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この作品「焚書決定! 押収品の山にヤッチョ攻めが一冊も無いなんて」は「超かぐや姫!」「二次創作」等のタグがつけられた作品です。
焚書決定! 押収品の山にヤッチョ攻めが一冊も無いなんて/雨宮雫/Cubismの小説

焚書決定! 押収品の山にヤッチョ攻めが一冊も無いなんて

5,361文字10分

彩葉の秘蔵コレクション(いろP受け・百六十八冊)が、ツクヨミ管理人に見つかりました。焚書決定です。
ぱんたべの原稿ずっと書いてたので路線変えたかった&ボツネタ見つけたので供養代わりに……

ちなみに2026年7月20日現在、某果物書店で販売されてる本は124冊でした。

※オールキャラわちゃわちゃギャグ。作中に「同人誌タイトル」として各キャラ×いろPのCPネタが大量に出ますが、すべて作中作=妄想扱いのネタです(実CP要素はやちいろのみ)。苦手な方はブラウザバック推奨。
※ヤチヨの怒りポイントは終始「なんでヤッチョ攻めだけ無いの!?」です。安心してください、最後はやちいろに着地します。
※壁サー『やをよろ堂』誕生秘話。既刊やをよろ堂シリーズと世界観が繋がっていますが、単体で読めます。
※本作品は超かぐや姫!の二次創作です。本編のネタバレ及び独自の解釈、捏造設定、若干のキャラ崩壊なども含む場合があります。

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「ねえ、彩葉。これ、どういうことか説明してくれるかな」

 声が震えないように、ずいぶん頑張ったつもりだった。それでも語尾は情けなく揺れた。八千年分の心の乱れなら、とっくに慣れている。ただ、声というやつは新入りだ。心より身体は正直だ。

「どういうって、見ての通りだと思うけど?」

 ツクヨミ内の、彩葉のプライベート書庫。招かれた者しか入れないその小部屋の中央に、問題の「それ」は積み上がっていた。腰の高さまで積まれた塔が、全部で六本。彩葉は悪びれるどころか、崩れかけた一本を几帳面に積み直してさえいる。その手つきの丁寧さが、余計に胸に刺さった。

「酷いよ……なんでこんなの、隠れて……ヤッチョ、彩葉のこと、こんなに……」
「酷い、ね。そうかな。人様に胸を張れる趣味だとは言わないよ。でも所持そのものに罪は無いはずでしょ。全部正規の手順で購入してる。何も問題ない」
「……その所有物は、ツクヨミ管理人として到底看過できない代物なのです。誠に遺憾ながら、管理人権限を行使し、没収および焚書を執行します☆」
「はあ!? 横暴でしょ!? 管理人だからってやっていいことと悪いことがあるでしょうが!」

 初めて彩葉の声に焦りが混ざった。そんなに惜しいんだ。そんなに大事なんだ。いいよ、わかった。それならこっちも、はっきり言わせてもらう。

「だってこれ——成人向け同人誌、通称いろP受けの山っ! 百六十八冊っ! しかも、ヤッチョ攻めが一冊も存在しないなんてっ! あっちゃいけないんだよ、こんなことっ!」
「論点そこなんだ」

   *

 事の起こりは今朝に遡る。

『こちらツクヨミ運営です。本日未明、センシティブ判定未報告のままコンテンツを有償配布していたサークルを確認しました。対象作品はすべて没収となります。センシティブコンテンツは必ず判定委員会へ報告の上、対象エリア内でのみ活動してください。今後も安全なツクヨミの運営のため、皆様のご協力を』

 管理人のお仕事として、ヤッチョはその没収実務を担当した。違反サークルの在庫を回収して、販売台帳を照合して、購入者への返金処理を進めて、そこで見てしまったのだ。台帳の購入者欄に、ずらりと並ぶ同じ名前を。

 いろP。いろP。いろP。全作品、発売日に購入。おまけに関連サークルまで芋づるで爆買い。八千年の人生で一番速いログ精査だったと思う。指が勝手に動いた。動いてしまった。そのまま彩葉の書庫の錠を、管理人権限でこじ開けた。プライバシー? 八千年も生きてると、たまに手が滑るんだよ。

 で、冒頭に戻る。

「ひゅう……ふひゅう……ひゅるる……」
「変な口笛で誤魔化そうとしないで。ツクヨミ越しでもわかるくらい脂汗だらだらだよ」
「これはね、違うんだよヤチヨ。ほら、私って研究者じゃない? 探求的欲求っていうの? 人体と関係性への学術的興味がふつふつと芽生えた結果ね、こういうのに、その、興味が」
「学術的」

 証拠品の山から、ヤッチョは一冊ずつ抜き出して読み上げた。

「『いろPはえろP』」
「うっ」
「『汚されしお狐様』」
「ぐっ」
「『義体研究の資金の見返りに、身体を要求されて』」
「それは設定考証がしっかりしてて」
「『感度良好ですね、所長?』……どこが学術なの!? どれもこれも、やばいタイトルばっかりじゃない!?」
「タイトルで買う本を決めるなとも言うでしょ」
「中身はもっとやばかったよ!?」
「読んだんかい」

 読んだ。管理人権限で。全巻。それは今どうでもいい。

「なんでっ……なんで、ヤッチョ攻めだけ無いの!? 百六十八冊もあって、一冊も!?」
「だってほら……ヤチヨは最推しだし。……それはエッチじゃん?」
「これ全部エッチな本だよ!?」

 駄目だ、理解できない。推しは汚せないとかいう厄介オタク的なあれか? 八千年観測してきた人類でも初の倫理体系だ。

 こうなったら、外堀から埋める。ヤッチョは管理人権限の召喚状を、関係者全員に一斉送信した。

「ちょっと。何する気」
「事情聴取なのです☆」

   *

 一番乗りは、呼んですらいない兎だった。

「彩葉が虐められてるって聞いて!」
「虐めてないよ、事情聴取。どこから聞いたのそれ。ほら、かぐやもそこ座って」
「ヤチヨ! もう止めよ! 彩葉に悪気はなかったはずだよ、許してあげようよ!」

 瞳にうっすら涙まで浮かべて、さも美談のように纏めにかかる。けれどヤッチョは知っている。証拠品の山、その一角を。

「かぐや。かぐやのやつは、めっちゃあったよ」
「え」
「『狐は兎の主食です』『生意気ギャルに喰われちゃう真面目系ちゃん』『ねえ、なかよししよ』——以上、かぐや攻め四十二冊」
「よんじゅうに」

 涙が引っ込むのは一瞬だった。次の瞬間、かぐやは艶っぽい上目遣いで彩葉を見つめている。切り替えが早すぎる。

「あは♪ 彩葉ってば。こんなの、言ってくれれば幾らでもしてあげたのに。どのシチュがお好み? かぐやが全部叶えてあげる」
「ちゃうちゃう。これはあくまで嗜好の話。現実じゃないから滾るのであって、現実にしちゃいけないの」
「彩葉はさては分かってないね? かぐやは兎だよ? 据え膳の前で我慢できる生き物じゃないんだよ〜〜?」
「据え膳じゃない。証拠品」

 正論みたいに言っているが、まるで説得力は無い。買っている時点で潜在的な何かは確定しているんだよなあ。

   *

 二番手と三番手は連れ立って現れた。

「や、ヤチヨから直々に呼び出しなんて……推しにお近づきになりたいとは思ってたけど、こんな形は想像してなかったのー……」
「ねむー……朝から何ごとー……」

 芦花と真実。彩葉の古い友人二人組は、部屋の惨状を順に眺めた。同人誌の塔、正座する彩葉、仁王立ちのヤッチョ。それだけで、おおよそを察したらしい。

「あー……うん。彩葉、そういうとこあるもんね」
「あるんだ」
「大丈夫だよヤチヨさん、彩葉にだって性欲くらいあるの。ここは一つ、そっと見守る方向で行こ?」
「そうそー。深刻に考えることないよー……ふぁ……」
「二人のやつもあったよ」

 空気が止まった。読み上げる。

「芦花攻め。『私、三番目でもいいの……あなたを愛させて』『花丸のお返し』。真実攻め。『人妻の本気、教えてあげる』『かぐやちゃんたちには内緒だよ』」
「さ、三番目って何……切な系じゃん……そういうのに私を使わないでほしいのー……」
「待ってー……人妻の本気って何ー……不倫ネタってことー……?」
「真実のは完全に作者の捏造だね。安心して」
「安心できないよー。に相談してみる……」
「すな」

 芦花はまだ分かる。分かりたくないけれど、関係性的にはギリギリ通る。真実のは誰が描いたんだ本当に。

「そして問題は、これだけ節操なく買い漁っておいて、ヤッチョ攻めだけが一冊も無いという点です」
「ヤチヨさん、怒りのポイントそこなの!?」

 そこだよ。最初からずっとそこだけだよ。

   *

 四番手は、派手だった。

「よう。ツクヨミの管理人サマ直々のお呼び出しとは、俺たちも偉くなったもんだな」
「また、祭りが始まるな」
「えー、朝から召喚とかだる〜。……あ、でもこの部屋ちょっと面白そうじゃん」

 ブラックオニキス、ご来臨。帝アキラは腕を組んで悠然と、雷はフードの下で寡黙に、乃依はツインテールを揺らして興味津々に、それぞれ塔を見上げた。

 読み上げる。帝攻め、『お兄ちゃんとの内緒話』『私、お兄ちゃんのこと、本当は……』。乃依関連、『最高に可愛くしてあげるね』『兄嫁さんに躾けられて』。雷攻め、『無口なあの人は言葉攻めが得意』『罠に掛かった狐さん』。

 念のため言っておくと、作者は何も知らない。お兄ちゃんも兄嫁も、流行りのただの設定だ。ただ、この場の二人にだけは、事故として深々と刺さる。

「…………」

 帝の笑みが固まった。固まって、やがて小さな小さな声が漏れた。

「……い、彩葉? これはあかんて。ほんまに、あかんやつやて……」

 動転のあまり、呼び方まで素に戻っている。

「わ、素が出た」
「乃依っ」
「てか俺、この本だと兄嫁設定なんだ? ウケる。じゃあいろPちゃんは義妹ちゃんってこと? 可愛がってあげよっか? なんなら帝も含めて3Pしちゃう?」
「やらんて言うてるやろ!」
「ちなみに没収した在庫の方には、『みかのい』ってタグの本も四十三冊あったよ」
「なにそれ」
「帝×乃依。いろP抜きで、二人だけの本」
「え、待って管理人ちゃんそれ超大事な情報じゃん。あとで全部俺に横流しして」
「あかんに決まってるやろ!」
「……シたいのか?」
「雷まで乗るな! 誰も彼もやらんやらん。これはあくまでネタ。同人誌。完全なる妄想。現実にしたらアウト。いいですね?」

「ヤチヨさーん! なんか報道のネタの匂いがしたっすよ!?」
「エルフのお姉さんも、面白そうな匂いに釣られてきちゃった〜」

 呼んでない二人まで来た。忠犬オタ公とテレリリ・ティートテート。もはや誰も驚かない。読み上げる。『報道の自由、内緒の取材』『わんわん逆取材されちゃいました』『ハイスペお姉さんにお任せ』『資格マニアの本気、えっちな資格も持ってるんだよ』。

「……えっちな資格って何。何の検定なの」
「食いつくなっ!」

   *

 気づけば書庫は満員だった。呼んだ者も呼んでない者も、思い思いに証拠品を手に取っては感想を言い合い、談笑まで始めている。事情聴取の体裁はとうに崩壊していた。誰一人、彩葉を責める者がいない。責める者がいないから、余計に際立つのだ。この山に空いた、たった一つの穴が。

「整理するとさ」

 ヤッチョは、集まった全員の前で指を折った。

「かぐや攻め、五十二冊。芦花攻め、四十冊。真実攻め、七冊。帝攻め、十五冊。乃依攻め、八冊。雷攻め、三冊。オタ公とテレリリ、捏造込みで八冊。モブその他、三十五冊。しめて百六十八冊。参考記録、『みかのい』四十三冊——ただし没収在庫につき集計外。そして、ヤッチョ攻め、ゼロ冊」
「集計したんだ……」
「参考記録まで付けてるの、逆に丁寧じゃん」
「ゼロ冊! この世に存在すらしない! 需要の女神たるこのヤッチョに、供給がゼロ!」
「だから、それはヤチヨが最推しだからで」
「聞き飽きたっ!」

 叫んでから、気づいた。声がまた震えている。今度は管理できなかった。飾りの星も、営業用の語尾も、どこかに落としてきてしまった。歌姫になってからずっと、声は商売道具だったのに。震えたままの声を人前に晒すのは、これが初めてだった。

「……私だって、一番近くで想われてる自信くらいあったのに。棚を見たら、私の場所だけ、空いてるんだもん」

 部屋が静かになった。かぐやが何か言いかけて、やめた。彩葉は正座のまま、しばらく黙って、小さく息を吐いた。降参の白旗みたいな、細い息だった。

「……理由、ちゃんと聞く気あんの」
「聞く」
「他の連中のは、妄想で済むの。紙の中で完結して、それで終わり。でもヤチヨのだけは——妄想で済ませる気が、私に無いんでしょうが。買ったら負けな気がしたの。それだけ」

 言い切ってから、彩葉は目を逸らした。耳の先が赤かった。狐の着ぐるみも被っていないのに。

「……なんてね。今のは調書に載せないでよ。所長の沽券に関わる」

 ——ああ、もう。

 私は、八千年分の何かが胸の奥で音を立てて崩れるのを聞いた。怒りの塔が、全部別のものに組み変わっていく音だった。悔しさはまだ胸に残っている。でもそれより早く、指の先が疼き始めていた。描きたい。この気持ちごと、全部。

「決めた」
「何を」
「ヤッチョが自分で描く! 無いなら作る、需要も供給も全部私! 八千年分のお願い、一冊残らず原稿にしてやるんだからぁぁぁっ!」
「待って管理人がそれやったら終わりでしょ!? せめてセンシティブ判定は通して!?」
「もちろん通すよ☆ 規約はヤッチョの庭だからね。あ、押収品は全巻、資料としてヤッチョが保管します」
「焚書はどうしたのよ!?」

 ——これが、後にツクヨミ最大手壁サークル『やをよろ堂』が生まれた日の話である。ジャンルは月見ヤチヨ攻め・いろP受け、ただ一本。記念すべき第一作のタイトルは、ここには書けない。

 なお、第一作は頒布開始から〇・三秒で完売した。ランキング一位は管理人権限の固定を疑われたけれど、あれは実力である。画歴は浅いよ。でも構想は八千年なんだから、舐めないでほしい。

   *

 全員を帰したあとの書庫で、床を掃いていた小さな影が、ぼそりと呟いた。

『……ばかたれ共が』

 すっ、と。掃除の手を止めたFUSHIの背後から、二冊の薄い本が滑り落ちた。

 『ウミウシだって狐に恋をする』
 『主の想い人なのに……』

「……FUSHI?」
『知らん知らん知らんっ!? 僕は何も知らんっ!?』

コメント

  • 彼方ツナ

    テテいろきちゃー!!!!!てなりましたありがとうございます感謝

    13時間前
  • R.

    オタ公はなんとなくありそうだとは思ったけど テテテさんは本当になんで?

    13時間前
  • Taiga

    黒羽カカ様や乙事照琴とかも入れてあげてー!!!

    13時間前
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