デジタル時代は図書館活用の好機 「調べる技術」著者が語る醍醐味は
知をより多くの人々へ開いていった歩みの上に、豊かな方向性は目指せるのではないか。図書館・書物史にくわしい小林昌樹さんは、日本の図書館の現在地をふまえてそう語ります。国立国会図書館の司書術を公開して話題を集めた「調べる技術」の著者として、デジタル化時代は図書館利用の好機だとも言います。
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日本の近代図書館の歴史は、明治維新後まもない1872年、東京・湯島聖堂内に文部省が設立した書籍(しょじゃく)館に始まります。近代国家の体裁を整えたい政府は、97年に帝国図書館を設立、その新庁舎(現在の国際子ども図書館)が1906年に上野公園内で開館します。
戦前は有力な私立図書館も多く、図書館の数は、地域の小さな施設も含めると公立・私立あわせて全国で4千以上ありました。
もっとも、当時の図書館はおおむね有料で、蔵書は硬い本が中心です。利用者は学生や知識人、一部の読書人に限られていました。
戦後の民主化の中で1950年に図書館法が制定され、図書館は無料になり市民に開放されましたが、相変わらず限られた人々のものといえました。
それをもっと身近にすることをめざした運動が、1960年代後半からうまれます。東京都日野市立図書館など多摩地区から始まった「市民の図書館」づくりの試みと、個人が自宅を開放する家庭文庫運動などが連動し、全国に広がるうねりとなっていきました。
貸し出しを重視し、受験生や読書人だけでなく一般向けの閲覧席が増え、児童向けのサービスも拡充しました。書籍や雑誌を、利用者のリクエストに応じて買う幅も広がりました。
そうした機運の高まりは支持を集める一方、時に批判も受けます。ベストセラー本の大量貸し出しの是非が問われた90年代末からの「無料貸本屋論争」は、今に至るまで、出版社側の不満がくすぶり続けているといわれます。あるいは2010年代半ば、レンタル大手を指定管理者とした「ツタヤ図書館」で知られる佐賀県武雄市図書館の選書や資料保存のあり方などが批判されたこともありました。
教育と集いの機能、「折衷」の可能性を示す石川県立図書館
ただ長い目でみれば、図書館はより多くの人々に向けてサービスを拡充し、それが支持されてきた。社会の大衆化や知の世界のフラット化も進み、方向性を大きく逆戻りさせるのは現実的でないかもしれません。
国立国会図書館で長く働き、一利用者になってみると、図書館側が「こうあるべきだ」と教育的になりすぎていた面もあったのではないかと思いますね。
たとえば4年前にリニューアルした金沢市の石川県立図書館は、県立図書館ならではの充実した蔵書を保ちながら、利用者がリラックスして過ごすエリアもある。しゃれたドーム形の建築でデートにも使えそうな雰囲気もいい。教育施設としての役割と、人々が集う機能と、その折衷は、図書館の一つの可能性を示している気がします。
サポートも得て自分で挑戦、デジタルと紙の豊かな往還
21世紀に入り、デジタル化の立ち遅れが指摘されてきた図書館界も、やっとサービス整備に本腰を入れています。国立国会図書館は、その最前線。著作権法上の問題がない資料を提供するデジタルコレクションが好評です。登録を済ませばどこからでもアクセスできる利便性に富み、バリアフリーの観点からも重要です。各地の公共図書館も連携を深め、デジタルサービスの利用拠点として存在感を示すことが必要でしょう。
こうしたデジタル化の波は、利用者にとっては大きなチャンスです。デジタルが不得手な人も、もっとスタッフをどんどんレファレンス担当として活用してほしい。何を調べたらいいか分からない場合には、まずはファミリーヒストリーあたりから調べてみては? そしてサポートを受けた後は、今度は自分で挑戦する。「自分で調べる」ことが、図書館の醍醐(だいご)味の一つです。
ただ、デジタルが万能でない点も承知しておくべき点です。ネット検索を延々と続けているだけではキーワードの幅が広がりません。デジタルで調べて紙の本にあたる、紙の本で知識や情報を得てデジタルで調べる――。同時並行で使うことが肝心です。図書館は、その豊かな往還ができる、またとない場所ですから。
たった一つのテーマでも、図書館にはたくさんの資料がある。時空をこえた著者との出会いが待っています。深い森に分け入る楽しさを、どうか味わってください。
小林昌樹さん
こばやし・まさき 1967年生まれ。近代出版研究所所長。92年から国立国会図書館に勤務、16年間にわたりレファレンス(調べ物)を担当。著書に「調べる技術」「立ち読みの歴史」など。
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