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キャリア・教育

「無駄な仕事を早く終わらせると、損をする」…優秀な会社員たちが"業務効率化"をしない納得の理由

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ビジネスパーソンのイメージ
仕事の効率化が進まない背景には、会社員たちの「損得計算」がある(写真:わたなべりょう/PIXTA)
  • 太田 肇 同志社大学名誉教授

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「この作業、もっと早く終わらせられるのに…」そんな空気が流れつつも、多くの社員がダラダラと残業している会社があるとしたら、要領が悪いからではなく、会社員として「極めて合理的な生存戦略」をとっている証拠かもしれません。本稿では『なぜ「賢い人」が集まってしょうもない意思決定がなされるのか 身近な疑問からみる日本型組織の「無駄の構造」』より一部抜粋のうえ、無駄な仕事が会社から絶対に消えない不条理な仕組みを解説します。

みんなが無駄だと思っている作業がなぜなくならないのか

組織の「慣性」を支えているのは、何も共同体の上層部だけではない。現場の最前線においても、また別の、しかし同様に強力なロジックで慣性の力が働いている。

仮に若手社員が、仕事の手続きを抜本的に簡略化するアイデアを思いついたとする。「この作業、今まで2時間かかっていたのが、このツールを使えば30分で終わりますよ」という新しい方式を提案したとき、彼はきっと、会社に貢献する素晴らしい提案として歓迎されると確信しているはずだ。

ところが期待に反し、現場のベテラン社員や同僚から返ってくるのは、冷ややかな、あるいは警戒心に満ちた反応であることが少なくない。

「そんなに早く終わらせて、浮いた時間に何をさせるつもりだ」

「もし新しいやり方でミスが出たら、誰が責任を取るんだ。今のままでいいじゃないか」

こうした反応を耳にするとき、彼は現場には効率化とは真逆のベクトルを持つ、奇妙な力学が働いていることに気づかされるだろう。

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ここで、1つの調査結果を見てみたい。私が実施した「2022年ウェブ調査」において、「無駄な仕事だとわかっていても、そのまま続ける場合がありますか?」と尋ねたところ、実に63.6%、およそ3分の2の人々が「ある」と回答した。なぜ、これほど多くの人が「無駄」を自覚しながら、それをやめようとしないのか?

もちろん、現場の社員には「従順な部下」という信頼を傷つけたくないという心理や、上司に対して角が立つことを言いにくいという理由もあるだろう。しかし、「従順な部下」という仮面の下では、実はもっとしたたかで現実的な「損得計算」が働いていることが多いのだ。

一言で言えば、改善などせず、無駄な仕事をそのまま続けていたほうが「自分にとって得になる」という構造が存在するのである。

「効率的に仕事を終わらせる」ことの会社員的デメリット

まず挙げられるのが、残業代の問題だ。成果ではなく「働いた時間」に対して報酬が支払われる日本の多くの職場では、どんなに無駄な作業であっても、頑張って長時間働けば、当然ながら超過勤務手当が支給される。

もし画期的な効率化が実現し、毎日定時で仕事が終わるようになったとしたら、残業代を前提に家計を支えている人間にとっては死活問題となる。仕事の分担が曖昧で、個人の貢献度や具体的な成果を客観的に評価しづらい日本企業では、このような「不合理な超勤稼ぎ」が、生存戦略としてまかり通っている現実がある。

また、評価の側面も見逃せない。部下としては無駄だとわかっていても、がむしゃらに汗をかいて働いている姿を見せたほうが、「あいつは頑張っている」というアピールにつながりやすい。逆に、要領よく仕事を効率化し、涼しい顔をして定時に帰るようになれば、それが必ずしも正当に評価されるとは限らないのだ。ゆとりを持って仕事をしていることが、人事考課における「情意面」(意欲や態度)でマイナスに作用する可能性さえある。

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さらに言えば、「仕事ができる人」「早く終わらせる人」と認識されれば、空いた時間に別の仕事が容赦なく降ってくるかもしれない。下手をすれば他人の雑用まで押し付けられ、「便利屋」として使い潰されるリスクもあるのだ。

真っ先に削減されるべき無益なプロジェクトがなぜ会社の「聖域」に?

「いや、上司はそれくらい見抜いているはずだ」と思うかもしれない。たしかに、無駄な努力を続ける部下より、効率化して楽々と成果を出す部下のほうが会社にとって有益であることくらい、上司も頭では理解している。しかし、上司の側にもまた、独自の損得計算が働いている。

自分の部署で仕事を効率化し、人員に余裕ができれば、他の部署から「あそこは暇そうだ」と余分な仕事を押し付けられるかもしれない。あるいは「この部署はこれだけの人数がいらなくなる」と判断され、部下を減らされるかもしれない。部下が減り、組織としての所帯が小さくなることは、社内での発言力や影響力の低下を意味する。

『なぜ「賢い人」が集まってしょうもない意思決定がなされるのか 身近な疑問からみる日本型組織の「無駄の構造」』(日経BP 日本経済新聞出版)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

また、先陣を切って合理化を進めることは、旧態依然とした他部署のやり方を否定することにもなり、周囲から「余計なことをするな」と煙たがられる可能性もある。

これらに加え、単に「面倒な改革をしたくない」という消極的な事なかれ主義も根強い。経営者の「保身」と、現場の「利害」が奇妙な形で合致したとき、組織の合理性は完全に破綻する。

そして、本来は真っ先に廃止されるべき無益なプロジェクトや慣行が、誰にも触れられない「聖域」として、組織の中に鎮座し続けることになるのだ。

こうして俯瞰してみると、共同体型組織には、効率化や変革というベクトルを打ち消す「逆向きの力」が、あらゆる方向から働いていることがわかる。ただ、それだけならばまだ、対策の手を打つことは可能かもしれない。少なくとも、当事者たちにとって「何が問題なのか」という所在だけは見えているからだ。

しかし、ここに「個人的な利害」がさらに深く絡み合ってくると、問題そのものが意識から消え、見えなくなっていくという、いっそう危険な状況に陥る。

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