(3)「エースと4番は育てられない」
就任1年目のキャンプでは新庄剛志に投手との二刀流を指示。賛否の論争を巻き起こし、開幕直後の広島戦では、アッと驚く奇策2ランスクイズ(注1)を成功させた。
野村にナニワが最も期待を抱いた瞬間、それは開幕3連戦だったかもしれない。相手は巨人。舞台は東京ドーム。就任後、ことあるごとに「打倒巨人」「打倒長嶋」を連呼したノムさんが名将ぶりを発揮する。
初戦完敗。すると2戦目に動く。試合中、3度ベンチを出て次打者の耳元で囁く。すると、その3人全員がヒット(注2)を打ったのだ。こんなことってあるのだろうか? 魔法をみるようなタクトで勝つと、3戦目もルーキー福原(現投手コーチ)がプロ初星を挙げ、3連戦を勝ち越した。巨人に勝つ-。いきなり実現して見せた。
今も伝説のシーンとして登場する、新庄の敬遠球サヨナラ打(注3)もこの年6月の巨人戦。この舞台は甲子園だった。異常な盛り上がりは、今も忘れられない。直後には首位にも躍り出た。阪神ファンは夢を見た。ホンマに優勝できるかも、と。
「エースと4番は育てられない」
野村がよく使うフレーズだ。脇を固める選手は指導することで何とか成長させられる。でも、チームの根幹を担うエースと4番は、根本的な資質がなければ務まらない。
「野村再生工場といわれる。他球団でお払い箱になった選手でも、教え方、使い方次第で戦力にできる。でも、限界がある。エースと4番にはなってくれない」
ドラフトで超一流の獲得を願い、外国人の大砲獲得を願った。が、それを実現できないのが、当時の阪神球団だった。ノムさんならエースも4番も育てて欲しい、というファンの声にも、野村は「無理」と寂しげに笑っていた。