米国の歴史を振り返ってみても、これほど多くの国民が連邦政府の行動に反対し、しかもトップダウンの政治的解決が望めない状況はほとんどなかった。そのため、多くの国民がボトムアップの抗議方法を模索している。草の根の組織化だ。
米国民はいま、移民を保護・支援するため、市街地を急襲する国土安全保障省(DHS)の危険な行為に抵抗したり、人権や政策の変化を求めて抗議したりしている。だが、そうした運動を組織しようとする米国民の前に、連邦政府が立ちはだかる。強大な監視能力を手中に収め、国民のデータを握るシリコンバレー企業の圧倒的な協力をも味方につけた存在だ。
つまり、政治的・社会的・経済的な組織化には、高いリスクを伴うジレンマがつきまとうのだ。政府による監視や標的化を回避しながら、あらゆる年齢やバックグラウンド、技能をもつ人々を大衆運動に結集するにはどうすればよいのか。
しかも、立ち向かう相手は移民・関税執行局(ICE)と税関・国境警備局(CBP)だ。軍隊と変わらない目的をもち、法律違反さえいとわず、一国の軍事予算すら上回る資金に支えられた連邦機関だ。
監視の時代に組織化を守るには、セキュリティに関する技術的ノウハウだけでなく、秘匿性と公開性の危ういバランスをうまくとることも必要になる。そう語るのは、デジタル時代の市民的自由を専門とする非営利団体、電子フロンティア財団(Electronic Frontier Foundation、EFF)のサイバーセキュリティ担当ディレクター、エヴァ・ガルペリンだ。
「一部の情報についてはアクセス権を少数の人間に限定したいでしょうし、利用しているプラットフォームについても考慮しなくてはなりません。法執行機関がグーグルに情報公開を請求した際に、機密情報が法執行機関の手に渡らないようにするためです。その一方で、組織化の大半が公開の場で進み、人を巻き込むという事実も考慮する必要があります。組織化は、一定以上の規模と連帯があって初めて力をもつのですから」
こうしたジレンマに向かい合いながら運動の組織化を守るための、わかりやすい技術的なヒントがあるわけではない。だが、役に立つアプローチやガイドライン、ツールは存在する。監視の時代に組織化と団結を進めるにはどうすべきか。『WIRED』は、その手がかりを求めてテクノロジストやアクティビスト、支援団体、そしてサイバーセキュリティの専門家に話を聞いた。
監視の目から守るべきものは何か
組織化の保護と監視への対抗を強化する最初のステップは、デジタルセキュリティの専門家や組織の主導者が「脅威モデリング」と呼ぶ段階だ。想定される敵が何を監視対象として狙いそうか、何を守るべきかを見極めることを指す。
つまり、どのような情報まで公開できるか、どの会話であればプライバシー性の低いプラットフォームでも進められるのか、逆に組織のどの部分を秘匿する必要があるのかを明確に定めることだ。両方のアプローチが複合的に必要になることは、ほぼ間違いない。
「暗号化などで保護すべきものと、その必要がないものについてルールがなければ、何もかも暗号化しようと考えてしまうでしょう」と、CryptoHarlemの創業者でありセキュリティトレーナーでもあり、現在はリスク低減を専門とする企業Safety Sync Groupの最高経営責任者(CEO)を務めるマット・ミッチェルは言う。「よかれと思ってのことでしょうが、障壁が増え、ミスが起こりやすくなります」
EFFのガルペリンは、必然的に公開される内容とその時期を検討する際のガイドラインをひとつ提案している。少人数で対面の計画段階の会議を開くのであれば、その日時や場所は秘密にしておきたいところだ。だが、いずれ公開される、例えば大規模な集会を予定していて市当局の許可が必要な場合などであれば、計画を隠しておく必要性はそれほど高くない。
ガルペリンが警告しているのは、秘密が多すぎると、運動に新たに参加した人たちが疎外感を抱きかねないということだ。「活動の大部分は、何よりもまず、自分たちの活動内容を人に説明することです。そのために活躍するのは地域のボランティアや電話による連絡などの地道な活動です。地味であまり魅力的に感じないかもしれませんが、秘密にするような行動でもありません」
人道支援団体Distribute Aidの共同創設者、テイラー・フェアバンクも同様のことを述べている。特定の物資を必要としているコミュニティにそれを届ける際、組織が関わるロジスティックスやコミュニケーションの大部分は公開の場、すなわち監視が可能なプラットフォームで実行できる。むしろ実行すべきだという。
「わたしがFacebookから離れるつもりがないのは、英国にいる祖父母が年に一度連絡してきて、ヨーロッパの難民キャンプに届ける手編みの帽子やセーターを大量に送りたいと言ってくるからです。その連絡を受け取り、安全とはいえないFacebook上で地理的な境界を越えたその支援を繋ぎ、意志を伝えるのが、わたしの役目です」
一方で、Distribute Aidの倉庫の所在地など一部の情報は慎重に保護しなければならない。ここが重要な点だ。「倉庫の住所は決してオンラインに投稿しません。わたしたちの倉庫や協力者たちの倉庫が、窃盗や政治的暴力の標的になったことがあるからです。機密データは明確に特定したうえで、厳重に秘匿することをお勧めします」
つまり、いかなる協力体制や通信についても、保護が必要かどうか、その手段はどうするかを考慮するということだ。組織が残すすべてのデジタルフットプリントについて、本当に秘匿する必要がある場合には、暗号化したうえで一定時間後に削除し、クラウドではなく自らの管理下、あるいはその両方で保管しなければならない。専門家が推奨するツールや手法は、次の項で紹介する。
要点まとめ:あらゆることを秘密にしようとするのは現実的ではなく、常に望ましいとも限らない。それよりも、脅威モデリングのアプローチを取ろう。何が機密情報かを見極め、それを暗号化し、安全な場所に保管する、あるいは一定時間後に削除するなどして徹底的に保護する。そのうえで、最終的に公開される情報については、過度に神経質になる必要はない。
組織内コミュニケーションを守る
『WIRED』の取材に応じたアクティビストやセキュリティ専門家が、テキストや音声の通信にデフォルトで使う主なツールとして推奨したのは、やはり暗号化メッセージアプリ「Signal」だった。Signalはエンドツーエンドで暗号化される、つまり会話している当人のスマートフォンやPCでしか通信を復号できないからだ。しかも、無料のオープンソースとして実績があり、普及率も高い。使い方が簡単なので、組織の新しいメンバーもスムーズに参加できる。
「WhatsApp」もSignalの暗号化プロトコルを使い、エンドツーエンドで暗号化されるメッセージングと通話を独自に実現してはいる。だが、そのWhatsAppと違ってSignalは、誰が誰に通話やメッセージを発信したかといったメタデータを記録しない。この点がプライバシー上、決定的に重要だ。そのうえ、Signalはグループビデオ通話まで含めて信頼性がかなり向上している。そのため、メールだけでなく、Zoomなどのビデオ会議ツールの代替としても重要になってきた。
それでも、いくつかの習慣を取り入れれば、Signalのセキュリティは大幅に強化される。暗号化と同じくらい重要なのは、おそらく消えるメッセージの機能だろう。メッセージを所定の時間だけ残すことができ、その時間は4週間からわずか30秒まで設定できる。この機能をオンにしておこう。それほど機密性が高くない会話で、消えるまでの時間を1週間に設定したとしても、組織の会話が漏洩するリスクは大幅に減る。また、新しいメンバーには電話番号を聞くのではなく、Signalのユーザー名機能を有効に使おう。グループメンバーの個人情報が漏れる可能性をさらに小さくできる。
ただし、Signalのグループが大きくなると、暗号化があってもグループメンバーによる漏洩を完全には防げない点に注意が必要だ。トランプ政権で発生した「SignalGate(シグナルゲート)」事件で、驚くほど明らかになった教訓だ。
Signalのグループが一定の規模を超えると、新たに招かれたメンバーが十分な審査を受けていない可能性が出てくる。「グループの人数が50人を超えたら、もはやプライベートに会話できる場ではありません」とガルペリンは述べている。真に機密性の高い情報は、できるだけ少人数のグループ、あるいは一対一の会話にとどめよう。
エンドツーエンドの暗号化も、セキュリティが万全かどうかは通信に関わるデバイス次第だ。グループメンバーは、Signalアプリ自体へのアクセスに対して認証を設定すべきだ。Signalの「設定」で、「プライバシー」メニューにある「画面ロック」を有効にすればいい。
組織の一員が機密データにアクセスでき、かつSignalグループに参加している場合は、全員が必ず強力なパスコードを設定する必要がある。画面ロック解除の生体認証アクセスも、無効にすることを検討しよう。可能であれば、Signalを使うスマートフォンやコンピューターでは、生体認証アクセスをすべてオフにしたほうがよい。
顔認証や指紋認証によるロック解除は、法執行機関による捜索に制限を設けた修正第4条のもとでは保護対象になりにくいからだ(『Washington Post』のハンナ・ナタンソン記者が捜索を受けた事例が典型だ。SignalデスクトップアプリがインストールされているPCに生体認証でアクセスしている場合、いかに厳重にスマートフォンを保護していても、リンクされたSignalアカウントに当局がアクセスするのを許してしまう)。
セキュリティ対策にそこまでの手間をかけたくなければ、組織での機密の通信専用に2台目のデバイスを用意し、それに前述のセキュリティ対策を適用することをガルペリンは推奨している。いわゆる「バーナーフォン(使い捨て端末)」ではなく、セキュリティ対策を強化した「代替端末」と考えよう。特に警戒が必要な集団のメンバーには、この対応が適している。
「コンパートメント化をお勧めします。厳重に注意しなければならない場面と、日常生活に近いレベルで仕事ができる場面とを分けて使いこなせますから」とガルペリンは説明している。
最近では、暗号化通信を使うアプリがほかにも増え、セキュリティ関係者のあいだでも人気が高まっている。なかには「SimpleX」や「Session」のように、Signalよりすぐれていると謳うアプリもあり、Signalのフォークも、Signal自体と相互運用はできないながら登場している。
だが、こうした代替アプリについて『WIRED』が意見を求めた専門家の誰も、Signalからの乗り換えは勧めなかった。相対的にまだ実証が不足していることや、不慣れで複雑になりがちなツールへの移行は組織としてコストがかかるといった理由からだ。
また、ソーシャルメディアアプリのプライベートメッセージング機能を使わないようにとも、専門家は警告している。運動の主導者にとっては便利かもしれないが、謳われているほどのプライバシーや強力な暗号化が、相対的に欠けているからだという。
Signalでは置き換えにくいコミュニケーションツールがあることも、『WIRED』の取材に応じたセキュリティ専門家は認めている。そのひとつが「Slack」だ。Slackのグループメッセージや通知の機能は柔軟性が高いため、チーム間の複雑な組織化に関しては、Signalよりはるかに効率的な場合が多いからだ。
だが、Slackにはエンドツーエンドの暗号化や消えるメッセージの機能がない。しかも、単一の企業によって集中管理されており、その企業は法執行機関からの要請に応じることになる。これらの点を踏まえると、組織の主導者にとってはプライバシー上の悪夢を招きかねない。
そう警告しているのは、報道の自由財団(Freedom of the Press Foundation)でデジタルセキュリティ担当ディレクター兼セキュリティトレーナーを務めるハーロ・ホームズだ(同じことは「Discord」にも当てはまる)。
「Slack」という名前は、そもそも「Searchable Log of all Communications and Knowledge(あらゆるコミュニケーションと知識の検索可能なログ)」の略であり、機密情報の保護に適した場所ではない。「Slackは冷水器のようなものです。欲しい情報があると伝えるだけでいい。だが、Slackは友だちではないのです」とホームズは言う(注:『WIRED』のグローバル・エディトリアル・ディレクターは、報道の自由財団の理事も務めている)。
Slackより安全な代替ツールとして、ホームズをはじめとするサイバーセキュリティの専門家が推奨しているのは、「Mattermost」や「Matrix」など、セキュリティ機能が充実したツールだ。Mattermostにはエンドツーエンドの暗号化が採用されており、設定した時間で自動的にメッセージが削除される機能は両方が備わっている。また、いずれもセルフホスティングが可能だ。
つまり、Slackのように企業一社に管理を委ねるのではなく、組織自らが所有・運用するサーバー上に構築できる。セルフホスティングはそれ自体、セキュリティ面で大きな課題を抱えており、その詳細は後述するが、あらゆる通信履歴をサードパーティ企業の手に委ねるよりは望ましいと言える。その企業は、当局から通信履歴の提供を求められた場合、ほとんど抵抗できず、透明性も確保できないからだ。
要点まとめ:メッセージ、通話、動画チャットにはできるだけSignalを使い、消えるメッセージを設定する。ただし、暗号化が万能ではないことも覚えておこう。会話の双方についてデバイスのセキュリティを考慮し、関係する全員の信頼性を確認しよう。
安全なコラボレーションツールを使う
組織化には、言うまでもなく組織的な作業が必要になる。地域社会で夜間パトロールの当番表を作成するためにスプレッドシートを使ったり、一連の企画文書を作成して複数のメンバーがそれを頻繁に更新したりすることがある。そうした場合、Google Docs SuiteやMicrosoft Office 365など、自動で同期されるクラウドベースのツールに頼ることが多いのは当然だろう。
だが、その場合もやはり、グーグルやマイクロソフトに自分たちの情報を委ねることになる。こうした企業は、必要に応じてアクセス権を取り消すこともあるし、法律に基づく要求があれば連邦機関にデータを提供することもある。
そうなると、難しい判断を迫られる。こうしたツールが監視を受けやすいことは間違いないが、使いやすくわかりやすいという利点もある。あらゆる年齢とバックグラウンドの人と協力する可能性がある場合には欠かせない特性だ。
この板挟みに対して、費用のかかる解決策ならある。組織の予算が潤沢であれば、「クライアント側」の暗号化を有料で組織全体に実装できる。Googleドキュメントなどのプラットフォームを使いながら、そのデータに関する暗号鍵は「Virtru」などのサードパーティを使って管理できる。そのため、グーグルもほかのプラットフォームプロバイダーからはデータが遮断される。
一般の人々が、このような環境に年間数千ドルを負担するのは難しいが、専門家によれば、ほとんどの脅威モデルでは、暗号化されない通常のGoogleドキュメントを使う余地があるという。もちろん、リスクを理解することが前提だ。
「情報公開を請求された場合、グーグルは連邦当局にデータを渡すでしょうか? 答えはイエスです。それでも、グーグルのクラウドツールは組織の活動にとって有益なツールでしょうか。イエスです」と、非営利の権利擁護団体Fight for the Futureのディレクター、エヴァン・グリアーはこう話している。
「では、抗議活動の真っ最中にオープンソースの代替サービスに切り換えるべきでしょうか? 一概にそうとは言い切れません。いまは、危機的なときだからです。組織を率いるみなさんには、メールの設定などよりも、抗議運動と組織化に専念してほしいと考えています」
大組織並みにクライアント側の暗号化環境に費用をかけることなく、コラボレーションツールでセキュリティを優先する必要がある場合でも、朗報がある。安価でありながら、一般向けの代表的なクラウドサービスより安全な選択肢も増えつつあるということだ。
例えば、スイスに本拠を構える企業Protonは、エンドツーエンドで暗号化されるツールのスイート製品を提供している。フラグシップであるメールサービスの「Proton Mail」をはじめ、Docs、Sheets、Calendar、Driveなどがある。
(このスイートのうち、Proton Mailについては注意点がある。Proton Mailを使う場合、メールがエンドツーエンドで暗号化されるのは、ほかのProton Mailアカウントとのあいだで送受信する場合に限られる。Proton MailからGmailアカウントに送信した場合、そのメールはグーグル側でほかのメールと同様に扱われる。できるだけSignalを使うようにしよう。エンドツーエンドで暗号化されないメッセージングプラットフォームとは互換性がないため、誤って通信内容を漏らしてしまう事故は起こりにくくなる)。
Protonは、無料アカウントで1GBのストレージを利用できるほか、ストレージ増量やアカウント保護の拡張などが可能な、月額13ドルおよび20ドルのプランも用意している。大規模な組織向けにはビジネス製品も提供されている(クラウドストレージについては、スイスにあるTresoritもエンドツーエンドの暗号化オプションを提供している。オープンソースではないが、これを推奨する専門家もいる)。
同期型のコラボレーションツールを提供しながら、あらゆるものをエンドツーエンドで暗号化するのは複雑だ。Protonのサービスも使い方はそれほど簡単ではなく、従来のウェブプラットフォームのように機能が充実しているわけでもない(Protonのワードプロセッサーは文書を複数ページに分割することすらできないと、Safety Syncのマット・ミッチェルは指摘する)。それでも、ユーザーインターフェースがシンプルで使いやすいという事実には利点がある。これは同社が長年にわたり重視してきたアプローチだ。
Protonの製品はオープンソースで、独立した機関による監査を受けている。同社はプライバシー法が強固なスイスに事業拠点を置くことで、データプライバシーの保護サービスを提供している。ただし、法執行機関の命令により、Protonが特定の顧客に関するメタデータを提出した事例があるという情報が、『WIRED』に複数のソースから寄せられている。そのなかには、スイスの法執行機関の要請を受け、フランスのあるアクティビストのIPアドレスとデバイスIDをログに記録していた2021年のケースも含まれている。
ある意味では、スイスの一企業が所有するサーバーより、組織が自ら所有・管理するサーバーのほうが望ましいといえる。Fight for the Futureのグリアーは、「セルフホスティング」も組織のデータを監視されにくくするひとつのアプローチだと指摘する。例えばNextcloudが提供するコラボレーションスイートはGoogleドキュメントに似ているが、独自のサーバー上に構築でき、一種の「プライベートクラウド」になる。
また、「Cryptpad」というツールも同様にセルフホスティングのオプションがあり、データをエンドツーエンドで暗号化する機能も備えている。信頼できない企業の手にデータを委ねずに済むうえ、仮に組織独自のCryptpadサーバーが押収されたり侵害されたりした場合でも、理論上はデータが保護される。
ただし、ここで重大な注意点がある。セルフホスティングは決して容易ではないということだ。専属のIT担当者を配置し、インフラの管理、ネットワークの保護、ソフトウェアの更新に当たらせる必要があり、万一サーバーがクラッシュした場合には、真夜中であっても対応しなければならない。
EFFのガルペリンはこう説明する。「活動に携わるみなさんはローカルホスティングをよく話題にし、そのほうが安全だと考えがちですが、実際には場合によります。自分がシステム管理者としてどのくらい優秀か考える必要があります。言っておきますが、サーバーを稼働状態に保ち、しかも保護し続けるのは片手間でできることではありません。きちんと行なうのは並大抵のことではないのです」
もちろん、リソースが豊富で技術力も十分な組織にとっては、有力な選択肢だ。例えばFight for the Futureは、25年一年間で大幅に「脱グーグル」を進め、ツールの大半をエンドツーエンドで暗号化された、あるいはセルフホスティング型の代替サービスに切り替えたとグリアーは話している。
具体的には、Signal、Nextcloud、Matrix、そしてセルフホスティング型のWikiツール「Outline」などだ(この移行を進めた理由の一端はセキュリティだが、心情的な理由もあるとグリアーは付け加えている。「ビッグテックの市場独占にはうんざりです。使わなくて済むならビッグテックのソフトウェアは使いたくありません」)。
Distribute Aidのフェアバンクは、Movement Infrastructure ResearchやRise Against Big Techといった非営利組織の支援を受けられることもあると指摘している。
もうひとつ、忘れてはならないリスクがある。ウェブベースのサービスは、どのブラウザからでもアクセスできる利便性がある一方で、プラットフォームのセキュリティを支える暗号化が侵害されるおそれもあるということだ。
例えば、企業がセキュリティの引き下げを法的に強制されたり、サーバーを押収されたりする場合だ。そうなれば、ブラウザ経由でそのウェブサービスを利用していた活動は、変更の兆候がまったくないまま、すべて公開されてしまう可能性がある。
最大限に警戒するなら、エンドツーエンドで暗号化されたプラットフォームを最も安全に使う方法は、デスクトップまたはモバイルのアプリケーションにある。暗号化方式を実装したソフトウェアをあらかじめダウンロードしてインストールし、更新を適用しない限り変更できない状態にしておけばよい。NextcloudとCryptpadはいずれもスタンドアロンのアプリを提供している。Protonでは同様のスタンドアロンアプリがMailとCalendarにはあるが、DocsとSheetsには実装されていない。
クラウドホスティング型のコラボレーションツールの全体的なプライバシー面は別として、昔ながらの対策もある。ファイルのコピーを各自のコンピューターに保存するという方法だ。機密性の高い文書の草案を少人数で扱う場合には、一度に1台のPC上でテキストエディターを使って順番に編集を加え、その後、Signal上で次の編集者に渡せばよい。
全面公開から、被害妄想的ともいえる厳重管理まで、どのようなアプローチをとるにしても、Signalで対話するときと同じ原則が当てはまる。つまり、情報のセキュリティは、それにアクセスする最もセキュリティの低いデバイスによって決まるということだ。
従って、脅威モデルを検討し、機密性の特に高いデータへのアクセス権を組織の誰のデバイスやアカウントに付与するかを決める際には、それらが厳重に保護されていることを確認しよう。すなわち、フルディスク暗号化を施すこと(WindowsとMacそれぞれの暗号化方法の詳細はこちら)、強力なパスワードを設定すること(パスワードマネージャーの使用を推奨)、そしてクラウドでもセルフホスティングサービスでもあらゆるアカウントで多要素認証を使用することだ。
要点まとめ:コラボレーションの方法が拡がるにつれて、選択肢も増えてくる。安全ではないが使いやすいGoogleドキュメントから、ProtonやCryptPadのようにエンドツーエンドで暗号化された、あるいはセルフホスティング型のツールまでさまざまだ。あるいは、ファイルの保存と編集をローカルに限定し、それをSignal経由で共有する方法もある。検討した脅威モデルに基づいて、組織に最も適したアプローチを選択しよう。
リアルミーティングの安全性
組織を組む相手と同じ地域にいるのであれば、オンラインであれこれ悩むのをやめて、実際に顔を合わせてみてはどうだろうか。多くの場合、それが最善の選択だと専門家は『WIRED』に答えている。ただし、ここにも注意すべき点がある。
まず、直接対面の場合も、オンラインの組織化と同様に脅威モデルを評価することだ。会おうとしている相手との関係は、すでに公になっているか。あるいは、面識や協力関係そのものが秘密なのか。面会する場所や、人と行動を共にする場所についても、同様に評価しよう。機密データをどこに、どのように保管するかを検討するときと同じだ。
同席しているところや、知られたくない、知られてはいけない場所を出入りしているところを見られることが避けられないのであれば、直接対面にプライバシー上のメリットはない。通行人に見られる、法執行機関に追尾される、あるいはスマートフォンや監視カメラ、顔認証システム、ナンバープレートの自動認識のデータを通じて追跡されるなど、物理世界にも無数の監視手段が存在する。
データに関する脅威モデルの評価と同様に、対人関係がすでに公になっていたり、機密ではなくなっていたりする状況は多い。例えば、近所の知り合いに会う場合や、宗教団体や労働組合など秘密ではない組織の人と一緒にボランティア活動に参加するなどがそうだ。
同席しているところを目撃されても機密に支障がないのであれば、対面で会うことは、組織化において特に有効で安全な手段となり得ると専門家は強調している。
「人が実際に顔を合わせて交わすコミュニケーションは、何にも代えがたいものであり、わたしはそれを尊重します。バーのように、周囲の雑音のなかでささやき声で話すような環境こそ、最高の暗号化といえるでしょう。とはいえ、監視に使われるアーキテクチャのことは常に忘れないでください。信じられないほど、どこにでもあるものです」と、報道の自由財団のホームズは話している。
要点まとめ:直接の対面であれば、組織のプライバシーとセキュリティを損ねかねない技術的な脆弱性を排除できる。ただし、その場合でも脅威モデルは検討しよう。人と面会するというその事実自体を秘匿しなければならない場合、物理的な監視は、オンラインのコミュニケーションと同じくらい、あるいはそれ以上に危険になりうるからだ。
リスクを評価し、そして行動する
実際のところ、権力者の利益と対立する組織化には、オンラインであれ物理であれ、あらゆる面で監視の脅威と、それに伴う重大な結果がつきまとうと、Distribute Aidのテイラー・フェアバンクは語る。
「残念ながら、他人に手を差し伸べる行為には、必ず一定のリスクが伴います。それが、わたしたちの生きている現実です。だからこそ、どのような行動をとるのかを考えなければなりません。独自の脅威モデルを確立すること。そのうえで、何らかの行動に伴う避けられないリスクを受け入れる意思がないのであれば、その行動はとらないことです」
だが、そのように考え悩むことは、人が行動に踏み出すのを妨げるものでは決してない、ともフェアバンクは述べている。「目の前のリスクを見つめ、情報に基づいて選択を下し、できだけ安全を確保する必要はあります。それでも、自ら行動して人を助けるのです。わたしたちには、そうした行動が必要なのです」
(Originally published on wired.com, translated by Akira Takahashi/LIBER, edited by Nobuko Igari)
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