【じっくり解説】暗黙の”35人”ルール?中国 広東省での車の暴走事故について
2024年11月11日夜に中国広東省で車を暴走させ、30人以上を死亡させる事故が起こった。この事故について、中国に留学中で、中国に関心をもつ学生の視点から解説を行う。
(サムネイル写真参照先:NHK(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241113/k10014636741000.html))
当局発表によると、事件の概要は以下の通り。
事件概要
「11月11日19時48分ごろ、1台の小型の車が香州区で多くの歩行者を轢き逃走した。なお、容疑者は現在62歳で、既に警察によって拘束されている」(财新网より)
中国国内で暮らしている私がどのようにこの事件を知ったのか
私は翌12日の朝になって初めてこのニュースを知った。大使館から「広東省珠海でひき逃げ事件(注意喚起)」というメールが届いていたのだ。しかしながら、近頃は経済状況の悪化に伴い、中国各地で無差別に人を殺傷する事件が多く、こうしたメールも高頻度で届いていたため「いつものことか」と特に注目していなかったのだ。
自体が大きく動き始めたのは11月12日夕方である。日本のテレビ局が一斉に今回の事件の報道をはじめ、19時前には習近平氏から直々のメッセージも発表された。中国でようやく公式発表がなされたころから、wechatや各種SNSで当時の状況などを含めた事件の詳細が明らかになり始めた。
しかしながら、とくにテレビにおける放送が非常に抑制的であった点が印象的だ。仮にこのような大事件が日本で起こっていたとすると、おそらく夜のニュース番組や翌朝のニュース番組の一番初めに報道されると思われるが、この国ではそうした動きは一切見られない。たとえば、夜9時のニュースも外交部の記者会見と今日開幕した大きな“エアショー”がトップニュースとして放送されたのみで、この事件には一切触れられなかった。
このように、報道の方法や事件の扱われ方が異なる中国において、この事件はどのように受け止められているのか?独自視点の考察も交えながら解説する。
習近平氏のコメント
さて、今回の事件に関する習近平氏(中央)からの声明は以下のとおりである。
ーーーーー(原文)ーーーーーー
新华社北京11月12日电 11月11日晚,广东珠海市香洲区体育中心发生驾车冲撞行人案件,截至目前,已造成35人死亡、43人重伤。
案件发生后,中共中央总书记、国家主席、中央军委主席习近平高度重视并作出重要指示指出,广东珠海市香洲区体育中心发生驾车冲撞行人案件,造成重大人员伤亡,性质极其恶劣。要全力救治伤员,精心做好伤亡人员及家属安抚善后工作。要依法严惩凶手。各地区和有关部门要深刻汲取教训、举一反三,加强风险源头防控,及时化解矛盾纠纷,严防发生极端案件,全力保障人民群众生命安全和社会稳定。
中共中央政治局常委、国务院总理李强作出批示指出,要全力抢救伤员,稳妥做好善后,尽快查明案情并依法严惩凶手。要防控结合,切实做好风险隐患和社会矛盾排查化解,确保社会大局稳定。
根据习近平重要指示,中央已派工作组赶赴当地指导处置工作,广东省及珠海市正全力做好伤员救治、案件侦办、社会面防控等工作。目前,各项工作正在进行中。
ーーーーー(原文)ーーーーー
日本語要約)
新華社通信は11月12日付で以下の文章を発表した。
11月11日夜、広東省珠海市香州区の体育館で車が歩行者を轢逃げする事件が発生した。声明文掲載直前で、すでに35人が死亡しており、43人が重傷となっている。
この事案が発生したのち、習近平(中国共産党中央総書記、国家主席、中央軍事委員会主席)が高度の注意を払っており、同時に重要な指示を下した。「今回の事件は多くの人々を死傷しており、事件の性質は極度に悪いものである。全力を挙げて負傷者を救護し、被害を受けたものとその家族への対応に誠心誠意つくすことを指示した。また、法律によってこのような凶悪事件を厳しく裁かなければならないとした。それぞれの地区、そして関係部門は今回の事件から教訓をくみ取り、「挙一反三」(四角のものの一つの隅を取り上げて考えれば、のこりの三つの隅についても類推して理解できる。一つの事から類推をして多くのことを学ぶこと)の精神で、リスク源の防止と管理をより強め、遅滞なく問題を解決し、そしてこのような事件の発生を真剣に防止することで、「全力で人民の声明の安全と「社会の安定」を保障する」とした。
また、中共中央政治局常務委員で国務院総理の李強も指示を下した。全力で負傷者の救護にあたり、事件後の安定に努め、今回の事件の早期の解明と凶悪事件を厳しく裁かなければならないとした。予防とコントロールを組み合わせてリスクや社会矛盾の解決に努め、社会全体の安定を確保するとした。
今回の事件のポイントは?
この事件のポイントは大きく2点である。
1:中国側が大事にしたくない理由とは?―“航展”との関係
2:“35”の意味
1:中国側が大事にしたくない理由ー”航展”との関係ー
引用:(https://www.rfi.fr/cn/中国/20241112-珠海航展-j-35a战机揭幕亮相)
この事件を語るにあたって、“航展”との関係は見逃せない。
11日夜にこの事件が起こって以降、翌日の夕方に習近平氏が声明を出すまで中国のSNS上にあげられた事件発生後の映像が軒並み削除された。これは一種の検閲とみられ、中国政府が意図的に情報を操作しようといることは明らかである。このような「社会の安定」を脅かす事件の報道が抑制されることはは多いのだが、今回の事件は「社会の安定化」云々以前に、事件が発生した日時・場所が中国政府にとって都合の悪いものだったといえる。というのも、事件が起きた広東省珠海市では中国最大の航空ショーとも呼ばれる「中国国際航空宇宙博覧会」(通称“航展”)がちょうど12日から開催予定だったのだ。この“航展”は中国の広東州珠海で2年に1度行われるイベントで、国力を内外に見せる場としての地位を確立している。今回は、最新のステルス戦闘機「殲35A」が初公開されるほか、ロシアからも最新鋭ステルス戦闘機の「スホイ57」が飛来するなど、中国がこのイベントを重要視していることがわかる。事件がすぐに報じられず、翌日夜になって習近平氏が声明を出すに至った背景には“航展”を成功させたいという中国の思惑があったのだろう。
2:公式発表に見られる”35”という数字の意味
このような重大な事件が発生した際に中国の政府が公式に発表する死者数は必ず「35」人だという噂がささやかれている。実際に今回も、政府の初めての公式発表の時点では死者数が「35」人だった。果たして「35」は何を意味するのか?
例えば、少し古い記事にはなるが、2015年1月4日付産経新聞の記事には以下のような記述がある。
「何より注目を集めたのが、当初発表された「35人」という犠牲者の数だった。ネットユーザーの間では、中国で大規模な事故や天災が発生した際、当局に責任が及ばないよう犠牲者の数を抑制し、35人を大きく超えて発表することはないとの認識が広がっているためだ。」
【中国ネットウオッチ】「中国ではどんな大事故も犠牲者数は35人を超えない」上海転倒事故当局発表に向けられる「疑念」(1/2ページ) - 産経ニュース
この記事では「35」を巡る疑惑の真偽にまで踏み込んではいなかったが、中国のネット上ではご覧のように10年近く前からこうした疑念が存在する。
彼らの主張によると、1993年以降起きた事故の多くで「死者数35」という発表がなされているという(例えば1993年4月の大石橋市列車衝突事故や2006年湖南省での洪水災害など)。また、36人以上が死亡する事件が起きた場合、その土地の市の上層部(党委員会指導者)がポストを解任されることから、こうした“数の操作”を行うことで彼らが裁かれないようにするためだという理由も出回っている。
しかし、一方で多くの中国国内のメディアが、“噂”を否定している。
例えば、2024年4月12日付の「湖北日報」では「35」を巡る疑惑を否定する記事が掲載されている。この記事によると、そもそもいくつかの事例では、第一報で「35人死亡」と発表した後に、数を更新して発表しているという(2009年河南平頂山死亡事故では最終的に「76人死亡」と発表され、2010年甘粛省での大雨災害の際には「42人死亡」と発表されている)。また、「生産安全に関する事故報告と調査の処理条例」により、確かに事件・事故の重大さの区切りが死者数および負傷者の数で規定されているが、一番ランクの重い重大事件は「30人死亡」が一つの指標となるため、「35」という数字に特段の意味はないという。
確かに、今回の事件でも「35」人という数字が公表されているが、あくまでも第一報時点での人数という点に注意が必要だ。これまでの事件でも、第一報の際に死者数が「35」人とされることが多かったが、それ以降政府が情報を更新して、「35」人を超える事例も複数確認される。今回の事件でも政府が情報を隠蔽しようとするのではなく、犯人とされる人物の動機の解明や、より詳細な情報を全世界に公開しようという姿勢がみられるかどうかという部分こそ重要である。
まとめ
近年、中国国内では経済の悪化などをうけて多くの殺傷事件が発生している。その中でも今回の事件の犠牲者数は群を抜いている。一方で、中国国内のメディアは、(容疑者が意識不明であるにもかかわらず)はやくもこの事故の動機を「離婚後の財産分与への不満」であると報道されており、経済不況とは関係のない文脈でこの事件が報道されている。この事件を機に中国政府が治安維持にむけて何らかの施策を打ち出すのか、また近年多発している殺傷事件の根本的な原因ともいえる経済の悪化に関して中国政府はどのように対応するのか。これからも目が離せない。
(参考文献)
・中国広東省珠海車が暴走 35人死亡43人けが現場で住民が花を手向け追悼事件に大きな衝撃広がる | NHK | 中国
・【中国ネットウオッチ】「中国ではどんな大事故も犠牲者数は35人を超えない」上海転倒事故当局発表に向けられる「疑念」(1/2ページ) - 産経ニュース
・https://news.hubeidaily.net/pc/c_2464400.html?sid_for_share=99125_4
・珠海警方通报“樊某驾车冲撞锻炼市民重大恶性案件”:致35人经抢救无效死亡、43人受伤住院治疗


コメント
1はじめまして。突然のコメントで失礼します。珠海の事件をニュースで知りましたが、最近無差別の殺人事件が多いようですね。どうかお気をつけください。