「泣く子も黙る、有名な教育困難地域でした」

 むくげ市は、過疎化と少子化が急速に進む中山間地の市である。この10年ほどで市内の小学校は20校から10校へとほぼ半減した。学力も、かつては全国平均をかなり下回っていた。

 その背景には、市のなかに、社会経済的に厳しい家庭の子どもが多く集まる地域が存在することもかかわっていた。筆者が訪問した、むくげ市みなづき中学校の校長は、「『泣く子も黙るみなづき』というぐらい、有名な教育困難地域でした」と語る。

とある地方の中学校はどう変わったか(写真はイメージ、Wakko/イメージマート)

 そのみなづき地域を含むむくげ市が、この4年間で学力を全国水準まで引き上げた。注目されるのは、高学力層がさらに伸びたのではなく、中間層・下位層の子どもたちの学力が底上げされたことで、格差が縮まってきたという点である。

「学力向上の要因は何ですか?」と、校長に尋ねた。ここではむくげ市まんりょう小学校の様子を紹介しよう。

 学力向上の要因のひとつは、複数指導体制である。むくげ市まんりょう小学校には、社会経済的に厳しい家庭環境の子どもが多いという地域事情もあり、通常の定数に上乗せして2名の加配教員が配置されている。

 この2名は、支援が必要な子を別室に取り出すのでも、授業を分担して教員の負担を減らすのでもなく、ふだんの授業に2人目の教師として入る。同じ教室で、みんなと同じ課題に向かいながら、つまずいたその瞬間に、その子のところへ行く。

「誰も外さないと、教室から。そういう気持ちは、強く歴代の先生が持っておられたと思います」と校長は言う。

 もうひとつが「児童支援記録」だ。「くり上がりの計算でつまずく」といった一人ひとりの「困り感」を記録した児童のカルテで、勉強が苦手な子どもを中心に、その子の学習記録が学期ごとに更新されていく。

 支援する教員が誰に代わっても、その子がどこで学習につまずいてしまうのかがわかり、支援が途切れない。この仕組みは、何十年も引き継がれてきたという。

 なぜ、低学力の子どもへの支援にこれほどこだわるのか。教頭の言葉が、その理由を端的に語っている。

「下位層のほうが結局学級でいづらくなって、居場所がなくて荒れていく。今でもクラスの中で、「できないから、怒られるから」っていう理由で荒れてしまう子も実際にいるので」

「できない」ことは、学力の問題にとどまらない。教室での居場所の問題なのだ。だからこそ加配教員を含む教員が一丸となって「しんどい子」にかかわり続け、話を「とことん聞いて」、学級の中に居場所をつくる。

 学力向上の取り組みである以前に、子どもに肯定的にかかわり続けるための実践である。