短編小説──キラと王女の非日常的世界
空気が凪いで、淀んだ世界に住みたいとキラは考えていた。王女様と付き合い、特別な指輪を渡そうと、平民ながら理想に燃えていた。田舎のキラには、王女様は高嶺の花であった。王女様である美玖は、毎日髪形を変化させる、物語に描いたような可愛いと言われる女性警官であった。合気道や空手を学ぶ傍ら、SPも任されていた。キラは決して利口なのではない。ふつうのイケメンであり、優しさを大切にしていた。優しさというのは父親から見習った大事な経験である、と考えていた。美玖は、最近、私に彼氏が出来ないかしら、と思い悩んだ。SPでの活躍は目覚ましいものであった。どんな銃口を向けられても、弾(たま)を粉砕できる、いわば洗脳の超能力があった。相手を一瞬で消し飛ばしてしまう、言うなれば最強の防御隊の一員であった。美玖は、仙洞高校の文化祭に向かった。誰か男を摘んで彼氏にする、という思想があったからであろう。文化祭には、キラがお化け屋敷の製造を任されていた。キラは、誰か凄い美女が来る気がした。キラは、王女様だろうと思った。あいにく美玖はキラに興味を持った。素肌が白く、端正な顔立ち、決して能力が高いわけではない。しかし彼から安心できるような、そんな雰囲気を纏っていた。キラは、「このお化け屋敷に行きたいですか」と美玖に尋ねた。美玖は、「ううん」と首を横に振った。美玖は心の中でこの男を選んだ。キラは、「好きになってしまって」と頭を掻いた。美玖も、「好きだよ」と言った。お互いに照れた様子だった。キラは、指輪を渡しに、待っていてくれとさらっと言った。美玖は、もう指輪をくれるの、と咢いた。そして遠ざかるキラを見て、私の髪形、憶えてね、と言った。
それから一ヶ月経ったいまも、美玖は指輪を大切にしている。意外と指輪は汚れないのね、と言うときがあった。キラは、指輪が汚れない、というのは当たり前ではないという風潮があるのか、と気にした。髪形を憶えることは容易だった。ポニーテールに三つ編み団子、どちらも可愛いな、と褒めた。三日目も、彼女の髪形を褒めた。美玖は心の中で『合格』と思った。この男は正解し続ける勇者に近い、そう思った。キラは、結婚式はあげなかったし、戸籍を入れる年齢にも満たしていなかった。しかし、二人の愛に亀裂はつかなかった。永遠の愛を誓う、というのは、勇気がいるが、お互いに不老になっていたのは、指輪の効果があったのだ。


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