【短編小説】あなたが笑顔でいるだけで
心から反省したい、丹羽(にわ)は、隣の机にまなざしを向けたことを中和するように、凛子に陳謝したようだった。彼女の姿が視界に入るたびに、自分には視る資格がないと頷き
、見てはいられない、相応しくないという感情に急き立てられた。彼女の笑顔は一、二度くらいは見たことがあったが、どれも少し眺めただけであった。困惑というものを彼女の隣にいるからこそ、描いてしまうのは、運命の呪縛の作用によるものか。凛子の隣にいる、ただそれだけで満たされるものと当惑だけが混淆(こんこう)していた。
初めは恋から始まる、と思うかもしれないが、丹羽は正愛から始まった。正しく愛していたのである。愛するということにただひたむきに、まっすぐに愛情を抱いた。好きなものはメロンであったが、その食べ物に対する愛よりも誠実に愛を体現していた。彼女が視界に入れば、素直に頭を伏せる。彼女が教室の椅子に座れば、机を数ミリ離す。彼女が部活に行って教室にいないときは、箒や雑巾で彼女の机や椅子、その辺の地面を掃除した。彼女に興奮しそうになったときは、仮病を使って保健室まで行った。誰にもおかされることのないように神に縋る思いもした。彼女の交通手段に無事であるように真剣に祈った。


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