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この作品「綺麗なあなたと仲直り」は「名探偵プリキュア!」「森亜るるか」等のタグがつけられた作品です。
綺麗なあなたと仲直り/針の小説

綺麗なあなたと仲直り

2,219文字4分

「るるかさんは、なんだか煌めいて見えるから。いいひとであってほしいって、願ってしまう」

 あなたになら騙されてもいいわ。

23話の数日後、パティスリーチュチュの常連になり直す、るるかの話

・くれあ→るるか への好感度が相当高いです
・くれあ=エクレール前提

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 閉店が近付いてきた夕暮れ、買い出しに向かった店長を見送って、伽藍堂のパティスリーでテーブルを拭いていた。
 背後でドアベルが鳴る。条件反射で言葉が滑り出る。

「いらっしゃいませ」

 振り返ると、そこにはるるかさんが立っていた。
 嬉しくなってすぐに布巾を畳み、小走りで駆け寄る。
いつも一緒のかわいいぬいぐるみは、今日は連れていないらしい。小さなバッグだけを肩に下げたるるかさんは、怯えたようにも少し小さくなっていた。
 そろりとわたしを見上げる藤色に、なんだか頬が緩む。緊張しているのだろうか。あんなことがあったあとだから?

「いらっしゃいませ、るるかさん。ご注文はどうされますか?」
「先日のケーキを」

 いつもより硬い声がそう答えた。バッグの紐を両の指できゅっと握って、視線をうずめるように落として、続ける。

「あなたの焼いたものがいい」


 ──斜陽が濡らす、るるかさんの睫毛や鼻筋は美しかった。
陽光に浮かぶなめらかな頬はまだ少しだけ輪郭が曖昧で、きちんと手入れされた唇が、神経質に引き結ばれている。
 少女と女性の分水嶺に立つ綺麗なひとは、けれど倒錯的なほど、子どもじみていた。

 それにほうけていたせいだろうか。喜びは、ずいぶん遅れてやってきた。

「は、……はい、はい! もちろんです。気に入ってくださったんですね、うれしい」

 再びわたしを見上げたるるかさんの表情が、少しほどけた。彼女は視線をさまよわせて、ん、と咳をするように肯定した。
 「すぐお作りします」と踵を返しかけて、振り返る。いけない、伝え忘れていた。

「そうだ、いま店長が不在で、従業員はわたしだけなんです。なので、なにかあったら遠慮なく、呼び鈴でお申し付けくださいね」
「……お店、あなたしかいないの?」
「はい。でも、ケーキはすぐ焼けますし、少しも大変ではないので、お気になさらないで」

 にっこり笑ってそう言ったけれど、なんだか妙な間が生まれた。
 きょとんとして、るるかさんを伺う。

「わたしが」

 彼女は言いながら横を向いた。追うと、壁掛け写真が目に入る。白黒で焼かれた、店長の青春時代。

「わたしが、またあの写真を盗むつもりだったら、どうするの」
「もう狙われることはないって、あなたが教えてくれたじゃないですか」
「嘘だったら?」
「嘘でもいいです」

 亜麻色の眉が微かに寄った。

「もし今日写真を奪われてしまっても、自分を恥ずかしく思って、キュアット探偵事務所さんに依頼して、取り返してもらって。そして、きっとまたあなたを信じます」

 剣呑に細まった藤色の瞳が伏せられて、表情が歪む。痛みを堪えるような顔だった。
 呻くようにるるかさんは言った。

「なにを根拠に」

 お店を循環する空気は質量を増したはずなのに、それでも息苦しくはなかった。
 色素の薄い髪に陽光が差し込んで、毛先の一本まできらきら輝いているからだろうか。恐ろしい怪盗と相対あいたいしている気分には、どうしてもなれない。
 根拠、根拠。
 考えるだけ、むしろ理由も分からず、るるかさんを信じたくなってくる。何を奪われても、後悔なんてできない気がした。
たった一口、アイスを美味しそうに食べてもらえるだけで、きっとわたしは何度でも彼女を信じてしまう。そういう引力が、るるかさんにはある。
 茜色の陽を湖面のように取り込んだ、大きな瞳に視線が吸い寄せられる。
 そのまま、言葉が零れていた。

「るるかさんは、なんだか煌めいて見えるから。いいひとであってほしいって、願ってしまう」

 あなたになら騙されてもいいわ。


 そう口にすると、るるかさんの睫毛がふるえて、はく、と唇が動いた。ローファーが硬質な音を立てて一歩わたしに踏み寄って、けれど、見えない膜に触れたように後ずさる。
 秒針の音だけがかさんでいって、るるかさんは何も言わなかった。足も、杭で打たれたようにそれ以上は動かなかった。

 ──わたしの方こそが、続きを待たれているのかもしれない。
るるかさんの言葉を待ってたぶん数分は経ったとき、そう結論付けた。
 真面目で聡明と言ってもらえることも多いけれど、生来、直感に従うたちだ。いま言ったこと以上に説得力のある言葉はないけれど、理屈っぽい理由も、なくはなかった。

「それにね、今日のあなたは信じています。理由だって、きちんと持っているんですよ」
「……、………なに」
「予告状を渡してこないこと」

 できるだけ挑戦的に、右の掌を差し出す。

「あるなら受け取るわ、るるかさん」

 るるかさんはその手を見下ろして、どこか眩しそうに、瞼をひくりと震わせた。
 照明が強かっただろうか。そう思った一瞬の間に、くるりと踵を返される。
ため息ともつかない呼吸の間があって、表情が見えないまま、背中越しに彼女は言った。

「ケーキ、焼けたらテラスへ持ってきて」

 ローファーの音を響かせて、彼女はテラス席へと消えていく。
 それを見送ったあと、わたしもキッチンを振り返った。エプロンを結び直して、意気揚々と歩を進める。
 がんばろう。おいしいって言ってもらおう。
 あのひとがこのお店で見せる表情は、これからは全部、穏やかであってほしい。

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