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FIFA女子サッカーW杯で選手らに向けられるレンズや質問は適切か? ビジュアル視点で切り取る、スポーツ界のジェンダーギャップ

ジェンダーステレオタイプやアンコンシャスバイアスを打ち破る広告やキャンペーン、盗撮被害の防止を啓発する動画など、視覚的なインパクトを与えられるビジュアルの持つ力は大きい。世界最大級のストックフォトサイトのiStockで、ジェンダーの問題に取り組んできたCreative Insightsマネージャーの遠藤由理とともに、スポーツ界のジェンダーギャップを考える。
7月31日に行われたFIFA女子サッカーW杯2023の日本対スペイン戦で圧巻の戦いぶりを見せ、グループ首位通過を果たした日本代表。Photo Maja Hitij  FIFAFIFA via Getty Images

7月31日に行われたFIFA女子サッカーW杯2023の日本対スペイン戦で圧巻の戦いぶりを見せ、グループ首位通過を果たした日本代表。Photo: Maja Hitij - FIFA/FIFA via Getty Images

オーストラリアとニュージーランドで開幕したFIFA女子サッカーW杯2023で、日本代表が快進撃を見せている。7月31日に日本はグループリーグ最終戦でスペインと対戦し、4-0で快勝すると同時にグループC1位通過を決めた。8月5日の決勝トーナメント1回戦では、グループAの2位のノルウェーと対戦する予定だ。12年前に達成した世界一返り咲きを狙う日本代表の躍進から目が離せない。

こうした中、FIFA女子W杯やオリンピックの開催のつど議論が深まっているのが、スポーツ界のジェンダー平等だ。アスリートらの声がDE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)を推し進めているとはいえ、例えば男女の賃金格差や指導者やスポーツ協会の男女比の問題のほか、テストステロン値が生まれつき高い女性アスリートに対する身体検査や、LGBTQ+の選手への理解や支援の不足など、まだまだ課題は山積している。

FIFA女子サッカーW杯2023初戦のザンビア戦では50で勝利。日本初ゴールを決めた宮澤ひなた選手(左)と追加点を決めた田中美南選手(右)。Photo Katelyn Mulcahy  FIFAGetty Images

FIFA女子サッカーW杯2023初戦のザンビア戦では5-0で勝利。日本初ゴールを決めた宮澤ひなた選手(左)と追加点を決めた田中美南選手(右)。Photo: Katelyn Mulcahy - FIFA/Getty Images

中でも、メディアの映し方は大きな問題のひとつだ。ジェンダーの問題にビジュアル視点で取り組んできたiStock Creative Insightsマネージャーの遠藤由理は、男女の“見せ方”の違いが生む弊害をこう指摘する。

「メディアにおいて、ジェンダー不平等な問題があるなと思っています。スポーツ人口のうち40%を女性が占め、オリンピックにおいては女性アスリートの数は半数以上と言われているにも関わらず、IOCが発表した資料によると、スポーツメディアにおいて女性のアスリートのコンテンツの割合は、実は4%に過ぎないそうなんです。さらにいうと、男性のアスリートは力強くストイックな存在として描かれている一方で、女性は運動能力といったスキルよりも、家族や恋愛の話、さらには外見の話など、そういったところに焦点が当てられてる記事が散見されています。こうした報道は、アンコンシャスバイアスや有害なステレオタイプを定着させることに繋がりかねません。

では一体なぜこうしたことが起きてるのかというと、やはり女性のスポーツジャーナリストやフォトグラファー、ビデオグラファーの数が絶対的に少ないというのも一因なのかなと思います。iStockを運営するGetty Imagesでは女性のスポーツフォトグラファーはたくさんいるものの、まだまだ比率としては男性の方が多い傾向にあります。IOCが行った2020年の調査でもオリンピック競技大会の公認メディアスタッフのうち、女性は平均20%であると発表しています。撮る側、発信する側のジェンダーギャップも大きく影響しているのではないかと感じます」

実は70%以上の人が共感できていない!? 現在のビジュアル表現

スペイン戦で2ゴール1アシストの大活躍をみせた宮澤ひなた選手。Photo Maja Hitij  FIFAGetty Images

スペイン戦で2ゴール1アシストの大活躍をみせた宮澤ひなた選手。Photo: Maja Hitij - FIFA/Getty Images

また、実際のメディアの報道と視聴者の求めているものにもギャップがあると話す。ビジュアル表現の在り方をデータで分析し、DE&Iやサステナビリティをメディア発信の中に取り入れる重要性について十数年以上調査してきたGetty ImagesのVisualGPSによると、7割以上が「女性アスリートのリアルな姿」をビジュアルに求めていると回答したという。

「70%のグローバルの消費者が、『女性アスリートを、美しさや魅力ではなく、技術や運動能力に焦点を当てたリアルな姿で表現してほしい』と求めていると回答し、さらに日本の消費者についても、70%以上の人が『アスリートは性別に関係なく、パフォーマンスとスポーツ、スポーツ組織への総合的な貢献度に基づいて報酬を受けるべきである』と考えていることがわかりました。広告においても、共感できるビジュアルが写っていないと日本の7割の人が感じているとし、想像以上の数字に驚きました。しかし、こうして数字として表れてくると、企業やメディアの方々に説明する際に説得力を増しますし、草の根運動的にこの認識が広がっていくことを願っています」

また、今回FIFA女子W杯2023の日本でのテレビ放送が直前まで決まらなかったことや、今年5月にFIFAのジャンニ・インファンティノ会長が、「女子ワールドカップの視聴率は男子の5~6割に達する。しかし放送局は、男子W杯には1億~2億ドル(約140億~280億円)払うが、女子には100万~1000万ドル(約1億4000万~14億円)だけ。過去の偉大な女子W杯選手と世界中の女性への侮辱だ」と批判するなど(CNNの報道より)、ここでもジェンダーギャップが顕となった。

「今は女性スポーツのストリーミングの人気が高まっていて、女性スポーツのスポンサーシップ投資は、全世界で10億ドル超(約1400億円超)と盛り上がりを見せているのですが、メディア報道になると果然として少ない。メディアも変わっていけば、女性のスポーツの地位が向上するのではないかと思います」

メディア業界で今もなお横行する差別的な質問

写真や動画は、違和感や偏見に気づく大きなきっかけとなる。アンコンシャスバイアスを打ち破ることを目的に、FIFA女子W杯の開催を前にフランス代表のスポンサー企業が公開し世界中でバイラルとなった動画は、賞賛の声もある一方で、メッセージを伝える対象を男性にフォーカスしているのではないかと遠藤はクリティカルに分析する。

「初めて動画を見た時、確かに映像編集の技術はすごいと思ったものの、女性へのエンパワーメントを与えるビデオではなく、反対に女性が男性基準で何か評価されてるような抵抗を感じました。しかし、おそらくこの動画のメッセージは男性のサッカーファンをターゲットとしているのではないかと思います」

しかし、動画を通した問題提起というのはさまざまな場面で力を発揮していると続ける。

「2015年からはじまったクリティカル・メディア・プロジェクトの『Cover the Athlete』は、男性と女性のアスリートに対するインタビューの質問の違いについて問題提起するものです。例えば、セクシュアルな話や服、体重の増減とパフォーマンスの乱れ、家族や恋人との関係など、女性アスリートが実際に記者から聞かれた質問を、映像編集で男性アスリートに問いかけ、戸惑うようすをまとめ、女性アスリートに対するメディアの取り扱いの不条理さを浮き彫りにしています。また、ある大手のスポーツメーカーはセリーナ・ウィリアムズが産後の辛さを語るCMを制作し、話題となりました。こうした視点から切り込んだ広告や動画は、ジェンダー不平等を是正するだけでなく、女性のエンパワーメントという面でも非常に効果的だと感じます」

7月30日に韓国と対戦したモロッコ代表。選手陣がキザラン・チェバク主将を囲み10で勝利を収めた。Photo Maddie Meyer  FIFAGetty Images

7月30日に韓国と対戦したモロッコ代表。選手陣がキザラン・チェバク主将を囲み1-0で勝利を収めた。Photo: Maddie Meyer - FIFA/Getty Images

遠藤が指摘するように、こうした不適切な質問は現に今も起きている。7月23日に実施されたモロッコ代表の公式会見で、イギリスBBCの記者がキザラン・チェバク主将に「モロッコでは同性愛が違法とされています。モロッコ代表に同性愛者はいますか? また、モロッコでの同性愛者の生活はどうなっているのでしょうか」と質問した。司会のFIFA関係者は「今の質問は政治的な質問なので控えてください」と指摘するも、記者は「これは政治的な質問ではありません。人々に関する質問です。彼女に答えさせてください」と続け、チェバクは首を横に振りながら呆れた表情をみせた。その後BBCは公式に謝罪し、多くのメディアが報道倫理に反すると批判的な内容を報じた。大半の記者はこうした言動は行わないとはいえ、不平等の歴史が続いてきたことが生み出した問題の表れともいえるだろう。

「このニュースを聞いてまず最初に思ったのが、こうした質問は男性アスリートにも聞かれるだろうか? ということ。モロッコの選手にとっては社会的な制裁を受ける可能性のある質問であり、アスリートの安全や保護を全く考えていないうえ、アウティングにもなる内容です。こうしたゴシップ的な要素は、アスリートのメンタルヘルスを弱らせる大きな要因の一つであることは確かで、取り締まりがあるべき問題だと思います」

アスリートの胸やお尻等の盗撮被害をなくしていくために

一方で、7月13日に盗撮行為を取り締まる撮影罪(性的姿態等撮影罪)が施行された。正当な理由なく胸やお尻、下着などを盗撮した場合に処罰され、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金が科せられる。スポーツ業界でもこうした被害は多く、不自然な角度やタイミングで切られるシャッター音によってアスリートは競技に集中できないだけでなく、性的な画像がネット上に拡散するなど、その精神的な苦痛は計り知れない。スポーツ界も被害撲滅に向けて声を上げてきたが、ユニホームの上からの撮影は処罰の線引きが難しく、依然として課題が残る。

こうした中、大手ビューティーブランドは今年4月に「Change the Angle(カメラアングルを変えて)」と題したグローバルキャンペーンを展開。南アフリカのダーバンで開催された女子ビーチバレーボール大会で、選手らは胸やお尻にQRコードをつけ、それを読み込むと性的に撮影されることを問題提起する同キャンペーン動画に誘導する仕組みだ。

「このキャンペーンのように、角度を変えるというのはまさにその通り。パフォーマンスや能力を最大限に表現する芸術的な撮り方をフォトグラファーやメディアに知見として共有する『Woman & Girls in Sport』というガイドラインを弊社では設けています。そして盗撮被害等をなくしていくためにも、一人ひとりのリテラシーを高めていくとともに、ハラスメントへの現場での対応策などをクリエイターの皆様とトレーニングしています。

視覚的なインパクトを与えられるビジュアルの持つ力というのは大きく、これらを賢く活用することが重要です。私も画像や動画などビジュアルをつくり販売する立場として、お客さんが望む内容だけじゃなく、写ってる人たちがどのように表現されたいのかを考えたものを生み出せるよう、日々心血を注いでいます。そして今、こうしたムーブメントに賛同する人が増えてきたと実感しています」

PROFILE
遠藤由理(Yuri Endo)
2016年からiStockのクリエイティブチームのメンバーとして、世界中のクリエイティブプロフェッショナルによる利用データ分析と外部データや事例を調査し、来るニーズの見識を基にCreative Insight(広告ビジュアルにおける動向調査レポート)を発信。意欲的な写真家、ビデオグラファー、イラストレーターをサポートし、インスピレーションに満ちたイメージ作りを目指している。

Text: Mina Oba