこされたらしい。
「あ、大事なこと聞くの忘れてた。ちょっとだけ目開けていいよ」
そんな彼女の言葉に、ゆっくりと両目を開ける。暫く目を閉じていたせいか、私の視界は暗闇に慣れてしまっていた。私の身体は彼女の両腕で抱え上げられ、少し起き上がれば顔同士が触れてしまいそうなくらいに近い。
彼女の星空を宿したような眼が、私を見据える。そして、予想していた通りの問いが飛んできた。
「貴女は、ここから出たい?」
答えなんて、彼女も分かっているのだろう。けれどそれは、私の意志に委ねられることとなった。
私は、精一杯の力で頷いてこう返す。
「今なら、独りじゃないから」
王子様は満足そうに頷いて、自分の眼を数回閉じてみせた。それが何を意味するのかはすぐに分かった。今度は自分から両目を閉じて、今から起こることに身体を委ねる。
突然、夜風が私たちに向かって吹き付けてきた。急に台風でもやって来たのかとも思ったが、どうやら違うらしい。風に交じって聞こえるのは、王子様の規則的な呼吸音と、だいぶ速いテンポで鳴る靴音。どうやら、王子様が私を抱えたまま駆けているようだ。城門までの道には警備がいる筈だ。一体どうやって突破するつもりなのだろうか?
好奇心に負けて少しだけ薄目を開けてみると、なんと王子様は屋根の上を走っていた。目にも止まらぬスピードで、けれど確かな安定感で、私の知らない景色をどんどん移動していく。
…というか、あんな高所にあった私の住処を脱出するなんて、よくよく考えてみたら不可能に近かったのではないだろうか。例えばあの鉄格子を蹴破ったところで、そのまま垂直落下してしまうのがオチだ。
そう考えると、やはりこの状況は夢のように思えてしまう。私の知らない世界が眼下に広がっていたことも、夜空がこんなに美しいことも、今まで知る由も無かった。仮にこれが現実なら、あまりにも美しすぎる。こんなの、それこそ本の中の世界───御伽噺じゃないか。
「夢でも、御伽噺でもないよ」
王子様が、私の思考を見透かしたかのようにそう語りかけてくる。目を開けていたのがばれてしまったかと焦って、急いで両目を閉じた。聴覚が研ぎ澄まされて、彼女の声や風の音に集中できるようになる。腕や足に当たる風が心地良くて、何故かこのまま眠ってしまいそうになった。
「もう少しだからね」
その言葉に、一瞬訪れていた眠気も飛んでいく。どうやら、この脱出劇はもうすぐ終わってしまうらしい。感情の整理がつかない中、その事実だけが私を照らしてくれていた。
そこから少しして、ようやく目を開けることを許された。周りを見渡すと、そこはやはり見たことのない場所で。どうやら近くには川があるらしく、虫の鳴き声に交じって微かに水の流れる音が聴こえてきた。
王子様は私の隣に座っていて、夜空を眺めている。未だにお礼の一つも言えてないことに気付いて、頭を下げた。
「あの…ありがとう、ございました」
心から、この人に連れ出してもらえてよかったと思えた。悪意とか、私のことをどうかしてやろうとか、そういう感情が一切無いように思える。
ふっと微笑んだ彼女は、またさっきのように私の頭を撫でて、静かに呟いた。
「ううん。お礼なんて要らない。私だって、貴女と同じなんだよ。特別なんかじゃない、王子様でもない」
思わず、目を見開いた。この人は、人の考えていることが分かるのだろうか?気付かれずにあの場所に忍び込んだり、屋根の上を走ったり…少なくとも普通の人ではないだろう。
「ねぇ。貴女って、名前はなんて言うの?」
そんな私の思考を遮るように、そう問いかけられる。数秒考えてから、首を横に振った。
「分かんない。私、お母さんも、お父さんもいないから」
私に目を向けていた王子様は、再び夜空に視線を戻す。瞬く星の中でもひときわ目立つ星を指差すと、こんなことを言い始めた。
「そっか…ねぇ、あの辺りにさ、私の好きな銀河があるんだよ。アンドロメダ銀河、っていうんだけどさ」
その方向に目を凝らすと、無造作に投げ出していた左腕を掴まれた。
「うん、そうしよう。貴女の名前…アンドロメダ、ってどう?」
あんどろめだ、と口に出して言ってみる。
「アンドロメダ…私の、名前」
「そうそう。ねぇ、アンドロメダ。貴女はもう自由になった。これから貴女が何をしたいかは、全て貴女次第なの」
───貴女は、何をしたい?
そう言い残すと、王子様は瞬き一つの間に消えてしまった。周りを見渡してみても、人の気配は感じられない。
やりたいことは、決まっていた。
「私は───誰かの夜を、照らしたい」
流れ星が一つ、尾を引いて消えていった。
───牢に入れられてから三日が経った。寒い夜を照らす冷え切った太陽は、私を見放してしまったらしい。こんな場所に縛り付けられてしまって、私はどうすればいいのか分からなかった。
ただ涙が滲むだけで、呼吸すらもままならない。
こんな世界に振り回されるくらいなら、いっそ。
窓に据えられた鉄格子はどうやら劣化していたらしく、ここに入れられた最初の夜に色々触っていると、音を立てて崩れてしまった。
丁度人一人が入れそうなその空間に、私は体を縮めて入り込む。少し震えた両足は、もう飛び上がる準備をしている。
───もしかしたらそれは、飛び降りる準備なのかもしれないけれど。
「大嫌いだ」
そう言って、私の身体は外の世界へと躍り出る───筈だった。
けれど、それが叶うことは無かった。
何者かに後ろから手を引かれ、私の身体は再び牢の中へと戻ってしまった。
「いった…だ、誰!?」
誰かがいるであろう場所に向かって、声を張り上げる。
暗闇の中から顔を見せたのは、あの時の彼女だった。城の上から私を見ていた、囚われていた女の子。
「だめだよ」
彼女はそう言って、私を抱き締めた後に、頭を撫でる。
理解が追い付かない。この子も、私と同じように囚われている筈ではないのか。それとも、まさか一人で抜け出したとでもいうのだろうか?
この状況があまりに私の思考と反発していたせいか、中途半端に臆病になっていたせいか、それともこれが『愛される』ことだと錯覚してしまったせいか、私は泣き出してしまった。
そんな情けない私を安心させるように、彼女は私に寄り添ってくれる。
「大丈夫、私がいる。ここにいる」
「大丈夫、私がいる。ここにいる」
彼女に語り掛けるように、或いはあの時の自分自身に言い聞かせるように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
───あなたの夜を照らしたい、と。